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返報 12-4 [返報]

12-4

 

 

 

 喉を抑える広瀬の手当をしようと動いた西野であったが、既に手遅れである事を知っていた。何か喋ろうとする広瀬であるが、喉を被弾したために声を出す事ができず、喋ろうとする度に血を吐いて西野の顔に噴きかけてしまった。血を浴びても西野は怯まず、同僚の体を抱えて首を横に振る。

 「喋らなくてもいい…すぐに助けを呼ぶから…」そう言うと、西野は周囲を見渡して駆け寄ってくる小木と荒井を見つけた。「すぐに救急隊員を呼べ!まだ助かる!!」仲間を見るなり、彼は叫んだ。手遅れだと思っても、諦めたくないのだ。

 小木が携帯電話を取り出して救急車を要請し、荒井は念のために周囲の安全確保に動く。SAT隊員がテロリストの利用していた遮蔽物の陰へ回ると、床に倒れる4人のテロリストに4人のSPを見つけた。荒井が生死の確認へ動くと、倒れていた女性SPが起き上がった。

 「応援ですか?」と女性SP

 「そ、そうですよ…」狼狽えながら荒井は答えた。

 「議員は無事ですか?」

 「まだ分かりません。これから議員を捜索します。」

 「そうですか…」

 西野と小木が見守る中で広瀬は息絶えた。大きく目を見開き、座っていた首は糸の切れた人形のようにガクンと落ち、血に染まった両手はゆっくりと床へ滑って行った。

 仲間の死体を見て呆然とする小木であったが、西野は込み上げてくる嗚咽を抑えて、きつく瞼を閉じる。そして、目を開けると西野はゆっくりと丁寧に広瀬の目を閉じさせ、亡き同僚の防弾ベストに付いている予備弾倉とフラッシュバンを取った。

 「何やってんだ?」小木が不思議そうに尋ねる。

 「分かるだろ?逃げた奴らを追うんだ。」そう答えながら、西野は短機関銃に新しい弾倉を叩き込んだ。「お前はここで広瀬を見ててくれ。荒井よりもお前の方が救急隊員に上手く説明できるだろう。」

 「もういいだろう…俺たちは十分やったぜ。あとは他の連中に任せよう。」小木は広瀬の顔を見て言った。

 「まだ終わってない。」西野が立ち上がる。「まだだ…」そして、彼は本間を追うために走り出した。

 

 

 

佐藤はオフィス椅子の裏側に取り付けて置いた黒いビニール袋に包まれた弾倉を取った。次に中年の男は部屋の隅にあった長テーブルを部屋の中心まで運び、それを踏み台にして天井裏に隠していた布に包まれたライフルを手探りで見つけて慎重に下ろした。

テーブルにライフルを置くと、男は布を取り除いて中身を確認する。薄汚れた布の中から2つの四角い穴が開いている銃床と消音器の内蔵された銃身が特徴的なVSSが出てきた。佐藤はそれを別のテーブルの上に乗せ、弾倉を隠すのに使っていたオフィス椅子を倒し、それを踏み台として使ったテーブルの上に乗せる。

“さて…”心の中でそう呟きながら中年男は窓を開けた。冷たい風を顔に浴び、体を少し震わせると室内に目を戻す。

彼はヴィントレスの愛称を持つこの狙撃銃を持ち上げ、10発入りの弾倉を装填すると遊底を引いてテーブルの上に置いた椅子にライフルを据える。窓との距離は1メートル弱であり、容易には発見されない。佐藤はスコープを覗き込み、150メートル先にあるグランドホテルの搬入口にあるシャッターを確認する。シャッターの中心部分には大きな穴が開いており、スコープの倍率を下げるとシャッター前に乱雑に停車されている4台の車両が見えた。

“あと3分…”腕時計に一瞥を送って佐藤は思った。

 

 

 

 3人のテロリストに囲まれた小田完治とSPの真嶋は背後にあるバンに追いやられた。身を挺して議員を守ろうとする真嶋であったが、これも時間の問題だと思っている。テロリストの目的が議員の殺害であれば、すぐに真嶋諸共小田完治を射殺する。

一方、残り3人のテロリストは議員家族と民間の警備員たちを取り囲んでいた。警備員たちは真嶋同様に家族を囲って盾になろうとしている。

「時間もないし…」堀内が口を開く。「あまり待たせると、議員にも悪いでしょ?死ぬならストレスのない方がいい…」MP-5Kを持ち上げ、堀内は真嶋に銃口を向ける。

議員の死に様を見たいテロリストたちは一斉に堀内の動きを注視する。そして、戸田と言う名の警備員はこれが好機だと判断した。

堀内が笑みを浮かべて引き金を絞ろうとした時、戸田が左隣にいたテロリストのMAC-10短機関銃に掴みかかった。銃を掴むと同時に彼はテロリストの頭に頭突きを喰らわせ、相手が怯むのを確認するや否や、短機関銃をもぎ取ろうとはせずに銃口を堀内の方へ向けて引き金に指を入れて引いた。一瞬の出来事であったが、視界の隅で起こった事に気付いた真嶋は議員と共に床に伏せる。堀内は何事かと思ったが、銃声を聞き、そして、彼の左隣にいた仲間が被弾して倒れるのは見ると状況を把握した。

テロリストは姿勢を低くしながら振り向き、戸田の位置を確認すると2度引き金を引く。銃弾は警備員の左肩と胸に命中し、肩に命中した弾は貫通して戸田の背後にいたテロリストの顎を吹き飛ばした。被弾した警備員は背後の壁に寄り掛かり、顎が吹き飛んだ男は床に崩れ落ちた。

「面白い!」堀内は被弾した戸田に歩み寄る。「度胸がある。でも、状況が悪い…」そう言うと、MP-5Kを持つテロリストは議員家族の盾になっていた若い警備員の頭を撃ち抜いた。

それに激怒した戸田は堀内に襲い掛かろうとするも、堀内に蹴り飛ばされて壁に叩きつけられた。

「非力だ…」そして、堀内は別の警備員の頭を撃ち抜いた。「自分の愚かさに気付いたかな?」

「そこまでにしなさい!」本間が一人の仲間を従えて室内に入って来た。「私たちの目的は小田よ。」

「いいじゃないか…」と堀内。

「議員を殺して逃げる。これだけよ。」

「仕方ない…」

堀内は残念そうに小田議員と真嶋の方へ戻る。やれやれと溜め息をつき、本間は一緒に来た仲間と共に議員の所へ向かう。途中、何かが本間の踵に当たった。女テロリストが足元を見ると、そこには細長い筒状の物がある。

“なっ!!?”

 本間がそれを蹴り飛ばそうとした時、眩い光と爆音が室内を覆った。

 

 

 

西野の後を追うのは容易ではなかった。

銃撃戦に二度も遭遇したため、装備が減って身が軽くなって動きやすくなっても荒井は前を走る西野を追うのが辛かった。戦闘による痛みや疲労からではなく、走る道の光景の凄惨さにSAT隊員は耐えられないのだ。血と肉片で赤く染められた廊下、体の一部が破損した死体の数々、微かに意識のある怪我人の呻き声。全てが目を背けたくなる地獄絵図であった。

小木が大ホールに残ると言ったので、仕方なく荒井は西野の後を追っているが、実際は彼も小木と共に待機していたかった。

それを他所に西野は足を止めることなく走り続けている。彼を突き動かすモノは「復讐」であった。広瀬だけのためではなく、このテロ事件で亡くなった全捜査員と巻き込まれた人々のためである。西野は一人でこの事件を解決する気でいる。

血と死体を頼りに走り続けること1分、二人は搬入口へと繋がる長い廊下で2度の銃声を耳にした。急いで西野と荒井は音がした場所へ駆けつけ、ドア枠の横に並んで室内の様子を伺う。西野は2人のテロリストに囲まれる議員家族とその護衛、5人のテロリストと対峙するSP1人と小田完治を確認した。背後にいる荒井の方を向き、ネズミ取りの捜査官はテロリストの数と大まかな位置をハンドシグナルで伝える。SAT隊員は頷き、MP-5の銃床を右肩に押し付けた。

呼吸を整えながら閃光手榴弾を取り、西野はその安全を抜いて室内へ静かに転がした。手榴弾は吸い込まれるようにして部屋の中央へ転がり、それは女テロリストの踵に当たって止まった。そして、本間が足元を見ると同時にそれは爆発した。

閃光と爆音を確認するなり、西野と荒井は室内へ踏み込んだ。最初にネズミ取りの捜査官が目にしたのは二人のテロリストに囲まれる民間と警備員と小田議員の家族3名であった。彼は目視すると銃口と体を右へ向け、その際に室内の中心にいるテロリスト4名とSP、そして、小田完治の位置を確認した。その後、視線を完全に右へと移動させて脅威の有無を確認する。

異常なし。

2秒の間に脅威の数を理解すると、西野と荒井は姿勢を低くして右へ移動しながらテロリストに向けて発砲する。まだ、閃光手榴弾の影響で視力と聴力が回復していないテロリストたちはこの攻撃に混乱し、この間に撃ち殺されると思い、我武者羅に発砲を始めた。彼らにとって、視力と聴力が元に戻るまでの時間が永遠のように思えた。

閃光手榴弾の存在に気が付いた真嶋は爆発の直前に目を閉じていた。彼に手榴弾の種類を判別するだけの余裕はなく、それはただ単に爆発への恐怖に対する行動であった。しかし、それが結果的に彼へ危機を回避する機会を与える事になる。

爆音による耳鳴りでふらついたが、真嶋の視界は良好であった。彼は議員の手を引いて避難しようとするも、状況が掴めていない小田は腕を振って抵抗する。仕方なくSPは強引に議員の手を引き、大きな穴の開いたシャッターへと急ぐ。そして、シャッターの開閉ボタンを押す。巻取りシャフトが唸るような音を出してスラットを持ち上げる。スラットが60センチ程浮き上がると、彼は議員と共にその下を潜り抜けて外へ避難した。

テロリストの放った銃弾が西野と荒井の頭上を横切って壁に無数の穴を開けた。銃撃を受けても、二人は怯まずに発砲を続ける。銃撃戦が始まると、小田完治の妻と娘が悲鳴を上げ、息子はただ頭を抱えて蹲った。彼らを守る警備員たちは包み込むように警護対象たちを囲む。

西野は小田完治がいる場所に、荒井はその家族を囲むテロリストに向けて引き金を引き続けた。弾薬の節約と精密射撃のため、二人はフルオートでなくセミオートで撃っている。事実、弾の消費を最小限に抑えることはできているが、移動しているために正確な射撃は不可能であった。それでも西野と荒井はそれぞれ一人のテロリストを無力し、高く積まれた段ボール箱と黄色いプラスチック製の箱の陰に滑り込んだ。身を隠すなり、二人は再装填を始める。この頃になってやっと、テロリストたちの視力と聴力が回復した。

クソッ…本間は床に転がる仲間の死体を見て思った。彼女は素早く死んだ男からMAC-10をもぎ取ってバンの陰に身を潜める。

「おい!」

堀内が本間の右肩を引き、本間は鋭い視線を背後に向ける。

「小田がいない。」

女テロリストはそれを聞いて焦り、咄嗟に周囲を見渡した。しかし、小田とSPの姿はない。

「何所よ!!」本間が堀内を怒鳴りつける。

「シャッターを開けて逃げたんだろう。どうする?俺が追おうか?」堀内の言葉には余裕の色が見えた。しかし、本間にはない。

「うるさいッ!!」そう吐き捨てるなり、女テロリストは走り出した。

 

 

 

 

遮蔽物から出るなり、西野は外へ向かって走る本間と彼女を追う二人のテロリストを発見した。彼は短機関銃のセレクトレバーを単射から連射に切り替え、3人のテロリストの動きを追うようにMP-5Fを水平に振りながら引き金を絞る。しかし、銃弾が3人を捕える事はなく、西野は弾倉を一つ無駄にしてしまった。

クソッ!

議員の排除を最優先と考えて外へ出たテロリストを追うために西野は再装填ではなく、腰のホルスターから拳銃を取り出して走り出す。荒井も彼の後を追って動き出した。

その時、バンの陰から堀内が飛び出してきて、西野の拳銃を掴むとMP-5Kの銃口で捜査官の左手の甲を殴った。あまりの激痛に西野は左手を銃から離したが、拳銃はまだ右手で握られている。続けて堀内は短機関銃の銃口を西野の顔に向けた。素早くまだ痛む左手を伸ばして、西野はテロリストの短機関銃を掴んで間髪入れずに頭突きを堀内の鼻頭に喰らわせた。

「先に行けぇ!!」西野が背後で狼狽えていた荒井に向かって叫び、再び堀内の鼻頭に頭突きを入れた。SAT隊員はこの一言で我に返って3人のテロリストを追う。

二度の頭突きで鼻の骨が折れたテロリストは、西野の拳銃から手を離して一歩後退する。右手が自由になると、捜査官は銃口で折れた鼻から血を流す堀内の額を突く。激痛に堀内は短機関銃から手を離し、西野の右手首を掴むと勢い良く飛び掛かり、捜査官をシャッター横の壁に叩きつけた。そして、下から突き上げるように右肘を繰り出して西野の顎を殴る。反撃の機会を与えないようにテロリストはすぐさま右肘を西野の左側頭部に叩き込む。この素早い連打に西野は上手く反応ができず、また、そのダメージによって彼は拳銃を地面に落としてしまった。

堀内は中島にやられた事を真似しようと、西野の頭を背後の壁に叩きつけるために捜査官の体を手前に引いた。この瞬間を利用して西野は右膝で堀内の股間を蹴り飛ばし、体をくの字にして後退する男の頭を両手で掴んで右膝をテロリストの顔面に叩き込む。堀内は悲鳴を上げて後ろに倒れるように転び、血だらけの鼻を両手で抑える。捜査官は既に戦意を失っているテロリストの顔面を蹴り飛ばして追い打ちをかけ、堀内は耳朶を震わせるような悲鳴を室内に響かせた。

しかし、その悲鳴も束の間の事であった。テロリストの口は閃光手榴弾で塞がれ、西野はそれを掌底で深く堀内の口に押し込む。男の目に涙が溜まり、何かを言おうとしていたが、ネズミ取りの捜査官はそれを無視してフラッシュバンの安全ピンを引き抜いた。

 

 

 

乗り捨てられた車で埋め尽くされた狭い道を縫うように進む真嶋と小田完治の頭上を何かが通過した。真嶋は瞬時に銃弾だと気付いて議員と共に近くにあった車の陰に隠れる。二人はまだホテルの裏口から4メートルしか離れていない。

本間たちは急いで真嶋と小田に追いつこうと発砲しながら走ってくる。SPは拳銃を取り出すと、テロリストの足を止めるために弾倉が空になるまで引き金を絞った。発砲されて本間たちテロリストは姿勢を低くすると、付近の遮蔽物に身を隠す。

その間に真嶋は新しい弾倉を拳銃に叩き込む。この際に彼は背後から迫ってくるエンジン音を耳にする。そして、それに続いて何かが激突する凄まじい音が狭い路地に響く。何事かと振り返ると、SPは乗り捨てられた複数の車を押しのけながら迫ってくる黒い大型車両を見つけた。その車は後退しながら、他の車を突き飛ばして小田と真嶋に迫っていた。

新手!!?

咄嗟にSPはその車両に向けて発砲する。しかし、車は停車する事も速度を落とす事もしなかった。拳銃の遊底が後退して弾切れを真嶋に報せる。急いで彼が再装填しようとした時、車が彼らの1メートル先で車体を横にして停車した。焦るあまりSPは新しい弾倉を地面に落とし、急いでそれを拾おうと動く。二人の前で停車した車の運転席から短機関銃を抱えた男が現れ、素早く銃を構えると本間たちテロリストに向けて射撃を開始した。

仲間?!

真嶋が混乱していると、彼の隣に短機関銃を抱えたショートヘアーの女性が並ぶ。

「あの車を使って逃げてください!」新村が銃声に負けないよう大きな声で言った。

「アンタたちは何者だ?」と射撃を続ける野村と新村を交互に見て真嶋が尋ねる。

「増援です!いいから、早く!!」そう言うと、新村は車の陰から身を乗り出してテロリストに向けて発砲する。

「ありがとう…」

SPは議員を連れてSUVに乗り込もうとする。しかし、議員は抵抗した。

「家族がまだ―」

「まずは議員の安全確保です。それから―」

「何をしてる!?」再装填する野村が真嶋を怒鳴りつけた。「早く逃げろッ!!」

 

 

 

野村と新村の介入によって、本間たちは足止めされた。そして、この状態は佐藤にとって好機であった。静止物ほど撃ちやすい物はない。中年男はスコープの十字を本間の頭部に合せ、伸ばしていた人差し指を引き金に掛ける。

あとは合図を待つだけ…

撃鉄を下ろす音が背後から聞こえてきた。佐藤はため息をついて引き金から指を離し、狙撃銃から顔を離す。

「両手を挙げて、その大きな銃から離れてくれないかな?」背後にいる男が言う。「ゆっくりね…」

「どうして、ここだと?」両手を肩の高さまで挙げると佐藤が尋ねる。彼はゆっくりと振り返り、声の正体を確認した。部屋の入口にはだぶだぶの服を着た男が立っている。距離は2メートル弱。

「ネットで付近の建物を確認したんだ。それでここが一番いい場所だと思った…」中島が笑みを浮かべて言った。SAT隊員は腰の位置で拳銃を構えている。

「面白い…」そう言いながら、中年男は一歩、中島に近づく。

「申し訳ないけど、じっとして欲しい。手荒な真似はオイラの趣味じゃない。」

「本当かな?」佐藤はまた一歩踏み出す。距離は約1.5メートル。

これを見ても中島は笑みを崩さない。佐藤はその笑みが優越から来るモノでなく、SAT隊員の戦術だと見抜いた。相手の緊張を解して投降するように促すのが目的だ。

「本気だけど…アンタにその気は無いみたいだね。」

中島が佐藤の脚を撃とうと銃口を動かした瞬間、狙撃手がSAT隊員に飛び掛かった。

 

 

 

閃光手榴弾が爆発する直前に西野は拳銃を拾い上げて外に飛び出した。彼は出てすぐの場所にあった車の陰から射撃している荒井の隣に移動し、周囲の状況を確認する。異常なし。西野は急いで拳銃をホルスターに戻し、MP-5Fに新しい弾倉を叩き込む。

形勢は逆転した。3人のテロリストは挟まれ、あとは時間の問題であった。しかし、彼らは無駄死にする気など一切ない。

いた!本間は小田完治の姿を確認した。議員はSPに連れられて車に乗り込もうとしている。激しい銃撃を受けながらも、女テロリストは鞄の中からプラスチック爆弾と信管を取り出した。急いで爆薬に信管を差し込もうとするも、被弾した右腕が震えて上手く行かない。

こんな時にッ!!

衝撃が胸部を襲い、彼女は爆弾を地面に落として背後にあった車に叩きつけられた。荒井の発砲した弾が命中したのだ。これに気付いた本間の仲間2人が立ち上がって背後へ集中砲火するも、野村と新村が2人のテロリストを沈黙させた。

やっと現場に静寂が訪れた。本間は胸の痛みに耐えながら、爆弾を拾い上げようとする。しかし、その直前で西野が爆弾を取り上げた。女テロリストは歯を剥き出してネズミ取りの捜査官を睨み付ける。

「もう終わりだ…」と西野。

奇妙な音が聞こえた。ガスが漏れるような奇妙な音であった。西野が音源へ顔を向けた瞬間、彼と荒井の背後にあった車が爆発して2人は地面に叩きつけられた。

遠くから見ていた野村と新村は爆発の原因を目撃していた。

ロケット弾。

それはホテル裏口の正面にある一方通行の道から飛んできた。

2人の捜査官が急いで西野を助けようと走り出すなり、ロケット弾が飛んできた道から2台の白いバンが出現した。バンから重装備の男が10人降りてきて、野村と新村に向けて発砲する。野村は急いで新村を引っ張って近くの遮蔽物に身を隠す。

一体、何人いるんだ!?

爆発の影響で意識が朦朧する中、西野は迫ってくる10人の男たちを見た。彼らは本間たちと違って短機関銃ではなく、火力の強い自動小銃を所持して顔は目出し帽で隠されている。

急いで動こうとするも、全身に激痛が走って捜査官は再び地面に崩れ落ちた。周囲に目を配る。右斜め前方に車を背にうな垂れている本間、左隣には地面に叩きつけられた衝撃で頭から血を流す荒井。西野は激痛に耐えながら、右手をゆっくりと拳銃のホルスターへ伸ばす。人差し指が拳銃に触れ、急いで銃把を握る。銃を引き抜こうとした時、何者かが捜査官の手を掴んで拳銃をもぎ取った。

西野から銃を奪った男は隣にいた長身の仲間に手渡し、受け取った男はその銃口を気絶している本間に向けて2度発砲する。頭部と胸部を撃たれた女テロリストは呆気なく死亡した。

次は自分の番だと思った西野は目を閉じて死を覚悟した。しかし、本間を撃った長身の男は西野の拳銃を自分のベルトに挟めると、胸ぐらを掴んで西野を引き寄せる。

「久しぶりだな、小林…」そう言うと、長身の男が目出し帽を脱いで素顔を見せた。男の額には小さな切り傷がある。「それとも…西野と呼ぶべきかな?」

男の顔を見た西野は驚きを隠せなかった。

「も、守谷……?」

 

 

 

 

 

 

 

 ご愛読ありがとうございました!

また来年!! 

 


編集が追いつかないッ!! [その他]

WNのニュースではないので、興味のない方はスルーしてください。)

 まぁ、楽しみに待っている人は皆無でしょうが…返報の12-4は来週25日(金)に延期となります。 

 理由としては、ハヤオが『銀河極小戦争』なる物語を再開したからです。5週連続公開するらしく、今回はいつになくやる気があるようです。ハヤオはあのような下衆なキャラを書くのが好きらしいので、『返報』はストレスの種になってるのかも…

 もう少しで終わるので、我々はしっかりと手を抜いて書いて行こうと思います。

 それでは! 


返報 12-3 [返報]

12-3 

 

 

 

 「ちくしょう…」

 小声ではあったが、奥村は通路を隔てた机で作業している水谷の悪態を聞いた。あまりそう言う事を口にしない人物であったために奥村は少し驚いたが、すぐに手を付けていた作業に戻る。すると、水谷が机の引き出しから携帯電話を取り出して席を立った。

 変だ…小太りの女性分析官は黒田へ報告しようと局内専用のテキスト通信を開く。下手に内線で話して誰かに聞かれた問題になると思ったからだ。

 「どうした?」水谷が彼女の背後から話し掛けてきた。

 奥村は驚いて心臓が止まりそうになった。振り返って同僚の目を見た後、「何でもありません」と彼女は答えた。

 「今はホテル襲撃の情報収取に徹して欲しい。数分前に偵察用の無人機が派遣されたから、すぐにその映像が来る。何か見つけたら、すぐに僕に教えてくれ。」

 「黒田さんじゃなく?」奥村が尋ねる。

 「まずは『僕』にしてくれ。」

 「分かりました…」

 

 

 

SP4人による一斉射撃で本間の右隣にいた男は喉と左腕に被弾して床に崩れ落ち、左端にいた女は右腕と防弾ベストで守られていた腹部に被弾した。

待ち伏せを予期してなかったテロリストたちは虚を突かれて一同は戸惑った。だが、本間は素早く思考を切り替えるとその場に伏せ、テーブルを盾に撃ってくるSPたちに向けて短機関銃を発砲した。彼女の動きを見て、それを真似する者もいれば、出入り口まで下がって身を隠す者もいた。テロリストの間に走っていた動揺は収まりつつあり、代わりに立ちはだかる邪魔者に対する殺意が高まった。テロリストたちは4人のSPに向けて弾倉が空になるまで引き金を引き続ける。

 一方、待ち伏せ攻撃が一定の功をなしたと思ったSPたちであったが、彼らはすぐ危機に直面した。SPたちが持つ予備弾倉は残り2本で、その内の1本は拳銃に収められようとしている。弾数で言えば、残り16発である。

 急いで再装填のためSPたちは動いたが、緊張のために手が震えて床に落としてしまう事もあった。いくらSPとしての経歴が長くても、銃撃戦の経験がほとんどない彼らにとって今の状況は悪夢でしかなかった。彼らの身を守るのは厚さ4センチに満たない円形テーブルと拳銃のみ。短機関銃と手榴弾による攻撃を受ければ、全滅は免れない状態である。そして、SPたちが恐れていたことが起きた。

 無数の銃弾がSPたちの隠れるテーブルを襲い、その陰に隠れていた4人全員が被弾した。この銃撃によって、円形テーブルには大小の穴が開けられ、テーブルの端々が部分的削り取られた。遮蔽物の損傷は酷かったが、幸い致命傷を負った者はいなかった。それでも腕や脚の被弾は死への恐怖を増幅させ、軽いパニックに陥った。遮蔽物の損傷具合からSPたちは反射的に伏せ撃ちの姿勢を取って発砲を続ける。

 テロリストたちは隙を見ては這って前進し、SP同様にテーブルや椅子を盾にして前線を広げた。こうすれば手榴弾を投げても爆風と破片から身を守る事ができる。

 残弾数を数えていなかったため、神崎は拳銃の遊底が後退すると予備弾倉を取るために手を伸ばす。最後の弾倉であり、あと8発しかない。それを拳銃に叩き込むと、ふと愛する妻の顔が脳裏に浮かんだ。子供には恵まれなかったが、神崎は別に気にしなかった。何よりも好きな人と一緒になれたことが嬉しかったのだ。

 銃を構えて再び発砲としようとした時、神崎の隣に何かが落ちてきた。深緑色の球体。彼は瞬時にその正体を理解した。

 逃げろ!

 本能が神崎にそう告げたが、彼はそれに抗った。神崎は急いで起き上がると、手榴弾の上に覆い被さった。

 

 

 

 黒田は受話器を元の位置に戻し、忙しなく働いている分析官たちに目を向ける。

 「最悪な日だな…」

 オフィスの外を見ると、二人の警備員が水谷の腕を掴んで椅子から立ち上がらせようとしていた。中年の分析官は抵抗したが、警備員の1人が水谷の右手を掴んで捻り上げると観念して大人しくなった。彼の同僚たちは何事かと作業を止め、水谷と警備員たちの動向を見守った。分析官を取り押さえる警備員は手錠を取り出し、水谷の両手首に付けると拘束室へ連行した。

 一部始終を見守っていた分析官たちは呆気に取られており、見かねた黒田が彼らを作業へ戻すためにオフィスから出てきた。

 「聞いてくれ!動揺しているだろうが、今は作業に戻ってくれ。すぐに無人機からの映像が来る。それを元に現場に派遣した捜査官たちを支援するんだ。」

 上司の言葉に疑問を抱きながらも、現在直面している危機に対処することが先だと思った分析官たちは渋々作業に戻る。

 黒田に水谷の事を報告した奥村はここまで早く事態が動くとは思っていなかった。

「一体、何があったんだろう?」小野田が奥村に尋ねる。

「分からない。油を売ってると、また黒田さんに起こられるよ。」

「そうだね…」

そう言うと、小野田は自分の作業に戻る振りをして西野たちの状況を見ようと、無人機の映像を一足先に確認する。しかし、映像は不鮮明で詳細が掴めなかった。

使えないなぁ…

一方、黒田は水谷が拘束されている部屋に入ろうとしていた。手錠で自由を拘束されている中年の分析官は混乱しており、上司を見るなり立ち上がる。

「どういう事ですか?」

「まずは座ってくれ。話しがあるんだ。」黒田は至って冷静であった。

「何ですか?」

「単刀直入に聞こう…」ここでネズミ取りの支局長は間を置いた。「お前の狙いは何だ?」

 

 

 

 上司が突然飛び上がって移動したと思ったら、その直後に鈍いボンっという音と共に彼の体が少し浮き上がった。他の3人のSPは神崎が身を挺して彼らを助けた事に気付いていなかった。

残された3人は弾が切れるまで撃ち続けた。そして、その時が来るとSPたちは絶望の淵に追いやられた。銃弾は底を着き、傷口からの出血は止まらない。彼らを待ち受けるのは死のみであった。

 SPからの銃撃が止むと、テロリストも撃つのを止めて警戒しながらSPたちが隠れているテーブルに近づく。SPの銃撃で無力化されたテロリストは1名、負傷者は2名出たがいずれも軽傷であった。

 本間が引っくり返されたテーブルの陰を見る。そこには怯える3人のSPがいた。

 「小田は?」と女テロリストが訊く。

 「言うと思うか、クソ―」

 SP1人が抵抗しようと動くが、本間に辿り着く前に頭部へ2発撃ちこまれた。

 「小田は?」本間は同じ質問を繰り返した。

 脚を被弾した女性SPは女テロリストを睨み付けて無言を貫き、もう一人の右腕を負傷した男性SPも同様に固く口を閉じている。

 「残念…」本間がMAC-10を持ち上げ、女性SPに向けて引き金を絞った。しかし、弾は出ず、本間は装填を忘れている事に気付いた。「忘れてた…」

 彼女が予備弾倉を短機関銃に叩き込むと銃声が聞こえ、右腕に激痛が走りMAC-10を床に落とした。女テロリストは額に青筋を浮かべて大ホールの出入り口を見た。そこにはMP-5を持つ西野がおり、彼は3人の仲間を連れている。広瀬、小木、そして、SAT隊員の荒井であった。

本間が急いで短機関銃を拾い上げようと動くなり、撃たれそうになっていた女性SPも短機関銃を取りに動いた。テロリストの手が銃把に触れるや否や、女性SPは本間の左手首を掴んで手前に引き寄せて左掌底を女テロリストの額に叩き込んだ。そして、本間が怯んだ隙に女性SPMAC-10をもぎ取る。彼女が短機関銃を構えようと動くと同時に、本間はベルトに挟めていた拳銃を取り出して素早く女性SPの胸に2発撃ちこんだ。撃たれたSPは後方へ倒れて床に叩きつけられた。その後、本間は最後に残った男性SPを見るなり、胸と頭に銃弾を叩き込む。

“諦めの悪い奴らだ…”そう思いながら、女テロリストは奪われた短機関銃を拾い上げて新手と戦うために動く。

 

 

西野たちは素早く二人一組になると左右に分かれ、テーブルと椅子を最大限利用してテロリストとの距離を詰めようと動いた。西野と広瀬は左、小木と荒井は右から攻めて行く。

捨て身と言える西野と広瀬の前進は素早く、小木と荒井はその速さに圧倒された。テーブルを引っくり返して遮蔽物を作るなり、西野は広瀬に援護を任せて次の遮蔽物を得るために前進する。二人は言葉を交わさなくても、互いにすべき事を理解していた。テロリストの銃弾が飛び交う中、西野は広瀬の援護を受けて別のテーブルを蹴り飛ばして引っくり返すと、広瀬と再び合流するために弾幕を張る。30秒の間に彼ら2メートル前進し、テロリストとの距離は約18メートルとなった。西野はもう2度前進する算段であり、広瀬もそう予想している。しかし、彼らとは対照的に小木と荒井は慎重に行動しているため、まだ最初の遮蔽物から動けずにいる。

凄ッ!西野と広瀬を見て荒井は思った。

再び前進しようとした西野であるが、鼻の先を銃弾がかすめて動くのを躊躇した。彼は気持ちを切り替えて右足に体重をかけて動こうとするも、広瀬に左肩を掴まれた。背後にいる仲間は首を横に振り、胸ポケットに差していたフラッシュバンを取る。広瀬は小木と荒井の位置とテロリストの弾幕の厚さからこのままの前進は難しいと判断したのだ。西野は同僚の判断に同意した。二人は床に伏せ、広瀬は安全ピンを抜くと大きく腕を振って閃光手榴弾をテロリストの方へ投げる。ネズミ取りの捜査官たちは投げ終えるなり、目を閉じて左耳を覆って爆発に備えた。

フラッシュバンがテロリストたちの左翼に落ちると、その近くにいた男性テロリストは悲鳴を上げて手榴弾から離れるために走り出す。その声に釣られて他のテロリストたちが視線を移動させ、走ってくる仲間の姿を確認するや否や眩いばかりの光が彼らの視野を奪い、続けて爆音が聴覚を奪った。

今だ!

西野と広瀬は同時に立ち上がり、テーブルの陰から飛び出すと閃光手榴弾で視覚と聴覚を失って立ち往生している3人のテロリストを発見した。迷う事無く、二人の捜査官は光学照準器付きのMP-5Fを構えて赤い小さな点を見つけたテロリストに合わせて引き金を素早く2度絞った。銃弾は吸い込まれるように狙った標的に命中し、二人のテロリストがほぼ同時に崩れ落ちる。西野と広瀬は同時に残った1人に標準を合わせて引き金を引いた。西野の放った弾はテロリストの首と顎に、広瀬のは男の胸に命中した。二人は3メートル程進むと、再び円形テーブルを引っくり返してその陰に隠れる。マガジンリリースボタンを押しながら、手首を回して二人の捜査官は短機関銃からまだ数発残った弾倉を吐き出させ、新しい弾倉を叩き込む。

その頃、仲間の前進を見て小木と荒井も発砲しながら大きく前進し、西野と広瀬と同じ位置でテーブルの陰に身を潜めた。彼らは再装填をせず、その場からテロリストの隠れるテーブルに向けて発砲を始める。

このままではダメだッ!!視力が戻ってきた本間は思った。残る仲間は4人。彼女は鞄から手榴弾を取り出し、銃弾が飛んでくる場所目がけて投げる。

手榴弾は小木と荒井が隠れるテーブルの前に落ち、再装填のために二人がテーブルの陰に隠れるとそれは爆発してテーブル諸共ネズミ取りの捜査官とSAT隊員を後方へ吹き飛ばした。テーブルが彼らを守って軽傷で済んだが、床に叩きつけられて素早く動ける状態ではなかった。

「本間さんは小田を追ってください!」彼女の隣にいた女性テロリストが言う。「ここは私に任せてください。」

しばらく考えて末、「お願いするわ…」と本間が答えた。そして、彼女は自分の短機関銃と手榴弾3つを仲間の女性に渡す。「また会いましょう。」

そう言い残して本間は近くにいた3人の男を率いて小田の後を追うために二手に分かれる。彼女と釣り目の男はSPと小田たちが使った非常口に、他の二人は正反対の非常口に向かって走り出した。

手榴弾で吹き飛ばされた小木と荒井は追撃を避けるため、仰向けの姿勢で射撃体勢を取って発砲する。走り出したテロリストたちはこの銃撃を受けると、速度を上げて目的の非常口へ急ぐ。

一方、装填を終えた西野と広瀬が遮蔽物から飛び出した。彼らは標的を見つけて求め、素早く視線を移動させる。二人は非常口へ走る本間たちを見つけたが、別の非常口へ向かった二人組に気付く事はなかった。これは右方向を小木と荒井に任せていたからである。

二人の捜査官は光学照準器の赤い小さな点を非常口へ走るテロリストの背中に合わせて引き金を絞る。しかし、銃弾は走っていたテロリストの肩をかすめただけであった。再び西野が狙いを定めて引き金を引こうとした時に視界の隅で何か動き、反射的にそちらへ銃口を向ける。彼の目に飛び込んできたのは2丁のMAC-10短機関銃を構える女テロリストであった。本間たちに気を取られていた広瀬はまだ逃げるテロリストに向け発砲を続けており、西野が遭遇したテロリストに気付いていない。

西野は2丁拳銃を持つテロリストに狙いを合わせる前から引き金を反射的に絞り、発砲しながら照準器の赤い点を標的に合わせようと動く。咄嗟の反応であり、西野は腰を右へ捻りながら銃を左斜めに構える形で撃ったために狙いが安定しなかった。それでもMP-5Fから放たれた9発の銃弾はテロリストの胸に命中し、2丁の短機関銃を発砲しながら女は後方へ倒れた。脅威を除去した西野であったが、彼も胸部と腹部に被弾して尻餅をついてしまった。

胸部を被弾した女テロリストであったが、防弾ベストに救われて軽い呼吸困難で済んだ。彼女は自決しようと、本間からもらった手榴弾を取り出して震える指で安全ピンを掴む。

これが私の最後か…

ピンを引く手が何者かに捕まれた。テロリストは驚いて手の主を見る。そこには死んだと思っていた女性SPがおり、右手には特殊警棒が握られている。テロリストは急いで安全ピンを抜こうとするも、女性SPの力は強くて抵抗することができない。死に物狂いでSPはテロリストの手首を捕まえ、特殊警棒を力一杯振り下ろして女テロリストの額を殴った。あまりの衝撃にテロリストは脳震盪を起こして気を失うも、それを知らないSPは追撃を加え、これに手応えを感じると素早くテロリストの手から手榴弾をもぎ取った。どっと安堵感が全身に広がって女性SPはその場で寝転がってしまった。

やった…

一方、テーブルの反対側で起きた戦闘を知らない西野は尻餅をついた状態で銃を構えて周囲を警戒した。テロリストが移動して別の場所から撃ってくるかもしれない、と判断しての行動であった。異常なし。

ふと彼は背後にいる広瀬に視線を向ける。そこには両膝を付いて喉元を両手で抑える同僚の姿があった。そして、喉を抑える手は血で染まっていた。

 

 

 

 

 最後の1人となったSPと民間の警備員10名に守られた小田完治とその家族が裏口へと続く搬入口に辿り着いた。そこは清掃やクリーニング店のバン、それにホテルの送迎ミニバスが並ぶ場所であり、ここに設置されている大きなシャッターの左端に職員専用の入り口がある。途中まで彼らの後に付いて来ていた人々は、別の通路を使っての脱出を試みてはぐれてしまった。

 「もうすぐです。」拳銃を胸の前で構えるSPの真嶋が真後ろにいる小田完治に言う。柴田がいない今、彼が唯一拳銃を携帯する者であった。他の民間の警備員は特殊警棒しか持っておらず、現在行動中の警備員の3人が折り畳み式の防弾盾が仕込まれた鞄を持っている。「この先にある非常口を抜ければ外に出られます。そこで―」

 その時、背後から銃声が聞こえてきた。素早く警備員の2人が防弾盾を展開させ、議員とその家族を守る態勢に入る。SPの真嶋は急いで外へ出ようと、議員の左手首を掴んで走り出す。ドアの前まで来ると、一度警護対象から手を離してドアノブを回して押し開ける。再び議員へ左手を伸ばそうとした時、真嶋は約3メートル先にMAC-10短機関銃を持つ男たちを見つけた。ざっと見ただけでもSP5人のテロリストを確認した。彼は急いでドアを閉め、ドアノブの真上に付いているサムターンを捻って鍵を閉めた。無意味な行為ではあったが、時間稼ぎにはなる。

 挟まれた!?真嶋は混乱した。“もうここに留まるし―”

 カランと床に何かが落ちる音が室内に響いた。

「伏せろー!!」

防弾盾を展開させた警備員の1人が叫び、その直後に爆発音と爆風が彼らを襲った。全員が同方向へ吹き飛ばされ、小田完治とその家族を庇った警備員3名が防弾盾の間を潜り抜けた手榴弾の破片で肩と腰、脚を負傷した。

爆発の衝撃で耳鳴りがしている真嶋は警護対象を守るため、小田完治の腕を掴んで停車してあった清掃屋のバンの陰に隠れようと動く。これによって議員は家族と離れてしまった。

「ま、待て!」小田完治が家族の事をSPに伝えようとするも、警護対象の保護に専念する真嶋は一切耳を貸さなかった。

そして、この混乱した様子をドア口で見ていた堀内は再び手榴弾を室内に放り投げた。爆弾は真嶋と小田が逃げ込んだバンの近くに落ち、SPは急いで議員と共に別のバンの陰への移動を始める。爆弾は彼らが動くと同時に爆発し、背中に爆風を受けて床に叩きつけられた。

「立ってください…」真嶋が倒れた小田完治の腕を引っ張って立ち上がらせる。「移動しないと…」議員の右腕を首に回し、SPは逃げ場のない場所でどうすべきか考えた。しかし、答えは見つからない。

「私は大丈夫だ。それより家族を…」小田がかすれそうな声で言った。爆発の影響で髪が乱れ、転んだ際に顔は埃で黒くなっていた。

「しかし、ぎ―」

二人の左隣にあったシャッターで爆発が起こり、その衝撃で真嶋と小田は2メートルも吹き飛ばされた。大きな穴がシャッターの中心に開き、そこを通って5人の男たちが室内に入って来た。

 「ご苦労さん!」室内に入って来た増援を見て堀内が言う。「さぁ、仕事を終わらせようか…」