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ライブ『S.I.U.』決定! [News]

 衝撃のアルバム『S.I.U.』発売間もないのに!我らのWNがライブを開催します!!今回はワールド・ツアーだそうです。日本、タイ、マダガスカル、キューバ、そして、ブータンを回るツアーは素晴らしいライブになるはずっ!!

 来月よりファンクラブ会員限定でチケットの先行発売がされ、一般発売は10月からだそうです。 

 下の写真は『S.I.U.』のジャケットです。かなりクールな感じに仕上がっており、曲もジャケットに合ったファンキーエモーショナルな感じでファンによって感動物です!まだ聞いてない方は、すぐにも聞いた方がいいですよ!!

 IMG00051-20111120-2246.jpg

 

 

 以下はハヤオ関連です。

 第11回はどうでしたか?そうでしょう。退屈だったですよね?

 ゆえに来月はお休みします。第12回は10月に予定しており、再び4週連続公開にするためハヤオと話し合っております。

 以後の予定は未定です。また、ハヤオの体調が最近良くない(これはマジです)ので、打ち切りも視野に入れてます。それでも本間グループとの戦いは次回で終わります。はい。つまり、かなり区切りがいいんですよ。

 さぁて、続報は近日公開します。

 それじゃ! 


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返報 11-4 [返報]

11-4

 

 

 

 家族の待つ部屋に着くなり、小田完治は妻・恵子の黄色い声を耳にして驚いた。議員は何事かと思って妻の所へ急ぐ。

 「何があった?」と議員が妻に問う。

 SPの一人に向かって叫んでいた恵子は夫の声を聞くと、早足で完治に近づく。「あなた!朝食会が中止ってホントなの!?」

 新たなテロリストによる襲撃を予想していた小田完治は妻の問いに一瞬固まってしまった。

 「あなた?聞いてるの?」畳み掛けるように恵子が尋ねる。

 「聞いてるよ。朝食会が中止になるんだろう?それより菜月は?遼は?」

 「二人とも寝てるわ!それより朝食会よぉ!!この日のために選んだ服があるし、みんなもあなたを待っているのよ!」

 小田は子供たちの身が安全であることを知るなり、妻の他の言葉を聞こうとはしなかった。逃走中のテロリストもいるので、朝食会を開けばまた襲われるかもしれない。

 「議員…」秘書の桐原が議員の耳元で囁く。「党本部からお電話です。」

 「分かった。」秘書に向かってそう言うと、小田完治は妻の肩に両手を乗せる。「電話が入った。続きはそのあと話そう。」

 恵子は不満そうな顔を浮かべてソファーに腰掛け、テレビのニュースに何気なく視線を送る。

 一方の議員は桐原が持ってきた携帯電話を使って党本部と電話する。電話の主は幹事長であった。

 「小田君、大変だったね。」

 「色々とご迷惑をおかけしました。」話しをしながら小田完治は静かな部屋に移動する。

 「要件何だがね…」

 小田は幹事長の言葉に耳を疑ったが、それでも彼の主張に同調できる点もあり、渋々小田完治は幹事長からの提案を受け入れた。

 「何の電話だったの?」電話を終えた夫に向かって恵子が言った。

 「朝食会が開かれることになった。」

 これを聞いた議員夫人は飛び上がった。「本当に?」

 「あぁ。本当だよ…」

 喜ぶ妻と違い、小田は複雑な心境であった。

 

 

 

 ネズミ取りの建物から出ると、堀内は右耳から聞こえてくる指示に従って走り出す。

彼の協力者は逃走用の車を用意しており、堀内はそれを入手して追手から逃げ切らないといけない。ふとテロリストが振り向くと走ってくる3人の男が見えた。

 「追手に構うな」堀内の耳に合成音声が入ってきた。

 テロリストはそれに従って走り続ける。指示通り150m先の交差点を曲がり、そして、10m先にある月極駐車場を見つけた。急いで駐車場に入ると背後から「動くな!」と怒鳴り声が聞こえてきた。反射的に堀内は声がした方へ発砲しながら、駐車してあった白いセダンの左前輪の上に置かれていた鍵を手に取る。

 「クソッタレめッ!!」広瀬は武田衛のアジトを襲撃した際に被弾した脚を庇いながら堀内との距離を詰めようと動き出し、彼の援護をする2人の捜査官たちも同様に拳銃を構えながら前進する。

 この間に堀内は車に乗り込み、エンジンをかけると素早くギアを入れて脱出を試みる。拘束が難しいと感じた広瀬と捜査官たちは走り出した車に向けて弾丸が尽きるまで引き金を引き続けた。しかし、身を屈めながら運転する堀内に銃弾は当たらず、フロントガラスに無数の銃痕を残しただけであった。白い車は何事も無かったかのように広瀬たちの前から走り去った。

 広瀬は急いで携帯電話を取り出して支部に電話する。

 「はい?」電話に出たのは分析官の小野田であった。

 「堀内に逃げられた。車のナンバーは分かっている。」

 「教えてください。」

 広瀬は見た番号を小野田に伝え、分析官は車の現在地を探し始めた。

 

 

 

 「本題?」中島がオウム返しに尋ねる。

 「そうです。本題ですよ。何故、あなたは狙われているのか?」そう言い終えると、藤木は首を傾げて左上を見上げる。「いや、狙われていたのか?が正しいですかね?」

 「何の違いがあるんだ?」

 「現在形と過去形ですよ。」

 中島は溜め息をついて気絶している元SAT隊員を見る。「後藤田は何故俺を殺そうとしたんだ?」

 「単刀直入に言うと、官房長官の依頼です。」藤木はあっさりと言った。「憶えてますか?中島さんが緊急会議室に乗り込む前に病院送りにしたすごーく期待されてた男のことを…」

 SAT隊員はしばらく考えたが、思い出せず首を横に振った。

「でしょうね。」藤木はニヤリと笑う。「実はその男、官房長官の甥っ子だったんですよ。中島さんが彼をボコって以来、官房長官は中島さんのことが大嫌いだそうで…マヌケな話しですが、今回の事件を機にあなたを消そうと考えたようです。」

「へぇ~。」中島は全く興味がない様子であった。「それより俺の後ろにいる奴は、いつになったら出てくるんだ?」振り返らずに右親指を後方へ向けて中島が言う。

「気付いてました?」ワザとらしく藤木が言う。「もう出て来てもいいよ、小川ちゃん!」

すると、暗がりから小柄の女性が現れた。歳は20代前半に見え、背は160センチ程の細身で長い髪を後ろで束ねている。中島と藤木の前に出ても一言も喋らず、呼ばれるまで行っていた周囲警戒を再開した。

「彼女は僕の護衛です。それはさて置き、内閣安全保障室長の村上さんから連絡があったんです。官房長官が中島さんを消したがってると…それで僕と小川ちゃんが来た訳なんですよ。」

「俺の件は“ついで”だろ?」中島が藤木を睨み付ける。「本題は議員の件じゃないか?」

ニヤニヤしながら藤木は一度俯き、再び友人の顔を見た。「まぁ、“ついで”と言えば…そうかもしれません。あまり詳しい事は言えませんが、中島さんの言う通り、私は小田議員の件で北海道に来てます。」

「ふーん。」そう言いながら、中島は野村から借りた拳銃を拾い上げる。「俺はそろそろ宮崎くんの所に行く。片付けを頼むぜ。」中島が倉庫を去ろうと歩き出す。

「まだ話しは終わってないですよ。」藤木が友人の背に向かって言った。「家族と一緒に東京に戻って下さい。」

立ち止まってSAT隊員が振り返る。「どうして?」

「あなたと家族のためです。」ネズミ取りの男はそうとしか言わなかった。

「何を隠してる?」藤木に近づきながら中島が尋ねた。その声には怒気が込められている。

その時、スラックのポケットから振動を感じ、中島は携帯電話を取り出す。画面には『野村』と表示されており、SAT隊員は急いで電話に出る。

「中島さん、無事ですか?」電話に出るなり野村が言った。

「なんとか…それより宮崎くんは?」

「容態は安定してます。あとは目覚めるのを待つだけです。中島さんの方は?」

宮崎の安否を知った中島は一安心し、深く息を吐く。「色々とありましたが、無事に終わりそうです。これからお借りしてた拳銃を返しに行きますね。」

「それでは小樽病院で待ってます。」

そして、電話が切れた。

「さっきの問いの答えですが…」電話を終えた中島を見て藤木が口を開いた。「小田完治の暗殺が計画されており、どうやら私のいる組織の中に内通者がいる可能性がある。そして、その内通者はあの時…自衛隊基地を襲った連中の残党かもしれないんですよ。私から言えるのは、ここまでです。」

「つまり…」中島が口元を緩めながら言う。「三浦を殺した連中がここにいるのか?」

“喋り過ぎたか…”藤木は後悔した。

「そうなりますね。でも、中島さん―」

「これから宮崎くんのいる病院に行かないといけないんだ。また、後でな…」

まだ言いたい事があったが、藤木は出口へと走る友人の後姿を追う事しかできなかった。

 

 

 

 ドアの前で一度立ち止まり、黒田は深いため息をつく。

 “一難去って、また一難か…”

 童顔の支局長はドアを開けて室内に入ると、椅子に腰掛けている西野を見つめながら後ろ手でドアを閉める。

黒田に気付いた西野は立ち上がり、「堀内はどうなった?」と尋ねた。

「まだ追跡中だ。」黒田はそれ以上言わなかった。「座ってくれ…」

「俺を現場に―」

「お前を現場に出すことなどできない!一体何をしたか自分で分かってるのか!!」

外の警備員にも聞える程、黒田の声は大きく、西野は上司の勢いに押されて椅子へ戻ることにした。それを確認すると、支局長はネクタイを抑えながら椅子に腰掛けて西野と向き合う。

「単刀直入に聞こう。」ネズミ取り北海道支局長が静かに口を開く。「お前はどっち側の人間だ?我々か?それともテロリストか?」

 この問いを聞いて西野は自身の耳を疑い、そして、それと同時に怒りが込み上げてきた。

「お前まで俺を疑ってるのか?!」

黒田は何も言わず、ただ西野の双眸を見つめた。この様子から西野は上司が真剣に自分を疑っている事に気付き、信頼していた黒田に裏切られた気がして無性に腹が立った。

「私だって…」支局長は西野から目を逸らさずに口を開いた。「お前がテロリストだと思いたくない。しかし、お前が小田議員の襲撃に―」

「あれは新村を救うためだ!」西野が上司の話しを遮る。

「話しを最後まで聞くんだ。」ネズミ取りの支局長は静かに、興奮状態にある部下を落ち着かせようとやさしい口調で言った。「あの襲撃に関与し、その前にも……SATと武田衛を確実に仕留めた狙撃手から生き延び、守谷と名乗っていた堀内という男を追うと言って住宅街に向かい、その際に多くのSAT隊員が死亡した。広瀬は今までの経緯を見て…お前がテロリストの手引きをしていると思っていた…」

ここで黒田は話すのを止め、一度下を向くと再び西野の目を見て話しを続ける。

「お前のした事は、全て…お前をテロリストの仲間と考えるに十分な証拠になる。だからと言って、すぐにお前をテロリストと断定した訳ではない。数日後に査問委員会が開かれる。全てはそこで判断されるだろう…しかし、事件が解決するまで、お前をこの建物から出す訳にはいかない。いいか?」

西野は黒田にこれ以上何を言っても無駄だと思って首を縦に振った。

その時、拘束室のドアが開いて分析官の小野田が入ってきた。「黒田さん、堀内の車が見つかりました!」

「捜査官を送ったか?」支局長が椅子から飛び上がる。

「はい。現在、その様子がメイン・スクリーンに映し出されています。」

「よし!」黒田はドアへ急ぎ、部屋を出る前に一度西野を見る。「すぐに戻ってくる。」

支局長は急いでライブ映像を見るために走り出した。それにも関わらず、小野田は拘束室を離れずに静かにドアを閉めて西野に近づく。

「西野さん、お話しがあります。」

「いいのか?勝手な事をしたら、黒田に何を言われるか…」西野は小野田の事を思って言った。下手に関われば、西野と共に査問委員会に突き出されるかもしれないからだ。

「重要な事です。」小野田がジーンズのポケットから小型タブレットを取り出し、その画面を西野に見せる。そこには建物の設計図が表示されていた。

「こういう事は黒田に報告すべきだ。」と画面に一瞥を送ってから西野は言った。

「無駄だと思ったからここに来たんですよ!黒田さんは何だか情緒不安定というのか…菅井さんが亡くなってからすごく感情的で…」

“そうだったな…黒田は菅井を推していた。確かにアイツは腕の良い捜査官だった…”西野は亡くなった同僚の事を考えると胸が苦しくなった。

西野は込み上げてくる涙を堪えながら、「用件は何だ?」と尋ねる。

「武田衛のアジトと野村さんたちが襲撃した赤屋根の建物から多くの情報が見つかり、その中に別の攻撃計画の資料が含まれていました。もし、テロリストが別の攻撃を準備しているなら、急いだ方が良いと思います。」小野田はできるだけ簡潔に拘束室に来た理由を述べた。

「それは黒田に話すべき事だ。俺に―」

「察してください…」分析官は新鮮な眼差しで西野の目を見た。

“『察してください』?小野田は黒田がテロリストの内通者と見てるのか?”

「お前、黒田が―」

「違います!疑うべきは…」小野田は何かを言いかけたが、喋るのを一度止めた。「僕が言いたいのは!」ここで突然、分析官が声を張り上げる。「西野さんなら信用できる。新村さんのために命を懸けた西野さんなら…」

“コイツ…新村に惚れてるのか?”西野はふと関係のない事を思った。

「それに疑ってる人物は水谷さんです。あの人の行動が怪しくて…」

「怪しい?」オウム返しに拘束中の捜査官が聞く。

「テロリストの証拠品を捜査しながら、他の分析官たちのアクセス記録を調べてるんです。」

西野は混乱した。「それの何が問題なんだ?」

「問題は水谷さんが、いくつかの証拠品を消去または改竄してる事です。」

「それなら黒田か本部に報告すべきだ。俺じゃ―」

「時間が無いんです!これを見てください。」小野田が小型タブレットの画面を西野の前に置き、捜査官は画面に映る設計図を見る。「それは削除されたファイルの一つです。全ファイルの修復を試みたんですが、これしか修復できませんでした。」

「これは?」

「小樽グランドホテルの設計図です。そして…」小野田は画面の隅を二度軽く叩いて画像を拡大させ、設計図に殴り書きされた『0900』が見えるようになった。「ここに0900とあります。このホテルは小田完治議員の朝食会が開かれる場所で、9時がその開催時間です。」

西野は腕時計に目を配る。846分。

「テロリストの残党が再び議員を襲う可能性があります。既にSPに問い合わせたのですが、真剣に取り合ってもらえませんでした。それに水谷さんが内通者である証拠もまだ不十分ですし、誰もこの設計図と時間らしく数字を見せても信用してくれません!でも、西野さんなら…この話しを信じてくれるかと思って…」

「だが、俺は拘束され―」

すると、分析官が手錠の鍵を取り出して西野を解放する。「実は広瀬さんと先ほど戻ってきた小木さんにも同じ話しをして説得したんです!二人は西野さんを駐車場で待ってます。」

「二人もいれば―」

「広瀬さんができるだけ多くの人員を集めたいと言ってました。それに西野さんは経験が豊富だし…それよりも早く現場に向かってください。もし、予想が的中していれば、10分以内に何か起こるはずです!」

 

 

 

病院の裏口に近いベンチの周りを回りながら、野村は中島の到着を待っていた。

小木は小田菜月と新村の救出に関する報告書を書くため、先に支局へと戻って行った。野村自身も報告書を書かなければならないので、中島から銃を受け取ったらすぐに小木の後を追うつもりであった。

しばらくすると、中島がやってきた。非常に落ち着いた表情で足取りもスムーズであり、SAT隊員が落ち込んでいると思っていた野村は安堵した。

「宮崎くんは?」と中島が尋ねる。

「容態は安定してます。もうすぐ目覚めると思います。それより、大丈夫ですか?」

「順調ですよ。」

「良かった。それでは―」

「実は…折り入ってお願いしたいことがあるんですよ。」野村を遮ってSAT隊員が言う。「ネズミ取りさんの手助けがしたんです。」

「え?」ネズミ取りの捜査官は突然のことに驚いた。「どうしたんですか?」

「言い方が変かもしれませんが、ちゃんと“お返し”がしたいんですよ。」

「私にですか?それなら―」

「いや…」再び中島が野村を遮る。「野村さんではなく、探していた“友人”にです…」

 

 

 

 

 小樽グランドホテルは厳重な警備に包まれていた。正面玄関と裏口に『BG』のバッジをしたスーツ姿の民間の警護員が2人ずつ、一階のロビーには同社の警備員3人とSP1名。朝食会が行われる2階の大ホールの前には金属探知機のゲートが2つ用意されており、ここにも民間の警備員が6人いて、それをサポートする形でSP2人がホール入り口を固めている。ホール内にはSP2人に民間の警備員4人が配置されている。

警備は中だけに留まらない。外には非常事態に備えて6名のSAT隊員が付近で、いつでも出動できるよう待機している。

このような警備体制の中でも、小田完治の後援者たちはまるで彼らが存在しないかのように談笑して議員の到着を待っていた。ホール内は10以上の円形テーブルと100を超える椅子が設置されている。部屋の一番奥にはステージがあって、マイクと水差し、小さなグラスが置かれている演説用の台が乗っている。ステージ横にはマイクスタンドがあり、その横でスーツ姿の男女がメモ用紙を見ながら打ち合わせを行っていた。

全てが順調に進んでいる。後援者たちの中に不審物を持つ者はおらず、問題を起こすような人物もホテル内外で見つかっていない。時間通りに議員とその家族も朝食会に訪れる事にもなっている。全て順調が順調であった。

 

 

 

ホテルロビー横にある喫茶店で雑誌を読んでいた本間はウェイトレスにコーヒーのお代わりを注文し、腕時計に目を配った。858分。

“そろそろかしら?”

女テロリストがそう思った時、8人の男女を乗せた小型バスがホテルに向かって動き出した。そして、ちょうど同じタイミングで二人組の男がホテルの斜め向かいに駐車していた車から降りた。運転手は筒状の物を右肩からぶら下げており、助手席の男も同じ物を携帯していたが、彼は中型のボストンバッグも持っていた。彼らは道路の真ん中で立ち止まり、時刻を確認する。9時。

ホテル2階の大ホールにはSP2名に護衛された小田完治議員とその家族が入場し、会場が拍手と歓声に包まれる。

時間を確認すると、二人組の男は黒い筒状の物を持ち上げる。それは単発式のグレネードランチャー、CIS 40GLであった。一人は東、もう一人は西を見るなり、向かってくる車に狙いを定めて引き金を引く。ポンッという音を出してグレネードが弧を描いて飛んで行く。

一つは東から来た乗用車のボンネットに命中して爆発を起こし、車は前へ半回転してホテル前で客待ちしていたタクシーの列に突撃する。西側では、グレネードが軽自動車のフロントガラスに直撃して爆発すると、その衝撃で車のドアとタイヤが吹き飛んで近くにあった商店に損害を与えた。

この騒ぎに周囲を歩いていた人々は悲鳴を上げて走り出し、また、物珍しさから携帯電話でその光景を撮影し始める者さえ出始めた。正門を警備していた警備員たちはすぐ仲間に現状を報告し、近くにいたSPが現場確認をするために外へ出る。ホールにいたSPは素早く小田を退避させようと動く。

二人組の男はすぐに再装填し、爆発で足止めされている後続車に向けてグレネードを撃ち込んだ。爆発と共に悲鳴と野次馬が増える。彼らが3度の装填を終えると、東から2台のパトカーがサイレンを鳴らして近づいてくるのが見えた。

二人が対処に動こうとした時、西側から仲間のバスがやってきた。二人組の男はパトカーに向けてグレネードを撃ち、無力化を確認するとバスを運転する仲間に右手を挙げて合図を送る。これを受けると、バスはホテルの正門を抜け、立ち往生していた警備員の一人を轢いてホテル内に突入した。


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返報 11-3 [返報]

11-3

 

 

 

「何だ?」運転手が誰ともなしに言った。

助手席にいた同僚も行く手を阻む車を見つけ、身を乗り出して状況を掴もうとする。運転手は速度を落とし、その車に近づく。二人と違って後部座席でうな垂れていた西野はまだ自分の世界に留まっている。

車のヘッドライトが道を塞ぐ乗用車の姿を照らし、この時になってようやく刑事たちはボンネットに腰かけている中年男性の存在に気付いた。男は腕を組んでいたが、運転手とその同僚を確認すると彼らの方へ向かって歩き出す。

「ちょっと行ってくる」助手席の刑事がそう言い残して車から降りる。男に近づきながら、「どうされましたか?」と尋ねた。

「日本交通保安協会の広瀬です。西野史晃氏を迎いに来ました」ネズミ取りの捜査官は刑事の警戒心を高めないよう、ある程度近づくと立ち止まった。

「西野氏はこれから署で取り調べを受けることになっています。すみませんが、保釈手続きは署でお願いできますか?」

「手続きがスムーズに進んでいないようですね…」地面を見つめながら広瀬は右手で無精髭の生えた顎を擦る。

「手続き?」刑事がオウム返しに尋ねる。その時、上着の内ポケットに入っていた携帯電話が震え、刑事はディスプレイを確認する。「ちょっとすみません。」

広瀬に背を向けて刑事が着信に応じると上司が電話に出た。「今どこにいる?」

「奥沢口の付近です。」

「とういうことは、まだ西野史晃の移送中だな?」

「はい。一体―」

「日本交通保安協会の広瀬という人に会ったら、西野を引き渡すんだ。」

刑事は自分の耳を疑った。“引き渡す?”彼は背後にいる広瀬に一瞥を送る。

「何かの間違いじゃないんですか?あの男は―」

「言った通りにしろ!」

電話は一方的に切られた。振り返って中年男性を見ると、刑事は携帯電話を上着の内ポケットに入れる。

「これから西野氏の手錠を外すのでお待ちください。」違和感を持ちながらも刑事は同僚と西野が乗る車へ引き返し、広瀬は負傷した片足を引き摺りながらその後を追う。

「何があった?」助手席側の窓を下げて運転手が同僚に尋ねる。

「後ろの客人を解放しろと坂崎係長から電話があった。それ以上は知らん。」そう言いながら、同僚の刑事は後部座席のドアを開けて西野の手錠を外す。

「おい!」広瀬が西野に声をかけ、聞き覚えのある声を聞いた西野が顔を上げる。「大事な話しがある。付いて来い。」

 

 

 

いくらSPの保護下にあっても、事務所襲撃の知らせを受けた小田完治の妻と息子は怯えて眠ることなどできなかった。議員秘書やスタッフが眠るように言っても、二人は耳を貸さずにテレビで放送されている議員事務所襲撃に関する速報を見続けた。時刻は午前4時を少し回っており、外は次第に黎明の色に染まりつつあった。

二人が泊まるスイートルームのドアが開いてSPに先導された小田菜月が部屋に入って来た。母親と目が合うなり、菜月の目に涙が溢れて手前にいたSPを押しのけて母親に抱きつく。彼女の母も涙を流しながら、娘を抱き寄せて「よかった。よかった」と何度も繰り返し言い続けた。妹の生還に兄・遼も喜んでいたが、恥ずかしさからすぐ頭をテレビへ戻した。

「議員もこちらに向かっています」SPの一人が議員夫人に告げた。「あと10分程で到着する模様です。」

「そうですか…ありがとうございます」警護担当者に頭を下げて議員夫人はお礼を言う。

「それでは失礼しま―」

「ちょっと」SPがその場を立ち去ろうとすると夫人が彼を呼び止めた。「今日の朝食会はどうなるのかしら?」

「おそらく延期になると思われます。」

「どうして?!」夫人が突然黄色い声を上げ、その場にいた人々は驚いて彼女を見た。

「これまでの経緯を踏まえた上で朝食会の延期を考えています。議員もこれには納得-」

「できるわけないでしょ!朝食会がどれだけ重要か分かってるの?」

「いえ…」SPはこれ以上言っても無駄だと思った。

「娘も無事に帰ってきて、主人も無事なんでしょ。犯人を捕まえたらしいでしょ?問題ないんじゃない?」

「延期の有無はこれから議員と警備主任が話し合うと思われますので―」

「警備主任はどこにいるの?」と夫人。

「議員と同行中です。」

「話しにならないわね。」

「申し訳ありません」できるだけ早くこの会話から逃げるためにSPは頭を下げた。このようなことは日常茶飯事で何も珍しいことではないが、理不尽なことを言われれば腹も立つ。

「もういいわ。」

やっと解放されたSPは夫人に背を向け、ドア口に立っていた同僚と目が合うと口をヘの字に曲げて見せた。同僚は微かに口元を緩めるも、夫人に見つかる前に真顔に戻る。二人は警備主任の早い到着を期待しながら定位置に着き、もしもの場合に備えて警戒態勢に入った。

 

 

 

 右脚に走った激痛で男は大きく目を見開いて歯を食いしばった。中島は特に気にもせず、男の傷口を押していた親指の力を抜く。男は宮崎がされたようにガムテープで手足を縛られて椅子に座らされている。

 「誰に雇われたの?」中島が切り出す。

 「俺の仲間はどうした?」周囲を見回しながら男が問う。仲間の姿はない。

 「トランクにいるよ。君たちが予めブルーシートをきっちり敷いていたから、色々と手間が省けた。ありがと。」

 中島の言葉は下手な脅し文句よりも効果があった。一瞬にして男の顔から血の気が引き、これから起こるであろうことを悟った。

 「さて、誰に雇われたの?」SAT隊員は上着を脱ぎ、それを男の横にあった椅子に放り投げる。「あまり時間を割くことはできないんだけどね…」

 たとえ知っていることがあっても目が異様に大きい男は俯いて口を開こうとはしなかった。

“話せば消される。”

彼は経験上それを知っている。全てを吐き出せば彼は用無しになり、頭に銃弾を撃ち込まれて山奥に仲間と共に埋められるだろう。

カチッという音が建物内に響いた。男は銃の撃鉄が下ろされた音だと直感的に感じ取り、腕か脚が撃たれるだろうと予想した。一方、同じ音を背後から聞いた中島は冷静に両手を肩の高さまで上げる。

「ゆっくり、親指と人差し指でベルトの銃を取って捨てろ。」

背後から聞こえてくる男の声に従って中島は、慎重に右手を背後に回してベルトに挟めてあった拳銃を二本指で取ると地面に落とす。

撃たれると思っていた男は状況の変化に喜んだ。今まで自分を虐げていた男が何者かに殺されようとしているのだ。しかし、それもつかの間、SAT隊員の陰に隠れていた人物は右に数歩移動して椅子に縛り付けられている男を確認すると、何の躊躇もなしに引き金を3度絞った。2発が胸に最後の1発が頭に命中した。銃声は消音機によって押し消されており、唾を吐くような音と遊底の動く音しかなかった。

「アイツの相棒はどこだ?」襲撃者が中島に尋ねる。

「車のトランクにいるよ。」質問に答えながら、中島は背後にいる人物の声に妙な親しみがあることに気付いた。

「死んでるのか?」再び襲撃者が問いかけてきた。

「残念ながらね…」

「凶器は?」

「さっきアンタに言われて地面に捨てたよ。」

中島はこの会話からできるだけ襲撃者との距離を測ろうとした。距離は約1メートルだと見積もった。接近戦に持ち込むには少し分が悪い。

「少し歩こうか…」SAT隊員の背後にいる男が言う。

「どこへ?」

「もう一つの死体を見に行くのさ。」

しかし、中島は動こうとしなかった。案の定、襲撃者は数歩進むと消音機付きの拳銃でSAT隊員の背中を小突いた。

好機を逃すまいと、中島は右つま先を軸に素早く180度右へ回転し、後方にいた襲撃者と顔を合わせる。この際に右腕で背中に突きつけられていた拳銃を押しのけ、銃口を逸らすとSAT隊員は左手を伸ばして襲撃者の銃を持つ右手首を掴んだ。武器を制圧するなり、中島は右掌底を襲撃者の顔面に叩きつけた。この時になって彼は襲撃者の正体を知った。

後藤田!!?

襲撃者は中島も良く知る元SAT隊員であった。

中島の掌底は後藤田の鼻に命中して元同僚の動きを止めた。すかさず、ぶかぶかの服を着たSAT隊員は包み込むように右手で襲撃者の武器を持った拳を掴み、反時計周りにねじり上げながら後藤田の顔目がけて押し上げる。同じ訓練を受けた者同士、相手の動きを読んだ元SAT隊員は銃が迫ると左手で自分の右手を押し付けてそれを中島の顔面に叩きつけようとする。この攻撃は中島の右頬をかすめただけであったが、それでも隙を作る好機を生んだ。

SAT隊員は左膝蹴りを中島の右横腹に入れた。後藤田は感触的にクリーンヒットだと思い、もう一度蹴りを入れようと動く。しかし、その前に中島が右掌底を後藤田の右手の甲に叩き込み、激痛のあまり元SAT隊員は銃から手を離してしまった。銃が地面に辿り着く前に中島は右肘を後藤田の右側頭部に打ち付け、間を置かずに左拳を繰り出す。

反射的に後藤田は身を屈めて中島の攻撃を回避すると、立ち上がりながら素早く左右のコンビネーションを元同僚の顔面に叩き込む。そして、二度目の右ストライクが来るタイミングを合わせて中島は間合いを詰めて後藤田の右腕に左腕を巻き付け、掌底を元SAT隊員の折れた鼻に再び入れた。激痛に元SAT隊員の動きが止まり、間を開けずに中島は右手を後藤田の首の後ろへフックの様にかけ、敵の体を自分の方へ引き込みながら膝蹴りを打ち込む。しかし、後藤田は腹部を右腕で防御して蹴りの衝撃を和らげた。

これを受けて中島は出方を変えた。彼は首の後ろに置いていた右手を素早く後藤田の顎へ移してアッパーのように突き上げる。地面に叩きつけられると思っていた後藤田にとって、この動きは意外であった。それでも元同僚の動きは予想できる。

左足を引いて体を約90度左へ回し、この勢いを使って中島は後藤田の腕と顔を固定した状態で地面に叩きつけた。すると、後藤田は勢い良く地面を蹴って中島の頭部に右蹴りを喰らわせた。次に後藤田は掴まれた腕を軸に体を動かし、蹴りをSAT隊員の腹部に二度叩き込んで中島を突き飛ばす。

腹部の痛みと体勢を立て直すことに夢中になってしまった中島は、後藤田から一度目を離してしまった。そして、再び敵へ視線を戻した時、彼は仰向けに寝そべりながら消音機付きの拳銃を構える後藤田を見た。

「悪く思うなよ。」後藤田が言う。

「来るのが遅いぞ…」

突拍子もなく中島がそう言ったので、後藤田はSAT隊員の気が狂ったのか思った。その時、バチバチと弾けるような音が聞こえ、後藤田の体に衝撃が走ると全身が痙攣して構えていた銃を落した。

“ティーザー!!?”

後藤田は電流による激痛に耐えようとするも、あまりの痛さに気を失った。

「久々に中島さんの“踊り”が見たかったんですよ~」紺のスーツを来た男が中島に近づく。

「嫌味な奴だよ、お前は。」SAT隊員が言う。

「そうですかね?」

「まぁ、お陰で助かった。ありがと。」

「中島さんから言われるとなんか歯痒いですね~」銀縁眼鏡をかけた藤木孝太が白い歯を見せて笑った。「それより本題に入りたいんですけど、いいですか?」

 

 

 

 男は布の上に置いた本を考え深く見つめている。題名は『岐路に立つ』で著者は菊池信弘であった。

 隣の部屋で仲間たちが装備を整える中、この男は今日のために準備してきたことを振り返り、そして、数時間後に決行することへの決意を固める。

 “遂にこの時が来たか…”

 本を布で包もうとした時、胸ポケットに入れていた携帯電話が震えた。電話の主が佐藤だと思い込んでいたが、電話を掛けてきたのは彼と共にこの計画を立案した仲間からであった。

 「大丈夫なのか?」隣にいる仲間たちに聞かれないよう部屋の扉を閉めて男が尋ねる。

 「抜かりはないよ。それより準備の方は?」

 「あと2時間程度だ。そんなことより、本間の動きが読めなくて困っている。」男はノートパソコンを開き、佐藤が本間の車両に取り付けたGPSの信号を探ろうとする。

 「彼女抜きでやろう。時間がない。それに堀内を現場に送る。」

 「奴一人で何ができる?」

 「現場の撹乱にはなるだろ?」電話の男がいたずらっぽく言った。「でも、忘れるなよ。これは先生のためだ。」

 「分かってる…」男はパソコンの画面から布の上に置かれている本を見る。

 「また後で連絡する。気を付けるんだよ。」

 「お前もな…」

 

 

 

「疑ってすまなかった」車を降りる前に広瀬が言った。

ネズミ取りが所有する駐車場の一つに来る数十分前、西野を内通者だと思っていた広瀬は同僚に銃を突き付けて尋問を行った。しかし、彼は西野が抵抗することを予期していたが、西野は何も言わずにただ「撃てよ」としか言わなかった。これは新村が自分のせいで死んだと思い、ここで殺されるなら本望だと考えたからであった。

西野は運転席にいる同僚を見ると、静かに「済んだことだ」と言って車を降りた。彼は殺されたと思っていた新村が生きていると聞き、胸に重く圧し掛かっていた罪悪感が消えて気が少し楽になっていた。

 「新村のためとは言え、俺が議員襲撃に加担したのは事実だ。」広瀬と並んで歩き始めると、再び西野が口を開いた。「そうなれば、お前だって俺が『モグラ』だと思うだろう…」

 「そうなるとだ…誰が俺たちの情報を流してる?」

 尾行の確認を終えた二人は、黒田たちの待つ支部がある建物に入る。

 「ネットワークに侵入されている可能性もある。俺たちの中に裏切り者がいるとは限らない。」エレベーターに乗り込むなり西野が言った。

 「そこのところは十分承知してるさ。事実、小野田に探ってもらってる。」

 「今は結果待ちってことだな。」

 「そうだ。」

 エレベーターが止まって扉が開くなり、鳴り声が二人の耳に飛び込んできた。

 「動くんじゃねぇ!」

 その次に西野と広瀬が目にしたのは警備員を盾にして移動する堀内であった。堀内は盾にしている警備員の顎下に銃口を押し付け、用心しながら非常用のエレベーターに向かって進んでいる。

その場にいた5人の警備員たちは仲間を救おうと銃を構えるも、テロリストが捕まえた警備員の陰に隠れていて狙うことができない。異変に気付いた黒田も銃を取ってオフィスから出ていた。巨大なスクリーンの前で働く分析官たちは、ただただ状況を見ているだけであった。

西野と広瀬は反射的に腰へ手を伸ばし、武器を取り出そうとする。広瀬は素早く拳銃を取り出し、堀内がいる方向へ銃を突き出すように構えた。一方、武器を押収されていた西野は空を掴んだだけであった。

“クソッ!!”

途中、堀内はエレベーターの前にいる西野を見つけたが、すぐに自身が置かれている状況に意識を集中させる。今すべきことは「脱出」である。

前方にいる黒田、広瀬と警備員たちの動きに注意しながら、堀内は4m後方にある非常用のエレベーターへ慎重に進む。神経を研ぎ澄ましていたテロリストは後方から聞こえてきた小さな物音を聞くと、咄嗟に銃を後ろに向けて物音がした方へ2度発砲した。

彼の勘は正しく、非常用エレベーター付近に隠れていた警備員の一人が胸部に銃弾を受けて倒れた。何かを撃った感触を得ると堀内は再び盾にしている警備員の顎の下に銃口を押し付け、後方にも視線を送りながら目的のエレベーターへ急ぐ。

一方、被弾した警備員の後ろにいた仲間はかすれ声で助けを求める同僚の姿を見て恐怖し、その場で腰を抜かしてしまった。被弾した警備員のシャツは血で染まり、助けを求める声は次第に小さくなって行く。

「銃を捨てて投降しろ!」黒田が叫ぶ。

「大人しく従うバカがいるか?」堀内が問いかける。

そうしている内に堀内はエレベーターの前に辿り着き、上昇ボタンを押した。

「逃げ切れると思うか?」黒田が先導して堀内との距離を詰める。

テロリストは支局長の言葉を聞くなり鼻で笑う。彼の背後でエレベーターの扉が開き、スタンガンを持った警備員が一人飛び出してきた。

“上手く行ったな…”黒田は堀内を嵌めることができたと思った。しかし、テロリストはまるでその攻撃を予想していたのかの様に身を屈める。スタンガンは堀内が盾にしていた警備員の背中に当たって電流を流し、被害に遭った警備員は呻き声を上げる。予想外のことに戸惑ったスタンガンを持つ警備員を他所に、テロリストはエレベーターに乗り込んで自分を襲おうとしていた警備員の後頭部に向けて発砲する。エレベーターホールに血飛沫が飛び、警備員の頭が吹き飛ばれるところを目撃した女性分析官の一人が悲鳴を上げた。

一瞬の出来事に黒田たちの反応は鈍く、エレベーター内の堀内に向けて発砲し始めた時、扉が閉まり切る直前であった。

右耳に差し込んでいた小型通信機の位置を調節しながら、堀内はエレベーターの隅にあった監視カメラを見る。「出口までの案内も頼めるのかな?」

「もちろん。」通信機から合成音声で返事が返ってきた。

 「ありがとさん…」そう言って、堀内はエレベーターの監視カメラに向けて銃を向けて引き金を引いた。 


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返報 11-2 [返報]

11-2

 

 

 赤い屋根の建物で証拠品を集めている現場捜査官からテロリストの携帯電話とノートパソコンのデータ、デジタルカメラで撮影したテロリストの顔や証拠品を含む電子データが水谷のパソコンに送られてきた。武田衛の隠れ家から押収された証拠品の分析用に班を編成したばかりで、また新しく分析班を作らないといけないと思うと水谷は苛立った。

ネズミ取りの分析官としては1年の経歴しかない水谷であるが、11年に及ぶ内閣情報調査室での働きがネズミ取りの目に留まってスカウトされた。内閣情報調査室では上司の命令に従っていれば良かったが、新しい職場では彼の経験の高さゆえに特定の分析の責任者に任命されるようになった。彼はこれを嫌っている。誰かに命令するということに慣れていないのだ。

溜め息をつきながら、頭の中でどのような班を編成するべきか考える。

“班員は全部で8人。4人を武田、あとの4人を新しい証拠…いや、優先順位を決めないといけない。黒田局長に聞いた方がいいな…”

彼が固定電話の受話器を持ち上げようとした時、パソコンのディスプレイに映し出された写真に目を奪われた。写っていたのはカバーが外された3台の携帯電話であり、その内の2台は完全にカバーが外されて内部が剥き出しの状態であり、最後の1台は電池が取り除かれて2本のコードが本体からはみ出ている。ネズミ取りも使用しているプリペイド式の携帯電話であったため、水谷はすぐ見分けがついた。

“起爆装置?”分析官の頭に浮かんだ最初の言葉はこれであった。可能性はある。問題は使用用途と逃走中のテロリストが既に爆弾を何所かに設置した可能性である。まだ設置していなかったとしても、人口密集地域で使用されれば一大事になる。

分析官は写真を黒田のパソコンに送るとタブレットを持って上司のオフィスへ急いだ。彼とすれ違う形で片足を引き摺った広瀬が黒田のオフィスを後にした。素早く上司の部屋に入ると、童顔の男が訝しみながらも水谷を見た。今までこの中年の分析官が走るのを見たことがなかったからである。

「どうした?」と黒田。

「起爆装置らしき物をテロリストの隠れ家で見つけました。」

「どっちの?」

「赤屋根の方です。黒田さんのパソコンにもデータを送ったので見てください。」

 目の前に差し出されたタブレットの画面に映る写真には3台の携帯電話が映っており、これに似た起爆装置を見たことがある黒田は顎を擦った。

 「しかし、これが起爆装置だという確証は?」

 タブレットの画面を再び自分へ向けると、分析官は予め用意していた画像ファイルを開けてそれを上司に見せる。そこには黒田が頭に思い浮かべていた起爆装置の画像があった。

 「支局長の問いですが、確証はありません。しかし、この赤屋根の建物で見つかった起爆装置らしき物は、1年前に官邸近くで爆破テロ未遂を犯した男の起爆装置に似ています。」

 黒田は何も言わず、目の前に出された画像を見つめたままであった。これを見て水谷は自分の仮説を話す時間があると判断し、話しを進めることにした。

 「あくまで仮説ですが、テロリストがどこかで爆破テロを行う可能性があります。西野さんたちが襲撃した武田衛の船には5キロ近くのプラスチック爆薬があったと鑑識は推測しています。もしかすると、テロリストは計画の発覚を恐れて、いくつかの場所に爆薬を隠し持っているかもしれません。時が来るまで…」

 支局長はメモ帳に気になることを走り書きして水谷を見る。「となると、標的は小田議員か?」

 「そう考えるのが自然かと思います。」

「しかし…武田が全ての爆薬を使った可能性はないか?」黒田が腕を組む。

水谷はこの問いを聞いて固まった。このような質問が来ると全く予期していなかった。「可能性は否定できません。」

「仮にも君の推測が正しければ、少量のプラスチック爆薬が武田の隠れ家にあっても不思議ではないはずだが、見つかった爆発物は手榴弾だけだった。」

黒田の言う通り、水谷の仮説が正しければ武田の隠れ家にあってもおかしくはなかった。

「既に警戒して爆薬を移動させていたのかもしれません。広瀬さんの報告では武田たちは隠れ家の荷物を移動させていたようですし…」分析官は別の可能性について述べたが、自信がなかったためにその声は小さかった。

「そこまで言うと切りがない。調べる価値はあるが、捜査官の数には限りがあるからな。もう少しテロリストのアジトにあった証拠品を分析して証拠を固めてくれ。この証拠だけでは少し無理がある。」

「分かりました。」

そう言うと、水谷は早足で支局長のオフィスを後にすると自分の机に戻って証拠探しを始めた。

 

 

 

 建物の陰に隠れて周囲の様子を窺っていた目が異様に大きい男は近づいてくる乗用車を見ると、車の運転手を双眼鏡で確認する。そこには彼が予期していた人物の姿があり、反射的に男は助手席にも目を配るが空席であった。男は左手に持っていた無線機の送信ボタンを素早く二度押して仲間に合図を送る。合図を受け取った髪を後ろで束ねている髭面の男は椅子から立ち上がり、ガムテープで拘束されている宮崎を見下ろす。

二人は農機具を収納する色褪せた灰色の倉庫にいる。小屋の中にある灯りは天井から延びる3つの豆電球だけで薄暗く、虫たちがその電球に集って地面にその様子が陰となってうつむいている宮崎の目に映った。死を予期している刑事の思考を支配するものは家族であった。

“今朝、娘と交わした会話は何だっただろう?妻とは何を話した?せめて最後にもう一度だけ電話でもいいから妻と娘の声が聞きたい。ダメなら携帯電話に入っている家族の写真でもいい。死ぬ前に妻と娘の声と姿を脳に焼き付けたい…”

髭面の男が上着の内側から刃渡り20㎝ほどのナイフを取り出して椅子に座らせている宮崎の背後に回る。この時、刑事は家族の顔を思い出しながら、喉まで差し迫っている嗚咽を堪えて涙を流した。男がうつむいていた宮崎の髪を掴んで頭も持ち上げ、電球に照らされて異様に光るナイフを刑事の喉元に近づける。

薄い金板を軽く叩く音が外から聞こえ、引き戸がゆっくり奇妙な音を出しながら開く。中島は倉庫に入ることなく、室内にいる髭面の男と宮崎の姿を確認しただけであった。SAT隊員は宮崎と目が合うと笑みを送った。

“何で!?”刑事はそう思った。内心嬉しさもあったが、宮崎は自分を拉致したのは二人組であり、目の大きい男が中島を襲おうとしていることを知っている。

「一人か?」髭面の男が中島に問う。

「オイラ以外に誰かこのドア口にいるかい?」

男は中島の質問返しが気に食わなかった。「入れ。」ナイフを宮崎の喉元に置きながら誘拐犯が言う。

SAT隊員はゆっくりと倉庫内に入ると引き戸を閉めようとする。

「必要ない」引き戸が半分ほど閉まったところで髭面の男が中島の動きを止める。これから合流する仲間のためにも男は入り口を開けておく必要があるからである。

「そう?誰かに見られるかもしれないよ?」引き戸から手を離し、中島は出入り口の横に移動する。

「真夜中にここらをうろつく奴がいると思うか?」

「それもそうだね。」

こうしている間に中島の目は薄暗い倉庫の明かりに慣れて倉庫の全容が理解できた。倉庫内には中島を含めて三人しかおらず、約6メートル先にいる男は刃渡りの長いナイフしか持っていないが、予備の武器を装備している可能性もある。

「ところで要件は何?」と中島。

「もう少し近くに来い。この距離で話すつもりか?」男はできるだけ中島を壁から引き離し、待機している仲間に背後からSAT隊員を襲わせたかった。

「十分会話できてると思うけど?」

髭面の男の額に青筋が浮かぶ。「コイツの首を掻き切るぞ!」

男の声は宮崎の耳朶を震わせ、刑事は驚いて体がビクンと動く。この言葉に若い刑事は目前に迫る死に怯え、目から涙が溢れてきた。

「宮崎くん。」中島が刑事の名前を呼ぶ。「大丈夫だよ。なんかとなるから…」

「てめぇ、話し―」

「そっちに行くよ」男を遮ってSAT隊員が二人に近づく。

“終わりだ…”髭面の男は内心の喜びを顔に出さないように努めた。そして、出入り口で中の様子を窺っていた仲間に視線を送る。これを合図と受け止めた目が異様に大きい男は、刃渡り15㎝程のナイフを腰元で構えて駆け出す。静かに、しかし、素早く中島の背中に向かって突き進む。

距離が縮まるに連れて背後からの足音が大きくなり、中島が背後に視線を送る。彼が迫りくる男を見つけた時、彼らの距離は2メートルもなかった。SAT隊員がベルトに挟めていた拳銃に手を伸ばすと同時に銃声が何所からともなく聞こえ、目が異様に大きい男は頭から地面に向かって転んだ。男の動きは止まり、意識を失ったように見えた。

宮崎の首にナイフを押し当てていた髭面の男は驚き、出入り口を見るも誰も見当たらない。彼が再び中島に視線を戻した時、SAT隊員は銃を男に向けていた。

「てめぇ、仲間を連れ―」背後から物音を聞いて男は口を閉じ、後ろを振り返る。3メートル程離れた場所に拳銃を構えた若い男を見つけた。前に気を取られていた男は背後から迫る野村に気付くことができなかった。

「武器を捨てて投降しろ」中島は髭面男の顔に銃の標準を合わせたまま言う。

「このままで済むかよ!」怒鳴るなり、男は宮崎の首に左腕を回して勢い良く上に引き上げる。痛みから逃げるために若い刑事はその動きに従うようバランスを崩しながら立ち上がり、髭面の男は素早く刑事の腹部にナイフの刃を押し付けて壁まで宮崎を引き摺った。背中を壁に着け、宮崎を盾にしながら中島と野村の動きを伺う。

「銃を捨てろ!」髭面男が怒鳴る。しかし、彼が対峙する男たちは銃口を男から放そうとはしない。「聞こえないのか!」

 次の動きを考えなければならないにも関わらず、男は湧き上がってくる焦りに翻弄されて自分が何をすれば良いのか分からなかった。口から出てくる言葉は適当に思いついたものばかりで、目の前にいる二人の男たちはそれを見通しているかのように冷静に拳銃を真っ直ぐ男へ向けている。そして、追い打ちをかけるように出入り口から銃を構えた小木が現れた。

 「投降しろ。今ならまだ遅くない」と中島が落ち着いた口調で言う。

 「うるせぇ!」

 やぶれかぶれとなった男の行動は単純であった。彼はナイフを宮崎の腹部に突き刺し、刃の半分が刑事の体に侵入した。刺された時、宮崎は何が起きたのか分からなかった。腹部に訪れた衝撃は弱く、痛みはまったく無いに等しかった。しかし、次第に腹部から小さく焼けるような痛みを感じ、それは激痛に変化して瞬く間に全身に広まった。若い刑事はこの時、ようやく自分が刺されたことを悟った。

 野村は宮崎が刺されるのを見るや否や銃を持った右腕をしっかりと伸ばし、照星と照門で髭面男の頭を捉えるも命中させる自信はなかった。

 「銃を捨てろ!捨てねぇともっと刺すぞ!」男がナイフを押して刃を宮崎の腹部に押し入れて行く。

これ以上は危険だと思った野村が銃を下ろした時、中島の拳銃が火を噴いて髭面男の頭部に弾丸が命中した。男と宮崎は共に地面に崩れ落ちたが、野村と中島は着地する前に宮崎を抱えて、中島は傷口を確認し、野村は刑事の口を覆っているガムテープを外した。

 「助けて…」ガムテープが取れるなり宮崎が力なく言った。

 「大丈夫」SAT隊員がやさしく若い刑事に話しかける。「ちょっと痛いかもしれないけど、すぐ良くなるから。」

 野村と中島はゆっくりと宮崎を持ち上げ、刑事は低く呻きながらも腹部の痛みに耐えて出入り口に向かう。一方の小木は急いで車を倉庫の出入り口まで運転して後部座席のドアを開ける。ちょうど宮崎を抱えた二人が倉庫から出てきて慎重に刑事を後部座席に寝させる。

 「あとはお願いします」中島が野村と小木に言う。

 ネズミ取りの捜査官二人は動きを止めてSAT隊員を見る。「中島さんは?」と野村。

 「オイラは野暮用を片付けてから行きます。」

 

 

 

 

 右ストレートが顔面目がけて飛んできた。反射的に繰り出した右腕でその軌道を変え、堀内は相手との距離を縮めようと相手の横へ移動しようと動く。

 彼の相手はだぶだぶの服を着ていて動きは鈍いと思っていたが、予想に反して攻撃の速度は素早くて威力もある。しかし、勝機を失ったわけではない。

 横に移動するなり、素早く2打を中島の側頭部に入れ、SAT隊員が彼の方を向く前に左肘を中島の脊椎の辺りに叩き込んだ。そして、この一撃によって中島は両肘を着いて床に崩れ落ちた。

 “ざまぁみろ!”

 テロリストが勝利の味を堪能していると、倒したはずのSAT隊員が立ち上がって堀内の喉に強烈な正拳突きを送り込む。呼吸困難に陥ったテロリストは酸素を得ようと喉に両手を当てようとしたが、中島に腕と首を固定されて膝蹴りを下から抉り上げるようにして腹部に膝蹴りを受けた。そして、止めを刺すため、額に手を添えるようにして背後のロッカーに叩きつけようと動き出した。反撃を起こさせる怒りよりも堀内の思考を支配していたのは「死」という恐怖であった。

 中島の最後の一撃が決まりかけた時、堀内は横になっていたベッドから飛び上がってSAT隊員を探す。しかし、彼が目にした物は四方を囲む質素なコンクリートの壁、小さな手洗い用シンク、トイレ、そして、彼が今座っている簡易ベッドだけであった。しばらくして堀内は部屋の角にある小さな監視カメラの存在に気付いた。

 “まだ生きてるのか…”安堵する一方で、簡易ベッドのパイプに片腕だけ手錠で繋がれた状態を目の当たりにして中島に対する怒りが増幅した。

 機械音が響いて彼がいる部屋のドアが開き、男が入って来た。

「やってくれたね…」男が後ろ手でドアを閉めて言う。

「誰だ?」と堀内。

「あまり時間がない。手短に行くよ。」

「質問に答えろ!」

やって来た男は腕時計に目を配ると、次に監視カメラに一瞥を送る。「あと30秒しかない。僕が出て行った数分後に再びここのロックが解ける。その間にここから出て、外に止めてある白い乗用車に乗ってあのホテルに向かえ。武器は車に積んである。」

「俺を泳がせるつもりか?」

堀内の問いを聞くと男は額に青筋を浮かべ、今までとは打って変わった鋭い目つきでベッドに座るテロリストを睨み付けた。「小田を殺すチャンスをこれ以上逃すことはできない。君には期待してるんだ。もう次はないと思って行動しろ。」そう言うと、男は黒い小さな棒状の物を堀内に投げ渡して部屋を後にする。

 しばらく、立ち去った男のことを考えていた堀内であったが、受け取った物を見て抱いていた疑いは消し飛んだ。 


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返報 11-1 [返報]

 11-1

 

 赤色灯と仮設照明が戦闘による被害を包み隠さず明らかにする。

銃撃によって蜂の巣にされたバンとSUV、地面に散らばる窓ガラスの破片、腕や脚に被弾したテロリストたちの血痕、無数の空薬莢。

中島と交戦したテロリストたち約9名は被弾または殴打されていたものの、致命傷は負っておらず、すぐにでも尋問可能な状態であった。それと対照的に野村と小木が交戦したテロリスト全員は無力化されていた。

ネズミ取りとSATの応援チームは後片付けを始め、テロリストは拘束されてバンに押し込められた。周辺住民やマスコミに嗅ぎ付けられる前に去る必要があるため、作業に取り掛かっている捜査官たちは急いでテロリストを乗せたバンをネズミ取りが管理している施設へ送り、応援チームの責任者は野村、小木、そして、中島に現場から去るように言った。三人はそれに従って自分たちが乗ってきた車まで戻ろうとしたが、中島は宮崎を探すために野村と小木に先に行くよう促した。

中島は現場で汗を流しながら必死に後片付けをしているネズミ取りの捜査官やSAT隊員に宮崎を見たか尋ねて回った。しかし、誰一人として所轄の刑事を見たと言った者はいなかった。

“まだ車のところにいるのか?”中島は急いで野村と小木の後を追う。

 

 

 

乗用車の前で待っていたネズミ取りの捜査官たちは中島と宮崎の二人を予期していたが、現れたのは中島だけであった。

 「宮崎さんは?」走ってきたSAT隊員に向かって野村が問いかける。

 「こっちに来てないんですか?」中島が周囲に目を配って言った。

 「いや、てっきり現場にいると思っていたんだが…」とボンネットの上に腰かけている小木。

 「帰った?」SAT隊員は車の中に目を通す。彼は運転席に置かれていた携帯電話を見つけ、素早くそれを手に取った。ディスプレイの真下にある小さなボタンを押して電源を入れると、熊のぬいぐるみを抱えた小さな女の子の写真が見えた。

 「宮崎さんの携帯ですか?」携帯電話の画面を覗き込んで野村が言った。

 「だと思う…」中島の首筋に悪寒が走った。そして、彼の予感は的中していた。

 宮崎の携帯電話が中島の手の中で振動し、消費電力モードに入ろうとしていたディスプレイが再び煌々と光った。画面を見ると新しいメッセージが表示されている。

 『新光5丁目10・灰屋根の倉庫・一人で来い』

 「残党がいたんですね。応援を呼んで宮崎さんを助けましょう」拳銃の遊底を引いて野村が言う。

 「残党ではないと思いますよ。誘拐犯はオイラに用があるみたいですね…」中島は宮崎の電話を上着のポケットに入れる。「もし、残党であれば議員の娘との交換を優先するでしょう。それに少し心当たりがありますし…」

 「心当たり?」小木が呟く。

 「少し手を貸してもらいたいです」SAT隊員は頭を下げてネズミ取りの捜査官にお願いした。中島がこうした理由は、宮崎の拉致が個人的な問題と繋がっていると感じ、また、これに二人を巻き込むことに関して罪悪感を持ったからであった。

 野村と小木から見れば何故中島が頭を下げてまでお願いするのかが理解できなかった。彼らにとって中島は命の恩人であり、彼がいなければ確実に堀内に殺されていた。

 「もちろんです」野村が先に応えた。小木も首を振る。

 「ネズミ取りさんにはいつも迷惑をかけてますよね。あと、もう一つお願いがあるんです。」

 「何ですか?」

若い捜査官がそう言うと中島は申し訳なさそうに野村が握っている拳銃を指差した。

 

 

 

 

 カメラ越しにネズミ取りとSATの後片付けを見ながら、佐藤は彼らの作業の速さに感心していた。

 “公安にしては手際が良すぎるな…あれが噂に聞く新しい対テロ機関か?”数回シャッターを切りながら中年男は思った。

 本間が利用していた赤屋根の建物から約70メートル離れた茂みの中で男は注意深く一眼レフカメラを地面に置き、上着のポケットから携帯電話を取り出して電話番号を選択する。

 「もしもし?」呼び出し音が鳴ってすぐ本間が出た。

 「木下と堀内が失敗しましたよ」カメラより軽い短眼鏡で再び法執行機関の捜査官たちによる仕事を見ながら佐藤が言った。「もう後がありません。」

 これを聞いても本間は動揺を見せなかった。「まだチャンスはありますよ。」

 「彼らはそう思いません。覚悟を―」

 「まだチャンスがあると言っているでしょう。まだ20時間はあります。」声を荒げながら女テロリストは中年男に抗議する。

 「いずれにせよ、覚悟しておいた方がいいでしょう。警察があなたの使っていた建物から情報を集めていますしね。」

 「私に繋がる物は残ってない!」

 “かなり動揺しているな…”佐藤は本間の声を聞いてそう感じた。

 「ならいいですが、くれぐれもお気をつけてください。」

 電話は本間から一方的に切った。中年男は新たに別の番号を探し出して電話を右耳に当てる。

 「どうした?」次の通話者は本間よりも電話に出るのが遅かった。

 「申し訳ありません。本間と堀内の始末ができませんでした」佐藤は開口一番謝った。「本間が予定より早くあの建物を後にし、また、邪魔が入ったので…」

 「邪魔とは?」電話の男が尋ねる。

 「警察です。今回は実に手際が良いです」率直に中年男は自分の見解を述べた。

 「計画に支障が出る程度にか?」

 「いいえ、そこまで問題になるとは思いません。」

 「あの女は次の場所で始末すればいい。アイツもそうするべきだと言っている。あとは役者を集めるだけだ。」

 

 

 

 小田菜月救出に関する情報は一気に広まった。官邸に始まり、大手マスコミにまでこの一報は伝わって大きな波紋を呼んだ。

 官邸とほぼ同時に現場にいたネズミ取りの捜査官からこの吉報を受けた黒田は舞い上がる思いであった。彼が送った捜査官たちが議員の娘救出に成功し、それと同時に拉致されていた新人女性捜査官まで助け出した。この功績が本部に認められれば、黒田は間違いなく出世する。彼は昇進することに強く望んでいるが、それは家族のためでもあった。彼の妻と子供たちは東京に住んでおり、できれば共に北海道へ移住するべきであったが、妻の家族が反対したために単身で赴任地に行くはめになった。

 椅子に腰かけて黒田は財布に入れていた家族写真を取り出した。

 “もうすぐだ…”

 着信音が室内に鳴り響き、彼は写真を見つめながら手探りで受話器を持ち上げる。

 「黒田だ。」

 「お忙しいところ申し訳ありません。私は小田完治議員の警護を務めている堤昌人です。交通保安局の黒田さんで間違いないですか?」

 “警備部?”黒田は写真を机に置く。

 「そうです。どうしましたか?」

 「西野史晃という捜査官をご存知ですか?」

 “西野!”

 「はい。現在、我々は彼を捜索しています。」

 「そうでしたか。実は議員事務所襲撃に関与している人物として拘束しているのですが―」

 「襲撃!?」黒田は驚いて咄嗟にSPの話しを遮った。

 「はい」話しを中断されたことに苛立ちながら堤が言う。「これから彼を最寄りの警察署に移送し、取り調べを行おうと―」

 “それはダメだ!”

「直ちにこちらの捜査官が西野を引き取ります」急いで北海道支局長が言った。

「手続き上、それが不可能なことはそちらもご存知でしょう。もし、そうなさりたいので―」

SPの声は既に黒田の耳に届いていなかった。彼はパソコンの内線通信ソフトを立ち上げて奥村に手の空いている捜査官を小田完治の事務所に送るようにメッセージを送る。奥村からすぐに「了解しました」との返事がきた。

堤は色々と詳細を話していたが、黒田は電話をかけ直すと言って一方的に電話を切った。

椅子の背もたれに寄り掛かって支局長は目を閉じると親指と人差し指で瞼の上から眼球を軽く擦ってマッサージする。

“西野め…一体何を考えている!”

 その時、片脚を引きずった広瀬が黒田のオフィスに入って来た。

「話しがある。」

「後にしてくれないか?」と黒田。

「今すぐじゃないとダメだ。」

「要件は?」黒田は一人になって落ち着きたかった。

「俺たちの中にモグラがいる可能性がある。」

 

 

 

 娘の救出を聞いて一番喜んでいたのはやはり父親の小田完治であった。しかし、一方で彼は駐車場で自分を救ってくれた男のことを考えていた。議員はあの眼鏡をかけた男の顔に見覚えがあった。他人のそら似などではなく、小田完治はあの男を知っている。しかし、誰かが思い出せない。会って話そうと思ってもSPが何度も議員に「危険です」と言われて近づけずにいる。

 「あの男を知っているんですか?」刑事が缶コーヒーを議員に手渡して尋ねた。

 「見覚えのある顔なんだ…」

 「具体的にどこですか?」いくら誘拐事件が解決したからと言っても捜査本部はまだ機能しており、小田菜月誘拐事件とこの襲撃事件の関連性をこの刑事は疑っていた。

 「それが思い出せないんだ…」小田は缶コーヒーを見つめる。

 「一応、署に連行して取り調べを行いますが、議員が何か思い出したら私まで連絡をもらえますか?」刑事は名刺を取り出した。

 「今すぐあの男と話せませんか?」名刺を受取って小田が言う。

 禿げ頭の刑事は議員からの意外な申し出に一瞬止まった。「可能ですが…SPがどう言うか…」

 「何度も彼らに止められている。」

 「それでしたら―」

 「どうしても気になることがある。それに事件解決の手掛かりになるでしょう?」

 “一理ある。”刑事は顎を擦りながら考えた。

 「少々お待ちください。」そう言って刑事は近くにいたSPと話し、このSPが無線で現場管理者と思われる人物と通信する。しばらくすると、SPは刑事に話しかけて禿げ頭の刑事は右手を挙げて何か言うと小田の所に戻ってきた。

 「お待たせしました。5分だけなら良いとの許可が出ました。ただし、私やSP2人も立ち会うことになります。」

 「問題ないです。」

 

 

 

 

 後ろ手に手錠をかけられてパイプ椅子に座らされている西野はうな垂れていた。頭に浮かぶことは最後に彼が見た新村の姿であった。彼女は猿轡を噛まれていた上に両手足を縛られ、頭に拳銃を押し付けられていた。彼女の目には恐怖の色が浮かんでおり、遠くから見ても涙で目の周りが赤くなっていたのが見えた。

 “どうしてまた俺が…”

今はもうテロリストに対する怒りよりも、西野は自分に対して憤りを持っていた。彼よりも若い命が失われることが何よりもこの捜査官に大きなストレスを与える。

「西野さん…」議員と共にやってきた禿げ頭の刑事が捜査官の名前を呼んだ。しかし、西野はまだうな垂れている。「西野さん!」刑事が声を大にして言うと彼は顔を上げた。

「小田議員があなたと話しがしたいと言ってます」禿げ頭の刑事は数歩後退り、SPの一人が西野と向かい合うようにパイプ椅子を置く。小田は静かにその椅子に腰かけると西野と正面から向き合う。改めて彼の顔を見るも、何故見覚えがあるのか思い出せなかった。捜査官は虚ろな目で小田の双眸を見つめ返す。

「私にどのような恨みがあるんだ?」小田が先に口を開く。「菊池のためか?」

西野は何も言わない。

「私はあなたの顔に見覚えがある。おそらく、“あの事件”に関わっていたんだろう…」議員が続ける。話しを聞いている刑事とSPたちは小田が何のことを話しているのか理解できない。「娘の誘拐事件にもあなたたちが関わっているのか?」

何と言われても捜査官は沈黙を守り続けている。

「黙ってないでなんとか言ったらどうだ?」前屈みになって小田完治は西野に鋭い視線を送る。

「俺は…」刑事が二人の会話に入ろうした時、西野が口を開いた。

「何だ?」と小田が問う。

「議員を、あなたを救おうとした…あなたと新村を…」

議員は背筋を伸ばす。「新村?誰だ?」彼は刑事を見たが、刑事は首を横に振る。

「彼女は堀内に誘拐されて…あなたを殺さないと彼女を…」

「確かにあなたは私の命を救ってくれたが、何故テロリストと一緒に活動していたんだ?」

「そうしなければ…私の部下を殺すと脅されてた…」

「ならどうして警察に通報しなかったんだ?」

西野はこの問いに対して鼻で笑い、近くにいた刑事とSPたちに目を配って彼らの表情を見る。全員が西野の動きに注視しているだけで、議員の問いを不思議に思う者はいない。西野は小田の質問が馬鹿げていると思ったが、他の人々はそう思っていないようだった。

「通報していれば新村は確実に―どちらにしても彼女は殺されたでしょう…」捜査官は議員から視線を外す。

「あなたの部下に何があったかは分からないが、あなたのしたことは許されるものではない」小田は一度たりとも西野から目を離さない。「誰に頼まれたんだ?菊地優介か?そうなんだろ?」

「そんな名前聞いたこともないです…」

「彼と話さなければならない。どうやったら接触できるんだ?」小田は捜査官を無視して質問を続ける。「全て誤解なんだ!私は彼の父親のことを思ってしたんだ…」

これ以降、西野は無口になった。何を問われても口を開くことは無かった。新村を失ったことからの失望からではなく、小田完治の問いが機密情報に当てはまるためであった。

議員はパイプ椅子から立ち上がるとうな垂れている西野を見下ろす。「もし、君の部下が私のせいで亡くなったのであれば申し訳ないと思う。しかし、君のしたことは君の仲間を殺した連中と全く変わりない。今からでも遅くない。テロリストに関する情報を話してくれないか?」

ネズミ取りの捜査官はうな垂れたまま何も言わなかった。

「そうか…」そう呟くと小田は二人のSPに護衛されながら立ち去った。


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