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第5話 [カードーゲーマー・滝川ユウタ!!]

第5話「ユウタ、奮闘!!」

 

 観客の多くはイカ帽子の男がバトルソウルの王者・コスモだと思い、固唾を飲んで勝負帽子を被ったユウタとその対戦相手の戦いを見守っている。

対戦相手は予選でコスモと戦うことになったと信じ、初めから全力で攻撃を仕掛けることにした。しかし、コスモの試合を分析してきた彼はこの考えを改めた。

(コスモの十八番は『ソニック・バースト』。つまり、序盤はこちらに攻撃を許すが、中盤から終盤にかけて重い攻撃をかけてくる。)

カッコいい名前を付けているが、要するに「人海戦術」のことである。とあるカードゲーマーのブログ記事を引用すれば、「コスモは弱いモンスターを召還しては墓地(注:倒されたモンスターや魔術師を送る場所)に送り、対戦相手が油断したところで『グレイブ・ディガー』(注:墓地に送られたモンスターたちを全部蘇らせる魔法カードらしい)を使う。これでコスモは今まで犠牲にしたモンスターたちを復活させ、完膚なきまでに対戦相手を砕く。まさに神業!!」らしい。

しかしながら、ユウタのデッキは『デストロイヤー』と言われる相手のデッキを破棄する物であり、彼の対戦相手が予期しているものとは全く別物であった。これの特徴は何かと言えば、ゲームのルール上、プレイヤーは自分のターンにデッキ置き場からカードを一枚取らないといけない。もし、デッキ置き場にカードが無くなれば、フィールド上にモンスターや魔術師がいたとしても無条件で負けとなる。つまり、ユウタはデッキ破壊のカードを使用して対戦相手のデッキ置き場を空にすれば勝つことができるのだ。

(キターーーーーッ!!!!)デッキ破壊のモンスターの引き当てた時、ユウタは勝利を確信した。

「残念だが、俺の勝ちだ…」かすれそうな声でユウタが言った。

この言葉に彼の対戦相手、そして、彼らの戦いを見守る人々は驚嘆し、鳥肌を立ててユウタの動きに注目する。ユウタは込み上げてくる歓びを抑えながら、デッキ破壊のモンスターを召還した。

 

 

 

 大会限定販売のグッズに5万円を費やし、ユウタは予選落ちした悲しみを忘れようとした。彼の対戦相手は、ユウタが『ソニック・バースト』をかけてくると予想して召還していた全てのモンスターでユウタの希望であったデッキ破壊モンスターを粉砕した。それが終わりの始まりであった。ユウタは次のデッキ破壊モンスターを引こうとしたが、その前に敵の一斉攻撃を受けて敗北した。彼をコスモだと思っていた人々は落胆し、勝負が終わるなりユウタに罵声を浴びせた。

 この屈辱を次の大会で晴らすために新しいカード250枚と抱き枕2つを購入したユウタは大会会場を後にして、付近のカフェで一休みすることにした。周囲の目を気にせずに抱き枕を椅子に立てかけ、予選敗退した男はアイスコーヒーに大量のガムシロップを投入する。その量は24個。既にそれはコーヒーではなく、ガムシロップ汁になろうとしていた。

 ガムシロップ汁を啜りながら、ユウタは大会のことなど忘れてLINEに目を通した。ミクからの「早くユウくんに会いたいなぁ~」や「今夜は忘れられない夜にしようね。」などのメッセージが届いていた。

 “うっ、うおおおおおおおおーーーーー!!!”ユウタの興奮は頂点に達していた。血液が一気に下半身へと流れ、思考は「エロ」に占領された。

「これから決勝だから、もしかすると遅れるかもしれない。それでもいいかい?」ユウタはメッセージの内容を朗読しながら打ち込んだ。嘘をついても彼の心が痛むことなどない。ただ、ミクの前でカッコいい振りがしたいのだ。

すると、ミクからすぐに返事が返ってきた。「わかった。ユウくん、頑張ってね♡」

ユウタは思った。(ミクを嫁にしよう。彼女が俺の運命の人に違いなーーーーいッ!!!)

太陽が眠りに着くまで、勘違い男・ユウタは一度ホテルに戻って荷物を置くと昼寝をした。「夜の戦い」に備えるためだ。

「もうすぐだよ、ミク…」そうひとり呟くと、ユウタは野比のび太のように恐ろしいほど早いスピードで眠りについた。

 

 

 

 5回目のシャワーを終えたユウタは地元の香水ショップで購入した安いオーデコロンを一本まるごと体に塗った。香水など使ったことのない彼にとって全身にオーデコロンを塗ることが大人の嗜みだと勘違いしているのだ。

 その後はヘアーワックスを使ってオルーバックスタイルに変更し、ユウタの青白く広い額が現れた。続いて鼻毛を整え、眉毛の長さも整える。しかし、途中で左眉毛を切り過ぎて油性ペンで眉毛を書かなければならなかった。

 「イケてるぜッ!」鏡の前でポーズを取りながらユウタが言った。そのポーズとは左手を腰に置き、右手は反時計方向に回すという奇妙なものであった。まさに変態そのものである。

 残る準備は服の着用である。新品の白いブリーフとタンクトップを身に着けると、「しまむら」で購入したピンク色のチノパンに黒い上着を羽織る。靴は紺色のニューバランスであり、もちろん靴下は履いていない。あるトレンディー俳優をリスペクトしているからだ。仕上げとしてユウタはベッドサイドのテーブルに乗せていた黒いテンガロンハットを頭に乗せた。

 「おおぉー!!」姿見に映る自分を見てユウタは驚いた。「このイケメンは誰だ?」再び変態ポーズを取りながら鏡に向かって尋ねる。「それは滝川ユウタ様です!」彼は裏声を使って言った。眠れる森の美女に出る魔女の真似であったが、29才の男がやることではなかった。

 「でゅふっ。でゅふふっ。でゅぶふふっ。ふふふふふふふふっ。あはははははははっ!!」ユウタが狂ったように笑い出す。「完璧だ!俺はもう立派なトウキョウ人だ!!ははははははっ!!」

 勘違いに気付けていない滝川ユウタという男は待ち合わせ場所の渋谷に向かった。彼はここで踏みとどまるべきであった。しかし、そうしていればユウタは美味しい思いをすることもできず、そして、最終決戦のための切り札を見つけ出すことはできなかったであろう。いずれにせよ、ミクとの出会いはユウタの人生を180度変える出来事になる!


第4話 [カードーゲーマー・滝川ユウタ!!]

第4話「ユウタ、上京!!」

 

 「困った物ですな~」ユウタが校長室を去ると教頭がすぐ口を開いた。彼は重々しい空気から逃げたかった。

 「ところで沢辺きゅん…」校長はまだ外を眺めている。「高野先生とヤってるってホント?」

 夕日を浴びて輝いている禿げ頭に汗が浮き上がった。暑さからではなく、校長の問いかけによって起こった反応であった。

「な、何をおっしゃっているんですか?」教頭が校長の方へ体を向けて言った。

「あのヤリ○ンとヤってんのかって聞いてんのぉ~」

教頭はたじろいだ。この校長の問いにどう答えるべきなのか、彼は色々と思考したが100パーセント良い回答は見つからなかった。そして、代わりに無言で貫くことにした。

「沢辺きゅん…」校長は教頭の隣に移動し、毛深い禿げ男の手を握った。「どうして、僕を裏切ったりしたんだい?寂しいよぉ…」

「許してくれ!!」

これ以上、言葉を交わすことは無駄だと思った教頭は校長に抱きついた。熱い抱擁を交わす二人は、ユウタにその様子を盗撮されているとは夢にも思っていなかった。

 

 

 

 

 「久しぶりだね、滝川先生…」テンガロンハットを被った沢辺が言った。

 ユウタは黙って元上司を見つめる。

 「安心してくれ。私も辞職したんだ。誰かが私と校長の密会現場の写真をリークしたからね…」

 ユウタは何も言わない。

 「滝川先生…いや、今は滝川さんかな?あれをやったのは君か?」

 「知らないですよ。急いでいるので、また今度にしてもらえますか?」

 「こんな真夜中に?どこに行くんですか?」沢辺はねちねちと質問を繰り返す。

 「どこでもいいじゃないですか…それではッ!」

 ユウタが車を走らせようとすると、沢辺は大きな音を立ててパッソに窓枠を掴んでユウタの動きを止める

 「実はですね~前の職を辞めてから、私は金融屋になったんですよ。風の噂で滝川さんがお金に困っていると聞いてねぇ~」

 「間に合ってます!」ユウタはこの場から逃げ出したくて仕方が無かった。

 「いつでも貸しますよ。いくらでも構いません…」

 (いくらでも?)

沢辺の誘いはとても魅力的であった。すぐにでも50万円を用意して遠藤に投資しないといけない。両親の300万から50万を引き出そうと考えていたが、もしかしたら両親が引き出し制限をかけているかもしれない。となれば、億万長者になる道が断たれる。

50万…50万円貸してもらえますか?」

「もちろん…」黄ばんだ歯を見せて笑うと、沢辺は赤い色のウェストポーチから札束を取り出した。彼はプルプル震え手で札の数を確認するとそれをユウタに手渡した。

「ありがとうございます。」

利息は10日で6割です。期限はしっかり守って下さいよ、滝川さん…」そう言うと、沢辺は幽霊のように姿を消した。

大金を手にしたユウタの耳に利息という言葉は届いていなかった。彼は遠藤の家へ急いだ。億万長者になると信じて…

 

 

 

 

東京

そこは29年間故郷から離れたことのない滝川ユウタにとって異国のように見えた。まだ空港にいるにも関わらず、彼は東京に圧倒されている。

(人ッ!人ッ!人ッ!人ッ!人が多いッッッッ!!!!!!!!!)

 彼は早足で歩く人々に恐れ、キャリーバッグを引いて壁に張り付く。

 (こ、こ、こ、こ、こ、これが!トォーキョウゥ!!!!!!)

 あまりの人の多さに嘔吐に襲われたユウタはしゃがみ込み、困った時にいつも唱えている呪文を口ずさんだ。

 「テクマクマヤコン、テクマクマヤコン、テクマクマヤコン…」

 「大丈夫ですか?」空港職員の女性がしゃがみ込んでいるユウタに尋ねた。

 呪文に夢中になっていたユウタは突然のことに驚き、飛び上がって前屈みになっていた女性職員の顔面に頭突きを喰らわせた。強烈な頭突きを受けた女性は両手で鼻を抑えて後退し、急いで鼻の下に触れて出血の有無を確認する。彼女の指には真っ赤な血が付着していた。

 「ひっ!ひいぃぃぃーーーーー!!!!」ユウタが悲鳴を上げて走り出す。

 誰も彼を止めようとはしなかった。泣きながらキャリーバッグを雑に引きずるユウタは狂気に包まれており、常人にできることは見守ることだけであった。

 外に出たユウタはタクシーに飛び込み、「ここに行ってけれ!!」と宿泊予定のホテルの名前が書かれたメモ用紙をタクシーの運転手に渡す。運転手はホテルを確認するとメーターのスイッチを入れ、タクシーをゆっくりと走らせた。

 見知らぬ都会の恐怖に怯えているユウタは体を震わせ、魔法の呪文を唱えて不安を拭おうと試みた。その中、携帯電話が新着メッセージの受信を告げた。画面を見るとそこにはミクからのメッセージがあった。

 「今夜だね♡」。

 これを見た途端、ユウタを支配していた恐怖は嘘のように消えた。そう、彼は東京に来た理由を思い出したのだ!

 (俺はミクに会いに来たんだ。そして、バトルソウルの頂点に立つ!!)

 ユウタは腕時計に目を配る。時刻は1009分。大会まであと3時間51分!!

 (まずはホテルに行ってデッキを作ろう。会場には30分もあれば行ける。つまり、2時間半も余裕がある。イケル!)

 「イケるぞー!!」

タクシー内であるにも関わらずユウタは叫び、甲高い声で笑い始めた。

(俺は東京で成功するッ!!!そして、ミクと結ばれるんだァーーーー!!!!)

妄想を膨らませるユウタを他所にタクシードライバーは外れクジを引いたと思っていた。

(変なの拾っちゃったよ、もぉ~)


映画よりもテレビドラマ?~『POI』編~ [趣味]

 私の趣味の時間です。はい。

 「『POI』って何?」と思う人もいれば、「ああ、あれね…」と思う人もいるでしょう。そう、『POI』とは『パーソン・オブ・インタレスト(Person of Interest)』です。アメリカで来月3日よりシーズン5こと最終シーズン(?)が放送されるテレビシリーズです。

 内容は、(未だに)謎の多い金持ちのPCプログラマーのフィンチが元CIA工作員(元軍人でもある)リースと共にニューヨークの凶悪犯罪を未然に阻止する、というものです。

 「はぁ?未然に?どうやって?」と思うでしょう。そう、この二人には「信頼できる情報源」があるんですよ。名前は「マシーン」というあまりにもシンプルすぎる名前のAI。フィンチはマシーンをテロ攻撃を防ぐために作るも、それは凶悪犯罪の兆候まで探知してしまう。 しかし、政府はその情報を「国家の脅威」ではないとして無視するので、フィンチはホームレスとなっていたリースを雇って凶悪犯罪に挑んで行くんですねぇ~

 簡単に犯罪が抑止できるように思えますが、政府にマシーンへアクセスしていることがバレるとフィンチとリースの身が危なくなるので、彼らが得られる情報は犯罪に関わるであろう人物の社会保障番号(マイナンバーみたいなもん)のみ!だから、その人物が「被害者」か「加害者」なのか分からないんですよ。そこで二人が調査してその人物が「被害者」であれば「加害者」から保護し、「加害者」であれば犯罪を止めるよう説得したり、「被害者」を救おうと奮闘するんです。

 私の説明だけではこの作品の面白味が伝わらないと思います。はい。

 機会がある方は試しに1話だけでも見るといいかもしれません。シリーズものですが、1話だけでも見ごたえのある作品です(事実、ノーラン弟は映画またはテレビ映画用に書いていたらしいし。詳しくはこちらのページへ:http://www.ign.com/articles/2015/09/04/person-of-interest-on-netflix-the-show-creators-name-their-8-favorite-episodes)。 

 さぁて、私やハヤオ同様にシーズン4まで見た方々は新しいシーズンを待っているはず。5月3日から放送が始まり、翌週の9日からは二夜連続放送(月曜・火曜で)して行くとCBSが公式に発表(Person of Interest Season 5 premiere Data Announced, TVLine)しましたし、日本に来るのも早いかも!! 

 長くなっているので、ここらで終わりにしますが最後に一つ。最終シーズンと言われているシーズン5ですが、他の放送局やネットフリクスのようなストリーミングサイトが続編の製作に興味を示している噂もあるので、まだ「終わる」という言葉は合わないのかもしれませんな (Person of interest Season 5 news and cancellation: Netflix to pick up Sci-Fi drama?, Parent Herald)。

 ここで本当の本当の最後にシーズン5プロモのリンクを貼って終わります。

 それじゃ!

  POIシーズン5プロモ(英語サイト):http://tvline.com/2016/04/19/person-of-interest-season-5-trailer-final-cbs-shaw/ 


第3話 [カードーゲーマー・滝川ユウタ!!]

第3話「ユウタ、挑戦!!」

 

 「滝川先生、ちょっと…」

 放課後の廊下を歩いていたユウタが教頭に呼び止められた。

 「はい?」

 教頭に促されるままユウタは校長室に入って革張りのソファに座る。薄毛頭の教頭は真向かいのソファに座り、数分後に先月調整したばかりのカツラを着用した校長が現れた。

 「実はね~」校長が自分の机に片手をついて窓の外を眺めながら言う。彼は一切ユウタを見ようとはしなかった。「生徒の保護者から苦情が来たんだよ。」

 「へぇ?」ユウタに心当たりはあったが、あえて白を切った。

 (これは何かの間違いだ…そうに違いない。あれがバレるはずなど…)

 「白を切るつもりかっ!!」教頭が唾を飛ばしながら怒鳴った。この声は壁一つ挟んだ職員室にも響いていた。

 「本当に何のことだか分かりません。」とユウタ。

 「本当に知らんのかね?」校長はまだ外を眺めている。

 「はい…」

 「沢辺きゅん…」校長が教頭をアダ名で呼ぶ。「あれを出してくれたまえ…」

 教頭は渋々上着の内ポケットから四つに折られた紙を取り出してそれを机に置いた。ユウタが紙を取り上げると開いて中身を見る。そして、固まった。

 (こ、こっ、こっ、これはぁ!!!!!!)

 目を大きく見開き、紙を持つ両手は震えて心臓が強く締め付けられるような思いを感じた。

 (間違いない!これは俺のチ○ポだっ!!!!!)

 「君がその写真を…生徒たちに送ったんだろ?」教頭は驚愕しているユウタの表情を見ながら尋ねる。「何でこんなことをしたんだね?」

 ユウタは何も言えない。

 「騒ぎが大きくなる前に教師を辞めるんだ。滝川先生…それしか道はないよ~」校長は終始ユウタを見ようとしなかった。

 (コイツら悔しいんだ。俺の方が大きいから…)

 ユウタの思考は完全に別次元にいた。そして、数日後に彼は辞職を申し出た。カードゲーマーへの道は彼自身の局部流出写真が発端となったのであった。

 

 

 

 

 遠藤の演説を聞き終えたユウタと植松はそれぞれの帰途につく前に消費者金融のATMに立ち寄った。植松はそこで計50万を借り、すぐそれを遠藤に手渡した。全てはカードゲーマー歴42年の遠藤が開発中の新カードゲーム「プレイ・ザ・ギャザリング!」への投資であった。この話しに大きな期待を持った植松は50万などすぐ返済可能な額であり、億万長者になるのも夢ではないと思っていたのだ。

 資金を用意できた植松とは対照的にユウタは一銭も借りることができなかった。彼に資金を融資してくれる会社はもう存在しない。あるとすれば、「闇」の方しかない。

 「なんとかしねぇと、ミクにも金が送れなくなるぅ~」頭を抱え込みながらユウタは消費者金融のATMの前でうずくまってしまった。「遠藤さんのカード話しはオイシ過ぎる。投資枠はあと二つだと言っていたし、急がないと儲かるチャンスが………そうだっ!」

 ユウタは財布の中身を確認する。2,471円。彼の全財産である。

 「パチンコで増やす!」

 思いついたらとことんやるのがユウタの長所であった。彼は手遅れになる前に近所のパチンコ屋に駆け込み、そして、わずか6分で二千円を使い切ってしまった。

 「ぎゃーーーーー!!!!!どうすればいいんだってばよぉぉぉぉー!!!!」パッソのハンドルを何度も叩きながら、ユウタは奇声を上げた。絶望という言葉しか見つからない。彼は局部の写真を生徒全員に送信してバレた時の気分と同じ苦しみを味わっている。実際は目当ての女子生徒だけに送ろうとしていたが、間違ってグループに送信してしまったのだ。バカな男である。

 その時、ユウタの携帯電話が新着メッセージの受信を告げるために振動した。彼が携帯電話を見るとミクからの「通話できる?」という一文が表示されている。深く考えることもなく、ユウタはミクに電話をかけた。

 (ミク。俺のミク。君は俺のオアシスさぁ~)

 「ユウくん?」受話口から若い女性の声が聞こえてきた。

 「そうだよ。俺だよ、ミク。」ユウタは完全にミクと言う顔も見たことも無い女性に惚れ込んでいた。

 「入金がまだみたいなんだけど?」

 ユウタは心臓を締め付けられる思いであった。(入金をすっかり忘れてた!!!)

 「すぐに振り込むよ!8万円だよね?」

 「今回だけ10万振り込んでくれる?おねが~い!!」

 「何かあったの?」ユウタが心配して尋ねる。

 「ユウくんに会うために可愛い服を買っちゃったからお金がないの~ね?お願い、ユウくん!」

 「それは大変だ!すぐに振り込むよ!!ミク、頑張るんだよ!」

 「うん!ありがとう、ユウくん!!待ってるからね!」

 そして、電話が切れた。

 (そんなに俺と会うのが楽しみなのか…待っていろよ、ミク!俺がお前を救ってやるぅ!!)

 金欠であるユウタはここである名案を思い付き、パッソを走らせた。

 

 

 

 

 (300万ッ!!!!)

 両親の寝室で発見した通帳の預金額を見てユウタは度肝を抜かれた。彼の予想では50万程度の預金であったが、現実はその6倍であった。

 (これだけの金を持っているのに、黙っていやがってぇ~)寝ている両親を一度睨み付けると、通帳と印鑑をポケットに入れる。(安心してくれ。俺がこの金を有効的に使うからよ!増やしたらすぐに返す!!あばよ、父ちゃん、ママ!!)

 ミクに会うと決めた時から荷造りを整えていたユウタはキャリーバッグと愛用のエナメルバッグをパッソに積んだ。名残惜しそうに実家を見つめ、目頭が熱くなるのを感じながらユウタはパッソに乗り込む。

 (この金を増やしたら帰って来るぜ!それまでは生きてろよっ!!)

 Rにギアを入れて後方を確認しようとルームミラーを見た時、ユウタは人影を見つけてシートから飛び上がった。暗闇の中にいるその影はパッソに近づき、ブレーキランプがその人物の姿を浮かび上がらせる。

 「久しぶりだね、滝川先生…」


第2話 [カードーゲーマー・滝川ユウタ!!]

第2話「ユウタ、炎上!!」

 

ユウタは帰り道の途中、漫画喫茶に立ち寄ってナルトの24巻だけを持って個室に入った。この巻に思い入れのあるユウタは不安なことがあると、ナルトの24巻だけを読んで不安を払拭しようとする妙な癖があった。

「どうすればいいんだってばよぉ~」本を机に置いてユウタが呟いた。不安は一向に解消されないのだ。

 (放火は犯罪だよね?それに加担したら、俺も犯罪者…。ばっくれるか?いや、あの遠藤って野郎は強面だから、ばっくれたら何かされそうだな…適当に参加するフリして帰るか。そうだ!そうしよう!!)

 得意の現実逃避に逃げたユウタは恒例のエロ動画漁りとバトルソウル関連サイトの巡回を始めた。約束の時間が来るまで、彼は漫画喫茶で過ごすことにしたのだ。

 何度かミクからLINEを通してメッセージが入り、夢中になってリレーをしていると遠藤から電話がきた。

 「はい?」とユウタ。

 「そろそろ時間だ。来い。」

 電話が切れた。携帯で時間を確認すると既に20時を回っていた。8時間程漫喫にいたユウタは時間を忘れてエロ動画を閲覧しながら、ミクとチャットを楽しんでいたのだ。

 「運命の時だってばよ…」

 ユウタは漫喫を出るとパッソに乗って待ち合わせ場所へ向かった。

 

 

 

 盗んできた灯油をチキチキドン店内に撒き散らす猫背の男。彼の名は植松弘でユウタと同じ29才のフリーターである。全ての灯油を撒くと彼は容器を放り投げ、携帯電話取り出して店内を撮影する。植松は総額27万円をこの店に注ぎ込んだ。全てはレアカードを手に入れるためであった。

 一方で遠藤は口を開けて店内を眺めていたユウタにマッチ箱を渡し、火を付けるよう言った。手渡されたマッチ箱をユウタは感慨深く見つめる。

 「ユウちゃん…やるんだ!」遠藤がユウタの背中を押す。

 「あぁ…」ユウタはマッチ棒を箱から取り出した。植松はその様子を携帯電話で撮影している。

マッチ棒を擦る度にユウタは棒を折り、火が付いたかと思えば彼は「熱い!」と言って息を吹きかけて火を消した。遠藤と植松はユウタの不器用さに呆れて物も言えなかった。

 「貸せ!」遠藤がマッチ箱をユウタから奪って火を付ける。「こうやるんだよ!!」

 慣れた手つきで火を付けると、遠藤は既に灯油が撒かれている床に投げつけた。火は見る見る内に広がり、その勢いが止まることはなかった。

 「行くぞ!」遠藤が走って出口を目指す。植松もそれに倣う。しかし、ユウタは違った。彼は火の勢いに魅了されていた。

 「すげぇ~」

その時、破裂音がして火の粉がユウタの左腕に降り注いだ。

「あちぃぃぃぃってばよ!!」

左腕を振り回しながら、ユウタはやっと出口まで走った。外に遠藤と植松の姿はなかった。彼らはいち早く現場から立ち去ったのだ。

「クソッ!」

ユウタは急いでパッソに乗り込んで車を走らせる。三人はこの後、遠藤宅で反省会を行うことになっている。しかし、ユウタも植松も遠藤の真の狙いをまだ知らなかった。

 パッソを付近のコンビニに停めるなり、その裏手にあるボロアパートに走った。遠藤の住む部屋に辿り着くと数回ノックして室内に入る。ドアをロックして振り返るとバットを持った遠藤がいた。

 「ひぃー!!」

ユウタが悲鳴を上げると、遠藤はユウタの口を左手で覆った。「静かにせんかい。早くこっちに来い。」

奥に入ると植松が煙草を吸いながら薄ら笑いを浮かべている。「あの悲鳴はユウちゃんかい?情けないねぇ~」

苛立ちながらもユウタは植松の隣に座る。用心していた遠藤は護身用のバットを壁に立てかけ、ユウタと植松の向かい側にある座椅子に腰を下ろす。

「さて、本題に入る。バトルソウル自警団の初ミッションの反省会を行う!」

(バトルソウル自警団?)ユウタは笑いそうになったが、その気持ちを抑えた。

 「もう世界は安全な場所ではない。それは俺たちのシマでも同じだ。」遠藤がポロシャツの胸ポケットから煙草を取り出し、火を付けるとじっくりと味わって煙を吐いた。この演出は遠藤の一番のお気に入りである。

 これにうんざりしているユウタと植松は苛立ちながらも、忍耐強く次の言葉を待っている。

「そこで俺は自警団の設立を思いついた!しかし、そのためには金が要る。大量のな…」

「自警団であれば、そんなに資金を気にしなくてもいいのでは?」と植松が素朴な疑問を遠藤にぶつける。

「あまーーーーーい!!!」子役上がりの女優と離婚したお笑い芸人の懐かしいフレーズを思い起こさせるような声で遠藤が言う。「世の中は金だよ、植ちょん。何事にも金がいる!!カネ、カネ、カネ、カネ、カネッ!!!!!!!!」

ユウタと植松は遠藤の演説に圧倒され、何故だか分からないがニート歴42年の遠藤という中年男の主張が正しいように思え始めた。

「とは言えども…」遠藤は再び煙草を深く吸い、煙を吐いて間を置く。「金はそんな簡単には手に入らない。だから、俺は画期的なアイデアを思い付いた…」

遠藤の鴨となった二人は身を乗り出して浅黒い肌の大男を見つめる。

「新しいカードゲームの作成だ!」

この時、ユウタは雷に打たれたような錯覚に陥った。そして、何故今までカードゲームを自らの手で作ろうとしなかったのか、と自問自答した。

「カードゲームの作成で俺たち自警団の資金を作り、それと同時に悪質なカードゲームの殲滅を行うのだ!」

「では、既にカード計画はあるんですね?遠藤氏。」植松が興奮しながら尋ねた。

「もちろんだ。デザインは俺の専門学校時代の友達が既に取り込んでいる。設定は漫画家であるアラモンさんの下で2日間働いたことのある友達がやっている。そして、全ての指揮を取っているのが俺だ!」

中年男の演説に圧倒されているユウタと植松は何の疑いも持たず、ただただ遠藤の話しに聞き入っていた。典型的な詐欺の手口に嵌っているとは知らずに…


カードゲーマー・滝川ユウタとは? [あとがき]

(以下の文章はハヤオによるものです。はい。)

 

 ふざけたタイトルだということは承知してるけど、テーマは至って真剣なもんだと考えてます。この物語は挫折した男が何度も這い上がろうとする様を描いていて、カードゲームはメインではないんです。

 それにこれはかなり前から書く予定だったんだけど、『返報』のせいで伸びたんです。しかも、タイトルは『オイドン・ビギンズ』の予定でした。ノーラン版バットマンファンから苦情を受ける恐れを感じ、急きょ『カードゲーマー・滝川ユウタ!!』に改名したんです。主人公の名前を使った題名には抵抗がありましたが、まぁ、始めて見たらいいかなぁ?って感じ。

 全てのきっかけはやはり友人Fくんの経験だと思う。彼のカードゲームとオンラインゲームに身を捧げる姿は凄かったし、その生き様に胸を打たれることもあったような、なかったような。でも、Fくんがいなければこの物語を書くことはなかったでしょう。別に彼の生き方に「文句」がある訳ではなく、また、カードゲーマーやオンラインゲーマーを貶している訳でもないです。根幹にあるテーマは上にも書いたように「人生に苦しむ男たち」です。これでタイトルの問いに答えれた様な気がするので、閉じることにしよう。

 最後に「時間つぶしに使えるような読み物」を作るのが趣味の一つなんで、バスや電車の待ち時間の時に読んでくれたら幸いですな。

 

(以上、ハヤオからの「あとがき」でした。第2話は4月8日[金]公開予定です!!それじゃ!) 


第1話 [カードーゲーマー・滝川ユウタ!!]

第1話「ユウタ、参上!!」

 

 

5日前…

 

 

 爪楊枝で歯の間に詰まった肉片を取りながら、アライグマの帽子をかぶった男は携帯電話の画面に食入っている。

アライグマの帽子と言っても、本物の毛皮と尻尾を使った物ではなくてアライグマの頭を模した安物である。彼は似たような帽子を20種類以上は持っており、下着の数よりも帽子の数が多い。

男の名前は滝川ユウタ。去年不祥事を起こして解雇され、以後、実家で新たな職も探さずにカードゲームにのめり込んでいる。一見、ニートになってしまったようにも見えるが、実際は違った。ユウタはガードゲームで生計を立てる方法を考えていたのだ!

しかしながら、あまり金銭的に余裕のないユウタは10の消費者金融で計30万円を借りて「バトルソウル」と言うプレイヤー人口の少ないカードゲームのキラカードを買い漁った。

30万なんて安いもんさ。カード大会で勝ちまくれば、すぐ返済できる!

彼がバトルソウルを選んだ理由は大人気になる可能性が高いと予想し、そうなれば賞金も高額になるであろうと考えたからである。しかしながら、バトルソウルの大会は全国レベルでも賞金は出ない。ユウタの考察はあまりにも浅はかなのだ。マジック・ザ・ギャザリングのようなカードゲームとなれば世界規模となり、賞金も高額である。一方のバトルソウルは小中学生向けのカードゲームであり、世間の認知度は旧エロマンガ島の存在より低い。

「さて、行くか…」

10メートル離れた場所に設置された『バトルソウル大会』の横断幕に視線を定め、ユウタは黒いエナメルバッグを抱えて車から降りた。車体のあちこちが凹んでいるパッソのドアをロックし、「地元で唯一バトルソウルの大会を開催している!」と謳っているトレーディングカード専門店「チキチキドン」へ歩を進める。

自動ドアを抜けるとルイージのコスプレをした小太りの男がユウタを出迎える。「おぉ、ユウちゃん!!やっぱり来たんだね!」

「まぁ、ちょっと近くまで来たからな」ガラス張りのカウンターに寄り掛かりながらユウタが言う。

近くまで来たと言っているが、実際は車で片道6時間もかけてこの店に来たのだ。

「嬉しいね~。今日も大会に出るのかい?」衣装の色が黄色と紫になればワリオに見える店主が尋ねる。

「今日もやってんのかい?」白々しくユウタが尋ね返す。

「そうさ!もうすぐ全国大会だろ?だから便乗しようと思ってさ!で、出るのかい?」

「仕方ねぇな~」ユウタは鞄から偽ルイ・ヴィトンの長財布を取り出して一万円をカウンターに置く。

この店で行われる大会への参加費は6千円。ここは有名なぼったくりカードショップであり、多くの無知なカードゲーマーたちが被害に遭っている。疎いユウタはこの店に3週間前から通い続けているのだ。

「毎度あり!」店主がお釣りの四千円をユウタに手渡す。

釣りを財布に戻しながら、会場をチラ見する。狭い店内に並べられた2つの長テーブルに椅子が数脚ある。

「どれくらい来るんだ?」とユウタ。

「今のとこはユウちゃんだけだよ。遠藤さんは仕事が終わったら来るとか言ってたね。」店主はさらりと嘘をついた。

「そうかい。それじゃ、俺は先に席を取るとするかな…」

しかし、大会開始時間になっても会場に現れる人はいなかった。5時間待っても、客一人入って来ない。

「ユウちゃん、もう店閉めるよ」私服に着替えた店主が言う。

気付けば夜の8時になっていた。昼の3時には会場に来ていたユウタであったが、LINEで友人たちとチャットしていたので、時間が経つのを忘れていたのだ。

「わかったぜ…」

エナメルの鞄を持って席を立ち、ユウタは店を後にしようとする。自動ドアを抜けようとした時、彼は大会参加費を返してもらおうと振り返る。

「どうしたんだい、ユウちゃん?」と店主。

「参加費を返して欲しい。」

それを聞いた店主の顔つきが変わった。「返せるわけがねぇだろうが!フザケタこと抜かしてんじゃねぇぞ!!」

店主の豹変ぶりに気の小さいユウタは急いで傷だらけのパッソに戻る。彼はこのやり取りを何度も繰り返していた。

何だよ、あの野郎!調子に乗りやがってよ!俺が本気出したらアイツなんて敵じゃねぇ!!

携帯電話が振動し、新しいメッセージの受信を伝える。画面を確認するなり、ユウタの顔に笑みが広がった。

待ってろよ、ミク!俺が助けてやるから!!

ユウタは消費者金融のATMを目指して車を走らせた。

  

 

 ユウタの借金は300万を超えようとしていた。

これはバトルソウルへの投資ではなく、オンラインゲーム「セタモツ2」で出会った19才の女性への仕送りが原因であった。彼女の名前はミク。横浜に住む短大生であり、最近は両親とケンカして家出中の身になっている。バイトで貯めた貯金で生活するミクは漫画喫茶で寝泊まりする毎日であったが、ある日、財布の入った鞄を盗まれてしまう。そのことをゲーム中に聞いたユウタは、無職でありながらも月に5万円をミクの口座に送った。

 それでも、「ジンバウエのように物価の高い都会に住むミクはもっとお金が必要なはずだ!」と変な思い込みを持ったユウタは、8万円をミクの口座に振り込むようになっていた。彼はまだカードゲーマーとして生計を立てている訳ではないが、ミクにはプロのカードゲーマーで年収は三千万円だと嘘を教えている。

 ミクの前で見栄を張る29才のユウタは、5日後に東京でバトルソウルの全国大会に参加することを告げた。すると、ミクは二人で会おうと誘って来た。天にも昇る気持ちでユウタは即返信し、その日の内にホテルと飛行機を予約した。

 「父ちゃん、母ちゃん。オラァ、東京に行くだ。」居間でくつろいでいる両親に向かってユウタが言った。

 「そうけぇ…」と父。

 「トウキョウってどこだえ?」と母。

 二人の言葉を聞く前にユウタはLINEに戻ってミクに東京に行く日程を送った。

 「そうだ。何かおしゃれな服でも買おう!」

 ユウタはパッソに乗って「しまむら」に向かい、そこで黒い上着とピンク色のチノパンを購入した。

 これで俺も都会の男さ…そう思いながらパッソに乗り込んだ。

 その時、誰かが運転席側の窓をノックした。予期せぬ音にユウタは下手なリアクション芸人のように運転席から飛び上がり、その弾みでクラクションを鳴らしてしまった。慌てて外を見るとそこには浅黒い肌をした大男が笑顔を浮かべている。すかさずユウタは窓を開けた。

 「遠藤さんじゃないか!」ユウタが先に口を開いた。

 「ユウちゃん、元気かい?」遠藤と呼ばれる大男が尋ねる。

 「元気さ!それより何で昨日の大会に出なかったんだ?俺はまた参加費を騙し取られたぜ…」

 それを聞いて遠藤は腹を抱えて笑った。「まだチキチキドンに行ってるのか?今の主流は「サドンデス」だよ、ユウちゃん。」

 「それは何だい?新しいカードゲーム?」

 「新しいカードショップさ。今週からバトルソウルの大会もやる。ユウちゃんも来いよ。参加費は無料だし。」

 な、なんだってー!!?ユウタは驚いた。今まで彼は1万8千円もチキチキドンのほとんど無人のカード大会に出続けていたのだ。

 「あ、あ、ありがとう。」

 「いいってことよ。それよりよ~ユウちゃん…」突然、遠藤が声のトーンを下げ、ボコボコニ凹んだパッソの窓枠に両手を乗せて顔をユウタに近づける。「ちょっと面白い話しがあるんだが、のらねぇか?」

 「えっ?」

 「ユウちゃんにその気がねぇらいいけどよぉ~」遠藤がその場から立ち去ろうと動き出した。

 「ちょっと待って。面白い話しって何?」

 遠藤が黄色い歯を出して笑顔を浮かべた。「今夜、チキチキドンを燃やしに行くのさ…」