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返報 12-1 [返報]

12-1 

 

 

 

 最初の爆発音を耳にしても、朝食会の参加者たちは気にも留めなかった。しかし、二度目の爆発音とSP4人が小田完治とその家族がいるステージに駆け上がる所を見て、次第に自分たちの置かれている状況に気付き始めた。それでも大半の人々は「自分たちが被害に遭うことはない」と思い込んでいた。爆発は外で起こり、ホテル内にまで被害は及ばないとの考えがあったからだ。

 SPは小田議員とその家族を連れて退避しようと、脱出ルートとして確保済みの裏口にいる民間の警備員へ無線連絡を試みる。確認も取らずに裏口へ走って待ち伏せを受けては話しにならない。

 「こちら、神崎。裏口の状況は?」小田完治の横にいるSPが袖の裏側にあるマイクに向かって言う。SP4人は小田一家を囲むような態勢で周囲に目を配る。彼らの4メートル先には第二の予防線として、SP2人と民間の警備員2人がステージの手前で周辺警戒を行っていた。

 無線連絡を行った神崎は仲間からの応答を待っていたが、返事は全く帰って来なかった。

 「何事だ?」神崎の後ろにいた小田完治が尋ねる。彼とその家族は酷く怯えており、特に娘の菜月は母親にしがみ付いていた。

 「まだ状況が掴めていませんが、外で何者かが発砲している模様です。」

 「何者だ?同じ連中なのか?私の事務所を襲撃した連中なのか?」

 「まだ分かりません!」神崎は苛立ちを露わにしてしまった。裏口を警護しているはずの仲間と連絡も取れず、攻撃がホテル内に及ぶ可能性もあるために動揺しているのだ。

 「どうして逃げないの!」小田議員の妻が叫んだ。「娘が怖がってるのに!!」

 怖いのはこっちも同じだ!神崎は冷静さを取り戻すため、一度深呼吸する。そして、彼は再び裏口を警備している仲間に対して同じ確認を行う。

「神崎だ。裏口の状況は?」

しかし、応答はなかった。

ホール内には不穏な空気が漂っている。人々はどうするべきか考えているのだ。留まるべきか、逃げるべきか。

突然、1階からガラスの砕ける音と悲鳴が聞こえてきた。そして、これが混乱の引き金になった。ホールにいた人々は我先にと出入り口へ走り出し、室内は怒号と悲鳴で埋め尽くされた。急いで逃げようと、前にいる人を押し付ける者、慌てて転んだ挙句に踏まれる者も少なくなかった。ホール内にいる人々が全ての出入り口に押しかけ、SPが予定していた緊急避難経路が塞がれてしまった。

「神崎さん。」潰れた鼻が特徴的な柴田が呼びかける。「どうするんですか?」

思い詰めた表情を浮かべる神崎は下唇を噛むと、改めてホール内を見渡した。彼の頭にある案は一つしかなかった。

 

 

 

ガラスドアを突き破ってホテル内に侵入すると、バスの運転手はドアを開けて仲間を外へ送り出す。最初の一人は降りるなり、近くで無線連絡を取っていた警備員の一人を短機関銃で撃ち殺し、続くテロリストたちも警備員や逃げ惑う人々に向けて発砲した。

警備員の排除を確認すると8人のテロリストたちは発砲を止め、遮蔽物に身を潜めていた本間が部下たちに近づく。彼女を確認すると、メンバーの一人が装備の入ったメッセンジャーバッグを本間に渡す。女テロリストは鞄からMAC-10短機関銃を取り出すと遊底を引き、2階大ホールへと続くエスカレーターに向かって歩き出した。

エスカレーターには我先にと逃げようとする人々で溢れていたが、テロリストたちの姿を見るなり急いで大ホールへ踵を返した。

テロリストたちは鞄から手榴弾を取り出し、エスカレーターを駆け上がって逃げる人々の中へ放り投げた。計9つの手榴弾が逃げる人々の足元に落ち、爆発音と共に悲鳴、血、そして、肉片を周囲に飛び散らせた。テロリストたちは前進しながら、再び手榴弾を投げる。今回はエスカレーター上で立ち往生する人々の足元に落ちて爆発した。

恐怖に震える人々は早くホールの中に逃げ込みたかったが、状況を知らない人々はホールへ戻って来た人たちを押し返そうとして揉み合っている。

そうこうしている内に、エスカレーターで倒れる人々を踏み越えてテロリストたちは2階に到着した。入り口で揉み合っていた人々は、武装したテロリストを見た瞬間に悲鳴と怒号を上げて一斉にホール内へ急ぐ。だが、あまりにも遅かった。本間を含めたテロリスト9人はホールに向かって前進しながら、逃げる人々に向けて短機関銃を発砲した。

 

 

 

「クソッ!」

黒田が怒鳴り、近くにいた分析官たちは驚いて上司を見た。彼らは堀内の車を見つけたと思ったが、案の定、テロリストが乗り捨てた後であった。

「衛星と現場付近の監視カメラを使って堀内を探すんだ!」彼はたまたま視界に入った分析官の奥村に指示を出す。黒田は視線を横に動かし、次に見つけたポニーテルの女性分析官に対して「君は現場に向かった捜査官の支援だ。車に何か残っているかもしれない。」

再びネズミ取りの支局長が分析官に指示を出そうとした時、奥村が黒田の横に並んで電話子機を渡す。「道警の本部長です。」

苛立ちながら黒田が電話を受け取る。「黒田です。」

「最悪の事態だ。小田完治議員が滞在しているホテルが攻撃を受けている。」

ネズミ取りの支局長は自分の耳を疑った。「何?」

「議員滞在中のホテルがテロリストに攻撃されている。君の所から何人か応援に出してもらえないか?こちらでは手に負えん!」

待てよ…黒田は考えた。堀内の逮捕は、テロリストの計画の一部だったのか?陽動だったのか?

「聞いてるのか?」電話をかけてきた北海道警察の本部長が問いかけた。

「あぁ。すぐに送る。」

「助かるよ、黒田。」

電話を切ると、ネズミ取りの支局長は既に机に戻っていた奥村に電話子機を渡す。そして、彼女に「今、現場に出ている捜査官は何人いる?」と尋ねた。

「9人です。」パソコンモニター派遣中の捜査官リストを表示させて奥村が言った。

「その内、武装しているのは?」

「3人です。野村さん、森口さん、工藤さんです。」

「彼らをグランドホテルに派遣しろ。また、手の空いてる捜査官にも武器を持たせてホテルに派遣してくれ。」

「分かりました。」そう言うと、奥村は固定電話の受話器を持ち上げて三名の捜査官たちに電話をかけ始める。

その一方、黒田は早足で西野がいる拘束室へ向かった。“問いたださなければ!西野はこの攻撃を知っていたかもしれない…”

「西野ッ!」拘束室に入るなり、黒田が怒鳴る。しかし、室内は無人であった。

 

 

 

 弾がぎっしり詰まった弾倉をMP-5Fに叩き込むと、西野は遊底を引いて薬室に初弾を送り込む。彼は小木が運転する白いSUVの後部座席で装備を整えている。前の座席に座る二人は既に準備を整えており、あとは西野の準備を待つだけであった。

 短機関銃を横の席に置くと、西野は隙間が開かないように防弾ベストの状態を確認し、次に腹部のポケットに差し込んであるMP-5用の弾倉3つを触れる。また、彼は右腰のホルスターに収められた拳銃USPと反対側のホルスターに差し込まれている拳銃用の予備弾倉2つも抜かりなく確認した。

「あと4分で到着する。」小木がルームミラー越しに西野を見て言った。

「準備はどうだ?」広瀬が後部座席の同僚を見る。

「いつでも行ける…」短機関銃のスリングに頭と右腕を通しながら西野が答えた。「二人はいいのか?下手したらクビだぞ。」

「昇進はもう諦めてるよ…」と広瀬。

「ここまで来たら、もう無理でしょ。」小木は広瀬に倣ってこのように言ったが、実際は支部で報告書を書く方がマシだと思っていた。しかし、小野田の説得に負けてグランドホテルに向かっている。

彼らを乗せたSUVはホテルから1キロ離れた場所で渋滞に遭遇した。パトカー、消防車、救急車のサイレン音、車のクラックション、動かない車列に苛立って怒鳴る人々の声が道路に響いている。

「どうやら、小野田の読みは正しかったようだな。」広瀬が周囲の状況を見て呟いた。

「どうする?」小木は渋滞に感謝していた。撃ち合わずに済むかもしれない、と思ったのだ。

後部座席のドアを開き、西野が外に飛び出した。

「ちょ―、おい!」小木の呼びかけも空しく、西野は短機関銃を抱えながらホテルに向かって走って行った。そして、間を置かずに広瀬も車を降りて西野の後を追う。

「ったく!」小木はエンジンを切ると、MP-5Fを持って二人に追いつこうと走り出した。

 

 

 

 グレネードランチャーを持った男2人は、車寄せの柱に身を隠しながら周囲に目を配っている。ホテル前の道路は破壊された車と置き去りにされた車で溢れている状態であった。その中、東を警戒していた男は接近してくる黒いバンを見つけた。距離は約70メートル。

 「あれってSATか?」男が西側を警戒する仲間に尋ねた。

「関係ない。近づいて来るものは全て撃て…」

「あいよ。」男は近づいてくるSATのバンに向け、グレネードランチャーの引き金を引く。

発砲した男は直撃と予想したが、グレネードはバンの手前に着弾した。直撃こそしなかったが、爆発の衝撃と爆風によってバンは横転した。

「クソッ!」男は急いで再装填を行うため、空薬莢をランチャーから排出する。

すると、寄り掛かっていた柱に何かが当たり、その表面が削れて男の顔に破片が飛び散った。何事かと顔を上げると、横転したバンの運転席から身を乗り出して発砲する一人のSAT隊員を見つけた。男は素早く柱の陰に身を隠す。

「外したのか?」西を警戒する男が嘲るように言う。

「問題ない。次の一撃で終わりさ…」

 運転席から身を乗り出して発砲するSAT隊員は、仲間が車から出るまでの足止めに徹するしかなかった。徒歩でも駆けつけられる距離ではあったが、時間を節約するために車を使用し、案の定、テロリストに発見されて窮地にある。

他のSAT隊員たちは急いで後ろドアを開けて外に出る。初めに降りた隊員は素早くバンを縦にして、車寄せにいるテロリストに向けて発砲を開始した。次に二番目に降りた隊員はスモークグレネードを7メートル先へ投げ煙幕を張る。他の隊員たちは周辺警戒をしながらバンを離れ、適当な遮蔽物に隠れて威嚇射撃を行う。その間に運転席から発砲していた隊員がバンの中を通って車を降りる。降りる際、彼はバンの陰で威嚇射撃をする隊員の肩を叩き、二人は素早くバンから離れて仲間と合流する。

バンから離れて安全を確保すると、彼らは射撃を止めて素早く再装填を行う。

この時、好機を逃すまいと東を警戒していたテロリストがバンに向けてグレネードをお見舞いしようとした。しかし、彼が柱から身を乗り出した時、煙がバンとSAT隊員たちの姿を隠していた。男は記憶を頼りに引き金を引こうとしたが、残りの弾数を考えて人差し指の力を抜く。

「どうした?」なかなか発砲しない仲間を心配し、西を警戒しているテロリストが尋ねた。

「いや、何でもない…」

合流したSAT隊員たちは二手に分かれる事にした。

「後藤、飯尾、岩井は車寄せに対して威嚇射撃。俺と藤田、荒井はテロリストの側面に移動し、奴らを排除する。」隊長の近藤が指示を出す。「既にテロリストがホテル内に侵入している。素早く動くぞ!」

指示を聞いた隊員たちは首を縦に振り、それぞれ与えられた役割を果たすために動き出した。

 

 

 

 「無謀ですよ!」柴田が思わず大声を上げた。

 「時間がない。」と神崎が言う。「いずれにせよ、これが思いつく最善の策だ。」

 同僚との会話を終わらせると、警備責任者の神崎は後ろにいる小田完治を見る。

「これからの動きについて簡潔に述べます。」

議員が静かに頷く。

SPとボディーガードと共に非常口を使って裏口へ向かって頂きます。」ホールの出入り口から迫ってくる断続的な銃声に注意しながら神崎が言う。

「しかし―」

「何でもいいから早くしてちょうだい!」議員が口を開こうとした時、娘を抱きかかえる議員夫人の恵子が黄色い声を上げた。

「分かりました。これからSP2人とボディーガード10名で議員とご家族を裏口までご案内致します。」

「残り4人は?」議員が尋ねる。4人とはSPのことである。会場には合計で6人のSPがいる。

「ここに残ります。」

「つまり―」

「柴田!お前が先導だ。議員とご家族を裏口へ!」小田完治を遮って、神崎はステージを降りる。他のホールに残る事を決めたSP3名も上司に倣ってステージから降りた。

柴田というSPは同僚らと共に小田議員とその家族を立たせ、比較的混んでいない非常口に向かって走り出した。

銃声は着々とホールに近づいてくる。それから逃げるように人々がホールへ逃げ込み、そして、別の非常口に向かって走る。彼らを横目に4人のSPはそれぞれステージの近くにあった円形テーブルをひっくり返し、その陰に隠れるとホルスターからSIG P230JP拳銃を抜き取った。ほとんど意味のない遮蔽物であるが、無いよりはマシだと彼らは思った。

「付き合せてすまない。」神崎が部下に向かって言う。

しかし、部下たちの顔は強張っており、上司の声は届いてなかった。拳銃を握る手が震える者、安全装置を外し忘れている者もいた。

短機関銃の銃声がより鮮明になり、彼らはテロリストがホール入り口に到達したと悟る。SPたちは銃を構えながら立ち上がり、ホール入り口にいた9人のテロリストを発見した。距離は約25メートル。4人のSPはテロリストに狙いだを定めて一斉に引き金を絞った。


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