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返報 14-2 [返報]

14-2







 最後のグレネードを投げると同時に、守谷の後頭部に衝撃が走って手榴弾をバンの中に落ちてしまった。慌てて手榴弾を外へ弾き出そうとしたが、何者かが守谷の背中を押し、テロリストはバランスを崩して倒れた。その時、中田が足元に落ちた深緑色の球体を見つけ、追跡者への発砲を中断して左足で手榴弾を外へ蹴り飛ばした。

 二人が振り返ると、慎重にバランスを取りながら立ち上がろうとする西野を見つけた。ネズミ取りの捜査官は後ろ手で縛られているために自由に動けなかったが、守谷を蹴り飛ばすことはできた。

 外から破裂音が聞こえてきた。最後の手榴弾による爆発であったが、バンに乗るテロリストの注意は野村たちではなく、西野に移っていた。

 「大人しくしてれば、痛め目に遭わずに済んだのになぁ~」守谷が西野に近づき、右前蹴りを繰り出した。

 ネズミ取りの捜査官は間一髪のところで蹴りを回避し、額に切り傷を持つ男にタックルしてバンのスライドドアに叩きつけた。急いで上体を起こし、西野は頭突きを守谷の鼻頭に入れようと動くも、テロリストは頭を右へ傾けて回避した。そして、回避すると同時に彼は西野の股間に左拳を叩き込んだ。股間の痛みに捜査官は身を丸めて後退し、守谷は西野の胸を蹴り飛ばしてバンの反対側に叩きつけた。

 「クソがッ!!」額に傷を持つ男は西野の頭を両手で持ってバンの壁に何度も叩きつけた。

 「死んでしまいますよ。」助手席にいた男が振り返って恐る恐る守谷に言った。

 「そうだな…」ここで守谷は我に返って気絶している西野から離れた。「席を変わってくれないか?」

 助手席にいた男がアサルトライフルを持って後部座席に移動しようとした時、守谷が男の胸倉を掴んで拳銃を男の下顎に押し付けた。

 「ちょっ―」

 額に切り傷を持つ男は表情を一切変えずに引き金を引き、バンの天井が真っ赤に染まった。守谷は死体を引っ張ると、気絶している西野の上に放り投げて助手席に座った。








 「怖い気持ちは分かる。」野村が震えている新村にやさしく言った。

 二人の乗る黒い軽自動車はテロリストの白いバンから500メートル後方の位置で停車していた。

 「俺も怖い。でも、西野さんを救わないといけない。そのために君の力が必要なんだ。」

 ハンドルを握る新村の両手は震えており、彼女の目はスピードメーターを見つめたまま動かない。

 “ダメか…”

 その時、女性捜査官が防弾ベストのポケットから短機関銃の予備弾倉を2本抜き、それを野村に渡した。

 「もうそれしかないですけど、足りますか?」

 新村の言葉を聞いて男性捜査官は口角を上げた。「十分さ。」

 深呼吸をしてから若い女性捜査官はハンドルを握り、そして、アクセルを踏み込んだ。軽自動車はエンジンを唸らせて加速し、テロリストの後を追った。

 助手席の野村はMP-5Kの再装填を終えると、携帯電話を取り出して支部に電話をかけた。呼び出し音が数回鳴った後に奥村の声が聞こえてきた。

 「野村だ。道道17号(注:読み方『どうどう』、北海道の主要地方道のこと)でテロリストの白いバンを追跡中。ドローンで白いバンとの距離を調べてくれ。」

 「ちょっと待ってください。」女性分析官がキーボードを叩いて、グランドホテル上空を旋回していた2機の偵察ドローンの1機にアクセスした。そして、そのドローンを操縦している分析官に野村の現在位置を送り、その半径4キロ圏内にいる2台の白いバンを見つけるように頼んだ。

 新村の運転する軽自動車は縫うようにして前を走る車の間を走り、テロリストの白いバンを探して加速を続けている。しかし、目的の車は見つからない。

 「見つかりました!」奥村の声が携帯電話の受話口から聞こえてきた。「野村さんの現在位置から700メートル離れた所を走っています。」

 「分かった。」

 奥村の報告通り、2台の白いバンは700メートル先を走っていた。前の車を縫うようにして進む野村と新村の車は加速を続け、約4分後に目的の車を発見して接近を試みた。距離が近づくと野村が助手席から身を乗り出し、守谷たちが乗っているバンに向けて発砲した。今回は後輪ではなく、車体に向けての銃撃であった。野村が動くと同時に新村は拳銃を抜き、銃身をサイドミラーに固定して援護射撃に出た。

 短機関銃から放たれた複数の銃弾がバンの後ろにドアに命中した。その内の2発が窓を砕き、二人の捜査官は車内にいる大男を見ることができた。突然のことに中田は驚いてアサルトライフルを持ち上げ、壊された窓から応射するために動いた。

 「ドアを開けろッー!」守谷が怒鳴りながら後部座席へ移動し、床に置いていたロケットランチャーを拾って構えた。

 激しい銃撃を受ける中、中田が後ろドアを開けて素早くアサルトライフルを発砲した。最初は狙いを定めることができなかったので、数発が軽自動車のボンネットに命中した。しかし、銃の反動で銃口が上がり、フロンドガラスの中心に縦一線の穴を開けた。一方、守谷はロケットランチャーの狙いを車の間を縫うよう走行している軽自動車の手前に定め、引き金を絞るタイミングを計っていた。

 軽自動車に乗る二人の捜査官はロケットランチャーを構える男を発見すると、心臓が縮まるような恐怖を感じた。野村が急いで助手席に戻ると同時に、新村がハンドルを左に切ってロケットランチャーの射角から逃れようとした。

 その時、額に切り傷を持つ男はゆっくりと引き金を絞った。強烈な後方噴射と共にロケットが発射され、その際に生じた大量の白煙が運転席と助手席を満たし、驚いた運転手は咄嗟に後部座席を振り返った。

 発射されたロケットは真っ直ぐ黒い軽自動車に向かって飛んで行ったが、標的が急ハンドルを切ったために命中はしなかった。それでも野村と新村の乗る車は道路に直撃したロケットの爆発と爆風を浴び、横転してガードレールに激突して止まった。その様子を見届けた守谷はロケットランチャーを床に投げ、何事も無かったかのように助手席に戻って行った。








 警察署に着いていた小田完治は応接室の中を忙しなく歩き回っていた。家族のことが心配で黙って座っていることができないのだ。

 ドアの横でそれを見ていたSPの真嶋も仲間のことが心配であったが、顔に出さないよう努めた。それでも警護対象者を見ている内に仲間を思う気持ちが強くなった。

 その時、応接室のドアが開いて小田の家族が入って来た。小田完治の姿を見るなり、緊張がほぐれたのか、彼の家族は目に涙を浮かべた。議員は素早く駆け寄り、妻と子供たちを抱き寄せた。彼らはすすり泣きながら身を寄せ合い、小田完治は小さく「無事でよかった」と呟いた。

 真嶋がほっとして胸を撫で下ろしていると、背後から肩を叩かれた。振り向くとホテルで彼と共に議員とその家族を警護した民間の警備員3人がいた。

 “柴田は?”真嶋は咄嗟に同僚の姿を探したが、見つからなかった。

 「柴田を見なかったか?」

 「いいえ。」近くにいたスーツ姿の警備員がSPに言った。

 “まだ現場にいるのか?”

 「つい先ほど連絡があったのですが…」同じ警備員が口を開いた。「すぐに応援が来るそうです。真嶋さんの無線機と携帯電話に繋がらなかったので、私の方に連絡がきました。」

 「そうか…」

 「応援が着き次第、議員とその家族の避難が始まることになっています。」

 「何所へ?」と真嶋。

 「丘珠空港(注:正式名は『札幌空港』)に行き、北海道を離れる手配が取られています。」

 「しかし、すぐに動いては…」

 「詳細は応援が来てからとなっています。それまで我々は待機だそうです。」








 杉本哲司は色褪せた黒革のアタッシュ・ケースを持ち、官邸の三階にある南会議室のドアをノックした。

 いつもと変わらない定例報告ならば心配はないのだが、現在進行形の北海道の件があるために多くの懸念があった。官房長官たちの意地の悪い発言ではなく、予算の削減や組織の縮小が議題として上がることを恐れている。

 『ネズミ取り』が創設されてから大規模テロは未然に防いできた。勿論、この機関が誕生する前から日本警察はテロ攻撃を阻止するために努力している。

 今までの調査で、2年前に菊池信弘と彼の思想に魅了された学生たちが起こしたテロ攻撃との関連性は見つかったが、まだ確証は得られていない。それでも当時の生き残りが数人いると考えられているため、東京支部にいるネズミ取りの分析官たちは彼らによる犯行の可能性が高いと見ている。北海道におけるテロ攻撃の動機は、自衛隊基地への攻撃を妨害した小田議員に対する報復と推測された。

 「どうぞ。」

 ドアの向こう側から声が聞こえてきたので、杉本がドアを開けて室内に入った。

 「進展は?」ネズミ取りの局長を見るなり官房長官の吉村吉彦が尋ねた。彼は楕円形テーブルの端の席に座っていた。官房長官の隣には首相補佐官の沼村直人が椅子に腰掛けている。

 「主犯の特定はまだできていませんが、2年前の事件との関連が見つかりました。」テーブルにアタッシュ・ケースを置き、その中から予め用意した資料を取り出して二人の前に置いた。

 官房長官と首相補佐官は資料に一瞥をくれると、一切手を付けずに再び杉本に目を向けた。

 「簡潔に頼むよ。もうすぐ記者会見なんだ。」と官房長官。

 「北海道の事件は、2年前の自衛隊基地攻撃事件に関与した人物によるテロ攻撃と思われます。そして、犯人は小田完治議員を狙っているようです。」杉本は求められたとおり、簡潔に述べた。

 「それは困るねぇ…」首相補佐官が呟いた。「あの事件は『火災』として処理されたんだ。今さら、『あれはテロでした』、と言えば有権者の支持を失いかねない。何か違う理由を考えるべきだ。」

 「確かに…」官房長官は隣に座る禿げ頭の男に同調した。

 “まだ政局に気を取られているのか…”杉本は黙って二人を見つめた。

 「できれば…小田くんの政策に反対する勢力の犯行として発表すべきだ。『右』でも『左』でも構わない。」首相補佐官は素晴らしい案を述べたと思った。

 「しかし―」杉本が意見を述べようとした。

 「声明の内容はこちらで決める。」吉村官房長官が遮った。「君は早く事件を解決しろ!」

 「分かりました。」








 目を覚ますなり、野村は飛び上がって腰のホルスターから銃を抜いて周囲を見渡した。彼は軽自動車の中ではなく、救急車内のストレッチャーの上にいた。

 「落ち着けよ。」大多和が後輩捜査官の銃を掴んで下ろさせた。

 「西野さんは?」野村が尋ねた。「白いバンは?」

 先輩捜査官は首を横に振った。「ドローンで探してる。お前はよくやったよ。」

 慰めの言葉を聞いても野村は自分が許せなかった。この時、彼は運転席にいた新村のことを思い出した。

 「新村は?彼女は無事ですか?」

 「負傷してたから、先に小木と一緒に支局の医務室に送ったよ。負傷と言っても、新村はちょっと深い切り傷と擦り傷、小木は肋骨を折っただけだ。奇跡的にお前は無傷みたいだが…」

 拳銃をホルスターに戻して野村はストレッチャーから下りようとした。その際に肩と腰に痛みが走ったが、動くのに支障がない程度であった。

 「あまり無茶するなよ。まだやる事があるんだ…」

 彼らを乗せた救急車は近くの病院に着いたが、大多和は野村を連れて病院内の駐車場へ向かった。先輩捜査官に促されて野村はグレーの乗用車に乗り、その車は数回の尾行確認を経てネズミ取りが利用している地下駐車場に入った。

 「お前にお土産があるらしい。」駐車場に車を入れるなり、大多和が言った。

 二人の乗る車が進んで行くと、ヘッドライトが駐車場の奥にいた二人の男を照らした。一人は体形に似合わないだぶだぶの服を着ており、彼の横にはうな垂れて床に座り込んでいる中年男がいる。

 大多和が車を停めるなり、野村は車を降りて中島と佐藤に近づいた。

 「大変だったみたいですね。」中島が笑みを浮かべて言った。

 「いや…私は…何も…」野村はテロリストを取り逃した事に憤りを感じていたが、表情に出さないように努めた。それに西野を救えなかった事に罪悪感を持っていた。

 「野村さん…」SAT隊員が柔らかな口調で話し始めた。「過ぎた事はどうしようもないです。あなたの仲間はテロリストに捕まりましたが、まだ生きてる。後悔は後に回して、今は彼の救出に専念しましょう。」

 “確かに…”若い捜査官は顔を上げて中島の顔を見た。

 「その手掛かりになると思って…」SAT隊員がうな垂れている佐藤の肩を軽く叩いた。「彼を持ってきましたよ。」

 「その男は?」野村の隣に並んだ大多和が尋ねた。

 「ホテル付近の建物から狙撃銃で小田議員を狙ってた男です。」

 「テロリストの仲間なんですか?」と野村。

 「そう考えるのが妥当でしょう。ホテル正面から突入して、標的をホテルの裏口まで押し出し、そこを狙う予定だと思いますね。」中島は佐藤を捕らえた後、藤木と現場にいた数人のSAT隊員から聞いた情報を元に自分の考えを述べた。「万が一、彼が単独犯であれば、議員が出入りするのが確実な正面入り口付近を見張ると思いますし…」

 「なら、色々と聞いたい事があります。」野村が佐藤に近づく。「色々と…」








 西野がテロリストに拉致されたとの報告を受けた黒田は、苛々しながらスパイウェアが常時送信してくる水谷の行動記録に目を通して怪しい動きの有無を調べていた。しかし、送られてくる情報に不審な点はない。

 “気付かれたか?”黒田は水谷がスパイウェアの存在に気付いた可能性を考えた。“そうなれば、これは時間の無駄か…。西野の捜索に集中すべきか?もし、アイツが内通者であれば、何も水谷に的を絞る必要も無い…”

 水谷は先ほどから通信記録を見ており、そこでいくつかの記録を何度も繰り返し閲覧している。また、彼は監視カメラの映像記録にもアクセスし、特定の時間帯の記録を入念に確認していた。

 “都合の悪い証拠を探しているようにも見えるが、記録を書き換えようとはしてない。”黒田は分析官の行動を見て思った。“逆にアイツは削除された物を修復しようとしているようにも見える…”

 その時、彼のオフィスにタブレットを持った奥村が入って来た。

 「水谷さんの行動を調べましたが…特に異常はありませんでした。」奥村がタブレットの画面を黒田に見せた。画面には水谷が使用した画像比較ソフトや音声解析ソフト、最近のニュースに関する閲覧履歴が表示されていた。

 「本当にこれだけか?」と黒田。

 「はい。」

 女性分析官は何故、上司がこれほどまでに水谷に拘るのかが理解できなかった。彼女は水谷の記録を調べながら、黒田の記録も調べていた。そして、そこには水谷よりも疑わしい記録が多かった。

 「もう少し遡って彼の記録を調べて欲しい。」

 「分かりました。」

 不満を顔に出しながら奥村は黒田のオフィスを後にし、自分の机に戻ると一目散にオフィスに籠っている上司の記録にアクセスした。








 携帯電話が鳴ると、大多和は野村たちから離れて電話に出た。

 「どうなってる?」電話は黒田からだった。

 「今、野村と中島という名のSAT隊員でテロリストの尋問をしています。が、テロリストの携帯電話から色々と情報が見つかっているので、もうすぐ終わると思います。」

 「そうか…」そう言うと、黒田は数秒沈黙した。大多和が代わりに口を開こうとすると、再び支局長の声が聞こえてきた。「話しは変わるが、西野は…アイツは本当に拉致されたのか?」

 大多和は黒田の質問に疑問を持った。“支局長は西野もテロリストだと思ってる?”

 「はい。救急車に乗せられる前に意識を取り戻した新村が、テロリストに連れ去られる西野について教えてくれました。野村も同じことを言ってます。私も西野が拉致されたと思います。」ネズミ取りの捜査官が淡々と述べた。

 「そうか…」

 「何かあったんですか?」

 「いや、何でもない。」

 「それでは尋問が終わり次第―」

 大多和が会話を切り上げようとした時、それを遮るように黒田が口を開いた。「尋問は君とSATに任せたい。野村には一度、こちらに戻ってきて欲しい。」

 「しかし―」

 「西野に関して確かめたいことがあるんだ。」ネズミ取りの支局長が強い口調で言った。

 「では、そのように伝えます。」捜査官の声には戸惑いが混じっていた。

 電話を切り上げると、大多和はノートパソコンと睨み合う野村と中島に近づいた。そのパソコンは佐藤が持っていたスマートフォンと接続されており、解読ツールを用いて電話内にある位置情報と暗号化されていたメールを確認していた。

 「野村、支局長がお呼びだ。」大多和が後輩捜査官の隣に並んだ。「後は俺が引き継ぐ。」

 若いネズミ取りの捜査官は驚きの表情を浮かべて大多和を見た。「今ですか?」

 「西野について聞きたい事があるそうだ。」

 「でも―」

 「支局長にも何か考えがあるんだろうさ。」首を傾げて大多和が言った。「それより、何か見つかったか?」

 「見つかりましたが…」納得の行かない呼び出しに野村は苛立ち、見つけた事を口にしたくなかった。

 「怪しい場所を2ヵ所見つけましたよ。」中島が二人の会話に割り込んだ。

 これに野村は驚き、さらに怒りを覚えた。できれば、この発見を条件に支局へ戻ることを延期させようとしていたのだ。

 「何所ですか?」大多和が中島へ顔を向けた。

 「銭函と手稲にある建物です。彼は襲撃後にこの2つの場所のどちらかに行く予定になっていたようですよ。」SAT隊員がノートパソコンの画面に表示されている2つの赤い点を指で示した。

 身体を前のめりにして大多和はパソコンの画面を見つめた。1つ目の建物は銭函に近い張碓という場所にあり、もう1つは人口が密集している手稲区の住宅地にあった。

 「どちらかの建物に西野がいるのか…」大多和が呟いた。

 「その可能性がある、の方が正確かもしれませんよ。」と中島。「報酬の受け渡し場所、または中継場所かもしれないですし。もしかしたら、拘束された時のための罠かも…」

 「なら、彼に話してもらいましょう。」野村が胸にある苛々を落ち着かせながら言った。

 三人はうな垂れている中年男に目を向けた。

 「無駄でしょう。」SAT隊員が再びパソコンに向き合った。ネズミ取りの捜査官たちは中島の態度に不信感を抱いた。

 「どうしてですか?」野村が尋ねる。

 「彼はこういう状況に慣れてる。この手のタイプは長期戦を好みます。まぁ、手荒な真似をして吐かせるのも手ですが、正確な情報を喋ってくれる保証はないです。確実なのは、今ある情報を元に行動することだと思いますよ。例え、罠であっても…」

 「一理あるが、それでも吐かせるべきだ。」大多和が食って掛かった。

 「それならネズミ取りさんの自白剤などを使うべきです。ここには無いけど…」

 中島の意見を聞いて大多和が野村と向き合った。「どうせ支局に戻るんだ。この男と一緒に戻って情報を聞き出してこい。それからSATに応援要請を出して出動準備を完了させてくれ。」

 野村は下唇を噛んで喉まで出かかっていた言葉を抑え、命令に従うことにした。若い捜査官は中島と共に佐藤の腕を掴んで立ち上がらせ、乗用車の後部座席に中年男を押し込んだ。

 「現場で待ってますよ。」運転席に乗り込んだ野村に中島が笑みを浮かべて声をかけた。

 野村は表情を変えずに「すぐに合流します」と言って駐車場を後にした。そして、彼と入れ替わるようにしてすぐ、1台の黒いバンが駐車場に入って来た。

 大多和と中島が腰のホルスターに収められた拳銃に手をかけたが、バンから下りてきた4人を見て手を離した。

 「遅くなってすみません」額に大きな絆創膏を付けたSAT隊員の荒井が言った。彼は守谷たちの襲撃で負傷したが、ホテル入り口付近の爆発で亡くなった仲間と拉致された西野のことを知ると、大多和に頼み込んで救出作戦のメンバーに組み込んでもらった。また、荒井は信頼できる同僚3人を連れてきた。

 「全然だ。装備は整えてあるな?」と大多和。

 「はい。」荒井がはっきりとした口調で返事した。

 「んじゃ、すぐにでも行けそうですね。」大多和の隣に並んで中島が言った。

 中島の姿を見るなり、4人のSAT隊員の表情が硬くなった。大多和は何が起こったのか分からず、隣のSAT隊員を見た。しかし、中島はただ笑顔を浮かべているだけだった。

 「洞爺湖ではお世話になりました!」荒井の横にいた桑野という隊員が一礼し、他の三人も彼に倣った。

 大多和は益々混乱したが、中島は相変わらず笑みを浮かべていた。








 意識を取り戻して目を開けようとした時、後頭部に激痛が走り、呻きながら西野は再び目を閉じてしまった。彼は痛む場所に触れようとしたが、両手の自由が効かない。しかし、脚は縛られていない。目をゆっくりと開けると、両手が縄で椅子の肘置きに固定されているのが見えた。

 「起きたか?」正面から守谷の声が聞こえてきた。

 西野が顔を上げようとした時、再び後頭部に激痛が走った。この時、彼は正面に座る守谷の姿を見た。蛍光灯が煌々と光る部屋は狭く、机と椅子が部屋の壁に積み上げられている。ふと目についた窓を見ると、拘束されている自分の姿が窓ガラスの反射で映っていた。外はもう暗く、窓の向こう側がどうなっているのか分からなかった。

 「焦るなよ。時間はたっぷりある。三須も議員を始末したら、こっちに来る。」

 “三須!?”

 「お前たちは死んだはずだ!」ネズミ取りの捜査官が激痛に耐えながら言った。

 「書類上な…」

 「俺はお前が死ぬのを見た。」

 それを聞いて額に小さな切り傷を持つ男が笑い出した。

 「なら、俺は幽霊か?」そう言うと、守谷は左拳を西野の左頬に叩き込んだ。衝撃の強さに捜査官の視界がぼやけた。「確かに俺はお前に撃たれ、そして、輸送機から落とされた…しかし、運が良く三須たちに救われた…」

 西野はまだ衝撃から立ち直れていなかった。ゆえに守谷が話しを続けた。

 「あの時から俺たちはお前への復讐を考えていた。しかし、三須は簡単な報復では物足りないと思い、前回よりも多くの資金と武器、人員の調達に動いた。計画はアイツが作り、俺がそれを実行した。お前を探し出すために三須は警察に入り、最終的にはお前も所属している組織に入った。俺がせっせと武器を買っている間にな…」

 “三須がネズミ取りに?”ようやく意識がはっきりしてきた西野が心の中で呟いた。

 「有り得ない。三須が簡単に入れるような―」

 「『背乗り』って奴で簡単に新しい身分が手に入ったのさ。」捜査官を遮って守谷が言った。「お前らの組織は警察よりも広いネットワークを持っていたらしく、三須はお前も同じ組織にいることを突き止めた。そして、そこで潜入捜査と小田完治の詳細を知った…」

 「俺と議員を狙ったテロでどれだけの命が失われたと思ってるんだ!」思わず西野が怒鳴った。

 「必要な犠牲だ。それに数で人の価値を決めるのは良くないぞ、小林…」守谷はワザと西野をかつての偽名で呼んだ。「人の価値はその人間の知性で測られるべきだ。」

 その理不尽な考えに西野は絶句した。

 「三須はお前を信頼していた。もしかすると、俺よりもお前に肩入れしていたかもしれない…」言葉を失っている捜査官を見た守谷は話しを続けることにした。「そんなアイツも、今じゃお前を殺したがってる。」

 「み、三須もここに、北海道にいるのか?」西野が言葉を詰まらせながら訊いた。

 すると、額に切り傷を持つ男がニヤリと笑った。「アイツはずっとお前の側にいたよ。」








 支局の駐車場に車を入れた野村は急いで後部座席にいる佐藤を降ろそうとした。彼はできるだけ早く中年男を他の捜査官に任せ、黒田との話しを終わらせたかった。

 佐藤の左腕を掴んで引っ張ろうとした時、背後から駆け寄ってくる足音を聞いて野村が振り返った。そこにはタブレットを持った奥村がいた。彼女は監視カメラで野村の到着を確認すると、駐車場まで走って来たのだ。

 「どうした?」と野村。

 小太りの女性分析官は肩で息をしており、捜査官が尋ねてもすぐに応えられなかった。

 「大丈夫か?」野村が中年男から手を離して奥村に近づく。

 「の、野村さんに、見て、欲しい物が、あります。」呼吸を整えながら女性分析官が言った。彼女はタブレットを持ち上げて画面を野村に見せ、野村は渋々その画面を覗き込んだ。「黒田さんに、水谷さんの行動記録を、調べるよう言われて、調べたんですが、不審な点は何も無かったんです。」

 「それで?」若い捜査官は話しの内容が掴めず、急いでいるにも関わらず話しを引き延ばす奥村に苛立った。

 「何度も何度も、似た様なことを言われるので、支局長が疲れておかしくなったと思って、逆に支局長の記録を調べたんです。そしたら、通信記録を消したり、逃亡後に死亡した堀内という男のいた、拘束室の監視映像を、改竄してる形跡があったんです!」

 「何故、そんなことを?」

 「もしかしたら、支局長は昇進の障害となる証拠を消しているのかもしれないです。または支局長がテロリストの―」

 唾を吐くような音が3度、地下駐車場内に響いた。その後、奥村に覆い被さるようにして野村が倒れた。女性分析官は突然のことに驚き、野村を支えようとしたが、彼の重さに耐えきれずに尻餅をついてしまった。好意を寄せていた相手が倒れ掛かってきたため、奥村の意識は野村に注がれ、顔を赤くしながら彼女の膝上に頭を置いて倒れている捜査官の顔を見た。

 「に、逃げ…ろ…」消え入りそうな声で野村が言った。上着の下に防弾ベストを着ていたので無傷ではあったが、銃弾を受けた背中に激痛が走っていた。

 「えっ?」奥村が聞き返そうと顔を野村に近づけた。

 ちょうどその瞬間、彼女の胸を2発の銃弾が襲った。被弾した女性分析官は衝撃に押されて背中から地面に叩きつけられた。呼吸困難に陥った奥村は口から血を吐きながら、苦しみと戦った。

 「余計なことを…」野村の背後から親しみのある男の声が聞こえてきた。その声の主はゆっくりと二人に近づき、奥村の頭に2発の銃弾を撃ち込んだ。

 ここでようやく野村は二人を撃った男の姿を見た。

 “小木さん…?”

 消音機付きの拳銃を持つ小木は奥村のタブレットを拾おうと身を屈めた。この隙に野村はホルスターに手を伸ばして拳銃を握った。

 再び唾を吐くような音が駐車場内に響き、後頭部から進入した銃弾が野村の頭部を貫通した。タブレットに気を取られていた小木は突然のことに驚き、拳銃を野村の死体に向けた。

 「ちゃんと頭を撃て。」小野田が鋭い眼光を小木に向けた。次に彼は消音機付きの拳銃を乗用車に乗っていた佐藤に向け、素早く3度引き金を絞った。2発が中年男の胸に命中し、最後の1発が頭部を捉えて後部座席が血で染まった。

 「あ、あぁ…」小木は小野田の勢いに圧倒された。

 「議員の行き先が分かった。急ぐぞ。」

 二人は予め用意していたグレーのSUVに乗り込んでその場を後にした。

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返報 14-1 [返報]


 「また会えましたね。」西野の隣に腰掛けるなり、藤木孝太が言った。

 西野は昨日出会った男の唐突な出現に少し動揺したが、すぐに気持ちを切り替えた。

 「髭を剃ったんですね。」藤木が隣に座る元警察官の顔を見て笑みを浮かべた。「その方が似合ってますよ。」

 そう言われると西野は俯いて、今朝剃ったばかりの頬を右親指で軽く触れた。

 「無駄話のために来たわけじゃないだろ?」ここに来た理由を思い出して元警察官が藤木の方を見た。

 「いきなり本題に入るのって、すごく堅苦しいでしょ?だから、ちょっと世間話しをしようかと思いまして…」

 西野は藤木の馴れ馴れしい喋り方が好きになれなかった。

 「しかし、お望みであれば本題に入りましょう。西野さんの答えを聞かせてください。」

 藤木の顔に浮かんでいた笑みが消えた。銀縁眼鏡のレンズ越しに見える彼の双眸は鋭く、先程とは打って変わって真面目な人間に見える。

 「逆に聞きたい事があるんだ…」西野が藤木から視線を逸らさずに言った。「俺はもう二度とあんな連中と関わりたくない。アンタも分かるはずだ。何でまだその仕事をやっていられるんだ?」

 予期せぬ言葉にネズミ取りの捜査官は首をかしげた。「良い質問ですねぇ~」

 西野は黙って藤木を見つめ続けた。

 「実は…」藤木が口元を微かに緩めて口を開いた。「似た質問を友人にしたことがあります。堅物な男でして…ものすごく仕事熱心なんですよ。彼に尋ねると、非常に臭い台詞を言いました。」

 横に座る元警察官が先を促す。

 「『守りたいものがあるから』だそうです。」藤木は西野の反応を見て先を続けることにした。「私だって西野さんの言う“あんな連中”とは関わりたくないです。でも、私たちが求めていなくても、彼らは来るんです。中には話しの通じる人たちもいますが、大半は聞く耳を持たない。彼らの中に“答え”があるからです。そんな人たちを野蛮な手段を用いてでも、止めなければならない時が来るかもしれません。そんな時にみんなが『誰かがやるから大丈夫』と考えていたら、いずれ私たちは大切な物を失うでしょう。簡単に言えば、『誰かがやらなきゃいけない事』だから、私は“あんな連中”と関わりを持つことにしたんです。」

 「しかし―」

 「無理強いはしません。」藤木が西野を遮った。「嫌なら嫌と言えばいいんです。」

 「後悔してないのか?」元警察官が視線を逸らさずに尋ねた。

 「してたら、ここには来てませんよ。」ネズミ取りの捜査官がベンチから立ち上がた。「もし、気が変わったら、15時までに空港に来てください。そこで待ってます…」


















14-1






 「も、守谷……?」西野は驚きを隠せなかった。

 名前を言われると額に小さな切り傷を持つ男がニヤリと笑う。「やっと思い出したか…」

 ネズミ取りの捜査官は咄嗟に右拳を守谷の顔面に繰り出した。しかし、相手は左手でそれを掴んだ。

 「あまり良い動きじゃないな。“あの時”の方が早かったぞ…」そう言うと守谷は西野の拳から手を離さずに、頭突きを捜査官の顔面に叩き込んだ。

 鼻頭に強力な一撃を受けた西野は気が遠くのを感じた。鼻の骨が折れ、両方の穴から血が流れ出た。

 「もうすぐ警察の増援が到着します。」守谷の隣にいた大男が言った。
 「そろそろ移動するか…」









 反射的に乗用車の陰に飛び込んだものの、野村と新村は襲撃者たちの激しい銃撃を受けて身動きが取れずにいた。

 雨の様に降り注ぐ銃弾は乗用車に無数の穴を開けると同時に窓ガラスを砕いた。ガラスの破片が身を丸くして隠れている二人の捜査官の上に落ち、あまりの恐ろしさに新村は震えた。しかし、涙を流すことはなかった。一方の野村は再装填を済ませて突進を試みようとしていた。

 “このままじゃマズイ…”

 その時、銃撃の勢いが弱まった。

 野村は敵の何人かが再装填を行っていると推測して車の陰から飛び出した。そして、発砲しながら前進しようとした時、彼は手榴弾を投げようとしている敵2人を見た。野村はすぐに引き返して隠れていた新村の右腕を掴んで立ち上がらせ、二人は姿勢を低くした状態で駆け出した。

 目出し帽で顔を隠している男2人は野村と新村の位置へグレネードを投げ、放たれた2つの手榴弾は綺麗な弧を描いて二人の捜査官がいた車の手前に落ちた。

 新村の腕を引く野村はできる限り遠くへ移動したかったが、仲間を連れながら逃げるのは難しく、離れることができても5メートルが限界であった。女性捜査官は状況が読み込めなかったが、背後から聞こえてきた破裂音を耳にしてやっと状況を理解した。

 手榴弾が爆発すると二人はしゃがみ、素早く襲撃者たちがいる方へ短機関銃の銃口を向ける。銃口の前には今まで遮蔽物にしていた乗用車があって敵の姿を見ることができない。しかし、二人は襲撃者の勢いが収まりつつあることに気が付いた。

 “撤収するのか?”

 野村は銃を構えた状態で中腰の姿勢を取って襲撃者たちの様子を伺った。そして、彼は大男が西野を右肩に担いで移動するのを目撃した。先輩捜査官の危機に野村は怒り、我を忘れて目出し帽を被った襲撃者たちに向けて発砲を開始した。

 突然のことに背後で待機していた新村は狼狽えたが、彼女も連れ去られようとしている西野を見つけ、野村の行動の真意を理解する事ができた。

 大男が西野をバンに押し込もうした時、スライドドアに小さな穴が開いた。何事かと振り向くと、発砲しながら接近してくる男女の姿を確認した。すると、大男の後ろにいた男がインド製のアサルトライフルを構え、野村たちに向けて引き金を引いた。

 「構うな。」そう言って、大男がバンに乗り込んだ。

 指示を受けた男は何度か発砲してからバンの助手席に乗り、素早く再装填を行った。彼と同様に急ぐ守谷率いる襲撃者たちは応射しながら、それぞれが乗って来たバンに乗り込んでその場を後にしようとしていた。

 焦る野村は走ってバンとの距離を詰めるも、途中でMP-5Kの弾倉が空になった。再装填する時間が惜しいため、男性捜査官は腰のホルスターからUSP拳銃を素早く抜き、走り去ろうとする2台の白いバンに向けて発砲した。一方の新村は置き去りに去れた車の陰に身を隠して再装填を行い、それから先輩捜査官の後を追った。

 2台の白いバンは野村たちの攻撃を気にもせずに加速して二人の捜査官から離れて行く。

 バンが曲がり角に入る直前、野村の背後から黒い軽乗用車が接近してきて彼の右横で停車した。

 「乗って下さい!」運転席には新村がいた。

 彼女は乗り捨てられていた軽自動車を見つけ、それを借りることにしたのだ。

 後輩捜査官が下した咄嗟の行動に野村は感心しながら、黒い軽自動車の助手席に乗り込んだ。そして、彼が素早くMP-5Kの再装填を行い始めると、新村はアクセルを勢い良く踏み込んで襲撃者たちの後を追った。








 中島が腰元で構えていた銃を佐藤の右脚に向けた瞬間、中年男がSAT隊員に飛び掛かった。

 男は両手で拳銃の銃身を掴み、素早くそれを中島の腹部に押し当てて銃口を逸らした。そして、間を置かずに佐藤は右膝蹴りをSAT隊員の股間に向けて繰り出した。

 蹴りが飛んでくる直前、中島は左脚を後退させながら腰を右に捻って佐藤の金的蹴りを回避し、素早く左掌底を中年男の胸に叩き込んだ。この掌底で中年男は掴んでいた銃から手を離しそうになったが、左足で踏みとどまって次の攻撃に出た。

 一方、SAT隊員はこの隙に銃口を動かして相手の脚を撃とうとしていた。あと数ミリで狙いが定まろうとした時に佐藤の頭突きが中島の右頬を直撃し、その弾みで引き金を絞ってしまった。狭い室内に銃声が響き、拳銃弾が佐藤の右脚をかすめて軽傷を負わせた。

 中年男が銃身を強く掴んでいたため、遊底の動きが封じられて空薬莢の排出が行われなかった。ゆえに遊底を引いて薬室に残っている空薬莢を抜かなければ、銃を正常に使用することはできない。

 仕方なく中島は銃から手を離して左と右の拳をリズミカルに繰り出し、自ら拳銃を抑えるために両手の自由を封じていた佐藤は2つの拳を顔面に受けた。素早く放たれた拳であったが、威力は中年男の想像を超えて重たかった。

 佐藤は掴んでいた拳銃から手を離して2歩後退した。できるだけ距離を開けて回復を試みたのだ。だが、中島の勢いは止まらなかった。SAT隊員は左前蹴りを中年男の股間目がけて繰り出した。そして、それを見るなり佐藤は右脚で中島の蹴りを払い、SAT隊員の左側へ回る。

 中年男の動き確認するや否や、中島は左裏拳を佐藤の左側頭部に叩き込んだ。続けてSAT隊員は裏拳の勢いを利用して左へ回転し、激痛に身体を右に傾けていた相手の左頬を右拳で殴った。

 次の攻撃を恐れる佐藤は咄嗟に両腕を上げて顔面を守り、それが仇となって防御が手薄になった左横腹に中島の右蹴りを受けた。予期せぬ衝撃に中年男は体勢を崩しそうになったが、なんとか右足で踏みとどまる。

 相手の動きなど気にせず、SAT隊員は左拳を佐藤の顔に向けて繰り出す。それを見るなり中年男は左手で相手の拳を弾き、向かってくる攻撃の軌道を変えた。続いて中島が右拳を放つと、佐藤は体を左に傾けて攻撃を回避し、伸び切ろうとしていた相手の右腕を挟むようにして両手を繰り出した。右掌底でSAT隊員の右手の甲を叩き、左手ではきつく拳を作って相手の腕の内側を叩いた。

 地味な攻撃であったが、中島の腕に軽い痺れが走った。関節技を警戒したSAT隊員が腕を引こうとした時、佐藤の裏左拳が中島の右側頭部を襲った。中年男は先ほど繰り出した左拳の勢いを利用して素早く攻撃したのだ。
 
 間を置かずに佐藤が右掌底を中島の顔面に入れようとした瞬間、外から大きな爆発音が聞こえてきた。二人の動きが止まり、1秒半ほど睨み合う形になった。
 
 この爆発音は守谷の撃った携帯式対戦車擲弾発射機(注:ロケットランチャー)が西野と荒井の後方にあった乗用車に命中した際に生じたものであった。

 “来たか…”体に走る痛みを感じながら佐藤は守谷たちの到着を予想した。しかし、状況が掴めない中島は野村たちのことが心配であり、急いで助けに行きたかった。

 焦る気持ちを抑えながらSAT隊員は再び動き出した。彼は防がれることを念頭に置きながらも左拳を素早く突出し、中年男は後ろに下がって攻撃を避けた。そして、後退した勢いを利用して右前蹴りを放った。

 蹴りが放たれるや否や、中島は素早く斜め右へ踏み出して相手との距離を縮める。その際に彼の横を佐藤の右蹴りが通り過ぎ、距離が近づくと中年男の顔に恐怖が広がった。

 佐藤は咄嗟に左肘を繰り出して接近してくる中島の顔面を殴ろうとしたが、SAT隊員はそれを右手で難なく防御した。そして、それとほぼ同時に彼は左手を突き出して中年男の右肩を掴み、相手を手前に引きながら突き上げるように左膝を佐藤の腹部に叩き込んだ。

 腹部を襲った激痛に耐えきれず、中年男は身を丸めて歯を食いしばって呻いた。しかし、中島は攻撃の手を止めようとはしない。SAT隊員は痛みと戦っている相手の首筋に向けて、左肘を振り下ろそうと左腕を上げた。

 その時、首筋に悪寒を感じた佐藤は思い切って中島にタックルした。突然の攻撃にSAT隊員はバランスを崩し、体勢を立て直そうと後ずさりながら中年男の上着を掴もうと動く。しかし、その直前に佐藤は両手で中島を突き飛ばして距離を開けた。勝ち目のない戦いだと判断した故の行動であった。二人の距離が開くと、中年男は腹部を抑えながら急いで部屋から廊下に飛び出した。

 素早く体勢を整えたSAT隊員が逃亡した男を追うために走り出すと、唾を吐くような音と金属が擦れる音が廊下から聞こえてきた。その後、中年男の呻き声と重たい何かが落ちる音を耳にした。彼は急いで自分の拳銃を拾い、遊底を引いて薬室に閉じ込められていた空薬莢を吐き出させた。中島は拳銃を構えながら素早く、そして、静かにドア枠の左横に移動して廊下の様子を確認した。SAT隊員が目にしたのは床に倒れて呻いている中年男の姿であり、その他には何も見えない。

 別方向の安全確認のため、中島は右手に握った拳銃を胸の辺りで構えると、素早くドア枠から顔を出し、脅威の有無を確認するなりすぐに室内に顔を戻した。一瞬のことであったので、人影しか見ることができなかったが、それで十分だった。SAT隊員は拳銃をホルスターに収め、両手を上げて廊下に出た。









 大多和と6人のSAT隊員が黒煙と焦げ臭さの漂う道路を通って、小型バスによって壊された正面玄関へ向かった。グランドホテルの上空では北海道警察とマスコミ各社のヘリが爆音を周囲に撒き散らしながら現場の様子を見守っており、地上の方は警察が黄色い規制線を張って被害の拡大を減らそうとしていた。それでも守谷たちは、その規制線の一つを突破して西野を攫いにやってきた。銃声や爆発音が単発的に人々の耳に入ってくるため、現場にはまだ緊張が走っている。

 黒田の命令を受けた大多和たちがホテルの車寄せに近づくと、座り込んでいる二人のSAT隊員を発見した。

 「大丈夫か?」二人に近づきながら大多和が尋ねた。

 「俺たちは…なんとか…」被弾した左腕を右手で抑えた藤田が消え入りそうな声で応えた。彼の隣にはうな垂れている近藤がいた。二人は他の隊員が全員死んだと思っている。

 「西野たちを見たか?」と大多和。

 「いえ…」藤田が首を横に振った。

 「すぐに救護班も来る。ここで待機しててくれ。」

 大多和と6人のSAT隊員は、テロリストによって破壊された正面ドアを通ってホテル内に進入した。まず始めに彼らの目に飛び込んできた物は突入に使用された小型バスだった。砕けた窓ガラスとドア枠の金属片が床に飛び散っており、奥に進んで行くと焦げや血が付着した破片があった。そして、さらに進んで行くと血の海を作る多くの死体を発見した。

 凄惨な光景を見た大多和は唇をきつく閉じ、湧き上がってくる恐怖心と戦った。彼の後ろにいたSAT隊員たちも現実離れした光景に怯んでいたが、それと同時にこのような行為をしたテロリストに怒りを覚えた。

 彼らは死体を踏まないように前進したが、目指している大ホールへ続くエスカレーターは両方とも死体で埋め尽くされていた。

 “許してくれ…”

 周辺を警戒しながら、できるだけ死体を踏まないように2階の大ホールに辿り着くと、再び血の海で横たわる多くの死体を発見した。何人かはまだ生きており、呻き声や助けを求める低い声が大多和たちの耳に届いた。ネズミ取りの捜査官は二人のSAT隊員に生存者の応急手当てを頼み、残りの4人を連れて大ホールに入った。

 引っくり返ったテーブルと椅子などで散らかったホールに入ると、大多和の目に懐かしい人物の顔が映った。

 「小木!」

 名前を呼ばれた小木が広瀬の死体から頭を上げて周囲を見渡した。

 同僚との距離が縮まるに連れて大多和は、彼の側に横たわる生気を失った広瀬と座り込んでいるパンツスーツ姿の女性の存在に気付いた。

 「西野は?」小木の前に来るなり大多和が尋ねた。

 「テロリストを追いに行った。」西野と荒井が走っていた方を指差して小木が言った。

 「広瀬さんは…?」

 「死んだよ…」小木の目は広瀬の死体に釘づけであった。

 「そうか…」そう言うと大多和は先輩捜査官の死体をしばらく見つめた。「俺は西野を追う。応援が来るまで、ここで待機してくれ。」

 「わかったよ…」

 「すぐ戻る…」小木の肩を軽く叩いて励ますと、大多和と4人のSAT隊員は西野たちが向かった方へ走り出した。








 狭い小道を縫うように白い2台のバンが進み、その後を黒い軽自動車が追っている。

 小道を抜けると、規制線と4人の制服警官が3台の行く手を阻んだ。しかし、テロリストたちの乗るバンは気にせず規制線を突破し、その際にバンを止めようとした制服警官2人が轢かれて道路脇に弾き飛ばされた。

 新村は規制線の直前に車の速度を落とし、「退いてください」と叫びながら制服警官たちに道を開けるよう左手を振った。彼女の声は届いていなかったが、轢かれた仲間を見た警官たちは軽自動車の接近を見るなり道路脇へ急いで避難した。二人の捜査官を乗せた軽自動車は規制線を越えると、加速して西野を連れ去った白いバンの後を追った。

 3台の車が小樽運河沿いの片側2車線の道路に入った。野村は助手席から身を乗り出し、短機関銃を構えると11メートル先を走る白いバンに向けて発砲した。狙いは後輪であったが、角度の悪さと手の震えでバンの車体と道路に銃弾が当たった。

 「距離を詰めろッ!」野村が運転席にいる新村に向けて言った。

 女性捜査官がアクセルを踏み込み、それと同時にバンの斜め後ろへ車を移動させた。

 銃撃を受けた白いバンの運転手はサイドミラーで追跡者の姿を確認すると、ルームミラー越しに後部座席にいる守谷を見る。「金魚の糞みたいに付いて来る車がいます。」

 「余興にはなるだろう…」守谷がニヤリと笑って言った。

 大男の中田が足元に置いていたロケットランチャーを持ち上げ、バンの後ろドアに手を伸ばそうとした時、額に切り傷を持つ男がそれを制した。

 「それは議員のために残して置け。こっちの方が面白いと思うぞ。」守谷は足元の鞄から手榴弾を取り出した。

 中田が小さく頷いてバンの後ろドアを開けると、守谷は手榴弾の安全ピンを抜いて外へ放り投げた。深緑色の球体は地面に音を立てて落ち、惰性で勢い良く後方へ転がって行った。

 テロリストの動きを見た野村は急いで助手席に戻り、ハンドルを左に切った。軽乗用車は縁石を乗り越えて歩道に乗り上げ、その直後に手榴弾が爆発した。ハンドルを切って逃げていなければ、手榴弾は車の真下で破裂していた。

 「上手く逃げたな…」守谷が再び手榴弾を取り出して安全ピンを外して歩道の方へ投げた。

 一方、新村は再び道路へ戻るためにハンドルを操作し、野村はテロリストたちの動きに注視した。

 「手榴弾に気を付けろ!」バンから目を離さずに野村が言った。しかし、彼は2つ目の手榴弾の存在に気付けなかった。

 「分かりました。」新村が再びアクセルを勢い良く踏み込む。

 その時、歩道で2つ目の手榴弾が爆発し、その破裂で生じたアスファルトの破片が黒い軽自動車の車体に降り注いだ。

 「クソッ!!」野村が悪態をついた。

 守谷は再び手榴弾を道路へ放り投げた。しかし、今度は間を開けずに次の爆弾を道路へ放った。1つ目のグレネードが軽自動車の2メートル手前で爆発し、その際に爆風と破片を浴びた軽自動車はバランスを崩して、新村はハンドルを握る手に力を入れなければならなかった。2つ目の手榴弾が爆発する寸前に野村は、ハンドルに右手をかけて左へ切って再び歩道へ逃げた。

 間一髪で手榴弾の上を通過することは免れたが、車体の右横に強烈な爆風を浴びた。車内にいる二人の捜査官は無傷であったが、軽自動車の方は爆風と破片の影響で車体は塗装も剥げた上に凸凹になっていた。窓も手榴弾とアスファルトの破片によって所々傷が付いている。

 「しぶといな…」歩道へ逃げた軽自動車を見て守谷が言った。彼は最後の手榴弾を鞄から取り出し、中田の方を向く。「車を撃て。」

 大男の中田はインサス(注:別記はINSAS [新インド小火器システム、Indian New Small Arms System])のアサルトライフルを構えると、歩道から道路に戻ってきた軽自動車に向けて発砲した。

 「頭を下げろッ!」新村にそう言うと、野村は怯まず助手席から身を乗り出して応射した。彼が予想した通りに中田は新村に狙いを定めており、銃弾は運転席側の窓に集中していた。白いバンは銃撃を受けると蛇行運転を始め、野村の銃撃を避けようとした。

 フロントガラスを突き破って頭上を通過する弾丸に恐怖した新村は、アクセルを踏む勢いを落とし、守谷たちとの距離が開き始めた。

 「加速しろッ!!」バンになるテロリストに向けて発砲する野村が怒鳴った。しかし、新村はアクセルを踏むことができなかった。

 「潮時だな…」守谷が手榴弾の安全ピンを抜き、軽自動車との距離が開き過ぎる前に手榴弾を落すようにして外へ投げた。








 「つまり、我々の中にテロリストの協力者がいると?」椅子の背もたれに寄りかかっていた黒田が尋ねた。

 「そうです。」水谷が真剣な眼差しで上司を見つめた。

 “広瀬も似た様なことを言っていたな…”目の前に座る分析から目を逸らさず、黒田は数時間前にした広瀬との会話を思い出した。“しかし、アイツは西野と共に消えた。”

 水谷を内通者だと思っていたネズミ取りの支局長は、分析官からの自白を予期していたが、目の前の男も「内通者の存在」を仄めかしてきた。直感で“モグラ”の存在を疑う広瀬とは違い、分析官の水谷は内通者の存在を疑う具体的な証拠を列挙した。しかし、どれだけ具体的なことを言われても黒田は信じられなかった。彼は水谷が自分の疑いを晴らすために嘘をついていると思ったのだ。

 “泳がせてみるか…”

 「すぐに戻る。」ネズミ取りの支局長が拘束室を出て、隣の部屋に入った。その部屋からマジックミラー越しに拘束されている水谷を見ることができる。黒田は部屋にあったノートパソコンを起動させ、自分のアクセスコードを使ってスパイウェアをインストールした。彼は一度電源を切って、ノートパソコンを水谷のところへ持って行った。

 「お前の言う証拠を見せてくれ。」黒いノートパソコンを分析官の前に置いて黒田が言った。

 「分かりました。」

 水谷がパソコンを起動させて作業に取り掛かり、ネズミ取りの支局長はその様子を椅子に座って見守った。事前に仕掛けたスパイウェアによって、水谷の動きは黒田のパソコンに転送される。目の前にいる分析官が裏切り者かどうか、それである程度の事が分かると黒田は思った。

 その時、拘束室のドアが開いて奥村が入って来た。「お話しがあります。」

 “いいタイミングだ。”と黒田は思った。彼が部屋を後にすれば、水谷が何かしらの行動に出る可能性がある。

 「どうした?」ネズミ取りの支局長は奥村と一緒に部屋を出た。

 「小田議員とその家族の避難が完了しました。議員は現場付近の警察署で休んでいて、家族もすぐ同じ場所に到着するそうです。」

 部下からの報告を聞いて黒田は胸を撫で下ろした。「無事で何よりだ。それで西野たちは?」

 「まだ確定した情報ではないのですが…」自信が無いためか、奥村の声が小さくなった。「現場にいたSAT隊員によると、西野さん、広瀬さん、小木さんはテロリストと交戦していたようです。」

 “また面倒くさいことになったな…”心の中で黒田が呟いた。“アイツらはテロリスト側ではないのか?”
 
 「そうか…新しい情報が入ったら、また報告してくれ。」

 「分かりました。」奥村が自分の机に戻るために走り出した。

 「奥村ッ!」黒田が部下を呼び止め、急いで駆け寄った。「過去24時間の水谷の行動を調べてくれないか?」

 「でも…」

 「忙しいと思うが、急ぎで頼む。」
 







 「お邪魔でしたか?」藤木が笑みを浮かべながら尋ねた。彼の隣には小柄の女性が立っており、彼女の右手には消音器が取り付けられたUSP拳銃が握られている。

 「議員の近くにいた方がいいじゃないのか?」挙げていた両手を下げて中島が言った。

 「議員はもう安全な場所に移動しましたし、私は“彼”に用があるので…」藤木が這って逃げようとしている中年男を指差した。

 「俺もアイツに用がある?」と中島。

 「何故です?」藤木は中島の意図を理解しながらも尋ねた。

 「アイツの仲間に会いたいのさ。」

 「前にも言いましたが、あなたはこの件から―」

 「分かってるさ…」SAT隊員が藤木を遮った。「でも、こんな機会を逃すなんてことはできねぇよ。」

 元公安警察の男は中島に同情しており、もし自分が同じ状況に立たされれば、同じく復讐を考えるだろうと思っている。

 「気持ちは分かりますが、危険なことですよ。特に何所に敵がいるか分からない状況下では…」

 「だから、あの男に聞くのさ。」逃げようとする佐藤に歩み寄りながら中島が言った。

 「テロリストの居所の話しじゃないですよ。私が言っているのは、ネズミ取りの中にいる内通者のことです。」

 抵抗する佐藤の右手首を掴んで時計周りに捻り上げると、SAT隊員はすぐしゃがみ込んで中年男の右腕を相手の背中に押し当て、素早く左腕を掴んでテロリストの両腕を後ろで固定した。

 「何か縛る物はあるか?」と中島。

 すると、藤木の隣にいた小川がSAT隊員に近づき、上着の下から結束バンドを3本取り出して手渡した。

 「ありがと。」中島は手慣れた手つきで佐藤の両手首を縛り上げ、次に残りの2本で中年男の左右の膝上をきつく縛り上げた。小川が佐藤の両脚のふくらはぎを撃ったので、出血している箇所の上を閉めて止血を試みたのだ。「それで…その内通者ってのは誰なんだ?」

 「それが分かれば、苦労しないですよ。だから、私は小川ちゃんと二人で密かに行動してるんですから…」

 「目星は?」立ち上がって中島が問い掛けた。

 「付いてますが…知りたいんですか?」

 SAT隊員は黙って藤木を見つめた。元公安の男は顔に浮かべた笑みを崩さなかったが、一度、俯いて再び中島を見た。

 「野村信一と水谷洋平です。」

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収録曲!! [News]

 遂に待ちわびていた収録曲が公開されました。今回は『World Tour: Best Collaboration Songs』の方だけです!


『World Tour: Best Collaboration Songs』
1. Opening(Nによる開会式)
2. 緑色のカレーライス feat. a Man from Thai (タイ在住の男性)
3. 歩道橋 ~English ver.~
4. H.O.K.U.R.E.N feat. Madagascan Street Boys(マダガスカルの路上にいた少年たち)
5. となりのG3 ~バトスピ団 ver.~
6. 野球拳ゲーム大会
7. B.B. Snow ~三代目G3バンドブラザーズ ver.~
8. 漢 -the man-
9. Japanese in Bhutan feat. unknown singer in Bhutan(名前の分からないブータンの歌手) 
10. 紅のN ~バトスピ団 ver.~
11. バトスピ団 とWNによるトークショー(日本語)
12. 二代目ペルセウス ~Spanish ver.~
13. Ending (G3による閉会式)


 ファンであれば、もう買うしかないラインナップですよ!
 近日、もう一つのアルバムの収録曲も明らかになるようですし、もうWNから目が離せません!!

 それじゃ!



(以下、ハヤオ関連です。)

 ブログのアクセスがWNよりもハヤオの方に集中するって変だよ!どうなってんだかさぁ~

 ちなみに大幅に遅れている『返報』第14回ですが、パート3の半分まで終わってるそうです(ハヤオ談)。ゆえに来月から少しだけ公開しようと思います。

 14-1:10月13日(金)/14-2 : 10月20日(金)/ 14-3 : 10月27日(金)

 14-4 : 11月10日(木)/ 14-5 11月17日(金)

となる予定で書いているそうです。勿論、期待はしないでください。

 終わり方はクソつまらないです。だから、もう読まない方が無難です。本当に…
 
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待望のアルバムッ!! [News]

 以前報告したWNの新アルバムですが、タイトルが発表されました。

 一つは『World Tour: Best Collaboration Songs』というタイトルで、今回のワールドツアーでコラボした海外アーティストと作ったアルバムのようです。

 そして、二つ目は『Eternal Love: Greatest Hits』です。これはWNと「Dakahee(ダカヒー)」の伝説的なデュエット曲とWNを一躍有名にさせた名曲を収めたアルバムになるようです。権利の問題で発売不可と言われてたアルバムなので、かなりレアのものになるかもしれません。

 ファンであれば、すぐにでも手に入れたいアルバムですよね?みんなも急いで予約しよう!

 それじゃ!



(以下はハヤオ関連です。)

 かなり遅れている『返報』ですが、ハヤオはやっとパート2を書き始めたそうです。

 そこでハヤオは応援してくれている人々に向けて、無法地帯となっているWNの裏ブログに第14回のパート1の序盤を公開することにした模様です(売れてない映画のオープニングをテレビで流すのに似てますよね?)。

 完成の時期は不明ですが、現在のところ全5パートで書いています。

 戦闘シーンの動き(これにかなりの時間を使ってるんです)も決まり出したので、急げば10月に全部公開できるかも?
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2つの新アルバムッ!!? [News]

 いや~体調不良で何もできてなかったです。はい。

 WNは特に何のトラブルもなく、ワールドツアーを終えて帰国しているようです。おそらく、前回の公演で懲りたのでしょう…

 そんな彼らも新アルバムの制作で忙しいらしいです。G3のインスタ投降によれば、新アルバムは2つ存在するそうです。1つはワールドツアー先で収録した物、もう一つは来週明らかにされる予定とのこと。
 創作意欲が湧いたのか、それとも何か問題を抱えたのか、WNの活動がとても活発になってファンにとっては嬉しい限りです!

 続報が入り次第、ブログで報告したいと思います。

 それじゃ!



 (以下はハヤオ関連です…)

 『返報』の第14回ですが、まだパート1も終わってません。

 彼の体調は私よりも良かったのに、書くよりも『ゲーム・オブ・スローンズ』の新シーズンを見ていたようです。まぁ、あのドラマはハマる要素が多いので分からない訳ではないですが~来月公開を予定していたにも関わらず、完成に程遠いとは…かなりヤバいですな。はい。

 ゆえに第14回は来月の下旬または来年1月まで延期になると思います。一応、B級映画並みの草案もできて、結末も用意できたので、あとはハヤオの書く速度によりますね。

 これについても、詳細が判明次第、ブログで報告します。でも、誰も待ってる人もいないだろうから、突然の公開も有り得るかも…
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新企画!!? [News]

 ブータンに到着したWNですが、事務所から注意を受けた影響で無茶はしなくなったようです。

 そんな中、G3が新アルバムの作成を発表し、その大半がツアーで回った土地でレコーディングした曲らしく、ものすごくユニバーサルな作品になるそうです。タイトルは不明ですが、G3によれば、今までは少し違った曲作りをしたとツイートしています。

 もしかすると、現地の有名アーティストとのコラボとか、テクノな音楽を入れるとか、思い切ってボーカロイドの導入とかですかね?

 このアルバム発表の他に、彼らの所属事務所であるTPs(テクニカル・ピクチャーズ)がワールドツアーのライブDVD発売も進めていることを明らかにしました。

 どのような形式で発売するかは分かりませんが、ファンであればすぐに予約するしかないでしょ!

 今回はこれまで…

 それじゃ!



(以下はハヤオ関連です。)


 第14回ですが、原案が完成しておらず、ハヤオは2ページしか書いてないとほざいてます。

 つまり、公開の次期がズレる可能性があります。こんなことなら、打ち切っとけば良かったですよね?まだ遅くないので、ハヤオ関連の記事を読まないよう共に頑張りましょう!

 まぁ、この調子で行けば、仮に公開することになれば…、9月の2週目にパート1と2を同時に公開するかもしれないですね…まだ確定ではないので、10月を跨ぐかもしれません。

 できれば、打ち切りたいものですよ…
 


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追記<Z>その2:打ち切りま… [余談]

 三連休が終わっての火曜ってツラいですね。はい。

 さて、『返報』の第13回が終わって様々な反応を頂きました。ありがとうございます。

 一応、この回で物語の全体像が見えたと思います。物語の端々に出てきた佐藤の電話相手は「三須」と「守谷」だったわけです。彼らは菊池の仇を討つために動いているらしいですね。

 今まで隠れていた彼らも第12回では姿を現し始めたので、みなさんなら結末が予想できるでしょう。

 13-6と13-7は、ハヤオ曰く、2日で書いたそうですね。ゆえにいつも以上の矛盾や不思議な場面展開が多かったのです。それに当初の長さは合計で40ページで、かなりカットしまくりました!

 原案では基地の動きや個別のグループの戦闘描写もありました。それに藤木と中島のやり取りも長かった…

 まぁ、ここまでカットしたら打ち切りにできると思ったんですよぉ~

 結論ですが、『返報』は打ち切りになりま~~~~す。










 となれば良かったのに、WNの評判を下げたがる勢力によって「継続」になりました。

 ゆえに第14回(最終回)を9月頃に公開します。

 5パートで作る予定になっており、9月1日から5週連続で公開する予定を組んでます。

 『返報』はこれで終わりますが、ハヤオはスピンオフも書く準備をしてるので、このブログはもう消滅する運命のようですね。

 悲しい限りです…


 
 

返報 13-7 [返報]

13-7





 何も起こらなかった。

 確かに菊地は引き金を引き、撃鉄も落ちた。しかし、弾は発射されなかった。

 大学教授がもう一度引き金を絞ろうとした時、西野が素早く菊地にタックルして転ばし、銃を奪い取ろうとする。初老の老人は背中を強打したが、銃を守ろうと必死に抵抗した。

 その時、守谷が西野の右足首を掴んで菊地から引き離した。潜入捜査官は突然のことに驚いたが、すぐに左足を突き出して左腕を被弾した男の右腕を蹴った。それでも守谷は怯まずに西野を菊池から引き離すと、右踵を捜査官の腹部に叩き込んだ。激痛によって西野の肺から一気に空気が飛び出し、両手で腹部を庇いながら体を右によじった。

 菊地信弘は北朝鮮製のマカロフの遊底を引き、不発弾を弾き出して再び銃口を西野に向ける。一方、大学教授が銃を向けようとしていた時に西野は落としたSIG拳銃を見つけ、守谷の踵落としを回避すると同時に右へ回転し、そして、拳銃を取った。
 
 慎重に狙って撃ったにも関わらず、菊池の銃から放たれた銃弾は西野を捕らえることができなかった。彼はもう一度西野へ向けて発砲しようとする。だが、守谷が捜査官に接近したために引き金にかけていた指から力を抜いた。

 守谷が接近するのを見ると、西野は銃を敵に向けて引き金を引いた。しかし、狙いが甘く、3発の内2発が額に傷を持つ男の左肩上の空気を切り裂き、最後の1発が守谷の左肩を捕らえた。ここで拳銃の弾が尽きた。

 左腕から血を流す守谷は雄叫びを上げて西野に襲い掛かり、右手で捜査官の首を絞めた。男の力は強く、酸素を求める西野がいくらもがいてもビクともしない。咄嗟に捜査官は弾の切れたSIGの銃床で守谷の額を殴った。この攻撃で塞がっていた額の傷が開いて血が噴き出し、西野の首を絞める手の力が少し緩んだ。捜査官は再び銃床で男の額を殴った。今度は先ほどよりも力を込めて殴り、傷口から飛び出した血が西野の顔に降り注いだ。守谷は呻きながら後退し、額から落ちてくる血によって視界を奪われた。

 次に西野は弾の切れたSIGを菊池に投げつけ、距離を縮めると菊地の拳銃を無理矢理取り上げた。そして、大学教授の腹部に向けて2度撃ち、続いて血を拭って目を開けようとしている守谷に銃口を向けて2度引き金を絞った。菊池はその場に座り込み、守谷はバランスを崩して転び、その際に後ろへ転がりながら輸送機から落ちた。

 素早く西野は操縦席へ銃を向け、一言も警告を発せずに操縦者の頭に1発の銃弾を叩き込んだ。操縦士の血が窓と計器に降り注ぐ。

 続けて副操縦士の頭を撃ち抜こうとした時、菊池が立ち上がって学生を守ろうと右手を銃口の前に伸ばした。捜査官の発砲した銃弾が菊池の右人差し指と中指を吹き飛ばし、これによって弾道が逸れて計器に命中した。輸送機は離陸体勢に入っていたが、操縦士の死と副操縦士の混乱がそれを困難にしている。

 潜入捜査官は大学教授を押し退けて副操縦士を撃った。撃たれた学生は即死し、床に叩きつけられた菊池は虫の息であった。

 操縦士を失った輸送機であったが、死体が操縦桿を左に傾けたために急激に傾き、そのまま基地にあった建物に激突した。




















 「この一件は火災事故にすべきだろう…」

 内閣総理大臣が突然口を開いた。それまで彼は閣僚たちの話しを聞いているだけで一言も発していなかった。
 
 閣僚やその場にいた関係者はただ唖然としていた。彼らは数時間前に自衛隊基地で起こった出来事について話している。
 
 「しかし、総理…」官房長官の小田完治が右隣にいる異常なほどに痩せこけている総理大臣に言う。「これほどの事となれば…」
 
 「下手な混乱を生むのは良くないだろう。違うか、小田?」

 「この件を隠蔽することは不可能かと…それにこれは公表すべきことです。」

 総理が小田の方に体を向けると机に左肘をついて身を乗り出した。「お前、これが絶好のチャンスだと思っているだろ?」

 小田は目の前にいる男が言っていることが理解できなかった。それは他の閣僚たちも一緒であった。

 「対テロリスト機関…」総理が自分の椅子に戻る。「これを作るには絶好の機会だ。それにお前、この事件が起きる前に何かコソコソしていたな。お前、何か知っていたんじゃないか?」

 室内にいた全員の目が小田に集まる。小田は心臓が縮まるような感覚に襲われたが、表情を変えずに総理大臣から目を離さなかった。

 “公安に通報したのが漏れたのか?しかし、それだけでは―”

 突然、総理大臣の顔に笑顔が広がった。「冗談だよ。」

 室内を満たしていた張り詰めた空気がこの一言で薄くなり、小田は笑みを総理に返すと机の上に置かれた書類挟みへ視線を戻した。

 “どうやら違ったようだ。”

 「個人的に…」総理が再び口を開く。「君の案には賛成だよ。アメリカも賛成している。他の国々も。でも、対テロ機関を公のものにすることには反対だ。こういうものはできるだけ、秘密にすべきだ。」

 「しかし―」小田が総理の話しを遮る。

 総理が官房長官を睨みつけた。

 「私は君の案を進めるつもりだ。しかし、国会では話し合わない。野党は確実にこれに反対するだろう。それに私はもうすぐ引退する…」

 “そういうことか…”総理の意図を読み取った小田は口を噤むことにした。“全て私に負わせるのか…”








 菊池たちが引き起こしたテロ攻撃は、「自衛隊基地で発生した火災」として報道された。

 しかし、近隣住民は爆発音と銃声を耳にしており、それらの情報はソーシャルメディアを通じて広く日本、そして、世界中に伝わった。

 政府は野党とマスメディアに追及されたが、「爆発音と銃声のようなものは、火災によって生じた音であって、まことしやかに囁かれている自衛隊とテログループによる戦闘ではない」と否定した。その後、数か月に渡って報道されたが、世間の関心事は別のスキャンダルへ移り、この自衛隊基地攻撃は次第に人々の記憶から薄れて行った。

 ここまでが表向きの話しである。

 事件後、防衛省はすぐに警察庁を責め、基地内への警察関係の立ち入りを拒否した。この対応の背景には公安警察主導の潜入捜査があった。

 航空自衛隊入間基地で潜入捜査官だと名乗る男が拘束されたことが発覚すると、防衛省は警察庁の怠慢に怒りを覚えた。彼らは警察庁がテロ攻撃と潜入捜査の情報を共有していれば、防げた事件だと信じて激しく抗議した。

 一方の警察庁は防衛省の主張を否定した。事実、彼らはテロ攻撃の情報を掴んでいたが、その標的までは掴んでいなかった。ゆえに潜入捜査官を2名送り、詳細な情報を入手しようとしていたのだ。しかし、テログループの警戒心の高さと妨害があったために攻撃標的を事前に知ることができなかったと報告した。

 防衛省は警察庁の報告を詭弁とし、入間基地の捜査から警察を排除しようとして両者の間で激しい言い合いが始まった。だが、政府からの要請もあり、両機関は表面上捜査協力を約束し、争いに終止符を打つことにした。








 「吉崎美由紀さんはいますか?」

 受付にいた女性が顔を上げると、短髪に髭面の若い男性が見えた。髪は短く整えられているのに、顔の半分が髭で覆われている。その男は埃を被った灰色のネルシャツと色褪せたジーンズを身に纏っていた。

 「どちら様ですか?」若い受付担当の女性が作り笑いを浮かべて尋ねた。

 「西野、西野史晃です。」

 「ご用件―」

 作り笑いを浮かべながら女性が尋ねようとした時、彼女の隣にいた先輩らしき女性職員が西野顔を見て口を開いた。

 「吉崎さんは亡くなりましたよ。」

 西野は目を見開いて30代半ばに見える女性職員の方を向いた。

 「先月のことですよ。知らないん―」

 学生として大学に潜入していた男は眩暈を憶え、女性の声を聞く余裕もなかった。

 “美由紀が死んだ…?”








 棺の中で横たわる三浦大樹の顔は綺麗に整えられていたので、誰も彼の顔に薄く残っている切り傷や内出血に気付くことはなかった。

 大勢のSAT隊員や同期の警察官も忙しい中、三浦の葬儀に駆けつけてきた。その中には中島とその家族も含まれている。しかし、弟の様に可愛がっていた後輩の死を中島はまだ受け入れられなかった。

 “まだ何所かで生きているに違いない。きっと、あの人懐こい笑顔を浮かべて戻ってくる。これも捜査の一部だ…”中島はそう思いたかった。

 「ねぇ、お父さん…」5歳になる息子が中島の左手を引いた。「三浦の兄ちゃん、何で寝てるの?」

 後輩の死を受け入れたくない男は息子の問いに戸惑い、それと同時に込み上げてくる涙を必死に抑えた。

 「お兄ちゃんは…」声を出すと涙が出そうになり、中島はここで言葉を飲んだ。そして、自分でも認めたく言葉を口にした。「お兄ちゃんは、天国に行ったんだよ…」








 『今の自分』に嫌悪感を抱く西野は吉崎美由紀に会えば、『昔の自分』に戻れると思った。再び彼女と一緒になり、新しい職を見つけ、結婚し、子供を授かり、一緒に年老いて幸せに暮らしたかった。彼は『普通の人生』を送りたいのだ。

 “事情を話せば分かってもらえる…”西野はそう思った。“警察官を辞めれば、もうあんな連中と関わることもなくなる…”

 しかし、吉崎美由紀はもうこの世にいない。西野が潜入捜査後に抱いていた希望の光はもう存在しないのだ。

 西野は愛した女性の死因を探った。皮肉なことに彼が潜入捜査官になる際の訓練が、この調査の役に立った。まずは吉崎美由紀の死に関する情報を探し、地元新聞紙に書かれていた「女性会社員の自殺」に関する記事で彼女の名前を見つけた。小さな記事であったために詳細なことは書かれていなかったが、死亡した場所と日時は特定できた。

 次に彼は公開されている吉崎のSNSを隈なく調べた。投稿された文章、写真、動画などに目を通して手掛かりを探すも、特に目立ったことは何もない。また、SNSで見つけた投稿の大半が食事や友人たちと遊んでいる写真と動画であった。

 “美由紀は自殺するような人じゃない…”

 吉崎が登録しているSNSサイトで西野は適当な名前でアカウントを複数作成し、新聞記者やアンケート業者を偽って吉崎美由紀の友人たちにスパイウェア付きのメッセージを送った。これでメッセージを開けば、スパイウェアが作動して開封者のデータを見ることができる。意外と引っ掛かる人が多く、その中には新聞記者を装ったメッセージに真摯に答えてくれる人もいた。

 この調査で分かったことは、吉崎美由紀が上司の角田陽平という男に迫られていたということであった。西野はすぐに角田を調べ上げ、彼の携帯電話とパソコンをハッキングし、吉崎に繋がる情報を求め、元警察官は見つけた。吉崎からのメールは削除されていたが、彼自身が送ったメールの方はあまり手が付けられていなかった。

 西野はすぐに送信メールをコピーして読み、角田が執拗に吉崎を食事や飲みに誘っている事実を見つけた。吉崎の友人や同僚たちから似た話しを得ていたので、このメールはその情報の裏付けとなった。それに角田陽平は警察からも容疑者として目を付けられていたので、西野は彼が犯人だと断定した。

 既に標的の行動確認を終えていた西野は、角田の帰宅時間が迫るとすぐに彼の自宅に電話をかけ、角田陽平が病院に運ばれたと電話に出た男の妻に嘘を言った。そして、その数分後に子供を連れた角田の妻がマンションから飛び出してきて、タクシーを拾うのを西野は見た。タクシーが見えなくなると、元警察官は落ち着いた足取りで角田一家の住む部屋に向かった。








 「この二人か…」机に置かれた2つの写真を見て小田が呟いた。

 官房長官の前に座る杉本哲司は何も言わず、彼が並べた西野と三浦の顔写真を一瞥した。

 「二人は…今どこに?」写真から顔を上げて小田が尋ねる。

 「一人は亡くなり、もう一人は行方不明です。」杉本が最初に三浦の写真を、次に西野の写真を指差して答えた。

 「遺族に死因を告げたのか?」

 「いいえ。機密情報であるため、訓練中の事故死という扱いにしました。また、三浦巡査部長の交際相手であり、死亡した高橋恭子は別件で事故死になっています。」手元に置いていた書類を見ずに杉本が言った。

 「もう一人の行方不明の方は?」

 「行方不明と言いましたが、既に発見して部下を派遣しています。」

 「彼を引き入れる予定なのか?」小田が口を「へ」の字に曲げて訊いた。

 「はい。」頭に白髪が混じっている杉本が頭を縦に振った。「残念ながら、彼はもう“こちら側の人間”です。それにこれは彼のためです。」

 「本当にそう思うか?」官房長官は疑いの目で杉本を見た。

 「彼は生きる“目的”を失い、いずれ自殺を試みると思います。私は彼に新しい目的を与えたいのです。そうすることが、彼のためだと思います。」








 海辺にある公園で西野はベンチに座っていた。

 街は黎明の色に染まっており、たまにカモメや鴉の鳴き声が聞こえてくる。西野はその鳴き声を無視して波の音に耳を澄ませていた。彼の視界に入るのは海と転落防止用の柵しかない。古びたジーンズから彼はポケットナイフを取り出した。

 “これでいいんだ…”

 「ちょっと若すぎるんじゃないですかね?」

 紺色のコートを羽織った男が西野の隣に座った。西野は驚いてナイフを落としそうになった。

 「いや~、いい場所ですね。東京にもこんな場所あればいいのに…」男は銀縁眼鏡をかけており、コートの下にはコートと同じ色のスーツを着ている。

 「誰だ?」

 「私ですか?」

 男はコートの内ポケットから名刺を取り出して西野に見せた。名刺には『日本交通保安協会 藤木孝太』と書かれていた。

 「自己紹介はこんなもので…少しお話しをしませんか?」

 「話し?」

 「そうですよ。あなた、自殺しようとしてたでしょ?もったいない!命は大事にしないといけませんよ。」

 男の話し方に苛立ってきた西野は立ち上がった。

 「あなたが自殺を選んだら美由紀さんが悲しむと思いますよ。」銀縁眼鏡の男が呟く。

 これを聞いた西野はベンチに座る男を睨みつけた。

 “当たりだ!”藤木は自分を睨みつけている男を見てそう思った。

 「話しを聞いてくれるつもりになりましたか?」

 「その名前をもう一度言ってみろ―」

 「『殺すぞ!』ですか?」藤木が西野を遮って言った。「私がここに来た理由はあなたとケンカするためじゃないですよ。大切な人を亡くしたのはあなただけじゃない。」藤木の脳裏にある男の姿が浮かんだが、すぐに気持ちを切り替えた。「座ってくださいよ。そうじゃないと、変な奴らが出てきますよ。」

 藤木の言葉を聞いて西野はようやく囲まれていることに気付いた。3メートル前方に一人スーツを着た男、5メートル先の背後にもスーツ姿の男が一人。西野は大人しくベンチに座ることにした。

 「ありがとうございます。早速ですが、本題に入りたいと思います。あなたの経歴を読ませてもらいました。私の上司はあなたを非常に気に入っていて、できれば明日からでもあなたに働いてもらいたいと言っています。」

 「人違いだろ?俺は―」

 「西野史晃さん。元巡査部長。一年の潜入捜査後に辞職。その後は行方不明…となってましたが、意外とすぐにあなたを見つけることができました。」

 「天下り機関が元警察官に何の用だ?もっと補充すべき役人がいるだろう?」と西野。

 「ただの天下り機関だったら、あなたをスカウトするために東京からわざわざ来ませんよ。」

 「だったら何だ?」

 「秘密です。もし、こっち側の人間になれば全てを教えることができます。」

 「詐欺師にしては手口が下手だな。」

 藤木が笑みを浮かべた。「国家機密をそうそう漏らすことはできません。それにあなたを騙すつもりなんて微塵もない。」

 「じゃ、何が目的だ?」

 「目的はあなたをスカウトすることです。」

 「違う。俺が聞いているのはお前らの魂胆だ。」

 「『魂胆』…」銀縁眼鏡の男が西野から海へ視線を移動させる。「西野さん、あなたなら分かると思いますよ。」

 「話しをはぐらかすな。」

 「してませんよ。では単純に言いますと…この国はもう安全ではないんです。あなたも知っているでしょ?」

 西野の脳裏に菊池信弘や三須たちの顔が浮かんだ。

 「それに…頭の狂った連中のせいで、誰かが泣くところなんて見たくないんですよ。」

 西野は何も言わなかった。しかし、彼は藤木の意図を理解していた。

 “対テロ機関を新たに創設しようとしているのか…”

 「この国はあなたのような人を求めています。私と一緒に東京に来てくれませんか?」

 古びた服を着た西野は無言のまま海を見続けた。

 藤木はコートのポケットから携帯電話を取り出し、西野が来ているネルシャツの胸ポケットにそれを滑り込ませた。

 「返事は次回でも結構です。その携帯に私の番号が入っているのでいつでも連絡できます。良い返事を期待しています。」そう言って藤木がベンチから立ち上がる。

 「ちょっと待て!」公園から立ち去ろうとした藤木を西野が呼び止める。「俺は無理だ。もう俺は…そっち側の人間じゃない…」

 「それを決めるのは私の上司です。あなたじゃない。あなたが誰を殺して山に捨てたことなんて、私にとっては別に問題じゃない。それに…」藤木が西野に近づく。「部下を強姦し、妊娠したことを知るなりビルの屋上から突き落とした人が消えたって…困る人は少ないでしょ?」

 「何で―」

 「ご安心を。私はあなたの味方です。人間誰しも頼れる人間が必要ですよ、西野さん。私はその内の一人です。」















 全てを話し終えると、藤木は溜め息をついた。

 “喋りすぎたかな?”

 話しを聞いていた中島は砂場で遊ぶ娘を見守っていたが、隣に座る男が口を閉じると視線だけを藤木に向けた。

 「残党狩りはいつだ?」SAT隊員の声は落ち着いていた。しかし、彼の胸は高鳴っている。

 「話しを聞いてなかったんですか?あなたはこの事件に関わるべきじゃない。」

 「お前に止める権利も義務もないだろ?」

 「ありますよ。」ここでネズミ取りの捜査官は口を閉じた。「これ以上、知り合いを失くすのはツラいですよ…」

 これを聞くと中島は鼻で渡った。「まだ隠し事があるみたいだな…」

 「まぁ、それは次回にしましょう。」ベンチから藤木が立ち上がった。「もし…もしも、奴らと対峙することになったら…その時は分かってますよね?」

 「分かってるよ。」ネズミ取りの捜査官を見ずにSAT隊員が返事した。言い合いを避けるために言ったことであり、本心では別のことを考えていた。

 “対峙することになれば、その時は全力でぶっ潰す…”




















 目覚めると、天井に広がる大きな黒い汚れが見えた。室内はカビ臭い上に肌寒くて薄暗かった。

 守谷は起き上がろうとしたが、左腕と腹部に走った激痛で上体を起こすこともできない。仕方なく頭を動かして室内の様子を調べた。畳三畳分の部屋で彼が横たわっているベッドしか家具はなく、天井から小さな豆電球が1つぶら下がっている。

 彼から見て右側にあるドアが開き、三須が入って来た。目覚めた守谷を見るなり三須は口元を緩めて友人に近づいた。

 「起きたか?」

 「あぁ…ここは?」

 「病院だよ。違法な病院だけど…お前は運が良いよ。無理を言って中田に戻るように言い、車で滑走路に侵入しようとした時に道路の真ん中で倒れていたお前を見つけた…」

 「先生はどうなった?」守谷が右肘をついて身を乗り出した。彼の額は包帯で巻かれており、傷のある部分が少し赤く染まっている。

 「あまり動くな。傷はまだ塞がってない。」

 「答えろ!先生はどうなった!?」声を荒げると、腹部に激痛が走って守谷は再び横になった。

 「先生は…亡くなった…」三須の声には落胆の響きが含まれていた。「輸送機の操縦ミスだろう…政府はあれを火事と言って―」

 「操縦ミスじゃねぇよ。あれは小林のせいだ…アイツも裏切り者だった…」

 「どういうことだ?」

 「小林がいきなり格納庫にやってきて撃ってきた。俺と寺尾を撃ち、先生にまで襲い掛かった…奴も警察の手先だったんだ…」

 三須は信じられなかった。彼は西野を非常に信頼しており、心強い味方の一人だと思っていた。

 「本当に小林だったのか?」大学院生は守谷の間違いだと信じたかった。

 「確かだ。アイツと殴り合い、撃たれた…お前も俺の傷を見ただろ?これは小林の仕業だ!」

 信頼する友人の言葉を聞いて三須は色々と考えを巡らせた。

 “事実を確認する必要がある…”

 「何を考えてる?今すぐに仇を―」

 三須が右手を上げて守谷を制した。「感情的になるな。そこがお前の欠点だ。」

 そう言われて守谷は口を噤む。

 「仇は取る。だが、その前に準備が必要だ。今まで以上の準備が…」

 「何か考えがあるのか?」

 「ある。だが、時間が掛かる。」

 「もたもたしてる時間はないぞ!」

 「分かってるよ。」半ば呆れ気味に三須が言った。「大丈夫。奴らにはちゃんと報いを受けさせるさ…大きな報いを…」

安定のWN! [News]

 以前、WNのリードボーカル『N』がキューバで逮捕されたかも…と書きました。しかし、ガセネタであることが判明しました。

 あまりの騒動にWNのリーダーであり、ラッパー、そして、孫を深く愛する『G3』が公式サイトで詳細を報告していました。内容は、ライブにNそっくりの現地スタッフ(影武者とも言われている)を全裸でステージに上げた結果、会場にいた“にわかファン”が通報して、その現地スタッフが逮捕された、というもの。

 いつも悪ふざけで逮捕者を出すなんて、やっぱりWNは安定してますね!

 彼らはワールドツアーの最終目的地「ブータン」に行くそうです。楽しみですね!

 また、ファン向けにこのツアーのドキュメンタリーが制作されているそうです!!詳細が分かり次第、ブログに書きます。

 それじゃ!



(以下はWNファンには関係ないです。)
 『返報』13-7を明日公開します。
 第13回のトータルアクセス数が基準を満たせば、第14回の公開が決まるかもしれないです。ゆえに読者の方々は『返報』をできるだけ避けてください!あなたのいたずらなアクセスがWNの不幸に繋がりますよ。お願いします。

返報 13-6 [返報]

13-6







 三須に付き添われてトイレから戻ってきた西野は、水で満たされたバケツに携帯電話を放り込む複数の男女を目撃した。

 「あれは?」三浦の死からまだ立ち直れていない西野が三須に尋ねた。

 「準備だよ。計画が早まってね…」

 この言葉に西野は驚き、心臓が激しく動悸した。

 「早まった?」

 「君も見ただろ?あのネズミのせいで、先生が計画を明日の夜に早めたのさ。」

 “大原さんに知らせないと…”

 西野がそう思っていると、守谷が近づいてきた。

 「お前の携帯もバケツに入れろ。」

 「SIMカードを抜いてもいいか?大事な連絡先が―」

 「連絡先なんてどうでもいい。ぶつぶつ言ってないで、早くしろ!」

 守谷に怒鳴られて潜入捜査官は渋々スマートフォンを上着のポケットから取り出し、それをバケツに満たれた水の中へ落とした。沈んで行く携帯電話を見つめていると、三須が西野の左肩に手を置いて潜入捜査官に微笑みかけた。

 「何事にも犠牲は付き物だよ、小林くん。それにデータなら、あとで簡単に修復できる。」

 三須の慰めを聞いても西野は何も言わなかった。彼は連絡係との緊急連絡先を思い出すのに必死だった。始まりと終わりの数字は憶えているが、真ん中2桁の数字が思い出せないのだ。

 「先生が来たぞ。」守谷が三須と西野に呼びかけた。

 「菊地先生に会うのは初めてだったよね?」三須が西野に訊く。

 「はい…」潜入捜査官はまだ電話番号を思い出そうとしている。

 「緊張しなくても大丈夫さ。」西野の表情を見て三須が言った。「先生はとてもいい人だよ…」








 潜入捜査官からの連絡が途絶えて二人の連絡係は動揺し、机に置いている携帯電話を凝視することしかできなかった。

 「正体がバレたのか…?」三浦の連絡係である山中が呟いた。

 「いや…」大原が首を横に振る。「45分前までは西野と連絡が取れていた。」

 「その後に捕まったかもしれないだろ!」山中が声を荒げた。

 「分からない。もう少し待ってみよう。」

 「係長に連絡した方が良さそうだ。問題が大きくなる前にしないと…」三浦の連絡係は頻りに体を震わせていた。

 大原は同僚の状態の方が心配だった。

 「もう一度、西野の位置情報を確認してみないか?」と山中。

 「無駄だと思うが…」

 「やってみる価値はあるだろ?」

 「わかったよ…」大原がスラックスのポケットからスマートフォンを出した。








 学生たちは半円を描くようにして菊池信弘を取り囲み、大学教授の言葉に耳を傾けていた。

 「これから6つのグループに分かれてもらい、それぞれ別々の場所で車を借りてもらう。」

 「目的地は何所ですか?」と学生の一人が尋ねた。

 「埼玉県の入間市だ。」守谷が菊池の代わりに答える。

 「何故、早まったんですか?」別の学生が菊池に向かって訊く。

 「準備は既に整っていた。そして、もう待つ必要は無いと思ったからだよ。」大学教授は三浦の件を言わなかった。学生たちが警察の潜入捜査を知れば士気が下がると思ったのだ。「詳細は後でGメールの下書きに書き込んでおくので、各自で確認して欲しい。」

 “Gメールの下書き?”西野はその存在を知らされていなかった。

 彼がメールアカウントの存在に疑問を持っていると、三須が黒いゴルフバッグ2つを菊池のいる机の前に置いた。

 「各グループに同じゴルフバッグを2つずつ持って行ってもらう。一つには普通のゴルフグラブ、もう一つには武器と簡単な銃器の取扱説明書が入っている。」菊池がゴルフバッグを指差しながら説明する。「私からは以上だ。健闘を祈る…」

 大学教授がその場を後にすると、三須が菊池のいた場所に立った。

 「これから少額だが、活動資金を渡す。それで乗り物を借りるんだ。」上着の内ポケットから三須が6つの封筒を取り出して机の上に並べた。「それから無線機も提供する。周波数はGメールを確認してくれ。」

 「Gメールのアカウントを知らないんですが…」と西野が声を上げた。

 「すぐに教えるよ。」と三須。








 大原がスマートフォンから顔を上げ、答えを待っている同僚を見た。

 「ダメだ。全く反応がない。もしかしたら、電源を切ってるかもしれない。」

 「やはり捕まったか…」冷や汗を額に浮かべている山中が言う。
 
 「分からない。それに三浦の安否だってまだ―」

 「三浦は捕まったさ!あの連絡は救助要請だった!三浦は捕まって殺されたに違いないッ!そして、彼が西野のことも話せば、西野も捕まって殺される…」

 山中の叫びに大原は動揺した。“ありえるな…”

 「係長に連絡して三浦と西野が言っていた連中の拠点に乗り込もう。そうすれば、十分な証拠も掴めるはずだ!」

 “できれば避けたいことだが…”

 「分かった。係長に連絡して連中を捕まえるか…」大原が再び携帯電話に目を戻し、番号を入力し始めた。








 6つのグループが編成され、西野は『野坂』という男が率いるグループに入った。この班には他に『小出』、『糸井』、『大久保』の三人がおり、彼らは西野と野坂同様に京都大学に所属している学生であった。

 潜入捜査官は隙を見て連絡係の大原に電話しようとバケツから携帯電話を取り出したが、それは既に壊れていた。彼は静かにそれをバケツに戻し、自分のグループへ急いだ。

 「糸井が車を借りに行った。アイツが戻るまで俺たちは待機だ。」坊主頭の小出が言った。彼は今日のために髪を切った。この男にとって散髪は気を引き締めるための行為なのである。

 「他のグループは?」周囲を見渡して西野が尋ねる。

 「それぞれ車を探しに行ったよ。同じ場所にいても怪しまれるだけだし…」大久保がスマートフォンを見ながら言った。

 「そう言えば…あの男は…どうなったんだ?」恐る恐る潜入捜査官が訊いた。

 「あの男?」と小出。

 「守谷さんに始末された奴か?」大久保が西野を見る。「アイツは女がいる場所に連れて行かれたよ。自殺したように見せるらしい。」

 “女…?”西野は何のことだか分からなかった。

 「あの男の他に誰か殺されたのか?」潜入捜査官が大久保に尋ねた。

 「何も知らないんだな…高橋って男は警察のイヌで、それの元締めが女警察官だったんだ。」

 “彼の連絡係は男性だったはず…殺された女性は何者だ?”

 西野は詳細な情報が欲しかったが、これ以上の詮索は疑惑を生むと考えて口を噤んだ。








 二人組の男は視線だけ周囲に配って警戒しながら10メートル先にある建物の裏口に近づいた。男たちは共に黒いスーツ姿でその下に白いシャツを着用し、ネクタイはしていない。

 彼らは裏口の横に立つと上着のボタンを外し、右裾を後ろへ押しながら腰のホルスターに触れた。そして、拳銃の銃把を掴んで静かに引き抜き、次に左手で上着の左ポケットに入れていた短い消音機を取って銃口に捻じ込んだ。

 「配置に着いたか?」男たちの右耳に差し込まれているイヤフォンから大原の声が聞こえてきた。

 「甲班、配置に着いた。」黒いUSP拳銃を腰に押し当てて待機している七三分けの髪型の男が応えた。拳銃とスーツの色が同色なので、遠くから見れば彼が銃を持っているとは分からない。

 「乙班、こちらも配置に着いた。」別の班の声がイヤフォンを通して聞こえてきた。こちらの班は正面入り口の付近にいる。

 「できれば発砲するな。三浦と西野の保護が優先だ。」

 「了解。」

 そう言うと、七三分けの髪型をした男が後ろを振り返った。彼は左手を顔の横に置いて指を三本立てた。男の後ろにいた眉毛の太い同僚はUSPの撃鉄を下ろしてカウントを見守った。

 3…2…1…

 ドアノブを回して先頭に立つ男が室内に侵入した。両脇をしっかり締めて銃を小さく構える二人は壁沿いに移動し、ドアがあると静かに素早く室内を確認して前進した。しかし、全く人気がない。室内には塩素の強い匂いが漂っている。

 進んで行くと二人は乙班と合流した。合流後、前進を続けると異臭が彼らの鼻を突いた。西野と三浦を探しに来た公安機動捜査隊のメンバーは異臭の発生源を求めて地下室へと進んだ。道中で彼らは強い消毒液の臭いを嗅いで咽そうになり、地下室のドアを開ける時には目に涙が溜まっていた。

 ドアの向こう側には首を吊った男性と血の海の中で倒れる女性の遺体があった。

 急いで七三分けの髪型の男が首吊り遺体の顔を懐中電灯で照らして確認する。顔が酷く腫れ上がっていたが、男は写真の顔を記憶していたので、それが保護対象者であることに気付いた。

 “遅かったか…”

 すると、眉毛の太い男が折り畳みナイフを取り出して三浦の首を圧迫している縄を切った。すぐに七三分けの髪型の男が三浦の死体をしっかりと掴んで静かに床に寝かせる。

 一方、乙班は三浦の交際相手であった高橋恭子の顔写真を取って大原に送信した。彼らは彼女の存在を知らなかったので、高橋がテロリストの仲間かと思った。

 「三浦大樹の遺体を確認。また、身元不明の女性の遺体も発見しました。」七三分けの男が大原に報告する。

 報告を受けて大原は言葉を失った。“やはり死んでいたか…”

 「零、聞こえていますか?」七三分けの男が尋ねる。大原たちのコードネームは『零』であった。

 「き、聞こえてる…」ようやく大原が口を開いた。「二つの遺体を運び出してくれ。先程の場所で合流しよう。」

 「了解。」








 6時間を超える長距離運転を経た菊池たちのグループは、二手に分かれて埼玉県の入間市と狭山市のビジネスホテルで準備を整えている。

 菊池と行動を共にする三須が大学教授の利用しているツインベッドルームにゴルフバッグを持って入って来た。彼は慎重に縦長の鞄をベッド横に置き、中に入っていた長い布をベッドの上に敷く。続けて三須は鞄の中から武器を取り出して、ベッドに敷いた布の上に並べ始めた。

 「私の分はいらないよ。」菊池がテレビの電源を入れて言った。これは銃器の可動テスト音を少しでも消すためであった。

 「しかし、拳銃だけでも―」

 「いらないよ。」

 これ以上言っても無駄だと思った三須は口を閉じて黙々と弾倉の込められていない武器を布の上に並べる作業を続けた。そして、全ての武器を並び終えた頃に行動を共にする4人の学生が二人のいる部屋に来た。彼らはベッドの上にきちんと並べられている武器を見て胸を高鳴らせた。

 “遂にこの時が来たんだ!”

 学生たちは割り当てられた銃器を手に取って動作の確認作業を行う。遊底を何度か引いたり、引き金を絞ったり、空の弾倉を出し入れするのが主な確認であり、分解して掃除をするようなことはしなかった。

 この作業を終えると彼らは空の弾倉に銃弾を詰め込み始めた。ロシア製のマカロフ拳銃を模した北朝鮮製の拳銃のように装弾数の少ない物であれば、比較的簡単に銃弾を詰め込める。しかし、AK-47を模造した中国製の56式自動歩槍やフィリピンで密造されたUZIのコピー品などはそう簡単に弾を込めることはできない。弾倉内のバネが強力なので、詰め込み作業中に右親指が赤くなって手を休める学生も多かった。

 武装の準備は他のホテルでも行われており、西野も共に行動する4人の男と弾倉に銃弾を詰め込んでいた。西野以外の男たちは短機関銃または突撃銃を求め、潜入捜査官は残っていたマカロフ拳銃を模した北朝鮮製の拳銃をあてがわれた。

 その後、準備作業を終えた学生たちはそれぞれの部屋に戻って眠ることにした。しかし、彼らは遠足前夜の子供のように緊張して眠ることができず、スマートフォンでGメールに書かれている計画書に何度も目を通した。

 西野はこれが最後の機会だと思い、室内に備え付けられていた電話で連絡役の大原に電話しようとした。大原の電話番号を頭の中で復唱しながら受話器に手を伸ばすと着信音が鳴り、潜入捜査官は驚いて伸ばしていた右手を引っ込めた。突然のことに西野は驚いて固まってしまったが、すぐに受話器を取り上げた。

 「もしもし?」と西野。

 「小林くんかい?」

 電話は三須からであった。彼は西野が所属するグループの野坂からメンバーの部屋番号を聞いており、各グループのリーダーたちと最後の会話も終えていた。

 「はい。どうしました?」

 「少し話せるかな?今、君のいるホテルのロビーにいるんだ。」

 「今から行きます…」そう言って西野は電話を切った。








 その頃、2台の白いバンが入間市に到着した。1台は守谷が運転しており、もう1台は中田という男が運転していた。それぞれ別のルートを使い、そして、予約した別々のホテルの地下駐車場にバンを停車させた。

 バンの積荷は硝安油剤爆薬ことアンホ爆薬であった。爆弾はプラスチック製の30Lサイズのドラム容器に入れられており、それは食器などの家庭用品が収められた段ボールの下に隠すように積まれていた。無関係な段ボールを積んだ理由は引っ越し業者と偽るためである。各バンに積まれている爆薬の数は10個、合計で20個である。三須と守谷はこれだけあれば、撹乱と防護柵の破壊ができると思っていた。

 目的地に到着すると、守谷と中田はチェックインを済ませて仮眠を取ることにした。








 「そんなに驚かなくてもいいだろ?」笑みを浮かべて三須が言った。

 西野と三須は潜入捜査官が宿泊するホテルの周辺を歩いている。三浦の一件から守谷は疑心暗鬼になっており、小林と名乗る男も警察が送り込んできたスパイだと思っていた。ゆえに彼は西野の動向を探るよう三須に頼んだ。

 大学院生は何度か角を曲がったり、カーブミラーを使ったりして不審人物を探したが、彼の注意を引くような発見は無かった。

 「ただ格納庫まで走り、先生たちと合流する。君のグループ仲間は囮だ。言うなら、磁石。彼らが注意を引いてる間に格納庫へ行く…驚くことはないだろ?」

 「彼らを見捨てろと?」西野が三須の横顔を凝視する。

 すると、三須が鼻で笑った。「そうじゃないよ。彼らの犠牲は必要不可欠ことだ…彼らは英雄になるんだ。そして、君もね…」

 「でも…」

 「心配いらないよ。小林くんは自分の心配だけすれば良いんだ。」

 しばらく二人は黙ったままホテルの周りを歩き、尾行確認を終えた三須は西野とホテル前まで移動した。

 「それじゃ…」大学院生が右手を上げて別れを告げ、背中を西野に見せた。

 「三須さん!」

 潜入捜査官が呼び止め、三須が振り返る。

 「絶対にやらなきゃならないことなんですか?」西野の声は震えていた。恐怖というよりも、それは怒りによって引き起こされた震えであった。

 三須は数秒間、西野の双眸を見つめた。大学院生の目には何の感情も浮かんでおらず、ただ潜入捜査官の正義感に燃える目を見るだけで何も言わなかった。西野が再び問い掛けようとした時、三須が右口角を少し上げて頭を縦に振った。そして、大学院生は自分の宿泊しているホテルへ戻って行った。
 
 西野は急いでホテルへ戻り、ロビーにあった公衆電話まで走った。財布から10円を取り出して暗記した大原の電話番号を入力する。周囲に目を配りながら潜入捜査官は受話器から聞こえてくる呼び出し音に耳を傾けた。機械音が永遠とも思えるほど西野の右耳に響き、急ぐ彼は左手人差し指で何度も灰色の公衆電話の頭を叩いた。ようやく「カチッ」という音が聞こえ、次に大原の声がした。
 
 「もしもし?」
 
 「大原さんですか?」西野が問い掛ける。
 
 これには大原も驚いた。「西野か?何所にいる?何があった?」
 
 「今、埼玉の入間にいます。携帯電話が―」
 
 「何やってんだ、小林?」

 話しに夢中になっていた潜入捜査官は周辺警戒を怠っていたため、背後から近づいてくる男の存在に気付けなかった。後ろを振り向くと、大量のお菓子と数本の1.8Lの炭酸飲料の入った買い物袋を持つ小出が見えた。西野は焦って受話器を元の位置に戻し、買い物帰りに見える仲間の方へ体を向ける。

 「母親に電話してたんだ。親父が入院してるから…」西野が適当な嘘を述べた。

 「そうか。大変だな…」小出はあまり西野の行動を気にしていなかった。「ちょうどいい。みんな、眠れそうにないから野坂さんの部屋にこれから集まるんだけど来る?菓子もあるよ。」坊主頭の小出が買い物袋を持ち上げて西野に見せた。

 「行くよ。」潜入捜査官は動揺を隠しながら言った。

 「みんな待ってるから急ごう。」








 “埼玉?入間?携帯?”

 大原は西野から聞きたい事が山ほどあったが、潜入捜査官からの電話は途中で切られてしまった。彼にとって西野から連絡は吉報であった。西野はまだ生きており、埼玉の入間市にいる。声のトーンから急いでいる感じはあったが、怯えている様子は感じられなかった。つまり、西野の偽IDはまだ有効である可能性が高い。

 「西野は何と?」山中が尋ねた。

 「埼玉の入間にいると言っていた…」大原が携帯電話を机に置く。

 「急いで行こう。まだ機捜の奴らもいる。」

 「だな…」








 深夜2時8分28秒。

 小熊が率いるチームは航空自衛隊入間基地の正門、『道上』という男のグループは稲荷山門の近くに車を停めて来たる時を待っていた。

 “あと2分…”

 それぞれが携帯電話で時刻の確認をして胸を高鳴らせ、銃把を握る手に力を入れた。

 2時9分00秒。

 小熊と道上が合図を出さなくても、学生たちは装備を持って車から降りた。各グループに所属する運転手はギアをニュートラルに入れてから車を降り、シートベルトでハンドルを固定すると座席の下に置いていた耐火煉瓦を手に取った。彼らのグループが持つ車はセダンタイプであって奇襲向きではない。しかし、彼らに別の車を用意する暇はなかった。

 2時9分37秒。

 各グループの運転手が再び車のギアをドライブに入れ、乗用車がゆっくりと進み始める。すると、運転手は車のドアを左手で抑えながら、重さ3.7kgの煉瓦を恐る恐るアクセルペダルの上に落とすようにして置いた。煉瓦の重さでペダルが押され、乗用車は加速して入間基地の門目がけて走り出した。

 2台の乗用車は別々の場所でほぼ同じタイミングで走り出し、風圧によって運転席側のドアが閉まる。これを見た小熊と道上を除く学生たちはポケットに入れていた手榴弾の安全ピンを抜き、乗用車が目的のゲートに激突すると手榴弾を車へ放り投げた。

 そして、手榴弾が投げられると同時に小熊と道上は発煙筒を着火させ、門に激突して動けなくなっている車の方へ飛ばした。手榴弾の破裂と同時に発煙筒が車の上に落ち、乗用車のトランクに積まれていたアンホ爆薬が爆発した。
 







 2時10分17秒。
 
 滑走路に面した道路で待機していた4つのグループが爆発音を耳にした。

 各グループは約70mの間隔を開けて待機しており、爆発音を聞くと一斉に学生たちは運転手を残して車から飛び出した。彼らの手には銃が握られており、外に出るなり遊底を引いて初弾を薬室に送った。

 一方、残された運転手はギアをニュートラルからドライブに入れてアクセルペダルを勢い良く踏み込んだ。4台の車は基地と道路の間にある金網フェンスに向かって突撃し、地面に埋まっていたフェンスを弾き飛ばして敷地内に侵入した。

 2時10分59秒。

 学生たちが切り開かれた入り口に向かって走り出した。

 拳銃を右手に持つ三須が仲間の後を追いかけようとした時、菊池に左腕を掴まれた。何事かと大学院生が振り返る。

 「君にはまだやる事がある。」

 そう言うと、菊池信弘はスタンガンを三須の胸に押し当てて電源を入れた。スタンガンからバチバチと電流の流れる音がし、大学院生は体を痙攣させて地面に崩れ落ちた。

 三須は尊敬する大学教授の顔を見上げ、目で「何故ですか?」と訴えかけた。

 「歴史には“証人”が必要なんだよ。」菊池は意識を失いかけている学生の手から銃を奪った。そして、大学教授は背後で待機していた中田という学生の方を向く。

 「三須と君はここから逃げるんだ。全てが終わった時、あの声明文を公開してくれ。」

 菊池の話しを黙って聞いていたプロレスラーのようにがっしりした体格の中田は、頭を縦に振って三須を右肩に担ぐとその場を後にした。








 2時11分00秒。

 爆発音とそれに続いて生じた銃声を聞いた自衛隊たちが応戦に出た時、西野の所属するグループが大久保の運転する車によって切り開かれた入り口に向かって走り出した。

 戦う気のない西野は拳銃をベルトに差し込んで仲間の後を追い、どのようにして彼らを止めようか考えていた。

 金網フェンスから10m程離れた場所で大久保が車を停め、走ってくる仲間と合流する。

 「発煙筒は?」長身の野坂が大久保に尋ねた。

 「お前が持ってんじゃねぇのか?」目を大きく開いて茶髪の大久保が問い返した。

 「持ってはいるが…」

 「じゃ、問題ないだろ!」

 野坂は大久保の態度が気に入らなかったが、ここで彼と争う気はないので渋々ショルダーバッグから発煙筒を取り出した。

 その時、彼らの顔を眩い光が襲った。

 「そこで何をしてる?」光の方向から声が聞こえてきた。

 西野たち5人が顔を照らす光を手で遮りながら、声の主を確認する。そこには懐中電灯と自動小銃を持つ自衛隊員が1人いた。自動小銃の銃口はまだ下に向けられており、西野たちをまだ脅威とは認識していない。

 しかし、襲撃者たちは違った。パニックに陥った小出は雄叫びを上げながら持っていたAK-47の模造銃を腰で構え、銃口を自衛隊に向けると引き金を絞った。

 異変に気付いた自衛隊は懐中電灯を落して地面に伏せ、素早く右へ回転して銃弾から逃れようと動いた。本物のカラシニコフ自動小銃に似た乾いた断続的な銃声と共に無数の銃弾が発射され、狙っていた隊員がいた場所の空気を切り裂いた。

 小出は銃が弾倉を食い潰すまで引き金を引き続け、標的が移動しても同じところばかり撃っていた。だが、他のメンバーはそれぞれ銃を構えて自衛隊員の後を追うようにして発砲した。

 数発が移動する隊員の腕や脚をかすめ、4発が防弾ベストに命中した。ここまでは致命傷に至るダメージを受けなかったが、彼が立ち上がろうとした時に再装填を終えた小出の自動小銃が再び火を噴いた。銃弾が右の腕と肩に命中して自衛隊員は突き飛ばされたように地面に叩きつけられた。

 止めを刺す機会であったが、西野を除く全員弾切れであった。彼らは急いで新しい弾倉を銃に入れようと動き始める。

 これを見た潜入捜査官は素早くベルトに差し込んでいた拳銃を抜き取り、手前にいた小出の背中に向けて3度引き金を絞った。反動によって拳銃が跳ね上がり、最後の1発は小出の後頭部を撃ち抜いていた。

 『菊池たちを止める』ことで思考が一杯になっていた西野の咄嗟の行動であった。

 菊池たちの無力化。それが彼の導き出した答えであった。

 背後からの攻撃に野坂、大久保、糸井が驚いて装填の手を止めて振り返った。

 躊躇することなく西野は銃口を小太りの糸井に向け、引き金を絞る。今度は反動を考慮して引き金を2度引いた。

 照星、反動、照星、反動。

 2つの銃弾は糸井の胸を捕らえ、被弾した男は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 突然の裏切りに激怒した大久保が、持っていた短機関銃を投げ捨てて西野に襲い掛かった。潜入捜査官は慌てながらも銃口を大久保に向けて引き金を絞る。初弾は接近する男の左肩をかすめたが、続けて放たれた2発目が彼の顎を、そして、3発目が左頬を捕らえた。怒りに燃えていた大久保は地面に倒れると同時に絶命した。

 ここで西野のマカロフを模して作られた拳銃の遊底が後退し、再装填の必要性を彼に伝えた。西野が予備弾倉に手を伸ばした時、何かが頭上の空気を切り裂いた。ふと顔を上げると、短機関銃を構える野坂が見えた。

 「この裏切り者がッ!」

 長身の男が引き金にかけた指に力を入れると同時に3発の銃声が聞こえ、西野を撃とうとしていた野坂がうつ伏せに倒れた。

 死を覚悟した西野であったが、突然のことに彼は状況が呑み込めなかった。しかし、野坂が倒れたことによって、彼の陰になっていた存在が潜入捜査官の目に映り込んだ。仰向けに倒れた状態で左手に拳銃を持つ自衛隊員がおり、その銃口は西野に向けられている。

 暗がりであったので互いの顔を見ることはできなかったが、西野は自衛隊員の鋭い視線を感じた。そして、潜入捜査官は弾の切れた拳銃を地面へ放り投げた。彼は撃たれても仕方のないところまで来てしまったのだ。

 菊池や三須をもっと早くに止めることもできたかもしれないが、彼は恐ろしくて連絡役に強い進言を行わず、許されるのならば逃げ出したかった。三浦を救う手立てもあったかもしれない。しかし、西野は何もしなかった。

 銃声を期待していた西野であったが、自衛隊員は黙って銃口を潜入捜査官に向けるだけで引き金を絞ろうとしない。彼は迷っていた。西野は敵であるが、自分の命を救ってくれた。しかし、逃がす訳にはいかない。

 多くの血を失った自衛隊員は疲れて銃を持つ左手を下ろした。銃を下ろしてはいけないが、腕が休みを求めていた。

 覚悟できていると思っていても、自衛隊員の動きを見て西野は安堵し、胸を撫で下ろした。

 その時、西野と自衛隊員は金属音を耳にして、音のした方を一斉に見た。そこには右手に手榴弾を持つ野坂がおり、彼は口から血を流しながらも不気味な微笑みを浮かべて潜入捜査官を見つめていた。そして、西野が伏せた瞬間に手榴弾が破裂した。

 奇跡的に潜入捜査官は手榴弾の破片を回避できたが、野坂の血と肉片を浴びた。血を見て西野は同じ潜入捜査官であった三浦のことを思い出し、激しい吐き気に襲われて咽た。

 “クソッタレ…”

 立ち上がって野坂の亡骸を見下ろした西野は心の中で悪態ついた。彼は思い出したように自衛隊員の所へ駆け寄り、この時になってようやく隊員の顔をはっきりと見ることができた。その自衛隊員は西野よりも若く、20または21くらいに見えた。

 若い自衛隊員は自分の右隣で両膝をつく西野を見るなり、左手で潜入捜査官の上着の胸部分を掴んだ。

 「助…けて…」消え入りそうな声で隊員が言った。

 「すぐに助けを呼ぶ。」

 そう言って、立ち上がろうとすると若い隊員が強く西野を引っ張った。

 「行かないで…」

 この時、西野は手榴弾の破片が自衛隊員の守られていない下腹部に刺さって、大量の血が流れていることに気付いた。

 「すぐに戻って来る。だから、ここでじっと―」

 自衛隊員を落ち着かせて助けを呼ぼうとしたが、その前に潜入捜査官は若い隊員の両目から生気が消え、頭がだらりと地面に落ちた。西野は自衛隊員が意識を失っただけだと思い、何度も体を揺すって起こそうとした。しかし、若い隊員が目覚めることはなかった。

 見ず知らずの自衛隊員であったが、西野の胸は悲しみで締め付けられて目に涙が溜まった。潜入捜査官は再び死亡した三浦大樹のことを思い出し、自分の無力さに苛立った。そして、この苛立ちが彼の中に存在していた何かを砕いた。
 
 2時13分24秒。








 2時14分16秒。

 航空自衛隊は小熊と道上たちが思うほど容易に足止めできる存在ではなかった。奇襲であったにも関わらず、彼らは4分足らずで制圧されてしまい、全員死亡した。

 その頃、菊池は守谷のグループと合流して目的の輸送機がある格納庫へ急いでいた。他の生き残っていたグループも同様に格納庫に急いでいたが、彼らは運悪く複数の自衛隊員に遭遇して戦闘し、呆気なく無力化された。ゆえに守谷は時間稼ぎのため、自分のグループメンバー4人を自衛隊員が密集している地域に送り込んだ。

 C-1中型輸送機は暗い格納庫の中で眠っていた。菊池たちは全長29mあるこのターボファンエンジン搭載の機体を探し求めており、これを使って人々を覚醒させようと目論んでいる。

 彼らの計画は実に単純な物であった。輸送機を盗み、それで首都東京へ飛ぶ。

 特に標的などは決めておらず、燃料が切れるまで人口密集地域を飛ぶ考えであった。東京へ行く時もできる限り重要施設や街の上を通り、目的地に着けば飛べなくなるまで旋回を繰り返す。これは菊池と三須で考えた方法であり、輸送機を撃ち落としても、それが東京に落ちても大学教授が無能だと思っている政府に大きなダメージを与えることができる。また、この攻撃によってテロに対する警戒を高めることができると彼は思っていた。

 “詩織とあの事件で亡くなった犠牲者たちのために…”

 学生たちが輸送機の発進準備を始め、菊池はこれから起こることに興奮して両脚を震わせた。

 「先生…」守谷が大学教授の横に並んだ。「他のグループとの交信が途絶えました。つまり…」

 「いいんだ。」菊池は俯いて右手に持つ拳銃を見た。「彼らは英雄だ。歴史がそれを証明する。」

 「そうですね…」

 「そろそろ出発かな?」

 「はい。」

 二人は後部ハッチから輸送機に乗り込み、守谷が見張りとして残した1人にも乗り込むように手招きした。見張りをしていた男が自動小銃を抱えて走り出すと、乗用車が格納庫の裏口を突き破って侵入し、C-1の後部ハッチ左部分に激突して停車した。
 

 突然の出来事に驚いた菊池たちは銃を乗用車に向けて様子を伺う。しかし、車から降りてくる者はいない。彼らが銃を下ろすと同時に銃声が格納庫内に響き、守谷が先に襲撃者の姿を確認した。

 “小林ッ!!”

 額に青筋を浮かべた守谷は持っていたUZI短機関銃の模造銃を西野に向けて引き金を引いた。
断続的な銃声が聞こえ、潜入捜査官は素早く左へ飛んで守谷の射角が逃げた。彼の右手には北朝鮮製の拳銃、左手には亡くなった若い自衛隊員のSIG拳銃が握られている。

 右残弾4。左残弾7。

 慎重に行動しなければ、菊池たちを止めることはできない。

 「出せ!出すんだッ!!」大学教授が操縦席にいる学生たちに向かって叫んだ。

 操縦席と副操縦席にいる学生がマニュアルを見ながら後部ハッチを閉めようとするも、西野が突入に使用した車がそれを妨害していた。仕方なく彼らはハッチを開けたまま飛ぶ決断を下した。

 西野の後を追うように銃弾が床や格納庫の壁に命中し、潜入捜査官は急いで後部左ハッチに激突させた車の陰に飛び込んだ。それと同時に守谷の短機関銃が弾切れとなり、彼は再装填する代わりに隣で呆然としていた見張りからカラシニコフ自動小銃の模造銃を取り上げ、西野が隠れている車に向けて発砲した。

 C-1中型輸送機がゆっくりと滑走路に向かって動き出す。

 潜入捜査官は激しい弾幕に身動きができず、飛行機が動き出すと次第に焦りが生じてきた。

 “逃がすか!”

 自動小銃が火を噴く中、西野は遮蔽物から飛び出して輸送機の中に向けて4度発砲する。両方の拳銃から2発ずつ放たれ、その内の1発が守谷の左腕に命中し、他の3発は輸送機の壁にめり込んだ。

 右残弾2。左残弾5。

 被弾した際に額に小さな切り傷を持つ男は、激痛に抗う事ができず、発砲している銃を左斜め下に下ろしてしまった。この時、1発の銃弾が西野の左腿をかすめ、その部分のジーンズが血で染まる。

 西野は輸送機に飛び乗りながら再び2つの拳銃を発砲し、北朝鮮製のマカロフの弾が切れた。彼が発砲する直前に守谷は急いで伏せ、丸腰であった見張りの胸に潜入捜査官が放った全ての銃弾が命中した。撃たれた男はその衝撃で後ろに倒れた末に息を引き取った。

 右残弾0。左残弾3。

 輸送機が滑走路に入り、加速を開始した。

 “これを止めるには操縦者を撃つしかない。”

 潜入捜査官が拳銃を操縦席に向けた時、守谷が立ち上がって西野を輸送機の壁に叩きつけた。
機内の隅で丸くなっていた菊池は自分も加勢するべきだと思い、拳銃を裏切り者である西野に向ける。しかし、守谷が邪魔で撃てなかった。

 西野を壁に叩きつけると、捜査官は拳銃を落してしまった。素早く守谷は距離を取って自動小銃を西野に向ける。咄嗟に潜入捜査官は自動小銃のハンドガードを下から両手で包み込むように持って銃口を上へ移動させ、それと同時に守谷が引き金を引いて輸送機の天井に複数の穴を開け、そして、弾倉が空になった。守谷は西野を突き飛ばし、自動小銃の銃床で殴り掛かった。

 潜入捜査官は急いで左に逃げて攻撃を回避した。しかし、そこで彼はぎこちなく両手で拳銃を持つ初老の大学教授と対面した。

 菊池は西野に銃口を向け、ゆっくりと引き金を絞った。

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