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追記<Y>その2 [余談]

 追記なんていらないと思うけど…

 アクセス数が下がり続けている『返報』は我らWNの応援とは無関係なので、早く抹消したいです!一応、ハヤオと話した結果、第13回を終わらせたら打ち切る方向で進んでます。

 もう黒幕の正体は皆さん分かったでしょ?そう、あの人ですよ。あの人が○○○(ハヤオの希望で伏字)になってるだけなんです。

 今回から『ぼのぼの』風で暴力シーンが少なくなってます。次回も少ないのでご安心ください。

 ご都合主義で書いてますが、稀に読者から質問を受けます。その中で多い問いに今日は答えようと思います。はい。(答えはハヤオが出してます。はい。)



 Q.西野は武田衛と面識があったの?
 A.ない、です。西野は武田をボート置き場で見てるけど、武田が西野を知るのは今の話(注:第13回のこと)から2年後になるんですよ。パート5で分かるけど、武田は一時退場する。理由は読めば分かるかも?


 Q.大規模テロと予想しながら、あまりにも小規模な捜査チームじゃねぇ?
 A.いやぁ~、秘密って知る人が増えると漏れやすくなるじゃないですかぁ~。つまり、そういうことですよぉ~


 Q.中2病的な設定に嫌気がします。設定を変えるか、書くのを止めては?
 A.設定を変えるのも、もう無理。だから、しない。でも、没ネタを集めたスピンオフ的な物を書くことがあれば、設定を変えるかもしれない。でも、今はする気もない。あと、書くのを止めるのは検討中。


 ということでした。

 次回の公開は来月末を目指してる予定です。詳細はいずれ発表します。

 それでは!

別行動? [News]

 皆さん、お元気ですか?

 もう夏かよ!と思う程の気温になって疲れやすくなってると思いますが、私は疲れを通り越して瀕死の状態に陥っていますよ。はい。 

 さぁ、マダカスカルでの公演を終えてキューバに向かっていたWNですが、どうやらG3が乗る飛行機の予約に手違いがあってイギリス行き、G3ブラジル行きの便に搭乗して飛び立ってしまったそうです。

 キューバ公演まで時間もあるので、大した問題にはならないでしょう。はい。

 色々と調べた結果、マダカスカル公演は大盛況だったようです。だから、心に残った感想を3つ紹介します。

 『日本の有名歌手だと聞いてワクワクしながら会場に行った。でも、そこにいたのはメダカに似た男とガリガリの老人だった。』― Twitter利用者

 『金返せ!』― Facebook利用者

 『もう二度とアイツらの歌は聞きたくない…』― モバゲー利用者


 彼らのWNに対する愛が感じられて、私はとても感動しました。

 そして、我らのWNはきっとキューバでも感動の嵐を巻き起こすでしょう!

 続報が入り次第、随時更新して行きたいと思いますので、みんなで一緒にWNを応援しましょう!!

 それでは!

返報 13-4 [返報]

13-4



 ボート置き場に男の悲鳴が響き渡った。

 パオロは想像を絶する激痛に悲鳴を上げ、眼球を潰した男の手首を掴んで抵抗を試みた。しかし、三須は親指を奥深くパオロの眼窩に突っ込み、途中で悲鳴を煩わしく思ったのか、右拳をフィリピン人の喉に叩き込んで喉仏を潰した。喉を潰されたパオロはパンクしたタイヤのように空気の漏れ出る音しか出せなくなった。

 一方、目の前で2つの残虐行為を目撃したフィリピン人は顔を引きつらせ、自分も同じ目に遭うと思った彼は意識が遠退くのを感じた。守谷も武田も三須の行動には驚き、多少は動揺してしまった。
 
 「こんなもんか…」そう言うと、三須は血で汚れた手を瀕死に陥っているパオロの服で拭う。「あとは…」まだ手に付着する血に不快感を持つ三須が残りのフィリピン人を見た。

 外国人は体をビクンと動かして驚き、首を何度も横に振った。助けを求めたのだ。その時、彼の頭に強い衝撃が訪れた。背後にいた守谷が助けを求めたフィリピン人を殴り、殴られた外国人は地面に崩れ落ちた。

 「あとは頼むよ。終電に乗り遅れる…」そう言い残して三須はボート置き場から出て行く。

 「りょーかい!」仲間の方を見ずに守谷が先ほど殴りつけたフィリピン人の後頭部を再び強く殴って返事した。








 最初はゆっくりと静かに移動し、ある程度まで距離が開くと西野と三浦は全速力でボート置き場から離れた。

 単眼鏡越しに見た残虐行為に二人の潜入捜査官は恐怖で震え上がっていた。簡単な潜入捜査だと思っていた分、三須たちが見せた残忍さは想像を絶するものであった。

 “捕まれば殺される…”

 この考えが二人の思考を支配し、尾行の有無も確認せずに駅の手前まで走って移動してしまった。慌てて西野と三浦は周囲に目を配り、安全を確認すると安堵してその場にしゃがみ込んだ。

 “情けねぇ…”そう西野は思った。彼は捕まえるべきテロリストの残虐行為を目にして恐怖し、最後まで監視せずに逃げ出してしまった自分に嫌悪感を憶えた。“このままじゃ、奴らを止められない…”

 「ちょっと…」三浦が素早く立ち上がって西野の肩を引いた。

 何事かと西野が三浦の顔を見上げる。潜入中のSAT隊員は駅の方に顔を向けており、西野も同じ方向を見るとそこには駅に近づく三須の姿があった。西野は急いで立ち上がって三浦と同じように壁の窪みに身を寄せた。

 「見られたか?」西野が尋ねる。

 「いや、気付いた様子はなかったですよ…」

 距離はあったが、三浦は携帯電話を取り出して三須の姿をカメラに収めた。

 「ちょっといいか?」と西野。

 「はい?」

 「アンタが例の潜入捜査官なんだろ?」自分同様、顔に恐怖を浮かべる三浦を見て西野は思い切って尋ねた。

 三浦は少し考えた。“この人がおそらく『例の捜査官』だと思う。けど、身元を明かすべきか?”

 「もし、そうならどうします?」

 「協力を求める。」西野は三浦の双眸を見つめ、相手の真意を探ろうした。

 「違えば、逮捕ですか?」

 尋ねられた西野は頭を小さく縦に振った。

 “もし、本物の潜入捜査官なら、この人は真面目すぎる…”SAT隊員は答えに困って視線を再び駅へ向ける。

 「そうですよ…あなたと同じ潜入捜査官です。」

 三浦は正直に答えたが、これが正しいのかどうか分からなかった。

 「そうか…」西野の口角が少し上がった。

 “やっと仲間に会えた…”元制服警官はそう思っていた。

 「どうです?連絡先でも交換しませんか?」三浦は念のために西野の連絡先を交換し、本物の潜入捜査官であるか確認したかった。

 「いや、それはやめておこう。俺と君のためにも…俺たちの繋がりが見つかれば後々厄介だ。電話を使うのは命取りになるかもしれないだろ?」

 「そうですね…」潜入中のSAT隊員は心の中で西野の用心深さに感心すると同時に先手を打たれた様な不快感を抱いた。

 “この人が『潜入捜査官を演じているテロリスト』だったら、俺は終わりだ…”

 「じゃ、せめてお名前だけでも教えてもらえませんか?」

 「俺は西野―いや、小林健だ。」

 気を許したせいで西野は思わず本名を口にしてしまった。これは三浦にとって思わぬ収穫であり、すぐにでも連絡役の山中に確認しようと思った。

 「僕は高橋直人です。帰りは電車ですか?」

 「そ、そうだ。」本名を口にしたことを今になって西野は後悔していた。

 「じゃ、それぞれ少し時間を置いてから駅に行きますか…『小林さん』は三須って人に顔が知られてるから、僕から先に駅へ向かいます。それでは…」

 そう言って、三浦は西野の前から歩き去った。彼は小林と名乗った潜入捜査官の視界から外れると同時に携帯電話を取り出して連絡役に電話した。もし、西野がテロリストならこの場で捕まえようと思った。もっともな理由を付けて先に駅へ向かったのは、西野を待ち伏せして仕留めるためであり、彼を気遣った訳ではなかった。

 「どうした?」山中が電話に出た。

 「『例の潜入捜査官』らしき人物と遭遇しました。その人物の名前を教えてもらえませんか?」三浦は焦っていたので早口で言った。

 「会ったのか?アイツに?」明らかに連絡役は驚いていた。

 「そうです。その人の偽名は小林健ですか?」

 しばらく沈黙が続き、ようやく「そうだ」と山中が答えた。

 「その人は眼鏡をかけた華奢な体型の人ですか?」名前だけの確認で納得できなかった三浦は確証を得るために再び連絡役に尋ねた。

 「そうだ。」

 「本名は西野ですか?」

 「そこまで聞いたのか?」連絡役は驚きを隠せなかった。

 「向こうがうっかり漏らしたんです。西野という男なんですか?」

 「ったく…そうだよ。」

 これを聞いてようやく三浦は安堵した。

 「ありがとうございます。詳細は明日報告します。」

 「って、おい!」

 山中にはまだ聞きたいことがあったが、三浦は一方的に通話を終了させて電車に乗り込んだ。








 6人一部屋の病室に簡易酸素マスクを付けてベッドに横たわる菊地家の娘がいた。

 彼女は事件発生時、化学物質が散布された車両から4つ離れた車両内におり、誰かが「毒ガスだぁー!!」と叫ぶのを聞いて周りの人々に押されるようにして停車駅で降りた。出口に向かう際に菊池詩織は倒れて嘔吐する人や呼吸困難に陥って四つん這いになる人、全身を痙攣させて苦しむ人を目撃した。あまりの恐怖に彼女は逃げる人々の背中を必死に追った。

 外に出るとタクシーを拾って、通っている短期大学へ急いだ。駅からほんの数分先にある学校だったが、胸が苦しかったので彼女はタクシーを使う事にした。目的地に着くと、菊池詩織は精算を済ませてタクシーを降りた。その時、ちょうど自転車で登校してきた友人の山沢典子に出会って一緒に校舎へ入ろうすると、詩織は意識を失って崩れ落ちた。

 「詩織…」母の清子が意識不明の娘の手を取って呼びかける。「どうして、こんなことに…」
 
 娘の姿を見て菊池信弘は胸が苦しくなった。それは息子の優介も同じであった。

 ふと優介の視界に若い女性看護師の姿が入り、彼は小走りでその看護師に近づく。

 「すみません。担当の先生とお話しがしたいんですが…」

 すると、看護師は困った顔を浮かべた。「すみませんが、今は無理です。後ほど、状況が落ち着いたら先生に聞いてみます。」

 「わ、わかりました…」

 菊地一家は娘の状態がよく分からなかった。娘の友人も詳しくは知らず、途中でアルバイトがあると言って帰って行った。彼らにできることはただ待つことであった。

 テーブルに乗せていた携帯電話が震えた。妻とテレビを見ていた菊地はこの音で何度も思い出す『あの光景』から目覚めた。

 「もしもし?」菊池信弘が電話に応える。

 「三須です。会ってお話ししたいことがあります。都合の良い日はありますか?」

 「明後日の15時はどうだろう?」

 「分かりました。」








 西野と三浦は殺された3人のフィリピン人に関する報道を探したが、全く見つからなかった。二人の連絡役も調査を始め、現場に出向いて捜査するも証拠の発見には至らなかった。ゆえに三浦の連絡役である山中は精密な調査を行うため、公安部に補充要員と機器を要請した。

 その頃、西野は三須に呼び出された。突然のことに潜入捜査官は驚くと同時に命の危機を感じた。彼はあの夜に起こったことを今でも鮮明に憶えており、失敗すれば自分もあのように殺されるかもしれないと思っている。

 学内のカフェテリアで三須は笑みを浮かべて西野を待っていた。その笑みはボート置き場でパオロの眼球を潰す直前に見せた表情に似ており、潜入捜査官は恐怖に顔を強張らせた。

 “駅で見られてたのか?”

 西野は周囲に視線を配り、自分を監視する人物の有無を確認した。しかし、人数が多すぎて判別できない。この状況は西野にとって良いとも悪いとも言えない状況であった。

 良い点があるとすれば、三須がここで西野を襲う可能性が低いということ。もし、別の場所で西野を始末しようとすれば、移動中に反撃の機会ができる。悪い点は、この場に三須の協力者がいても、彼または彼女たちの正体が分からないこと。相手に正体が知られているのに、自分が何も知らないのは非常に不利な状況である。

 「気分が悪いのかい?」三須が強張った西野の表情を見て尋ねた。

 「いや、大丈夫ですよ…」椅子に腰掛けて潜入捜査官が言う。「今日はどうしたんですか?」

 問い掛けられた三須は一度視線をテーブルに落とし、数秒間の沈黙の後に再び西野の目を見た。この沈黙は西野にとって居心地が悪く、目の前に座る男が昨夜のことを話すのではないかと思って怯えていた。

 「色々と考えたんだ…」大学院生が口を開いた。「昨日からずっとね…」

 “やるしかないか…”次第に高鳴る心臓が西野の冷静さを奪いつつあった。

 「小林くんは菊池信弘先生の講義を受けてるかい?」笑顔を浮かべたまま三須が尋ねた。

 簡単な問い掛けであったが、西野は固まってしまった。想像していた内容と異なっていたからである。

 「いえ…確か、後期の…講義だった…気がします。」あまりの緊張に言葉を詰まらせながら潜入捜査官が言った。

 「そうか…じゃ、先生の本を読んだことは?」

 西野は首を横に振って「ないです」と答えた。

 「そっか…菊池先生は『岐路に立つ』という本を最近書かれてね。その本の中で先生は日本の現状について警鐘を鳴らし、このままでは国の在り方が変わると警告してるんだ。」三須は西野の様子を見ながら話しを進めた。「実は菊池先生がある運動を起こそうとしているんだ。この国に住む全ての人々の目を覚まさせる様な大きなことを…」

 “コイツは俺を『仲間』にしようとしてる?”西野は大学院生の話しを聞きながら思った。

 「本当に大規模な物になる予定でね。できれば、君にも参加して欲しんだ。もちろん、無理強いはしないよ。」

 こう言いながらも、三須は絶対に西野が仲間になるという自信を思っていた。ゆえに彼は二人のテーブルから離れたカウンター席に守谷と小熊を置き、西野を観察させている。

 「それは…なんというか…ヤバい運動なんですか?」と西野。

 「捉え方によると思う。でも、小林くん…君にとって、これは『ヤバい運動』ではないと思うよ。他の人たちはそう思うかもしれない。しかし、歴史が証明するように、偉大な変革の始まりは常に『異常なこと』だと思われるが、後にそれが世界を大きく変えるんだ。異端と思われるのは、人々が『今の尺度』で見てるからさ。後世の世代は、僕らの運動を称賛する。絶対に…」

 「何で俺なんですか?」西野は率直に尋ねた。

 潜入しなければならないことは分かっているが、西野は三須が自分を選んだ理由を純粋に知りたかった。

 小さく左に首を傾げて三須はこう言った。「君は僕に似てるんだ…それが理由かな…」

 “似てる…?”西野は驚くと同時に恐怖した。

 「どうする?君の意思だけでも聞きたい。」

 テーブルを見つめて西野は考えた。“似てるはずがない…そんなわけないッ!!”

 「小林くん?」と三須。

 西野が視線を大学院生に戻す。

 「返事を聞かせてくれないか?」

 「参加したいです。」








 「それで?」

 西野が去った後で守谷と小熊が三須の前に腰掛けて守谷が訊いた。

 「参加すると言ってくれたよ。彼は僕たちと同じ志を持っているからね…」三須は先ほどまで浮かべていた笑みを消して言った。「君らの方はどうなんだ?」

 「私の方は2人リクルートできた。」小熊が口を開きかけていた守谷を遮って言う。彼女は長い黒髪を束ねて左肩から垂らしており、薄化粧であまり目立たないようにしている。

 「また色目を使ったのか?」話しを遮られた守谷が茶化した。彼はあまり小熊が好きではない。

 彼女は鋭い視線を隣に座る男に向け、挑発を受けた守谷が睨み返す。それを見た三須は咳払いをして注意を集めようとするも、二人は聞く耳を持っていなかった。

 “ピリピリしてるな…”

 「仲間内で争う暇はない。それ以上するなら、“屠殺場”でやってくれ…」静かに三須が睨み合う二人の仲間に言った。

 守谷が視線だけ三須に向け「“屠殺場”か…」と呟いた。

 「そこまでする気はないわ。」小熊が向かい側に座る三須の方を向く。

 「なら、もうやめるんだ。それで守谷の方はどうなんだ?」大学院生が尋ねた。

 尋ねられた男は胸ポケットからスマートフォンを取り出し、何度か画面に触れるとそれをテーブルの上に置いた。三須と小熊がそれに目を向け、画面に映る男の写真を確認した。

 「彼は?」と小熊。

 「剛田が連れてきた男だ。名前は『高橋 直人』。」守谷が情報を付け足した。「見込みがあると思い、武田に尾行させてる。」

 「引き入れる予定なのか?」三須が訊いた。

 「あぁ…その予定だ。」テーブルに置いた携帯電話に守谷が手を伸ばす。「まぁ、それはコイツ次第だが…」そう言って、彼は画面に表示されていた三浦の写真を削除して胸ポケットに携帯電話を戻した。








 尾行の存在には気付いていたが、三浦はそれを振り切ろうとはしなかった。その理由は、尾行者が三須や守谷と行動を共にしている武田衛であったからである。加えて、もし武田を振り切ろうとすれば怪しまれると三浦は思った。

 “昨日の件か?それとも別件?”

 潜入中のSAT隊員が自宅アパートの敷地内に入ろうとした時、塀の内側から誰かが飛び出してきた。三浦は素早く対応しようとしたが、相手の正体を知って驚愕した。

 「だぁーいちゃん」高橋恭子が三浦に抱きついた。

 突然のことにSAT隊員は言葉を失い、これが夢であることを祈った。

 「驚いた?」恋人の顔を見上げながら高橋恭子が言う。

 「どうやって?」やっと三浦が言葉を発した。「何でここに?」

 「iCouldを使って来たの。研修先が京都なんて羨ましいなぁ~」

 “私用の携帯をアパートに置いてたから、それを追ってここに?”SAT隊員は自身の安全管理の乏しさと恋人の軽率な行動に苛立ちを覚えた。

 その時、三浦は自分を尾行していた武田の存在を思い出して周囲を見渡した。人影はない。彼は急いで交際相手を塀の内側へ連れて行き、再び周辺に武田または自分を監視する人物がいないか探した。

 「大ちゃん、どうしたの?」と高橋。

 「ホテルとか、新幹線の予約は?」

 「してないよ。大ちゃんの所に泊まる予定だったし…」

 “クソッ!クソッ!!”

 「ねぇ、大丈夫?何かあったの?」

 “大アリだ。クソッ!尾行を巻くべきだった。見られたかもしれない。いや、もしかしたら俺が家に入るのを見て帰―”

 「もしかして大ちゃん、怒ってる?勝手に来たから…」三浦の表情を見て高橋恭子は心配になってきた。

 「いや、ちょっと忙しくてね…」

 “冷静になれ…”

 「こっちに来て。」SAT隊員が交際相手の手を引いて自分の部屋へ向かう。

 部屋に入るなり、三浦は土足で家に上がって隠していた私用の携帯電話を取り出した。

 「何か変だよ、大ちゃん…」恋人の異変にたじろぎながら高橋が言う。

 “恭子だけでも逃がそう…”

 「大丈夫。大丈夫だから…」交際相手を抱き寄せて三浦がやさしく言った。「これから駅に行く。東京に帰ろう。」

 「大ちゃん、怒ってる?」三浦の両腕の中で彼女は安心感を得ていたが、心配になって尋ねた。

 「怒ってないよ。ただ、恭子のことが心配なんだ…」








 胸ポケットの携帯電話が震え、守谷が画面を確認する。三浦を尾行していた武田からメールが届いていた。メールには向かい合う三浦大樹と高橋恭子の写真が添付されており、写真の下に文章が添えられていた。

 「この女は高橋の交際相手だと思われます。しかし、女は彼を『大ちゃん』と呼んでました。女も監視しますか?

 “これは、これは…”

 守谷は思わぬ収穫に喜んだ。そして、次のように返信した。

 「その二人から目を離すな。

 「いいかな?」三須がスマートフォンに目を奪われている守谷に問い掛けた。

 「あぁ…」

 「じゃ、自己紹介を頼むよ。」三須が隣に座る西野に促した。

 潜入捜査官の前には守谷と小熊が座っている。西野が三須たちの考えている計画に参加する事を決めたので、大学院生は西野を信頼する仲間に紹介する事に決めたのだ。

 「小林健です。よろしくお願いします。」西野が一礼して言った。

 「小熊です。よろしく。」

 「守谷だ。」

 「一応…」それぞれの名前を言い終えた所で三須が話し始めた。「彼らと僕がメインで運動を指揮してる。それだけは知ってもらいたかった。」

 「それで俺は何をすれば?」

 「時が来たら教えてるさ…」と守谷。「時が来ればな…」








 深夜の菊池家で悲鳴が木霊し、老夫婦は飛び上がって娘の寝室へ急いだ。

 あの事件から2年の月日が経過した。菊池詩織は化学物質の影響をあまり受けておらず、意識を失ったのは微量の物質を吸引したことによる眩暈が原因だと診断された。病院には5ヶ月ほど入院し、その後、彼女は退院できるまでに回復した。

 しかし、後遺症はまだ残っていた。目のかすみ、体のだるさ、微熱、そして、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が見られ、菊池詩織は夜になると事件発生に見た光景を思い出してパニックに陥ることがあった。ゆえに老夫婦は娘を京都へ連れて帰り、彼女がパニックに陥って悲鳴を上げる度に菊池夫妻は娘を抱き寄せて宥めた。

 「大丈夫。大丈夫だから…」

 しかし、菊池詩織の状況は一向に回復せず、次第に菊池夫妻の精神も蝕み始めた。これに加えて菊池家の経済状況も圧迫されつつあった。事件後の補償はスズメの涙程度であり、ほとんどの医療費は自己負担だった。先の見えない状況に菊池信弘と妻の清子は精神的に参って体重を落として行き、睡眠も満足に取れていなかった。
 
 ある日、寝不足に悩まされていた清子は少し休もうとソファーで横になった。先程までパニックに陥っていた娘を寝かせたばかりだったので、彼女は疲れ切っていた。もう10分もすれば、夫の信弘が帰って来るのでそれまでの間だけでも眠ろうとしたのだ。

 「帰ったよ。」

 玄関から聞こえてきた夫の声を聞いて清子が起き上がって信弘を出迎えた。

 「お帰りなさい。」

 「詩織の様子を?」

 「さっき眠ったところよ。」

 「そうか…」信弘が清子の肩に手を乗せる。「少しは休んだかい?」

 「えぇ…」

 「晩御飯は出前にしよう。君は少し横になった方が良い。詩織に何かあれば、私がなんとかするよ。」

 「ありがと。」

 菊池信弘は娘の様子を見に2階の寝室へ向かい、妻の清子はリビングのソファーへ戻った。階段を上がり切ると、信弘は娘の寝室のドアが開いていることに気付いた。

 “変だな…”

 不思議に思いながら寝室の中を見ると、彼の心拍数が急激に上がった。部屋に愛娘がいないのだ。








 尾行を巻くために三浦は4回タクシーを乗り換えた。乗り換える前は何度も人が大勢集まる場所に入り、別の出口を使って出ると違うタクシーを拾う。これを繰り返し、怪しい人物の有無を確認した。また、移動の最中に潜入捜査中に使っていた携帯電話を歩行中の男性のポケットに滑り込ませた。電話のGPSで追われることを警戒しての事であり、時間稼ぎにはなるだろう、と三浦は思った。

 何度も背後を気にする恋人の様子を心配そうに見守る高橋恭子は何も言わずに三浦の左手を握る。質問したい事だらけであったが、彼女は敢えて口を開かなかった。

 「疲れてない?」少し歩くペースを落として三浦が高橋に尋ねる。

 「少し…」

 「もうすぐだから我慢して。」

 尾行を巻いたと確信を得た三浦は京都駅へ急ぎ、できるだけ早く恋人を安全な場所に逃がそうとした。

 “ここまで来れば、もう―”

 高橋恭子の手を引きながら駅構内に入った瞬間、三浦は周囲に目を配る剛田の姿を見つけた。

 “アイツら…”

 SAT隊員は素早く踵返して駅を後にする。

 「どうしたの?」と高橋。

 「ちょっと予定を変えよう。」

 そう言うと、三浦は私用のスマートフォンを取り出して連絡役の山中に電話した。

 「どうした?」山中はすぐ電話に出た。

 「今すぐ会えませんか?」客待ちをしていたタクシーに交際相手と共に乗り込んで三浦が言った。

 「何かあったのか?」

 「いつもの場所で会えますか?」連絡役の質問を無視して潜入中のSAT隊員が尋ねた。

 「可能だが…」

 「すぐに来てください!」

 三浦は一方的に電話を切って、タクシーの運転手に駅から少し離れたレストランへ行くように言う。

 「大ちゃん…」高橋恭子が三浦の手を握る。「ゴメンね…」

 「何で?どうしたの?」

 「私のせい?私が来たから…」

 「恭子は悪くないよ。悪いのは俺の方さ。だから、心配しないで…」三浦が恋人の手をやさしく握り返す。

 今度は3回タクシーを乗り換えて尾行の確認をし、連絡場所として使っている運送会社から40メートル離れた場所でタクシーから降りた。

 「どこに行くの?」高橋恭子が尋ねた。

 「上司の所だよ。安全に逃げるには助けが必要かもしれない…」

 「逃げる?どういうこと?」

 「後で説明するから…」

 “西野って人もいる。俺はもう降りるしかない…”

 運送会社まであと10メートルに迫り、三浦は山中が車で来ていることを祈った。そして、5メートルと迫った時、三浦は運送会社の門に立つ男の姿を見た。

 “嘘だろ…”

 門の前に立つ男は守谷であった。三浦はその場で立ち止まり、それに釣られて高橋恭子も立ち止まる。

 「走るよ…」

 そう言って、SAT隊員が来た道へ戻ろうと高橋の手を引く。そして、後ろを振り向いた時、三浦は12メートルほど離れた場所で仁王立ちして二人を待ち受ける武田衛を見つけた。

 徒ならぬ状況に高橋恭子は怯えて交際相手の左腕にしがみ付き、三浦の顔を見上げる。彼は額に大量の汗を浮かべ、歯を食いしばっていた。

 「大ちゃん…?」

 恋人からの問い掛けは三浦の耳に届いていなかった。彼はこの場から逃げ出すことしか考えていない。高鳴る鼓動を感じながら三浦は守谷と武田との距離をもう一度確認する。襲撃者たちはゆっくりと三浦たちに迫っていた。運の悪い事に彼らのいる道は一本道で両端は高い塀がある。飛び越えられないこともないが、高橋がヒール靴を履いているので素早く移動するのは難しく、着地の際に足首を捻れば捕まる可能性が高まる。

 SAT隊員は左腕にしがみ付く交際相手を見た。この時、彼女と目が合って胸が締め付けられそうになった。

 「ごめん。」三浦が言った。そして、彼は右手を彼女の頬に添えた。「恭子に会えて本当に良かった…」

 「どうしたの?」高橋自身も分からなかったが、胸が苦しくなり、涙が込み上げて来た。

 「ちゃんと声にして言ったことなかったけど…愛してるよ。」

 「今日の大ちゃん…変だよ…」

 「そうかな?でも、言いたかったんだ…」

 守谷と武田が7メートルに迫る。

 「ちょっと走るよ。走り出したら、僕から少し離れるんだ。」落ち着いた口調で三浦が恋人に言った。「もし…僕に何か起きても走り続けるんだ。いいね?」

 「どういうこと?あの人たちは誰?」

 「ちょっとした知り合いだよ。いいかい?走るよ…」

 戸惑いながらも高橋恭子が頷いた。それを見て三浦は彼女に微笑みかけ、再び襲撃者たちとの距離を確認する。残り約5メートル。

 (どんな陣形にも弱点はある。そこを見極め、全力で突け。)

 SAT隊員の頭に中島の声が甦ってきた。

 “ここで終わりみたいっす、先輩…”

 三浦は恋人の手を引いて走り出した。彼らの向かう方向には武田衛がいる。潜入中のSATは守谷よりも武田の方が弱いと見た。本能的に彼は守谷の威圧感と自信に脅威を感じ、それに劣る武田衛が『陣形の弱点』と判断したのだ。

 標的が動き出すと守谷が後を追って走り、武田は身構えて三浦を迎え撃とうとした。

 恋人の手を引いて走る三浦と武田の距離が2メートルに迫り、武田衛はSAT隊員の動きを止めようと前押し蹴りの構えを取る。それを見て三浦は瞬時に高橋から手を離し、武田が蹴りを出す直前に敵の右斜め前へ踏み出す。そして、武田の右押し蹴りが放たれると同時に三浦は右ストレートを襲撃者の右頬に叩き込み、続いて左のローキックを武田の左膝裏に入れた。

 三浦が攻撃する間、高橋恭子は走り続けた。そう恋人が言ったからだ。

 攻撃を受けてバランスを崩した武田衛は体勢を立て直そうとするも、その前に三浦に背中を押されて近づいてくる守谷と衝突しそうになった。守谷は仲間を支えようとはせず、逆に左へ退かせて逃げるSAT隊員とその交際相手の後を追う。

 逃げる二人であったが、高橋のヒール靴がその邪魔をした。長時間の徒歩も加わり、彼女は疲れていた。彼らと守谷の距離は縮まり、交差点に達する前に捕まりそうであった。

 “やっぱりダメか…”

 三浦は立ち止まって守谷に向き合った。襲撃者は走ってきた勢いを使ってSAT隊員に殴り掛かってきた。

 「大ちゃん!」それに気づいた高橋恭子が立ち止まって叫んだ。

 SAT隊員は守谷がリズミカルに繰り出してきた左右の拳を後退しながら弾き飛ばし、左拳を相手の顔面目がけて突き出した。しかし、守谷は頭を横に傾けて回避し、左フックを三浦の腹部に入れる。手応えを感じた男はSAT隊員を追い込もうと素早く次の攻撃に出た。まずは右アッパーで三浦の顎を捕えようと放つ。だが、危険を察知してSAT隊員が後退したので、軽く顎に触れるだけで済んだ。次に守谷は左ストレートを出し、すぐにでも右拳を繰り出す準備を取る。

 一方、突き飛ばされて転んだ武田衛は三浦と守谷の戦いに目を奪われた。しかし、彼は同じくその戦いを見守る高橋恭子の存在を見つけて本来の目的を思い出した。武田は素早く立ち上がると高橋の所へ走った。

 守谷の左ストレートが来ると同時に三浦は相手の左斜め横へ移動し、守谷が付き出した左腕の下を通して右掌底を敵の下顎に叩き込んだ。そして、SAT隊員は左肘を相手の側頭部へ向けて振り下ろした。この時の唯一の誤算は守谷が体の向きを変え、繰り出した左肘が相手の額をかすめたことであった。狙い通り命中していれば、逃げる時間が稼げたかもしれなかった。肘が守谷の額をかすめたことによって、彼の額に小さな切り傷ができた。これが引き金となって守谷の攻撃の勢いが増した。

 右フックが三浦の左側頭部に向かって繰り出され、彼が急いで防御するもその際に使用した左腕に強い痺れが訪れた。守谷が次の攻撃を繰り出そうとした時、武田衛が二人の横を走り抜け、三浦は恋人が上手く逃げ切れたのか気になって敵から目を逸らしてしまった。

 “バカめ…”

 守谷は絶好のチャンスを逃さず、左肘を三浦の側頭部に勢い良く叩き込んだ。この攻撃を受ける直前、SAT隊員は数メートル離れた場所で震えながらこちらを見つめる高橋恭子を見た。

 「逃げ―」

 守谷の肘が三浦の言葉を遮り、その衝撃の強さにSAT隊員は膝から地面に崩れ落ちた。急いで立ち上がろうとするも、守谷が右ローキックを三浦の顔面に叩き込む。その激痛と衝撃から三浦は背中から倒れ、この際に高橋恭子の悲鳴を聞いた。

 “きょ、恭子…”

 立ち上がれと体に命令を出すも、SAT隊員の体は思うように動かない。

 「残念でした…」そう言って、守谷は三浦の頭を蹴り飛ばした。

 意識が薄れる中、三浦は必死に霞む視界を鮮明にしようと努力した。高橋恭子が助けを求めて恋人の名を呼んでいても、視界の靄は広がり、体に力は入らない。

 “助けに…行くから…”

 しかし、三浦の努力は虚しく闇が彼の視界を包み込んだ。

追記<Y> [余談]

 ちょっと先走って公開したパート3ですが、如何でしたか?  編集時にハヤオも言ってましたが、「スピード感がない」パートでした。まぁ、いつも退屈なんですが、今回は何時にも増して退屈でしたね。  さて、編集前のパート3は20ページあり、急いで12ページに圧縮したんです。  長かった理由は、ハヤオが三須たちのグループとの接触と潜入を細かく書こうとしたからですね。はい。もう、非現実的なご都合主義な物語なので、拘る必要はないと思ってかなり削除しました。  パート3の後半でやっと三須たちの本性(?)みたいなものが見えて終わってまして、ちょっと緊張感を高めようとしました。しかし、あまり評判は良くないですね…  某ネットショッピングサイトの動画サービスで『ぼのぼの』を見始めたハヤオは「もう暴力を書くのはやめたい。できれば、アライグマくんがシマリスくんを蹴り飛ばすようなシーンだけにしたい」と言ってました。  ゆえに次回から結構マイルドになります。あと、ちなみに12-4は来週の水曜日公開です。もう読む価値もない『返報』ですが、終る気配があるので興味のある方は気をながーくしてお待ちください。  それじゃ!  

返報 13-3 [返報]

13-3





 「神原教授は道州制の採用を強く主張している。」

 教室内にいる生徒たちの顔を見回しながら、もうすぐ50歳を迎える寺島教授が授業を進める。しかし、大半の生徒たちはあまり興味が無い様子で机の上に広げた教科書を見ていた。

 「彼はかなり前から中央集権国家に批判的であり―」

 教授にとって、学生が興味津々であるかどうかは関係ない。ゆえに彼は話しを続けた。

 この講義は三年生向けに行なわれている演習(「ゼミ」または「ゼミナール」とも言う)であり、少人数で議論を行って理解を深めることを目的としている。生徒たちはこの演習を「寺島ゼミ」と呼び、地方政治に興味がある学生の間で人気が高い。

 『小林 健』として京都大学に在籍している西野はこの寺島ゼミを履修して他の生徒と同じように学び、そして、同時に学内の動きを注視していた。しかし、今のところテロ攻撃に繋がるような情報は一切得られていなかった。この状況に西野は苛立ち、もっと積極的に動くべきかどうか考えていた。

 “攻撃は明日起きるかもしれない。”

 そう考えると居ても立ってもいられなくなった。しかし、焦りは禁物である。もし、テロリストに潜入捜査が気付かれれば、時期を早める可能性もある。または警戒してテロリストが行動の秘匿性を高めるかもしれない。

 「小林くん、何か言いたそうな顔だね。」寺島教授が険しい顔をしていた西野に発言を促した。

 突然名前を呼ばれたため、西野は混乱した。

 「中央集権と地方分権のことだよ…」西野の隣にいた女子学生が小声で教えてくれた。

 「えーと…」潜入捜査官は同級生の助言に感謝し、就寝前に予習した内容を思い出しながら自分の考えを述べ始める。「個人的には地方政府にもっと権限を委譲すべきだと思います。」

 「何故?」思わぬ議論の始まりに教授は興味を示した。

 「中央政府の思考はパンク寸前で、地方に目をかける余裕はないです。いくら地方政府が中央の支援を求めても、昨今の日本は首都のことしか考えていないので援助は期待できないです。このような状態を打破するには、地方政府の裁量権を拡大し、それに加えて今より強い権限を地方に与えるべきだと思います。」

 寺島教授は腕を組んで天井を見た。「しかし、腐敗して目も当てられない地方政府もある。権限を拡大すれば、汚職の規模が拡大すると思わないかね?」

 「中央政府の無駄遣いに比べれば小さいものだと思いますが…」と西野。

 「確かにそうだが、それでも汚職を助長する危険性がある。」

 「でも、それは政治家の問題であって、統治機能の問題ではないです。それに中央政府が汚職を容認しているから、地方政府も同じく腐敗するのでは?模範となるべき人々が腐敗していたら、それを見る人々も腐敗するはずです。」

 しばらく西野の目を見つめてから、寺島がこう言った。

 「面白い。でもね、小林くん…逆もあり得るんだよ。地方の腐敗が中央に伝染するかもしれない。でも、面白い考えだよ。他に意見のある人はいるかな?」

 授業が終わって西野が教室を後にしようとした時、細身の男子学生が歩み寄ってきた。その学生に気付くと、潜入捜査官は近づいてきた男性の方を向いた。

 「さっきの話し、面白かったよ。」細身の男が話しかけてきた。

 「ありがとう。まぁ、先生には相手にされなかったけど…」そう言って西野は俯いた。

 「寺島先生はいつもあんな感じだよ。」

 「でも、俺はまだ勉強不足だし…」

 「そう思えることが大切だよ。この学校には勉強する必要性なんてないと思ってる学生もいる。」

 西野はこの男子学生の言葉に励まされ、もっと自信を持つべきだと思った。彼は教授に率直な意見を述べ、それが正しいことだと信じて疑っていない。

 「確か、小林くんだよね?」と細身の男が訊いた。

 「そうです。失礼ですが、あなたは?」

 「申し遅れたね。僕は三須。大学院の2年生で寺島先生のTA(ティーチング・アシスタントの略。教授の補助業務を行う大学院院生のこと)をやってるんだ。よろしく。」

 三須が西野に右手を差し出し、潜入捜査官はその手を握った。







 西野より先に潜入していた三浦は講義ではなく、課外活動を情報収集の拠点にしていた。学生の行動を知るには、彼らが主体となる課外活動に加わるのが早道だと三浦は連絡役に報告しているが、実際は学業に興味がなかったので、楽しそうな課外活動に目を向けたのだ。

 入学から1週間後、三浦は手始めに課外活動の説明会に足を運んでみた。この説明会は野外に長テーブルを並べて行なわれるものであり、気軽に先輩学生と触れ合うことができる。

 “何のサークルがいいかな?”

 説明会の入り口で配布されていた課外活動団体一覧に目を通しながら三浦は考えた。

 “運動系もいいけど、下手な癖が出ると面倒だし…そうなると、芸術系?”

 目星しい団体を探していると、三浦の目に見慣れた本の表紙が飛び込んできた。『壬生義士伝』。彼の好きな時代小説の一つである。その本の隣には歴史に関する本が数冊並べられており、小説は三浦が見つけた上下巻セットの壬生義士伝だけであった。

 それらの本が並べられている団体の長テーブル前面には『歴史研究会』と書かれた大きな紙が貼られていた。本に釣られて三浦が長テーブルの反対側に腰掛ける眼鏡をかけた三人組に近づく。

 「君は歴史が好きかい?」中央の席に座る色白の男が三浦を確認するなり尋ねた。男は青縁眼鏡をかけており、肌寒い日であるにも関わらず青いアロハシャツを着ていた。

 「興味はあります。」とSAT隊員。

 「どの時代?」右端の席にいる太った男が言った。彼は太い黒縁眼鏡をかけており、中央の男とは対照的に厚手の上着を着ていた。

 「江戸…いや、幕末ですかね?」

 三浦がそう言うと、小太りの男は鼻で笑った。左端に座っていた縁なし眼鏡をかけた男は黙って新入生の顔を見ている。

 SAT隊員が適当な理由を言って去ろうとした時、アロハシャツの男が咳払いをした。

 「このサークルは月に一度冊子を出しているんだ。いわゆる『研究成果』を出さないといけない掟があるのさ。そのための資料代として月3千円まで出る。」

 「いいですね。」三浦はその活動費で趣味の本が買えるかもしれないと淡い期待を抱いた。

 「冊子に投稿する内容は自由だし、興味があるならここに来てくれ。」アロハシャツの男が歴史研究会に関することが書かれた小さな紙を手渡した。

 三浦はその用紙を受け取ると笑顔を浮かべて去って行った。

 「あいつ、来ますかね?」小太りの男が離れて行く三浦の背を見て言う。

 「来るさ…」同じく新入生の背中を見ながらアロハシャツの男が呟く。「きっと来る…」






 混沌。

 娘が搬送された病院で菊地一家を待ち受けていたのは人の群れであった。

 事件発生から10時間は経過していたが、病院は彼らのような親族や友人の身を案じている者、警察や報道関係者で埋め尽くされていた。

 両親を待たせて菊地家の長男である『優介』は、人々の間を縫うように進んで受付へ向かう。しかし、受付は押し寄せる人々と電話の応対で忙しく、優介がいくら叫んでも彼の声は届かなかった。

 「詩織のお母さん?」

 長い髪を後ろで束ねた浅黒い肌の女性が長男を見守っていた初老の夫婦に声をかけた。菊池信弘とその妻・清子が女性の方を向く。

 「詩織のお母さんですよね?」再び女性が言う。

 清子が首を縦に振る。彼女は何となくその女性の顔に見覚えがあった。

 「来たんですね!詩織は4階にいます!!今はまだ―」

 「失礼ですが、どちら様ですか?」信弘が女性の会話を遮る。

 「電話した『山沢』です。」

 「あぁ、あなたでしたか…」

 「そんなことより、詩織の病室に案内します!」

 それを聞くと、菊池信弘は長男を呼び戻して娘の友人の後を追った。

 「先生?」三須の声が大学教授の回想を中断させた。「大丈夫ですか?」

 「あぁ…」窓の外に広がる景色を眺めたまま、菊地は向かい側の席に座る学生に向かって答えた。

 「もし、体調が優れないであれば―」

 「問題ない。」はっきりと菊地は言った。「それで今日の用件は?」

 二人は大学生近くのカフェで会っていた。学生の多い賑やかな場所であるため、常連客以外はあまり来ない。

 「寺島ゼミに面白い学生がいました。」

 「『良い学生』なのかい?」

 「昔の私に似ています…」口角を上げて三須が言う。「一応、守谷たちに調べてもらいましたが、問題はないようです。」

 「そうか…しかし、あまり時間がない。できるだけ早く『信頼できる学生』を集めて、あのマニュアルを学んでもらわないと…」

 「その件につきましては、今いるメンバーで対処します。補充人員には別の仕事をしてもらう予定です。」三須が思わせぶりな笑みを浮かべる。

 「つまり?」

 「磁石になってもらうんです。」








 ドアは開いていたが、礼儀として三浦はノックして「すみません」と言った。

 「どうぞ!」

 部屋の奥から返事があったので、三浦は室内へ入る。中には説明会にいた3人がおり、彼らは本を熟読していた。

 「失礼しまーす?」先輩たちの様子を伺いながら潜入捜査中のSAT隊員が言う。

 「元気かい、高橋くん?」左端にいた赤いアロハシャツ姿の『干場 義則』が尋ねた。彼はこの歴史研究会の代表であり、また、その設立者でもあった。

 「はい、元気です。」

 色々と考えた末に三浦はこのサークルに入ることにした。最初の数日は後悔しかなかったが、2週間程経って彼は自分の判断が正しかったと実感した。このサークルに所属する人々は歴史よりも学内の動きについて並々ならぬ関心があるのだ。その会話の中には噂話も含まれていたが、稀に三浦が求めている情報も含まれていた。

 「経済学部に剛田っていう野郎がいるんですけどぉ~」

 説明会にいた小太りの男が沈黙を破った。名前は『木内 和哉』といい、経済学部の2年生であった。

 「何かされた?」と干場。

 「その彼に惚れたんじゃ?」部屋の隅で本を読んでいた文学部3年生の『照井 明人』が茶化した。説明会の時は無口であったが、彼は人が少ない所で喋る事が多かった。

 「僕はそっち系じゃないですよ!」木内が声を大にして否定した。「いやぁ~大した話しじゃないんですけど…」

 「どんな話しなんですか?」興味のない振りをして三浦が尋ねる。

 「その剛田って奴、レンタカーまで借りて大量の肥料を買い込んでんだよ。」唯一、興味を示した後輩に向かって木内が言った。

 「ガーデニングに目覚めたんじゃね?」照井がコーラを飲んで言った。「もうすぐ時期じゃん。」

 「でも、10キロの肥料を5袋も買いますか?それにアイツ、寮生活ですし、その肥料は寮に持って帰らないんですよ。どっかに横流しでもしてるんですかね?」

 「河川敷で農園をやってるのかもしれない。最近、増えてるらしいし…」読書に疲れたのか、干場が本から顔を上げて首を左右に回す。

 「通報した方がいいですかね?」と木内。

 「いや、いらないでしょ。」干場が腕時計で時間を確認しながら言う。

 「そうですよね…」そう言って、木内は読書に戻った。

 干場と照井はあまり興味を示していなかったが、三浦は興味津々だった。

 “『アンホ』かな?こりゃ、本命っぽい…”







 「ねぇ、聞いてるの?」

 そう言われて、西野が携帯電話から顔を上げた。「聞いてるよ。」

 「ホントに?」向かい側に座る吉崎美由紀が目を細めて西野を凝視する。

 「ホントだよ。あれだろ?職場の―」

 「やっぱり聞いてないじゃん!」

 西野は困った顔をして携帯電話をテーブルの上に置いた。「ごめん。聞いてなかった…」

 「警察官になってから史くん変わったよね。」

 「そうかな?」

 「うん。」美由紀がカフェオレの入ったグラスを持ち上げる。「なんていうか、大人になったよ。」

 「実感がないけど…」

 「おじさんになったって言われる良いでしょ?」

 美由紀が悪戯な笑みを浮かべ、西野もつられて笑みが顔に広がった。

 何かが弾けるような音が聞こえた。そして、西野がその音の正体を突き止めようとした瞬間、喫茶店にいた人々が凄まじい勢いで吹き飛ばされた。そこで西野の意識が途絶える。

 どれくらいの時が経過したのか、西野が目を覚ますと破壊された喫茶店と壁一面を染める血が見えた。あまりの光景に西野は吐き気を催したが、すぐに交際相手のことを思い出して周囲に目を配る。そして、彼は変わり果てた愛しい女性の姿を見つけた。

 凄惨な現場を目撃するなり、西野はベッドの上で飛び上がった。心拍数が異常に高く、全身汗だくになっている。

 “夢…?”

 潜入捜査官は自分の居場所が分かると、安心したのかベッドから下り、水を求めてキッチンに向かった。

 「夢か…」

 悪夢の中とは言え、西野は美由紀の姿を見られて嬉しかった。その一方でテロへの恐怖も増幅した。

 「本当に…俺でいいのか…?」

 陽の光がカーテンの隙間から差し込み、朝の訪れをテロに怯える西野に伝えた。彼は身支度を整えて大学へ行く準備をする。今日の講義は休みだったが、寺島ゼミで話し掛けてきた三須に誘われたので西野は学校に向かった。

 大学のカフェテリアに着くと、三須が手を振って西野に居場所を知らせる。

 「元気かい?もしかして、忙しかったかな?」約2週間前に少し話した程度であるにも関わらず、三須は長年の友人に会ったような満面の笑みを浮かべて西野を出迎えた。

 「いいえ、今日は講義がなかったので…」

 「そっか…ところで、何か注文する?」

 「いえ、大丈夫です。」

 あの夢を見てから西野は何も口にしていなかった。というよりも、したくなかったのだ。

 「話しが変わるけど、寺島ゼミはどう?」西野の反応に不安を抱きながら、三須が話題を変える。

 「とても興味深いですが、納得できない点もあります。そう言えば、先週のゼミに来ませんでしたよね?」

 「ちょっと用事があって…」大学院生はやんわりと西野の質問を流す。「僕は小林くんの考えに共感してるよ。実は僕も寺島先生と君みたいに話した事があるんだ。同じことを別の講義とかでもやって少し思ったんだ。今の日本は…まるで植物状態だ…」

 「植物状態?」西野は戸惑った。

 「そうだよ。意思決定は他人任せ。経済も自力では活性化できない。多くの人々が前の世代の貴重な資産を食い潰している。残念だけど、今の日本は正常に機能していない。君がゼミで言ったように…この国は腐敗してるよ。」

 「なるほど…」初めて似た意見を持つ人物と出会えて西野は驚くと同時に嬉しかった。

 「君は僕の説をどう思う?」

 「植物状態という表現は新鮮で興味深いと思います。でも、まだ完全な植物状態ではないと思います。まぁ、近い状態にあるかもしれませんが…」

 西野の率直な意見に三須は喜んだ。「かもしれない。または僕たちの知らぬ内に植物状態になってるのかもしれない。」

 「もしそうなら、すぐにでも体制を建て直す必要があるのでは?」

 「その通り…でも、どうすれば良いのだろう?」三須の顔から笑みが消えた。

 「どうすればって…選挙と言っても、候補者と有権者によっては失敗するでしょうし…他の手段かぁ…」

 西野は真剣に考えを巡らせたが、選挙以外の良い案など思い浮かばなかった。『クーデター』や『革命』と言った言葉が脳裏を過ったが、西野は非現実だと思ってその考えを捨てた。

 “やっぱり息絶えるのを見守るしかないのか?”

 「小林くん…」目の前で考え込む西野を見かねた三須が口を開いた。「院生と学部生を集めて毎週金曜日に勉強会をやってるんだけど、来ないかい?」

 「えっ?」

 「勉強会に参加しないかい?一緒に答えを探そうよ。この国を良くする方法を…」







 歴史研究会に顔を出した後、三浦は大学から7キロほど離れた場所にある運送会社に足を運んだ。苦学生という設定なので、潜入中のSAT隊員は夜に運送会社で荷物の仕分け作業のアルバイトをしなければならないのだ。厄介な設定ではあるが、この運送会社に連絡役がいるので辞めることはできない。それに辞めれば辞めたで偽IDの設定が崩れる。

 “テロ計画を阻止するまでの辛抱だ。”

 そう自分に言い聞かせて三浦は仕事場である倉庫に入る。そう思うだけで気が楽になり、また、潜入捜査後に待つ恋人との再会に胸を躍らせた。

 作業の途中でトイレに行くと、小便器のところに連絡役の『山中』という男がいた。

 「お疲れ様です。」三浦が連絡役の隣にある小便器の前に立つ。

 「例の剛田っていうのはどうなった?」正面の壁を見つめながら山中が尋ねる。

 「なかなかフレンドリーですよ。」

 歴史研究会で聞いた話しを元に三浦は学内の個人情報にアクセスし、経済学部2年の『剛田 政雄』を見つけて4日ほど行動確認を行なった。大量に農薬を買うなどの極端な行動は見られなかったが、図書館や教室に暗号で書かれたメモ紙やUSBメモリーを隠し、その数時間後に別の誰かがそれらを回収するのを三浦は確認している。

 後日、潜入中のSAT隊員は剛田の『落し物』を回収した人物たちを盗撮して連絡係に渡し、彼らが別の学部に所属する学生であることが明らかになった。そして、剛田たちの人脈が分かり始めたところで三浦は剛田に接近した。

 「3日前の講義で隣に並んだ際に話し掛けたら、親切に提出期限間際のレポートについて教えてくれました。その次の日も偶然を装って接近して話したんですよ。」

 「今度は何だ?また、宿題についてか?」

 「そんなワンパターンじゃないですよ!試験です。試験!」

 「それで?」スラックスのジッパーを上げて山中が先を促す。

 「なんか勉強会に誘われましたよ。他の学部の学生も集まってテスト情報の交換とかしてるらしいです…」

 「なるほどぉ~」山中は西野の連絡役を務めている同僚から似たようなことを聞いていたので、手を加えるべきだと思っていた三浦の手法を見守ることにした。

 「実はな…」山中が便器から離れて手洗い場へ向かいながら言う。「もう一人、潜入捜査中の警察官がいる。お前と彼のためにも、誰とは言わないが…」

 「同じ大学ですか?」

 「いや、別の場所だ。彼も勉強会なるものに呼ばれてるそうだ…」手洗いを終えた山中がトイレのドア前で立ち止まる。「まぁ、なんというか…あまり気張るなよ。何かあれば、もう一人いるんだし…自分の身を第一に考えて行動しろよ。」

 「分かりました。」

 「頼んだぞ。」そう言うと、山中はトイレを後にした。

 そして、仕事が終わると三浦は急いで帰宅した。

 “また怒られるな…”

 アパートに着くなり、SAT隊員は盗聴器や仕掛けカメラの有無を確認し、安全を確保するとキッチンマット下の床板を一枚取り外す。そこにはジップロックに入ったスマートフォンがあった。急いで電源を入れ、起動するのを待つ。

 “早く、早く…”

 暗証番号を入力する画面が表示されると、三浦はすぐに4桁の数字を打ち込んでロックを解除する。次にSkypeのアプリを起動して交際相手に電話した。

 「遅くなってゴメンッ!!」通話が始まるなり三浦が謝った。

 「もぉ、遅すぎぃー」受話口から高橋恭子の声が聞こえてきた。「大ちゃん、浮気してるんじゃない?」

 「浮気する暇が欲しいくらい忙しいって…」最近、三浦はこの手の質問に疲れていた。彼は彼女ほど魅力的な女性はいないと思っており、この女性となら幸せな家庭を築いて行けると信じている。

 「ねぇ、研修っていつ終わるの?」

 「まだ分からないけど…意外と早く終わるかも…」

 テロリストと思われる学生たちの動きが掴みかけていたので、三浦はもう少しで潜入捜査が終わるだろうと推測していた。

 「早くって?来月とか?」高橋が嬉しそうに尋ねてきた。

 「そんなに早くないと思うなぁ~。最長で半年…最短で3ヶ月くらい?」

 「まだまだ先じゃん…」受話口から聞こえてきた女性の声には落胆の響きがあった。「会いに行っちゃダメ?」

 「今は無理だよ。もう少しの辛抱さ…もう少しで会えるから…」

 「それじゃ浮気しないで頑張ってね!」浮気の部分を強調して高橋恭子が言う。

 「わかってるって…」








 西野と三浦はほぼ同時期に「勉強会」へ誘われたが、二人が同じ場所に集まることはなかった。この勉強会は複数存在しており、西野は三須が主体の京都大学グループへ、そして、三浦は小熊という女性が取り仕切る立命館大学グループへ参加した。

 主に有名大学の学生を集めて行われる勉強会では、実際に提出課題や試験のため対策を行い、さらにそれぞれの専門分野に関することを議論する場を提供している。全ては三須と小熊が考えた人材確保のための手段であった。

 二人の潜入捜査官は勉強会に潜入できれば、テロ計画の情報が掴めると思っていた。しかし、三須たちはそこまで愚かではなかった。期待していた二人の捜査官を裏切るように3週間の月日が流れ、西野と三浦は次第に苛立ってきた。

 “ハズレか?”

 捜査官たちの連絡役も焦り、捜査の方針転換について考え始めていた。それでも西野と三浦は辛抱強く手掛かりを探し求め、その結果、不審な動きを見つけた。

 勉強会を終えて帰ろうとした時、西野は薄暗い階段の踊り場で電話する三須を目撃した。幸いな事に三須は窓の外を見ていたので潜入捜査官の姿を見ていない。足音を押し殺して身を隠すと、西野は耳を澄ませた。

 「今夜?急だな…」

 “何かの取引か?”三須の声しか聞こえないので西野に会話の全容が掴めない。

 「今度こそ大丈夫だろうな?」

 「問題ないと思うぜ。」三須の問いに守谷が答える。

 「金の準備はできてるが、もしものことを考えて対策も練った…」

 「というと?」

 「そろそろアイツも消そう。下手に動かれたら厄介だろ?」

 “確かに…”と三須は思った。“その時期かもしれないな…”

 「俺たち二人で?」三須が尋ねる。

 「いや、もう一人…信用できる奴を連れて行く。」

 「誰だ?」

 「それは会ってからのお楽しみにしようぜ。」

 三須は鼻で笑い、そして、何も言わずに電話を切った。西野は急いでその場を後にすると、携帯電話を取り出して既にハッキングした三須の携帯電話の履歴を確認した。

 “守谷?”履歴に表示された名前を見て西野は心の中で読みあげた。“取り敢えず、三須の動きを追うか…”







 顔が知られているため、西野は細心の注意を払って尾行した。

 三須は約1時間半かけて隣の滋賀県まで行き、JR湖西線のおごと温泉駅で降りて琵琶湖の方へ歩き出した。潜入捜査官が25メートル程距離を開けて三須の後を追うも、対象者は途中でタクシーを拾って移動し始めた。

 “クソッ…”西野もタクシーを拾う。

 「どちらへ?」と運転手。

 潜入捜査官は携帯電話の画面を見て、三須が近くにあるボート置き場で止まったことを確認する。

 「ここに行ってもらえませんか?」西野が携帯電話の画面を運転手に見せる。

 「えーと、マリーナですね…」目的地を確認すると白髪頭の運転手がタクシーを走らせた。

 西野はボート置き場の50メートル手前で運転手に停車するよう言い、会計を済ませると三須の行方を追った。三須はボート置き場の敷地内におり、西野はできるだけ離れた位置で対象者を監視することにした。

 三須から20メートル程離れた大型ボートの陰を監視位置に決めた時、背後から物音が聞こえた。急いで振り返ろうとしたが、その前に腕が西野の首に巻き付き、続いて口を塞がれて後方へ引き倒された。

 “見つかった!!?”

 必死に抵抗しようと動くも、西野を抑える人物の力が強すぎてビクともしない。

 「静かにして下さい。見つかってしまいますよ…」西野を抑える男が言った。

 “誰だ?”

 「手を離しますけど、暴れないでください。」三浦は静かに西野から手を離した。

 「お前は?」SAT隊員の方を向いて西野が尋ねる。

 「同業者ですよ。そう言えば、分かってもらえると思いますが?」三浦は目の前にいる男が『もう一人の潜入捜査官』だと思いながらも、警戒して身元を明かさなかった。

 「そうか…お前も三須の監督役か?」西野も敢えて身元を伏せ、三須の仲間である振りをした。

 「いいえ、僕は守谷の監督役です。」

 “守谷…三須の通話履歴にあった名前だ。コイツが例の警官なのか?”

 「質問させ―」

 西野が三浦に問いかけようとした時、潜入捜査中のSAT隊員が右手の人差し指を三須がいる方へ向けた。これを見て西野は質問を後回しにして、三須たちの行動を監視することにした。









 静まり返った夜の琵琶湖を見つめていると、背後に迫る足音を聞いた。三須はゆっくりと振り返って近づいてくる人物を見た。

 「やぁ!」白い歯を見せてフィリピン人のパオロが言った。

 「用件は?」三須は世間話抜きで本題に入ろうした。

 「商品が入ったから呼んだのさ。いつもの彼はいないのかい?」パオロがリュックサックを肩から下ろして守谷のことを尋ねた。

 「彼は別の仕事で忙しいんだ。」

 「そうかい…」

 「それで約束の物は?」三須がパオロとの距離を縮める。

 「兄さんもせっかちだねぇ~」そう言いながら、フィリピン人は鞄から横30センチ、縦10センチ程の木箱を慎重に取り出した。「ちゃんとしたグレネードだよ。お金は?」

 「あるよ。」大学院生は上着の内ポケットから膨らんだ封筒を取り出した。

 封筒を見るなり、パオロが口笛を吹いた。それは大金の入った封筒に向けたものではなく、誰かに合図を送るような高い音だった。

 “コイツとの取引も終わりだ…”フィリピン人は大金が入っている封筒を奪い、目の前にいる若い日本人を殺そうと計画していた。そのために仲間を二人連れてきた。先ほどの口笛はその二人を呼ぶための合図だった。“もう一人の男がいないのは残念だが、コイツを消せばあの守谷とかいう野郎も怯えるだろう…”

 しかし、パオロの仲間は現れなかった。彼がもう一度口笛を吹こうとした時、三須が笑い出した。フィリピン人は急に怖くなって周囲を見渡した。

 “アイツらは何所に―”

 そして、パオロは二人の仲間を見つけた。だが、二人とも口に猿轡を噛まされた上に両手を後ろで縛られた状態であり、守谷と見た事ないもう一人の男に背中を押されて三須とパオロの所に近づいてくる。パオロは唖然として捕えられた仲間を見つめ、次第に込み上げてくる恐怖によって両脚が震えた。

 「こうなるとは思わなかったよ…」三須がパオロの肩を背後から軽く叩く。フィリピン人は驚き、振り返りながら地面に座り込んでしまった。「残念だよ…」

 守谷ともう一人の男が捕まえた二人のフィリピン人をパオロの横まで連れて行くと座らせた。

 「彼が例の助っ人かい?」三須が守谷の横に立つ男を見て尋ねた。

 「そうだ…」と守谷。

 「初めまして。武田衛です。」鉄パイプを持つ男が三須に一礼する。

 彼らはまるで拘束している外国人の存在を無視するかのように話していた。

 「それはさて置き…」三須がやっとフィリピン人たちの方を向く。

 「頼むよ!彼らはただの護衛だ!アンタの連れみたいなもんだよ!!」パオロが叫ぶ。

 「うるさい奴だ。」守谷が武田の持っていた鉄パイプを取り上げ、自分が捕まえたフィリピン人の後頭部を殴った。殴られた男は呻きながら前のめりに倒れ、それを見て守谷は殴った男の前へ移動する。

 「調子はどうだい?」守谷がパオロに笑みを送る。

 「やめてく―」

 パオロの訴えは虚しく、守谷は同じ男の頭を何度も鉄パイプで殴った。男の体は殴られる度に震え、その後、数秒間激しく体を痙攣させて動かなくなった。

 それを見た二人のフィリピン人は失禁し、体を震わせて守谷の動きを注視する。返り血を浴びた守谷は真っ赤に染まった鉄パイプを振り上げ、パイプに付着していた血と肉片がパオロの顔と胸に飛んだ。パオロは逃げようとするも、体が動かず、ただ震えることしかできない。

 「分かってくれたかい?」三須が怯えるパオロに問いかける。「僕たちは正式な取引を望んでいたのに…君は裏切った…」

 パオロが喋ろうとするとも、口から出てくるのは言葉ではなく判別不能な音であった。 

 「落ち着くんだ。」と三須。「何が言いたいんだい?」

 「ゆ、ゆ、ゆ、許してくれ!お…俺、俺には、小さい娘がいる!!殺さないでくれッ!!!」どうにかパオロが声を出して助けを求めた。

 武田は守谷と三須の様子を伺っていた。初めて参加した密会に彼は興奮しており、憧れの二人がどのようにしてこの問題を解決するのか知りたかった。

 三須が一歩踏み出してパオロの両頬に手を添える。「許すよ…」

 これを聞いてフィリピン人は救われたと思い、笑顔を浮かべて胸を撫で下ろした。彼は両頬にやさしく手を置く三須が神の使いの様に見え、この男に逆らうべきではないと肝に銘じた。

 “これで終わり?”武田は失望した。“全員殺すと思ってたのに…”

 「ありがとう!ありがとう!!」パオロが涙を流しながら三須に感謝する。

 これを受けて三須はフィリピン人に笑みを送った。そして、彼は親指でフィリピン人の眼球を押し潰した。

WNの悲劇? [News]

 マダガスカルに到着したWNですが、どうやらバトスピ団が乗る飛行機を間違えてチリに行ってしまったようです。
 
 これによって、G3の専属バンドグループ『三代目G3バンドブラザーズ』がバトスピ団の代わりに演奏することになる予定だとWN事務所TPs』が公式サイトで発表しました。

 バトスピ団の不在、三代目G3バンドブラザーズの起用。トラブルの多い我らのWNも今回は激怒してるらしく、不倫相手と噂されているバトスピ団団長『おしゃんてぃー』の解雇も考えているとか…

 でも、しないでしょうね。いずれにせよ、バンドがいないので、WNの出番増えることは間違いなしでしょう!

 前回のタイ公演も好評だったらしいので、マダガスカルの人々も喜ぶことでしょう!
 感想が楽しみです!!



(以下はハヤオ関連です…すみません…)

 『返報』ですが、第13回の続きの公開日が正式に決定したようです。ちなみに決定したのはパート3と4のみです…


 パート3:5月10日(水曜日)、パート4:5月17日(水曜日)

 現在、私はパート3の編集中で、ハヤオはパート4を6ページほど書き終えてます。
 次の話しからページ数が『7』から『12』になっているので、かなり長くなってます。そして、退屈です。パート3は次回のための伏線ですので、流す感じで読むことをお勧めします。また、パート4は胸糞悪い話しに思われるかもしれないです。はい。
 まぁ、なんというか、次回の最後から暴力シーンが増えてきますね。苦手な人は避けた方がいいと思います。はい。
 

 それでは!!

追記<X>その2 [余談]

 WNがタイでの公演を終えてマダガスカルに向かっているので、あまり書くことがないですよね。

 今日は前回の『追記』について反省点があるので、そこについて4点書きます。

 始めに「2分の5」と書きましたが、小数にしても2.5、物語の半分を公開したと嘘をつきました。
 それに加え、ハヤオは5パートではなく、全6パートで書いてることを明らかにしたので、まだ序盤の序盤でした…

 次に「アクションがない」点について、ゲーム内でボリビアのギャングと戦うハヤオは「潜入捜査なのにドンパチやってどうすんの?つうか、まだ潜入もしてないのに、どこでドンパチする訳よ?」と言われて、「確かに…」と思った訳です…

 3点目ですが、パート2から懐かしい顔が出てきたそうです。ハヤオが言うには、パート2で西野を監視していたのは、削除した場面(返報0-3を参照)に登場したネズミ取りの捜査官らしいです。次回にはもっと分かり易い顔が出るそうです。

 最後にパート3の公開は延期になります。おそらく今月の終わりには公開すると思いますが、書いてる人があの人なので、その後の展開を考えると来月に3週連続で流すのがいいかなぁ~とも考えてます。いずれにせよ、パート4と5が今回の山場になるらしいです。いわゆる、ドンパチに近いことが起り、そして、西野が~、三浦が~、あのキャラが~的な話しになる予定です。

追記<X> [余談]

 久々に『追記』を書くことになりました。はい。
 
 『返報』の第13回を2分の5ほど公開しましたが、皆様が予想する通りに物凄い退屈な展開を迎えて終わる事になりそうです。

 過去の話しに突入しても、誰が消えて誰が生き残るのか分かっているので緊張感が全くない。
 それに加えて変な恋物語になってるし、ハヤオが目指していたアクションがない。

 パート2まで編集して思ったのは、伏線を無理に回収しようとしてる事ですかね?
 ある程度のことは、今までの話しで語られているので新鮮味がない!できれば、知らないことをもっと多く書いて欲しかった…
 一応、「次回から物語が動く」とハヤオが言っているので、冷たい目で評価してやりましょう。

 しかしながら、彼は久々に(今亡きトム・クランシーの名がついた)ゲームに夢中なったらしく、パート3はほとんどできてません!
 ゆえに公開は早くて来月の中旬かと思います。
 「今年には完結できたらいいなぁ~」と言っていたので、おそらく完結は5年後でしょう。はい。

 詳細が分かり次第、公開日をWNの最新情報と共に書くと思います。

 それじゃ!
 
 

返報 13-2 [返報]

13-2



 自宅に近い公園のベンチで西野は考えていた。
 “地域の安全を守ることもできないのに、テロ攻撃なんて阻止できるはずがない…”
 小さい頃からスーパーヒーローに憧れていた西野は、刑事になって人々を悪者から救いたいと思っていた。大学を卒業して一般企業に就職しても、その夢が変わることはなかった。ゆえに彼は退職して警察官になった。しかし、西野の理想は崩れ去ろうとしている。
 上司は職務怠慢で積極的に犯罪を取り締まろうとはしない。西野は何度か未然に防げそうな犯罪を目の当たりにしてきたが、上司は「気にし過ぎだ」と言って目を逸らすことが多かった。また、西野が救おうと思っている人々は制服姿の彼を見るなり、露骨に避けたり嫌悪感を見せたりした。中には好意的に接してくれる人もいるが、警察官に良い印象を持っていない人々が目について落ち込むこともあった。それでも西野は自分にできることをしようと努めてきた。
 “断ろう…”
 ベンチから立ち上がり、西野は自宅へ向かって歩き出した。
 「何者かがテロ攻撃を計画している。」
 頭にスーツ姿の男の声が甦ってきた。
 「我々はかなり大規模な物だと想定している。」
 「静岡の学生は氷山の一角だ。」
 一歩一歩踏み出す度に、西野は会議室でのやり取りを思い出した。
 「我々はコイツらを止めたい。そのためには君が必要なんだ。」
 人気のない通りで立ち止まって西野は深呼吸した。
 “捜査に協力したい…”
 そう思っていても、西野は警察官として働く内に自分が無力な存在だと感じ、自分では役に立てないと考えている。また、両親や交際中の女性のことも考えると、潜入捜査への協力は難しいと判断したのだ。
 彼は再び深呼吸した。
 「揺るぎ無い信念を持ち、人々を助けるために身を投げ出す…テロリストと戦うには必要なことだ。」
 スーツ姿の男の声が再び甦ってきた。頭を振って何度も浮かび上がってくる潜入捜査への興味を払い除けようとするも、そうする度に捜査協力への思いが強くなった。








 “これだけか…”
 机の上に広げた武器を見て守谷和章は思った。机にはマカロフ拳銃を模造した北朝鮮製の拳銃5丁、フィリピンで密造されたUZIそっくりの短機関銃1丁、AK―47をコピーした中国製の突撃銃2丁が並べられている。これらは全て“使用可能な銃”であり、“不良品”ではなかった。
 “三池の所に拳銃が3丁と突撃銃4丁。小熊の所に拳銃2丁と短機関銃2丁。増田の所には―”
 守谷が他の仲間が所有している“使用可能な武器”の数を思い起こしていると、ドアの開く音が聞こえた。彼はジーンズのポケットから折り畳みナイフを取り出して静かに刃を出す。
 足音は彼のいる部屋へ真っ直ぐ近づいてくる。守谷は足音から侵入者が一人と推測し、忍び足でドア脇に移動して相手の様子を伺う。1LDKのアパートなので、玄関から真っ直ぐ歩いて来れば守谷のいる部屋に辿り着ける。
 侵入者は守谷のいる部屋の前で止まった。その後、息を押し殺して相手の動きを待つ守谷は拳銃の撃鉄を落す音を聞き、心臓が縮み上がるような思いを感じた。
 “公安!!?”
 「出て来いよ。守谷、お前だろ?」
 この声を聞いて隠れていた男は素早く飛び出して侵入者の姿を確認する。すると、細身の若い男が拳銃の引き金を絞った。パスッという音と遊底が後退して金属が擦れる音が室内に響き、小さな白い球が守谷の胸に命中した。
 「本物なら死んでるぞ…」三須が玩具の拳銃を床に向ける。
 気の長くない守谷は仲間の冗談に怒って額に青筋を浮かべた。「ふざけるな!」
 「そう怒るなよ。良い報せが入ったんだ。」
 「武器か?」間髪入れずに怒気をこめて守谷が尋ねる。
 「いや、例のマニュアルだよ。」
 「C-1のか?」
 「その通り。あとは君のいう武器だよ…君が購入者を殺し過ぎたから、例のフィリピン人はビビッてるみたいだよ。ヤクザを怒らしたって思い込んでる。」
 守谷はナイフを仕舞って笑みを浮かべた。「たった7人しか殺してないのにか?」
 「7人もだよ、守谷。」三須の声には微かに怒気が込められていた。「結構な数だ。これ以上の欠員は困る。」
 「足が付かないようにしてるだけだ。それにアイツらは警察にマークされていた。いずれにせよ、慎重な奴を仲間にしないとダメだ。」台所へ行って守谷は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。「でないと…計画が破綻する。」
 「わかってる。」壁に背を預けて三須が消え入りそうな声で言う。
 「先生はどうした?」
 「息子さんに会うと言ってたよ。」
 「例のバカ息子か?」
 「そうだよ。」そう応えると、三須も冷蔵庫から水を取り出した。
 「大丈夫なのか?勘付かれて通報でもされたら…」水を飲む仲間を横目に守谷が訊く。
 「心配ないさ…」飲み終えると三須はペットボトルのキャップを閉める。「何かあれば、消えてもらうから…」
 それを聞いて守谷は口元を緩めた。“人の事をあーだこーだ言うが、コイツの方が狂ってる。”








 自宅で荷物をまとめているとインターホンが鳴り、三浦大樹は作業を中断して玄関へ走って覗き穴で訪問者の姿を確認する。ドアの前には大きな白いビニール袋を持った女性が立っていた。
 「早く開けてよぉ~」と女性が言う。
 「ちょっと待った!」三浦は急いで開錠し、ドアを開けて交際相手を室内に招き入れた。
 「もう荷造りしてるの?」食品の入ったビニール袋を床に置くなり、交際相手の高橋恭子が半ば呆れ気味に言った。三浦の部屋は元から質素な部屋であったが、今はベッドとテレビ、それに8つの段ボールしかない。
 「準備だよ。準備。」彼女の買って来た食品入りのビニール袋を持ち上げてSAT隊員は台所に置いた。
 「まだ10日もあるじゃん!」
 「もしかしたら、早まるかもしれないんだ…」
 「早まったら、帰りも早くなる?」
 「それは分からない。」食料品を袋から出して三浦が言う。
 三浦は彼女の恭子に潜入捜査とは言わず、長期の『研修』と言っている。荷造りについては、研修が1年ほど伸びる可能性があるので、現在借りている部屋を引き上げて研修が終わるまで荷物を実家に預けるためだと説明した。
 「その研修が終わったら、私の両親に会ってくれる?」彼の隣に並んで恭子が訊く。
 「そのつもりだよ。」台所に左手をついてSAT隊員は右隣にいる彼女の方へ体を向ける。「『娘さんを僕に下さいっ!』って言いに行かないと…」
 「父が断ったら?」交際相手を見上げて恭子が悪戯な笑みを浮かべる。
 「駆け落ちでもする?」大樹も同様の笑みを浮かべた。
 「できるかなぁ?」再び悪戯な笑みを浮かべて彼女が言う。
 「できなけりゃ、何度でもお父さんにお願いするだけさ。」
 二人は互いの目を見つめて微笑み合い、そして、唇を重ねた。
 「そうだ!」恭子の方から唇を離す。「充電器使わせて。もうすぐ電源が切れそうなの。」彼女は思い出したように上着のポケットから携帯電話を取り出して三浦に見せる。
 「いつもの場所にあるよ。俺のも充電中だから―」
 SAT隊員が喋っている途中にも関わらず、恭子は小走りでリビングへ行ってまだ充電中の大樹の携帯電話からコードを抜き、自分の携帯電話の差し口に差し込んだ。いつものことなので、三浦は首を横に振りながら食品をビニール袋から出す作業を続けた。
 一方、恭子はメールチェックの振りをして三浦の携帯電話のロックを解き、事前に用意していた新しいiCloudのアカウントを交際相手の電子端末に登録した。
 “悪い気もするけど…”そう思いながらも彼女は大樹の携帯電話を元の位置に戻した。








 シャッターを切る音が室内に響いた。
 “可哀想な野郎だ…” 空きテナントに2階から向かい側の1階にある喫茶店の様子を伺う男は溜め息をついた。
 男の監視対象者は有り難いことに窓際に交際相手と座っており、店に入って監視する必要性がなくなった。また、監視対象者は安全の配慮に欠けていたので、古典的な手法ではあるが、Bluetoothを利用した強制ペアリングによるハッキングが成功し、リアルタイムでの盗聴に成功していた。
 「調子はどうです?」銀縁眼鏡をかけた男が缶コーヒーを窓枠に置く。
 突然のことに驚いて監視者はカメラから顔を上げ、相手を確認するなり再び監視対象者の方へ向いた。
 「脅かすなよ、藤木。」
 「いつも気配を出すように努めてるんですけど…」と苦笑いを浮かべて藤木が言う。「それで斉藤さん…例の彼はどうなんです?」
 「どうやら係長の目に狂いはなかったようだ。」
 「そうですか…じゃ、決まりですね。」単眼鏡をポケットから取り出し、藤木は喫茶店にいる監視対象を見た。








 「何で?」女性の目には今にも溢れ出そうな程の涙が溜まっている。
 尋ねられても西野は押し黙ってテーブルの上にあるコーヒカップを見つめることしかできない。
 「ねぇ、何で?どうして?」
 西野の交際相手である吉崎美由紀は「別れたい」と告げられて混乱した。込み上げてくる涙と嗚咽を堪えながら、彼女は愛する男性からの残酷な言葉の理由を探ろうとしているのだ。しかし、西野は別れを告げてから一言も発していない。
 しばらく二人の間で沈黙が続く。
 別れは美由紀にとっても辛い事だが、それは西野も同じであった。できる事なら彼も彼女と一緒にいたかった。それに西野は美由紀との結婚も視野に入れていた。しかし、潜入捜査へ協力を決意した彼は彼女と別れる道を選んだ。
 愛する人だから、幸せになって欲しい。例え、それが身勝手な決断だとしても、彼はこれが一番だと思ったのだ。別れれば、彼女を潜入捜査に巻き込む恐れを無くし、自分が捜査中に亡くなったとしても、彼女の悲しみは小さくなる。
 「他に好きな人ができたの?」と美由紀。
 尋ねられても西野は何も言わずに下唇を噛んだ。
 “そんな人はいない…”
 「どうして黙ってるの?」
 「ごめん…」
 店を出ようと、西野が美由紀の隣を通り過ぎようとした時に右手を彼女に掴まれた。
 「答えてよ…」彼女の声は震えており、手を掴んだ時に目に溜まっていた涙がこぼれ落ちてスカートに小さな染みを作った。
 手に彼女の温もりを感じて西野は「まだやり直せる」と思った。彼は美由紀の手を握り返し、正直に話そうと体を彼女へ向けようと動く。しかし、これから行う仕事の事が脳裏を過ると、それは無理だと考え直した。
 西野は右手の力を名残惜しそうに抜き、彼女の手を振り解く。この時、美由紀は心臓を締め付けられるような苦しみを感じ、顔をくしゃくしゃにして嗚咽を堪える。今すぐにでも彼女を抱きしめて真実を告げたかった。西野の目も潤んでおり、胸の奥から込み上げてくる悲しみのせいで咽び泣きそうになった。
 「ごめん…」そう言い残して、西野は喫茶店を後にした。
 彼女との距離が開く度に抑えていた感情が強くなり、次第に堪えられなくなって涙が溢れ出た。西野はそれを見られないように下を向いて歩く。そして、彼は真っ直ぐ警察署へ向かった。
 同じ会議室で昨日と同じ色のスーツを着た男が待っていた。
 「答えは?」公安部から来た男は喫茶店を監視していた部下からの報告を受けていたので、答えを知っていたが、敢えて西野に尋ねてみる事にした。
 「協力させて下さい。」








 そのニュースを見た時、菊池の顔は蒼白となった。彼の妻はパニックに陥り、テレビの前に座り込んでその状況を見つめていた。
 1995年3月20日。
 携帯端末と通話料料金が安くなったこともあって携帯電話の普及率が70%に達する勢いの頃であったが、菊池家の長女である詩織はまだ携帯電話を持っていなかった。ゆえに現在のような安否確認は不可能であった。娘の両親はただただテレビの画面を見ながら、娘の無事を祈る事しかできなかった。
 テレビ画面にはヘリコプターから撮影される映像が流れている。事件発生から5時間経った今でも地下鉄の出入り口の周りにはブルーシートが敷かれており、その上に横たわる人々と彼らを保護する救急隊員、警察官たちの姿があった。そして、彼らを囲うように複数の警察、消防、救急車両が赤色灯を回転した状態で停車されている。
 その時、固定電話が鳴った。着信音を聞くなり、テレビに噛り付いていた菊地の妻が飛び上がって受話器を持ち上げた。
 「詩織!?」通話の相手が娘だと思った彼女は電話に出るなり娘の名を叫んだ。
 しかし、電話の主が別人だと分かった途端に抱いていた期待が泡となって消えた。
 妻の身を案じた菊地は妻から受話器を取って電話に出る。「もしもし?」
 「父さん?ニュース見てる?」受話口から息子の声が聞こえてきた。
 「見てる…」
 「詩織から連絡は?あいつ、いつもこの時間の地下鉄を使ってるだろ?」
 「あぁ…」父の声は力なく、消え入りそうであった。
 「今から家に帰る。皆で東京に行こう。」
 「そうだな…」
 「父さんも母さんも気をしっかり持ってよ!」
 「あぁ…」
 菊池は受話器を元の場所に戻した。そして、妻に東京へ行こうと言おうとした時、再び電話が鳴った。
 彼が受話器を持ち上げようとした途端、インターホンの音で菊地信弘は現実に引き戻された。
 “またあの夢か…”
 彼の心臓は異常に高鳴っており、目頭も熱くなっていた。再びインターホンが鳴る。初老の大学教授はゆっくりと椅子から立ち上がり、玄関へと急ぐ。彼がドアを開けると、満面の笑みを浮かべた息子が立っていた。
 「ただいま。」
 「おぉ…」
 「父さん、寝てた?」
 「ちょっとな…」
 菊池は息子が両親の身を案じて度々訪問していることを感謝していたが、それと同時に彼は息子の親切心に胸を痛めていた。
 “もうすぐ全てが変わる…その時、息子は私を赦してくれるだろうか?”








 潜入捜査に協力することになった西野は7日後に警察の名簿から記録を完全に抹消された。万が一、警察の記録が漏洩することがあれば、西野の命を危険に晒してしまう恐れが出るからだ。
 表向き警察官を辞めた西野は公安警察の元で訓練を受け、その期間は4ヶ月に及んだ。
訓練の内容は暗号の作り方とその解読法、尾行の仕方と確認、そして、これから成り切らなければならない人物の設定を憶える事であった。西野に与えられた偽IDは小林 健、28歳。小林と言う人物は京都大学法学部で2年学ぶも、学費が払えなくなって休学し、ようやく今年復学した学生という設定であった。
 既に接近戦や武器類の訓練は警察学校で行われていたので、戦闘訓練は不要だと公安部は判断を下した。また、公安部は早期に西野を現地に送りたいと考えていた。その理由として、彼らが想定するテロ攻撃の時期が不明であり、それに加えて「資産」として送り込んでいた人員が忽然と姿を消すことが2度も続いたからである。姿を消した二人は武器の購入に関わっており、公安部が武器購入の首謀者を捕まえようとした矢先に連絡が途絶えたのだ。
 西野はまだ公安部の意図を理解しておらず、彼は「テロ攻撃を止めたい」という思いで訓練に臨んでいた。彼は決して選ばれたことに自惚れている訳ではなく、かつて抱いた理想を実現させうようと強く思っている。
 一方、三浦大樹は西野よりも先に京都へ向かうことになっていた。彼も西野同様に偽のID「高橋 直人」をもらい、立命館大学へ入学する手配がされている。三浦の場合、見た目が若いので現役生として大学に送り込むよう公安部が決めた。
 羽田空港の国内線ロビーで搭乗案内を待つ三浦はキオスクで購入した時代小説を読んでいた。彼は祖父の影響で時代劇が好きになり、後に池波正太郎の『剣客商売』や浅田次郎の『壬生義士伝』の虜になった。今は鳥羽亮の『八丁堀吟味帳』の新作を読んでいる。
 「よいしょっと…」三浦の右隣に男が腰掛けた。
 気にせず小説にのめり込んでいると、隣の男がワザとらしい咳払いをして三浦の注意を引く。煩わしく思った若いSAT隊員が視線を横に移して男の姿を確認する。そこには見覚えのある顔があった。
 「先輩?」三浦が驚いて顔を上げる。
 「相変わらず鈍いな。」中島が笑みを浮かべて言った。
 「ど、どうしてここに?」先輩の出現に三浦は動揺した。
 「見送りに来たんだよ。」
 「でも、講義は?」
 「今日はなかったのさ。」中島は嘘をついた。彼は弟のように可愛がっている後輩を見送るため、体調不良を偽って空港にやってきたのだ。
 「あ、ありがとうございます。」
 「それはそうと…」先輩SAT隊員が遠くを見つめた。「今回の仕事が終わったら、将来の嫁さんを連れてウチに遊びに来いよ。チビ達もお前に会いたがってるし…」
 これを聞いて三浦の顔に笑みが広がった。「喜んで!」
 その時、三浦が乗る飛行機の搭乗案内のアナウンスが始まり、人々がぞろぞろと搭乗口へ並び出した。
 「じゃ、オイラはそろそろ行くよ。知り合いに見られたら、仮病がバレるし…」中島は三浦を見ずに席から立ち上がる。何故か、恥ずかしさが彼の心に込み上げて来たのだ。
 「またな…」そう言い残すと、先輩SAT隊員は人混みの中に消えて行った。

World Tour in 2017!! [News]

 WNのワールドツアーライブですが、間もなく彼らはタイに向けて出発するそうです。日本で3ステージも披露し、疲労困憊してると思われているWNですが、バンドメンバーの『バトスピ団』が前座で1時間半演奏し、WNは30分しか歌わないのでどっちのライブか分からないと批判を受けてますね。はい。

 でも、おそらくタイに行ってからは本気になるのでしょう。以下がネットに流出したタイでのプログラムをまとめたものです。

 ・オープニング:Nによる挨拶
 ・H.O.K.U.R.E.N.(バトスピ団 ver.)
 ・B.B.Snow(三代目G3ブラスバンドブラザーズ ver.)
 ・となりのG3(バトスピ団 ver.)
 ・歩道橋
 ・漢 -the man-
 ・紅のN(バトスピ団 ver.)
 ・バトスピ団 とWNによるトークショー(日本語
 ・二代目ペルセウス (バトスピ団 ver.)
 ・野球ゲーム大会
 ・エンディング:G3による別れの挨拶


 なんかWNの場面が少ない気がしますね。2回しか歌ってないし…
 でも、初のワールドツアーなので彼らも大変なんでしょうね。はい。
 Youtubeとかにライブ様子が流れるといいなぁ~


(以下はハヤオ関連です。)
 『返報』ですが、第13回のパート2は予定通り来週の22日(水曜日)に公開します。
 ベルセルクが連載再開ということで、ハヤオのテンションがハイになってます。ゆえに少し書くスピードを上げようと努力してるようです。しかし、ベルセルクの連載がストップすれば、彼も動機を失うかも…
 待ってる人はいないと思いますが、第13回のパート2は来週22日の公開です。
 
 それじゃ!
 

 
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