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新企画!!? [News]

 ブータンに到着したWNですが、事務所から注意を受けた影響で無茶はしなくなったようです。

 そんな中、G3が新アルバムの作成を発表し、その大半がツアーで回った土地レコーディングした曲らしく、ものすごくユニバーサルな作品になるそうです。タイトルは不明ですが、G3によれば、今までは少し違った曲作りをしたとツイートしています。

 もしかすると、現地の有名アーティストとのコラボとか、テクノな音楽を入れるとか、思い切ってボーカロイドの導入とかですかね?

 このアルバム発表の他に、彼らの所属事務所であるTPs(テクニカル・ピクチャーズ)がワールドツアーのライブDVD発売も進めていることを明らかにしました。

 どのような形式で発売するかは分かりませんが、ファンであればすぐに予約するしかないでしょ!

 今回はこれまで…

 それじゃ!



(以下はハヤオ関連です。)


 第14回ですが、原案が完成しておらず、ハヤオは2ページしか書いてないとほざいてます。

 つまり、公開の次期がズレる可能性があります。こんなことなら、打ち切っとけば良かったですよね?まだ遅くないので、ハヤオ関連の記事を読まないよう共に頑張りましょう!

 まぁ、この調子で行けば、仮に公開することになれば…、9月の2週目にパート1と2を同時に公開するかもしれないですね…まだ確定ではないので、10月を跨ぐかもしれません。

 できれば、打ち切りたいものですよ…
 


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追記<Z>その2:打ち切りま… [余談]

 三連休が終わっての火曜ってツラいですね。はい。

 さて、『返報』の第13回が終わって様々な反応を頂きました。ありがとうございます。

 一応、この回で物語の全体像が見えたと思います。物語の端々に出てきた佐藤の電話相手は「三須」と「守谷」だったわけです。彼らは菊池の仇を討つために動いているらしいですね。

 今まで隠れていた彼らも第12回では姿を現し始めたので、みなさんなら結末が予想できるでしょう。

 13-6と13-7は、ハヤオ曰く、2日で書いたそうですね。ゆえにいつも以上の矛盾や不思議な場面展開が多かったのです。それに当初の長さは合計で40ページで、かなりカットしまくりました!

 原案では基地の動きや個別のグループの戦闘描写もありました。それに藤木と中島のやり取りも長かった…

 まぁ、ここまでカットしたら打ち切りにできると思ったんですよぉ~

 結論ですが、『返報』は打ち切りになりま~~~~す。










 となれば良かったのに、WNの評判を下げたがる勢力によって「継続」になりました。

 ゆえに第14回(最終回)を9月頃に公開します。

 5パートで作る予定になっており、9月1日から5週連続で公開する予定を組んでます。

 『返報』はこれで終わりますが、ハヤオはスピンオフも書く準備をしてるので、このブログはもう消滅する運命のようですね。

 悲しい限りです…


 
 
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返報 13-7 [返報]

13-7





 何も起こらなかった。

 確かに菊地は引き金を引き、撃鉄も落ちた。しかし、弾は発射されなかった。

 大学教授がもう一度引き金を絞ろうとした時、西野が素早く菊地にタックルして転ばし、銃を奪い取ろうとする。初老の老人は背中を強打したが、銃を守ろうと必死に抵抗した。

 その時、守谷が西野の右足首を掴んで菊地から引き離した。潜入捜査官は突然のことに驚いたが、すぐに左足を突き出して左腕を被弾した男の右腕を蹴った。それでも守谷は怯まずに西野を菊池から引き離すと、右踵を捜査官の腹部に叩き込んだ。激痛によって西野の肺から一気に空気が飛び出し、両手で腹部を庇いながら体を右によじった。

 菊地信弘は北朝鮮製のマカロフの遊底を引き、不発弾を弾き出して再び銃口を西野に向ける。一方、大学教授が銃を向けようとしていた時に西野は落としたSIG拳銃を見つけ、守谷の踵落としを回避すると同時に右へ回転し、そして、拳銃を取った。
 
 慎重に狙って撃ったにも関わらず、菊池の銃から放たれた銃弾は西野を捕らえることができなかった。彼はもう一度西野へ向けて発砲しようとする。だが、守谷が捜査官に接近したために引き金にかけていた指から力を抜いた。

 守谷が接近するのを見ると、西野は銃を敵に向けて引き金を引いた。しかし、狙いが甘く、3発の内2発が額に傷を持つ男の左肩上の空気を切り裂き、最後の1発が守谷の左肩を捕らえた。ここで拳銃の弾が尽きた。

 左腕から血を流す守谷は雄叫びを上げて西野に襲い掛かり、右手で捜査官の首を絞めた。男の力は強く、酸素を求める西野がいくらもがいてもビクともしない。咄嗟に捜査官は弾の切れたSIGの銃床で守谷の額を殴った。この攻撃で塞がっていた額の傷が開いて血が噴き出し、西野の首を絞める手の力が少し緩んだ。捜査官は再び銃床で男の額を殴った。今度は先ほどよりも力を込めて殴り、傷口から飛び出した血が西野の顔に降り注いだ。守谷は呻きながら後退し、額から落ちてくる血によって視界を奪われた。

 次に西野は弾の切れたSIGを菊池に投げつけ、距離を縮めると菊地の拳銃を無理矢理取り上げた。そして、大学教授の腹部に向けて2度撃ち、続いて血を拭って目を開けようとしている守谷に銃口を向けて2度引き金を絞った。菊池はその場に座り込み、守谷はバランスを崩して転び、その際に後ろへ転がりながら輸送機から落ちた。

 素早く西野は操縦席へ銃を向け、一言も警告を発せずに操縦者の頭に1発の銃弾を叩き込んだ。操縦士の血が窓と計器に降り注ぐ。

 続けて副操縦士の頭を撃ち抜こうとした時、菊池が立ち上がって学生を守ろうと右手を銃口の前に伸ばした。捜査官の発砲した銃弾が菊池の右人差し指と中指を吹き飛ばし、これによって弾道が逸れて計器に命中した。輸送機は離陸体勢に入っていたが、操縦士の死と副操縦士の混乱がそれを困難にしている。

 潜入捜査官は大学教授を押し退けて副操縦士を撃った。撃たれた学生は即死し、床に叩きつけられた菊池は虫の息であった。

 操縦士を失った輸送機であったが、死体が操縦桿を左に傾けたために急激に傾き、そのまま基地にあった建物に激突した。




















 「この一件は火災事故にすべきだろう…」

 内閣総理大臣が突然口を開いた。それまで彼は閣僚たちの話しを聞いているだけで一言も発していなかった。
 
 閣僚やその場にいた関係者はただ唖然としていた。彼らは数時間前に自衛隊基地で起こった出来事について話している。
 
 「しかし、総理…」官房長官の小田完治が右隣にいる異常なほどに痩せこけている総理大臣に言う。「これほどの事となれば…」
 
 「下手な混乱を生むのは良くないだろう。違うか、小田?」

 「この件を隠蔽することは不可能かと…それにこれは公表すべきことです。」

 総理が小田の方に体を向けると机に左肘をついて身を乗り出した。「お前、これが絶好のチャンスだと思っているだろ?」

 小田は目の前にいる男が言っていることが理解できなかった。それは他の閣僚たちも一緒であった。

 「対テロリスト機関…」総理が自分の椅子に戻る。「これを作るには絶好の機会だ。それにお前、この事件が起きる前に何かコソコソしていたな。お前、何か知っていたんじゃないか?」

 室内にいた全員の目が小田に集まる。小田は心臓が縮まるような感覚に襲われたが、表情を変えずに総理大臣から目を離さなかった。

 “公安に通報したのが漏れたのか?しかし、それだけでは―”

 突然、総理大臣の顔に笑顔が広がった。「冗談だよ。」

 室内を満たしていた張り詰めた空気がこの一言で薄くなり、小田は笑みを総理に返すと机の上に置かれた書類挟みへ視線を戻した。

 “どうやら違ったようだ。”

 「個人的に…」総理が再び口を開く。「君の案には賛成だよ。アメリカも賛成している。他の国々も。でも、対テロ機関を公のものにすることには反対だ。こういうものはできるだけ、秘密にすべきだ。」

 「しかし―」小田が総理の話しを遮る。

 総理が官房長官を睨みつけた。

 「私は君の案を進めるつもりだ。しかし、国会では話し合わない。野党は確実にこれに反対するだろう。それに私はもうすぐ引退する…」

 “そういうことか…”総理の意図を読み取った小田は口を噤むことにした。“全て私に負わせるのか…”








 菊池たちが引き起こしたテロ攻撃は、「自衛隊基地で発生した火災」として報道された。

 しかし、近隣住民は爆発音と銃声を耳にしており、それらの情報はソーシャルメディアを通じて広く日本、そして、世界中に伝わった。

 政府は野党とマスメディアに追及されたが、「爆発音と銃声のようなものは、火災によって生じた音であって、まことしやかに囁かれている自衛隊とテログループによる戦闘ではない」と否定した。その後、数か月に渡って報道されたが、世間の関心事は別のスキャンダルへ移り、この自衛隊基地攻撃は次第に人々の記憶から薄れて行った。

 ここまでが表向きの話しである。

 事件後、防衛省はすぐに警察庁を責め、基地内への警察関係の立ち入りを拒否した。この対応の背景には公安警察主導の潜入捜査があった。

 航空自衛隊入間基地で潜入捜査官だと名乗る男が拘束されたことが発覚すると、防衛省は警察庁の怠慢に怒りを覚えた。彼らは警察庁がテロ攻撃と潜入捜査の情報を共有していれば、防げた事件だと信じて激しく抗議した。

 一方の警察庁は防衛省の主張を否定した。事実、彼らはテロ攻撃の情報を掴んでいたが、その標的までは掴んでいなかった。ゆえに潜入捜査官を2名送り、詳細な情報を入手しようとしていたのだ。しかし、テログループの警戒心の高さと妨害があったために攻撃標的を事前に知ることができなかったと報告した。

 防衛省は警察庁の報告を詭弁とし、入間基地の捜査から警察を排除しようとして両者の間で激しい言い合いが始まった。だが、政府からの要請もあり、両機関は表面上捜査協力を約束し、争いに終止符を打つことにした。








 「吉崎美由紀さんはいますか?」

 受付にいた女性が顔を上げると、短髪に髭面の若い男性が見えた。髪は短く整えられているのに、顔の半分が髭で覆われている。その男は埃を被った灰色のネルシャツと色褪せたジーンズを身に纏っていた。

 「どちら様ですか?」若い受付担当の女性が作り笑いを浮かべて尋ねた。

 「西野、西野史晃です。」

 「ご用件―」

 作り笑いを浮かべながら女性が尋ねようとした時、彼女の隣にいた先輩らしき女性職員が西野顔を見て口を開いた。

 「吉崎さんは亡くなりましたよ。」

 西野は目を見開いて30代半ばに見える女性職員の方を向いた。

 「先月のことですよ。知らないん―」

 学生として大学に潜入していた男は眩暈を憶え、女性の声を聞く余裕もなかった。

 “美由紀が死んだ…?”








 棺の中で横たわる三浦大樹の顔は綺麗に整えられていたので、誰も彼の顔に薄く残っている切り傷や内出血に気付くことはなかった。

 大勢のSAT隊員や同期の警察官も忙しい中、三浦の葬儀に駆けつけてきた。その中には中島とその家族も含まれている。しかし、弟の様に可愛がっていた後輩の死を中島はまだ受け入れられなかった。

 “まだ何所かで生きているに違いない。きっと、あの人懐こい笑顔を浮かべて戻ってくる。これも捜査の一部だ…”中島はそう思いたかった。

 「ねぇ、お父さん…」5歳になる息子が中島の左手を引いた。「三浦の兄ちゃん、何で寝てるの?」

 後輩の死を受け入れたくない男は息子の問いに戸惑い、それと同時に込み上げてくる涙を必死に抑えた。

 「お兄ちゃんは…」声を出すと涙が出そうになり、中島はここで言葉を飲んだ。そして、自分でも認めたく言葉を口にした。「お兄ちゃんは、天国に行ったんだよ…」








 『今の自分』に嫌悪感を抱く西野は吉崎美由紀に会えば、『昔の自分』に戻れると思った。再び彼女と一緒になり、新しい職を見つけ、結婚し、子供を授かり、一緒に年老いて幸せに暮らしたかった。彼は『普通の人生』を送りたいのだ。

 “事情を話せば分かってもらえる…”西野はそう思った。“警察官を辞めれば、もうあんな連中と関わることもなくなる…”

 しかし、吉崎美由紀はもうこの世にいない。西野が潜入捜査後に抱いていた希望の光はもう存在しないのだ。

 西野は愛した女性の死因を探った。皮肉なことに彼が潜入捜査官になる際の訓練が、この調査の役に立った。まずは吉崎美由紀の死に関する情報を探し、地元新聞紙に書かれていた「女性会社員の自殺」に関する記事で彼女の名前を見つけた。小さな記事であったために詳細なことは書かれていなかったが、死亡した場所と日時は特定できた。

 次に彼は公開されている吉崎のSNSを隈なく調べた。投稿された文章、写真動画などに目を通して手掛かりを探すも、特に目立ったことは何もない。また、SNSで見つけた投稿の大半が食事や友人たちと遊んでいる写真と動画であった。

 “美由紀は自殺するような人じゃない…”

 吉崎が登録しているSNSサイトで西野は適当な名前でアカウントを複数作成し、新聞記者やアンケート業者を偽って吉崎美由紀の友人たちにスパイウェア付きのメッセージを送った。これでメッセージを開けば、スパイウェアが作動して開封者のデータを見ることができる。意外と引っ掛かる人が多く、その中には新聞記者を装ったメッセージに真摯に答えてくれる人もいた。

 この調査で分かったことは、吉崎美由紀が上司の角田陽平という男に迫られていたということであった。西野はすぐに角田を調べ上げ、彼の携帯電話パソコンをハッキングし、吉崎に繋がる情報を求め、元警察官は見つけた。吉崎からのメールは削除されていたが、彼自身が送ったメールの方はあまり手が付けられていなかった。

 西野はすぐに送信メールをコピーして読み、角田が執拗に吉崎を食事や飲みに誘っている事実を見つけた。吉崎の友人や同僚たちから似た話しを得ていたので、このメールはその情報の裏付けとなった。それに角田陽平は警察からも容疑者として目を付けられていたので、西野は彼が犯人だと断定した。

 既に標的の行動確認を終えていた西野は、角田の帰宅時間が迫るとすぐに彼の自宅に電話をかけ、角田陽平が病院に運ばれたと電話に出た男の妻に嘘を言った。そして、その数分後に子供を連れた角田の妻がマンションから飛び出してきて、タクシーを拾うのを西野は見た。タクシーが見えなくなると、元警察官は落ち着いた足取りで角田一家の住む部屋に向かった。








 「この二人か…」机に置かれた2つの写真を見て小田が呟いた。

 官房長官の前に座る杉本哲司は何も言わず、彼が並べた西野と三浦の顔写真を一瞥した。

 「二人は…今どこに?」写真から顔を上げて小田が尋ねる。

 「一人は亡くなり、もう一人は行方不明です。」杉本が最初に三浦の写真を、次に西野の写真を指差して答えた。

 「遺族に死因を告げたのか?」

 「いいえ。機密情報であるため、訓練中の事故死という扱いにしました。また、三浦巡査部長の交際相手であり、死亡した高橋恭子は別件で事故死になっています。」手元に置いていた書類を見ずに杉本が言った。

 「もう一人の行方不明の方は?」

 「行方不明と言いましたが、既に発見して部下を派遣しています。」

 「彼を引き入れる予定なのか?」小田が口を「へ」の字に曲げて訊いた。

 「はい。」頭に白髪が混じっている杉本が頭を縦に振った。「残念ながら、彼はもう“こちら側の人間”です。それにこれは彼のためです。」

 「本当にそう思うか?」官房長官は疑いの目で杉本を見た。

 「彼は生きる“目的”を失い、いずれ自殺を試みると思います。私は彼に新しい目的を与えたいのです。そうすることが、彼のためだと思います。」








 海辺にある公園で西野はベンチに座っていた。

 街は黎明の色に染まっており、たまにカモメや鴉の鳴き声が聞こえてくる。西野はその鳴き声を無視して波の音に耳を澄ませていた。彼の視界に入るのは海と転落防止用の柵しかない。古びたジーンズから彼はポケットナイフを取り出した。

 “これでいいんだ…”

 「ちょっと若すぎるんじゃないですかね?」

 紺色のコートを羽織った男が西野の隣に座った。西野は驚いてナイフを落としそうになった。

 「いや~、いい場所ですね。東京にもこんな場所あればいいのに…」男は銀縁眼鏡をかけており、コートの下にはコートと同じ色のスーツを着ている。

 「誰だ?」

 「私ですか?」

 男はコートの内ポケットから名刺を取り出して西野に見せた。名刺には『日本交通保安協会 藤木孝太』と書かれていた。

 「自己紹介はこんなもので…少しお話しをしませんか?」

 「話し?」

 「そうですよ。あなた、自殺しようとしてたでしょ?もったいない!命は大事にしないといけませんよ。」

 男の話し方に苛立ってきた西野は立ち上がった。

 「あなたが自殺を選んだら美由紀さんが悲しむと思いますよ。」銀縁眼鏡の男が呟く。

 これを聞いた西野はベンチに座る男を睨みつけた。

 “当たりだ!”藤木は自分を睨みつけている男を見てそう思った。

 「話しを聞いてくれるつもりになりましたか?」

 「その名前をもう一度言ってみろ―」

 「『殺すぞ!』ですか?」藤木が西野を遮って言った。「私がここに来た理由はあなたとケンカするためじゃないですよ。大切な人を亡くしたのはあなただけじゃない。」藤木の脳裏にある男の姿が浮かんだが、すぐに気持ちを切り替えた。「座ってくださいよ。そうじゃないと、変な奴らが出てきますよ。」

 藤木の言葉を聞いて西野はようやく囲まれていることに気付いた。3メートル前方に一人スーツを着た男、5メートル先の背後にもスーツ姿の男が一人。西野は大人しくベンチに座ることにした。

 「ありがとうございます。早速ですが、本題に入りたいと思います。あなたの経歴を読ませてもらいました。私の上司はあなたを非常に気に入っていて、できれば明日からでもあなたに働いてもらいたいと言っています。」

 「人違いだろ?俺は―」

 「西野史晃さん。元巡査部長。一年の潜入捜査後に辞職。その後は行方不明…となってましたが、意外とすぐにあなたを見つけることができました。」

 「天下り機関が元警察官に何の用だ?もっと補充すべき役人がいるだろう?」と西野。

 「ただの天下り機関だったら、あなたをスカウトするために東京からわざわざ来ませんよ。」

 「だったら何だ?」

 「秘密です。もし、こっち側の人間になれば全てを教えることができます。」

 「詐欺師にしては手口が下手だな。」

 藤木が笑みを浮かべた。「国家機密をそうそう漏らすことはできません。それにあなたを騙すつもりなんて微塵もない。」

 「じゃ、何が目的だ?」

 「目的はあなたをスカウトすることです。」

 「違う。俺が聞いているのはお前らの魂胆だ。」

 「『魂胆』…」銀縁眼鏡の男が西野から海へ視線を移動させる。「西野さん、あなたなら分かると思いますよ。」

 「話しをはぐらかすな。」

 「してませんよ。では単純に言いますと…この国はもう安全ではないんです。あなたも知っているでしょ?」

 西野の脳裏に菊池信弘や三須たちの顔が浮かんだ。

 「それに…頭の狂った連中のせいで、誰かが泣くところなんて見たくないんですよ。」

 西野は何も言わなかった。しかし、彼は藤木の意図を理解していた。

 “対テロ機関を新たに創設しようとしているのか…”

 「この国はあなたのような人を求めています。私と一緒に東京に来てくれませんか?」

 古びた服を着た西野は無言のまま海を見続けた。

 藤木はコートのポケットから携帯電話を取り出し、西野が来ているネルシャツの胸ポケットにそれを滑り込ませた。

 「返事は次回でも結構です。その携帯に私の番号が入っているのでいつでも連絡できます。良い返事を期待しています。」そう言って藤木がベンチから立ち上がる。

 「ちょっと待て!」公園から立ち去ろうとした藤木を西野が呼び止める。「俺は無理だ。もう俺は…そっち側の人間じゃない…」

 「それを決めるのは私の上司です。あなたじゃない。あなたが誰を殺して山に捨てたことなんて、私にとっては別に問題じゃない。それに…」藤木が西野に近づく。「部下を強姦し、妊娠したことを知るなりビルの屋上から突き落とした人が消えたって…困る人は少ないでしょ?」

 「何で―」

 「ご安心を。私はあなたの味方です。人間誰しも頼れる人間が必要ですよ、西野さん。私はその内の一人です。」















 全てを話し終えると、藤木は溜め息をついた。

 “喋りすぎたかな?”

 話しを聞いていた中島は砂場で遊ぶ娘を見守っていたが、隣に座る男が口を閉じると視線だけを藤木に向けた。

 「残党狩りはいつだ?」SAT隊員の声は落ち着いていた。しかし、彼の胸は高鳴っている。

 「話しを聞いてなかったんですか?あなたはこの事件に関わるべきじゃない。」

 「お前に止める権利も義務もないだろ?」

 「ありますよ。」ここでネズミ取りの捜査官は口を閉じた。「これ以上、知り合いを失くすのはツラいですよ…」

 これを聞くと中島は鼻で渡った。「まだ隠し事があるみたいだな…」

 「まぁ、それは次回にしましょう。」ベンチから藤木が立ち上がった。「もし…もしも、奴らと対峙することになったら…その時は分かってますよね?」

 「分かってるよ。」ネズミ取りの捜査官を見ずにSAT隊員が返事した。言い合いを避けるために言ったことであり、本心では別のことを考えていた。

 “対峙することになれば、その時は全力でぶっ潰す…”




















 目覚めると、天井に広がる大きな黒い汚れが見えた。室内はカビ臭い上に肌寒くて薄暗かった。

 守谷は起き上がろうとしたが、左腕と腹部に走った激痛で上体を起こすこともできない。仕方なく頭を動かして室内の様子を調べた。畳三畳分の部屋で彼が横たわっているベッドしか家具はなく、天井から小さな豆電球が1つぶら下がっている。

 彼から見て右側にあるドアが開き、三須が入って来た。目覚めた守谷を見るなり三須は口元を緩めて友人に近づいた。

 「起きたか?」

 「あぁ…ここは?」

 「病院だよ。違法な病院だけど…お前は運が良いよ。無理を言って中田に戻るように言い、車で滑走路に侵入しようとした時に道路の真ん中で倒れていたお前を見つけた…」

 「先生はどうなった?」守谷が右肘をついて身を乗り出した。彼の額は包帯で巻かれており、傷のある部分が少し赤く染まっている。

 「あまり動くな。傷はまだ塞がってない。」

 「答えろ!先生はどうなった!?」声を荒げると、腹部に激痛が走って守谷は再び横になった。

 「先生は…亡くなった…」三須の声には落胆の響きが含まれていた。「輸送機の操縦ミスだろう…政府はあれを火事と言って―」

 「操縦ミスじゃねぇよ。あれは小林のせいだ…アイツも裏切り者だった…」

 「どういうことだ?」

 「小林がいきなり格納庫にやってきて撃ってきた。俺と寺尾を撃ち、先生にまで襲い掛かった…奴も警察の手先だったんだ…」

 三須は信じられなかった。彼は西野を非常に信頼しており、心強い味方の一人だと思っていた。

 「本当に小林だったのか?」大学院生は守谷の間違いだと信じたかった。

 「確かだ。アイツと殴り合い、撃たれた…お前も俺の傷を見ただろ?これは小林の仕業だ!」

 信頼する友人の言葉を聞いて三須は色々と考えを巡らせた。

 “事実を確認する必要がある…”

 「何を考えてる?今すぐに仇を―」

 三須が右手を上げて守谷を制した。「感情的になるな。そこがお前の欠点だ。」

 そう言われて守谷は口を噤む。

 「仇は取る。だが、その前に準備が必要だ。今まで以上の準備が…」

 「何か考えがあるのか?」

 「ある。だが、時間が掛かる。」

 「もたもたしてる時間はないぞ!」

 「分かってるよ。」半ば呆れ気味に三須が言った。「大丈夫。奴らにはちゃんと報いを受けさせるさ…大きな報いを…」

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安定のWN! [News]

 以前、WNのリードボーカル『N』がキューバで逮捕されたかも…と書きました。しかし、ガセネタであることが判明しました。

 あまりの騒動にWNリーダーであり、ラッパー、そして、孫を深く愛する『G3』が公式サイトで詳細を報告していました。内容は、ライブにNそっくりの現地スタッフ(影武者とも言われている)を全裸でステージに上げた結果、会場にいた“にわかファン”が通報して、その現地スタッフが逮捕された、というもの。

 いつも悪ふざけで逮捕者を出すなんて、やっぱりWNは安定してますね!

 彼らはワールドツアーの最終目的地「ブータン」に行くそうです。楽しみですね!

 また、ファン向けにこのツアーのドキュメンタリーが制作されているそうです!!詳細が分かり次第、ブログに書きます。

 それじゃ!



(以下はWNファンには関係ないです。)
 『返報』13-7を明日公開します。
 第13回のトータルアクセス数が基準を満たせば、第14回の公開が決まるかもしれないです。ゆえに読者の方々は『返報』をできるだけ避けてください!あなたのいたずらなアクセスがWNの不幸に繋がりますよ。お願いします。
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返報 13-6 [返報]

13-6







 三須に付き添われてトイレから戻ってきた西野は、水で満たされたバケツに携帯電話を放り込む複数の男女を目撃した。

 「あれは?」三浦の死からまだ立ち直れていない西野が三須に尋ねた。

 「準備だよ。計画が早まってね…」

 この言葉に西野は驚き、心臓が激しく動悸した。

 「早まった?」

 「君も見ただろ?あのネズミのせいで、先生が計画を明日の夜に早めたのさ。」

 “大原さんに知らせないと…”

 西野がそう思っていると、守谷が近づいてきた。

 「お前の携帯もバケツに入れろ。」

 「SIMカードを抜いてもいいか?大事な連絡先が―」

 「連絡先なんてどうでもいい。ぶつぶつ言ってないで、早くしろ!」

 守谷に怒鳴られて潜入捜査官は渋々スマートフォンを上着のポケットから取り出し、それをバケツに満たれた水の中へ落とした。沈んで行く携帯電話を見つめていると、三須が西野の左肩に手を置いて潜入捜査官に微笑みかけた。

 「何事にも犠牲は付き物だよ、小林くん。それにデータなら、あとで簡単に修復できる。」

 三須の慰めを聞いても西野は何も言わなかった。彼は連絡係との緊急連絡先を思い出すのに必死だった。始まりと終わりの数字は憶えているが、真ん中2桁の数字が思い出せないのだ。

 「先生が来たぞ。」守谷が三須と西野に呼びかけた。

 「菊地先生に会うのは初めてだったよね?」三須が西野に訊く。

 「はい…」潜入捜査官はまだ電話番号を思い出そうとしている。

 「緊張しなくても大丈夫さ。」西野の表情を見て三須が言った。「先生はとてもいい人だよ…」








 潜入捜査官からの連絡が途絶えて二人の連絡係は動揺し、机に置いている携帯電話を凝視することしかできなかった。

 「正体がバレたのか…?」三浦の連絡係である山中が呟いた。

 「いや…」大原が首を横に振る。「45分前までは西野と連絡が取れていた。」

 「その後に捕まったかもしれないだろ!」山中が声を荒げた。

 「分からない。もう少し待ってみよう。」

 「係長に連絡した方が良さそうだ。問題が大きくなる前にしないと…」三浦の連絡係は頻りに体を震わせていた。

 大原は同僚の状態の方が心配だった。

 「もう一度、西野の位置情報を確認してみないか?」と山中。

 「無駄だと思うが…」

 「やってみる価値はあるだろ?」

 「わかったよ…」大原がスラックスのポケットからスマートフォンを出した。








 学生たちは半円を描くようにして菊池信弘を取り囲み、大学教授の言葉に耳を傾けていた。

 「これから6つのグループに分かれてもらい、それぞれ別々の場所で車を借りてもらう。」

 「目的地は何所ですか?」と学生の一人が尋ねた。

 「埼玉県の入間市だ。」守谷が菊池の代わりに答える。

 「何故、早まったんですか?」別の学生が菊池に向かって訊く。

 「準備は既に整っていた。そして、もう待つ必要は無いと思ったからだよ。」大学教授は三浦の件を言わなかった。学生たちが警察の潜入捜査を知れば士気が下がると思ったのだ。「詳細は後でGメールの下書きに書き込んでおくので、各自で確認して欲しい。」

 “Gメールの下書き?”西野はその存在を知らされていなかった。

 彼がメールアカウントの存在に疑問を持っていると、三須が黒いゴルフバッグ2つを菊池のいる机の前に置いた。

 「各グループに同じゴルフバッグを2つずつ持って行ってもらう。一つには普通のゴルフグラブ、もう一つには武器と簡単な銃器の取扱説明書が入っている。」菊池がゴルフバッグを指差しながら説明する。「私からは以上だ。健闘を祈る…」

 大学教授がその場を後にすると、三須が菊池のいた場所に立った。

 「これから少額だが、活動資金を渡す。それで乗り物を借りるんだ。」上着の内ポケットから三須が6つの封筒を取り出して机の上に並べた。「それから無線機も提供する。周波数はGメールを確認してくれ。」

 「Gメールのアカウントを知らないんですが…」と西野が声を上げた。

 「すぐに教えるよ。」と三須。








 大原がスマートフォンから顔を上げ、答えを待っている同僚を見た。

 「ダメだ。全く反応がない。もしかしたら、電源を切ってるかもしれない。」

 「やはり捕まったか…」冷や汗を額に浮かべている山中が言う。
 
 「分からない。それに三浦の安否だってまだ―」

 「三浦は捕まったさ!あの連絡は救助要請だった!三浦は捕まって殺されたに違いないッ!そして、彼が西野のことも話せば、西野も捕まって殺される…」

 山中の叫びに大原は動揺した。“ありえるな…”

 「係長に連絡して三浦と西野が言っていた連中の拠点に乗り込もう。そうすれば、十分な証拠も掴めるはずだ!」

 “できれば避けたいことだが…”

 「分かった。係長に連絡して連中を捕まえるか…」大原が再び携帯電話に目を戻し、番号を入力し始めた。








 6つのグループが編成され、西野は『野坂』という男が率いるグループに入った。この班には他に『小出』、『糸井』、『大久保』の三人がおり、彼らは西野と野坂同様に京都大学に所属している学生であった。

 潜入捜査官は隙を見て連絡係の大原に電話しようとバケツから携帯電話を取り出したが、それは既に壊れていた。彼は静かにそれをバケツに戻し、自分のグループへ急いだ。

 「糸井が車を借りに行った。アイツが戻るまで俺たちは待機だ。」坊主頭の小出が言った。彼は今日のために髪を切った。この男にとって散髪は気を引き締めるための行為なのである。

 「他のグループは?」周囲を見渡して西野が尋ねる。

 「それぞれ車を探しに行ったよ。同じ場所にいても怪しまれるだけだし…」大久保がスマートフォンを見ながら言った。

 「そう言えば…あの男は…どうなったんだ?」恐る恐る潜入捜査官が訊いた。

 「あの男?」と小出。

 「守谷さんに始末された奴か?」大久保が西野を見る。「アイツは女がいる場所に連れて行かれたよ。自殺したように見せるらしい。」

 “女…?”西野は何のことだか分からなかった。

 「あの男の他に誰か殺されたのか?」潜入捜査官が大久保に尋ねた。

 「何も知らないんだな…高橋って男は警察のイヌで、それの元締めが女警察官だったんだ。」

 “彼の連絡係は男性だったはず…殺された女性は何者だ?”

 西野は詳細な情報が欲しかったが、これ以上の詮索は疑惑を生むと考えて口を噤んだ。








 二人組の男は視線だけ周囲に配って警戒しながら10メートル先にある建物の裏口に近づいた。男たちは共に黒いスーツ姿でその下に白いシャツを着用し、ネクタイはしていない。

 彼らは裏口の横に立つと上着のボタンを外し、右裾を後ろへ押しながら腰のホルスターに触れた。そして、拳銃の銃把を掴んで静かに引き抜き、次に左手で上着の左ポケットに入れていた短い消音機を取って銃口に捻じ込んだ。

 「配置に着いたか?」男たちの右耳に差し込まれているイヤフォンから大原の声が聞こえてきた。

 「甲班、配置に着いた。」黒いUSP拳銃を腰に押し当てて待機している七三分けの髪型の男が応えた。拳銃とスーツの色が同色なので、遠くから見れば彼が銃を持っているとは分からない。

 「乙班、こちらも配置に着いた。」別の班の声がイヤフォンを通して聞こえてきた。こちらの班は正面入り口の付近にいる。

 「できれば発砲するな。三浦と西野の保護が優先だ。」

 「了解。」

 そう言うと、七三分けの髪型をした男が後ろを振り返った。彼は左手を顔の横に置いて指を三本立てた。男の後ろにいた眉毛の太い同僚はUSPの撃鉄を下ろしてカウントを見守った。

 3…2…1…

 ドアノブを回して先頭に立つ男が室内に侵入した。両脇をしっかり締めて銃を小さく構える二人は壁沿いに移動し、ドアがあると静かに素早く室内を確認して前進した。しかし、全く人気がない。室内には塩素の強い匂いが漂っている。

 進んで行くと二人は乙班と合流した。合流後、前進を続けると異臭が彼らの鼻を突いた。西野と三浦を探しに来た公安機動捜査隊のメンバーは異臭の発生源を求めて地下室へと進んだ。道中で彼らは強い消毒液の臭いを嗅いで咽そうになり、地下室のドアを開ける時には目に涙が溜まっていた。

 ドアの向こう側には首を吊った男性と血の海の中で倒れる女性の遺体があった。

 急いで七三分けの髪型の男が首吊り遺体の顔を懐中電灯で照らして確認する。顔が酷く腫れ上がっていたが、男は写真の顔を記憶していたので、それが保護対象者であることに気付いた。

 “遅かったか…”

 すると、眉毛の太い男が折り畳みナイフを取り出して三浦の首を圧迫している縄を切った。すぐに七三分けの髪型の男が三浦の死体をしっかりと掴んで静かに床に寝かせる。

 一方、乙班は三浦の交際相手であった高橋恭子の顔写真を取って大原に送信した。彼らは彼女の存在を知らなかったので、高橋がテロリストの仲間かと思った。

 「三浦大樹の遺体を確認。また、身元不明の女性の遺体も発見しました。」七三分けの男が大原に報告する。

 報告を受けて大原は言葉を失った。“やはり死んでいたか…”

 「零、聞こえていますか?」七三分けの男が尋ねる。大原たちのコードネームは『零』であった。

 「き、聞こえてる…」ようやく大原が口を開いた。「二つの遺体を運び出してくれ。先程の場所で合流しよう。」

 「了解。」








 6時間を超える長距離運転を経た菊池たちのグループは、二手に分かれて埼玉県の入間市と狭山市のビジネスホテルで準備を整えている。

 菊池と行動を共にする三須が大学教授の利用しているツインベッドルームにゴルフバッグを持って入って来た。彼は慎重に縦長の鞄をベッド横に置き、中に入っていた長い布をベッドの上に敷く。続けて三須は鞄の中から武器を取り出して、ベッドに敷いた布の上に並べ始めた。

 「私の分はいらないよ。」菊池がテレビの電源を入れて言った。これは銃器の可動テスト音を少しでも消すためであった。

 「しかし、拳銃だけでも―」

 「いらないよ。」

 これ以上言っても無駄だと思った三須は口を閉じて黙々と弾倉の込められていない武器を布の上に並べる作業を続けた。そして、全ての武器を並び終えた頃に行動を共にする4人の学生が二人のいる部屋に来た。彼らはベッドの上にきちんと並べられている武器を見て胸を高鳴らせた。

 “遂にこの時が来たんだ!”

 学生たちは割り当てられた銃器を手に取って動作の確認作業を行う。遊底を何度か引いたり、引き金を絞ったり、空の弾倉を出し入れするのが主な確認であり、分解して掃除をするようなことはしなかった。

 この作業を終えると彼らは空の弾倉に銃弾を詰め込み始めた。ロシア製のマカロフ拳銃を模した北朝鮮製の拳銃のように装弾数の少ない物であれば、比較的簡単に銃弾を詰め込める。しかし、AK-47を模造した中国製の56式自動歩槍やフィリピンで密造されたUZIのコピー品などはそう簡単に弾を込めることはできない。弾倉内のバネが強力なので、詰め込み作業中に右親指が赤くなって手を休める学生も多かった。

 武装の準備は他のホテルでも行われており、西野も共に行動する4人の男と弾倉に銃弾を詰め込んでいた。西野以外の男たちは短機関銃または突撃銃を求め、潜入捜査官は残っていたマカロフ拳銃を模した北朝鮮製の拳銃をあてがわれた。

 その後、準備作業を終えた学生たちはそれぞれの部屋に戻って眠ることにした。しかし、彼らは遠足前夜の子供のように緊張して眠ることができず、スマートフォンでGメールに書かれている計画書に何度も目を通した。

 西野はこれが最後の機会だと思い、室内に備え付けられていた電話で連絡役の大原に電話しようとした。大原の電話番号を頭の中で復唱しながら受話器に手を伸ばすと着信音が鳴り、潜入捜査官は驚いて伸ばしていた右手を引っ込めた。突然のことに西野は驚いて固まってしまったが、すぐに受話器を取り上げた。

 「もしもし?」と西野。

 「小林くんかい?」

 電話は三須からであった。彼は西野が所属するグループの野坂からメンバーの部屋番号を聞いており、各グループのリーダーたちと最後の会話も終えていた。

 「はい。どうしました?」

 「少し話せるかな?今、君のいるホテルのロビーにいるんだ。」

 「今から行きます…」そう言って西野は電話を切った。








 その頃、2台の白いバンが入間市に到着した。1台は守谷が運転しており、もう1台は中田という男が運転していた。それぞれ別のルートを使い、そして、予約した別々のホテルの地下駐車場にバンを停車させた。

 バンの積荷は硝安油剤爆薬ことアンホ爆薬であった。爆弾はプラスチック製の30Lサイズのドラム容器に入れられており、それは食器などの家庭用品が収められた段ボールの下に隠すように積まれていた。無関係な段ボールを積んだ理由は引っ越し業者と偽るためである。各バンに積まれている爆薬の数は10個、合計で20個である。三須と守谷はこれだけあれば、撹乱と防護柵の破壊ができると思っていた。

 目的地に到着すると、守谷と中田はチェックインを済ませて仮眠を取ることにした。








 「そんなに驚かなくてもいいだろ?」笑みを浮かべて三須が言った。

 西野と三須は潜入捜査官が宿泊するホテルの周辺を歩いている。三浦の一件から守谷は疑心暗鬼になっており、小林と名乗る男も警察が送り込んできたスパイだと思っていた。ゆえに彼は西野の動向を探るよう三須に頼んだ。

 大学院生は何度か角を曲がったり、カーブミラーを使ったりして不審人物を探したが、彼の注意を引くような発見は無かった。

 「ただ格納庫まで走り、先生たちと合流する。君のグループ仲間は囮だ。言うなら、磁石。彼らが注意を引いてる間に格納庫へ行く…驚くことはないだろ?」

 「彼らを見捨てろと?」西野が三須の横顔を凝視する。

 すると、三須が鼻で笑った。「そうじゃないよ。彼らの犠牲は必要不可欠ことだ…彼らは英雄になるんだ。そして、君もね…」

 「でも…」

 「心配いらないよ。小林くんは自分の心配だけすれば良いんだ。」

 しばらく二人は黙ったままホテルの周りを歩き、尾行確認を終えた三須は西野とホテル前まで移動した。

 「それじゃ…」大学院生が右手を上げて別れを告げ、背中を西野に見せた。

 「三須さん!」

 潜入捜査官が呼び止め、三須が振り返る。

 「絶対にやらなきゃならないことなんですか?」西野の声は震えていた。恐怖というよりも、それは怒りによって引き起こされた震えであった。

 三須は数秒間、西野の双眸を見つめた。大学院生の目には何の感情も浮かんでおらず、ただ潜入捜査官の正義感に燃える目を見るだけで何も言わなかった。西野が再び問い掛けようとした時、三須が右口角を少し上げて頭を縦に振った。そして、大学院生は自分の宿泊しているホテルへ戻って行った。
 
 西野は急いでホテルへ戻り、ロビーにあった公衆電話まで走った。財布から10円を取り出して暗記した大原の電話番号を入力する。周囲に目を配りながら潜入捜査官は受話器から聞こえてくる呼び出し音に耳を傾けた。機械音が永遠とも思えるほど西野の右耳に響き、急ぐ彼は左手人差し指で何度も灰色の公衆電話の頭を叩いた。ようやく「カチッ」という音が聞こえ、次に大原の声がした。
 
 「もしもし?」
 
 「大原さんですか?」西野が問い掛ける。
 
 これには大原も驚いた。「西野か?何所にいる?何があった?」
 
 「今、埼玉の入間にいます。携帯電話が―」
 
 「何やってんだ、小林?」

 話しに夢中になっていた潜入捜査官は周辺警戒を怠っていたため、背後から近づいてくる男の存在に気付けなかった。後ろを振り向くと、大量のお菓子と数本の1.8Lの炭酸飲料の入った買い物袋を持つ小出が見えた。西野は焦って受話器を元の位置に戻し、買い物帰りに見える仲間の方へ体を向ける。

 「母親に電話してたんだ。親父が入院してるから…」西野が適当な嘘を述べた。

 「そうか。大変だな…」小出はあまり西野の行動を気にしていなかった。「ちょうどいい。みんな、眠れそうにないから野坂さんの部屋にこれから集まるんだけど来る?菓子もあるよ。」坊主頭の小出が買い物袋を持ち上げて西野に見せた。

 「行くよ。」潜入捜査官は動揺を隠しながら言った。

 「みんな待ってるから急ごう。」








 “埼玉?入間?携帯?”

 大原は西野から聞きたい事が山ほどあったが、潜入捜査官からの電話は途中で切られてしまった。彼にとって西野から連絡は吉報であった。西野はまだ生きており、埼玉の入間市にいる。声のトーンから急いでいる感じはあったが、怯えている様子は感じられなかった。つまり、西野の偽IDはまだ有効である可能性が高い。

 「西野は何と?」山中が尋ねた。

 「埼玉の入間にいると言っていた…」大原が携帯電話を机に置く。

 「急いで行こう。まだ機捜の奴らもいる。」

 「だな…」








 深夜2時8分28秒。

 小熊が率いるチームは航空自衛隊入間基地の正門、『道上』という男のグループは稲荷山門の近くに車を停めて来たる時を待っていた。

 “あと2分…”

 それぞれが携帯電話で時刻の確認をして胸を高鳴らせ、銃把を握る手に力を入れた。

 2時9分00秒。

 小熊と道上が合図を出さなくても、学生たちは装備を持って車から降りた。各グループに所属する運転手はギアをニュートラルに入れてから車を降り、シートベルトでハンドルを固定すると座席の下に置いていた耐火煉瓦を手に取った。彼らのグループが持つ車はセダンタイプであって奇襲向きではない。しかし、彼らに別の車を用意する暇はなかった。

 2時9分37秒。

 各グループの運転手が再び車のギアをドライブに入れ、乗用車がゆっくりと進み始める。すると、運転手は車のドアを左手で抑えながら、重さ3.7kgの煉瓦を恐る恐るアクセルペダルの上に落とすようにして置いた。煉瓦の重さでペダルが押され、乗用車は加速して入間基地の門目がけて走り出した。

 2台の乗用車は別々の場所でほぼ同じタイミングで走り出し、風圧によって運転席側のドアが閉まる。これを見た小熊と道上を除く学生たちはポケットに入れていた手榴弾の安全ピンを抜き、乗用車が目的のゲートに激突すると手榴弾を車へ放り投げた。

 そして、手榴弾が投げられると同時に小熊と道上は発煙筒を着火させ、門に激突して動けなくなっている車の方へ飛ばした。手榴弾の破裂と同時に発煙筒が車の上に落ち、乗用車のトランクに積まれていたアンホ爆薬が爆発した。
 







 2時10分17秒。
 
 滑走路に面した道路で待機していた4つのグループが爆発音を耳にした。

 各グループは約70mの間隔を開けて待機しており、爆発音を聞くと一斉に学生たちは運転手を残して車から飛び出した。彼らの手には銃が握られており、外に出るなり遊底を引いて初弾を薬室に送った。

 一方、残された運転手はギアをニュートラルからドライブに入れてアクセルペダルを勢い良く踏み込んだ。4台の車は基地と道路の間にある金網フェンスに向かって突撃し、地面に埋まっていたフェンスを弾き飛ばして敷地内に侵入した。

 2時10分59秒。

 学生たちが切り開かれた入り口に向かって走り出した。

 拳銃を右手に持つ三須が仲間の後を追いかけようとした時、菊池に左腕を掴まれた。何事かと大学院生が振り返る。

 「君にはまだやる事がある。」

 そう言うと、菊池信弘はスタンガンを三須の胸に押し当てて電源を入れた。スタンガンからバチバチと電流の流れる音がし、大学院生は体を痙攣させて地面に崩れ落ちた。

 三須は尊敬する大学教授の顔を見上げ、目で「何故ですか?」と訴えかけた。

 「歴史には“証人”が必要なんだよ。」菊池は意識を失いかけている学生の手から銃を奪った。そして、大学教授は背後で待機していた中田という学生の方を向く。

 「三須と君はここから逃げるんだ。全てが終わった時、あの声明文を公開してくれ。」

 菊池の話しを黙って聞いていたプロレスラーのようにがっしりした体格の中田は、頭を縦に振って三須を右肩に担ぐとその場を後にした。








 2時11分00秒。

 爆発音とそれに続いて生じた銃声を聞いた自衛隊たちが応戦に出た時、西野の所属するグループが大久保の運転する車によって切り開かれた入り口に向かって走り出した。

 戦う気のない西野は拳銃をベルトに差し込んで仲間の後を追い、どのようにして彼らを止めようか考えていた。

 金網フェンスから10m程離れた場所で大久保が車を停め、走ってくる仲間と合流する。

 「発煙筒は?」長身の野坂が大久保に尋ねた。

 「お前が持ってんじゃねぇのか?」目を大きく開いて茶髪の大久保が問い返した。

 「持ってはいるが…」

 「じゃ、問題ないだろ!」

 野坂は大久保の態度が気に入らなかったが、ここで彼と争う気はないので渋々ショルダーバッグから発煙筒を取り出した。

 その時、彼らの顔を眩い光が襲った。

 「そこで何をしてる?」光の方向から声が聞こえてきた。

 西野たち5人が顔を照らす光を手で遮りながら、声の主を確認する。そこには懐中電灯と自動小銃を持つ自衛隊員が1人いた。自動小銃の銃口はまだ下に向けられており、西野たちをまだ脅威とは認識していない。

 しかし、襲撃者たちは違った。パニックに陥った小出は雄叫びを上げながら持っていたAK-47の模造銃を腰で構え、銃口を自衛隊に向けると引き金を絞った。

 異変に気付いた自衛隊は懐中電灯を落して地面に伏せ、素早く右へ回転して銃弾から逃れようと動いた。本物のカラシニコフ自動小銃に似た乾いた断続的な銃声と共に無数の銃弾が発射され、狙っていた隊員がいた場所の空気を切り裂いた。

 小出は銃が弾倉を食い潰すまで引き金を引き続け、標的が移動しても同じところばかり撃っていた。だが、他のメンバーはそれぞれ銃を構えて自衛隊員の後を追うようにして発砲した。

 数発が移動する隊員の腕や脚をかすめ、4発が防弾ベストに命中した。ここまでは致命傷に至るダメージを受けなかったが、彼が立ち上がろうとした時に再装填を終えた小出の自動小銃が再び火を噴いた。銃弾が右の腕と肩に命中して自衛隊員は突き飛ばされたように地面に叩きつけられた。

 止めを刺す機会であったが、西野を除く全員弾切れであった。彼らは急いで新しい弾倉を銃に入れようと動き始める。

 これを見た潜入捜査官は素早くベルトに差し込んでいた拳銃を抜き取り、手前にいた小出の背中に向けて3度引き金を絞った。反動によって拳銃が跳ね上がり、最後の1発は小出の後頭部を撃ち抜いていた。

 『菊池たちを止める』ことで思考が一杯になっていた西野の咄嗟の行動であった。

 菊池たちの無力化。それが彼の導き出した答えであった。

 背後からの攻撃に野坂、大久保、糸井が驚いて装填の手を止めて振り返った。

 躊躇することなく西野は銃口を小太りの糸井に向け、引き金を絞る。今度は反動を考慮して引き金を2度引いた。

 照星、反動、照星、反動。

 2つの銃弾は糸井の胸を捕らえ、被弾した男は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 突然の裏切りに激怒した大久保が、持っていた短機関銃を投げ捨てて西野に襲い掛かった。潜入捜査官は慌てながらも銃口を大久保に向けて引き金を絞る。初弾は接近する男の左肩をかすめたが、続けて放たれた2発目が彼の顎を、そして、3発目が左頬を捕らえた。怒りに燃えていた大久保は地面に倒れると同時に絶命した。

 ここで西野のマカロフを模して作られた拳銃の遊底が後退し、再装填の必要性を彼に伝えた。西野が予備弾倉に手を伸ばした時、何かが頭上の空気を切り裂いた。ふと顔を上げると、短機関銃を構える野坂が見えた。

 「この裏切り者がッ!」

 長身の男が引き金にかけた指に力を入れると同時に3発の銃声が聞こえ、西野を撃とうとしていた野坂がうつ伏せに倒れた。

 死を覚悟した西野であったが、突然のことに彼は状況が呑み込めなかった。しかし、野坂が倒れたことによって、彼の陰になっていた存在が潜入捜査官の目に映り込んだ。仰向けに倒れた状態で左手に拳銃を持つ自衛隊員がおり、その銃口は西野に向けられている。

 暗がりであったので互いの顔を見ることはできなかったが、西野は自衛隊員の鋭い視線を感じた。そして、潜入捜査官は弾の切れた拳銃を地面へ放り投げた。彼は撃たれても仕方のないところまで来てしまったのだ。

 菊池や三須をもっと早くに止めることもできたかもしれないが、彼は恐ろしくて連絡役に強い進言を行わず、許されるのならば逃げ出したかった。三浦を救う手立てもあったかもしれない。しかし、西野は何もしなかった。

 銃声を期待していた西野であったが、自衛隊員は黙って銃口を潜入捜査官に向けるだけで引き金を絞ろうとしない。彼は迷っていた。西野は敵であるが、自分の命を救ってくれた。しかし、逃がす訳にはいかない。

 多くの血を失った自衛隊員は疲れて銃を持つ左手を下ろした。銃を下ろしてはいけないが、腕が休みを求めていた。

 覚悟できていると思っていても、自衛隊員の動きを見て西野は安堵し、胸を撫で下ろした。

 その時、西野と自衛隊員は金属音を耳にして、音のした方を一斉に見た。そこには右手に手榴弾を持つ野坂がおり、彼は口から血を流しながらも不気味な微笑みを浮かべて潜入捜査官を見つめていた。そして、西野が伏せた瞬間に手榴弾が破裂した。

 奇跡的に潜入捜査官は手榴弾の破片を回避できたが、野坂の血と肉片を浴びた。血を見て西野は同じ潜入捜査官であった三浦のことを思い出し、激しい吐き気に襲われて咽た。

 “クソッタレ…”

 立ち上がって野坂の亡骸を見下ろした西野は心の中で悪態ついた。彼は思い出したように自衛隊員の所へ駆け寄り、この時になってようやく隊員の顔をはっきりと見ることができた。その自衛隊員は西野よりも若く、20または21くらいに見えた。

 若い自衛隊員は自分の右隣で両膝をつく西野を見るなり、左手で潜入捜査官の上着の胸部分を掴んだ。

 「助…けて…」消え入りそうな声で隊員が言った。

 「すぐに助けを呼ぶ。」

 そう言って、立ち上がろうとすると若い隊員が強く西野を引っ張った。

 「行かないで…」

 この時、西野は手榴弾の破片が自衛隊員の守られていない下腹部に刺さって、大量の血が流れていることに気付いた。

 「すぐに戻って来る。だから、ここでじっと―」

 自衛隊員を落ち着かせて助けを呼ぼうとしたが、その前に潜入捜査官は若い隊員の両目から生気が消え、頭がだらりと地面に落ちた。西野は自衛隊員が意識を失っただけだと思い、何度も体を揺すって起こそうとした。しかし、若い隊員が目覚めることはなかった。

 見ず知らずの自衛隊員であったが、西野の胸は悲しみで締め付けられて目に涙が溜まった。潜入捜査官は再び死亡した三浦大樹のことを思い出し、自分の無力さに苛立った。そして、この苛立ちが彼の中に存在していた何かを砕いた。
 
 2時13分24秒。








 2時14分16秒。

 航空自衛隊は小熊と道上たちが思うほど容易に足止めできる存在ではなかった。奇襲であったにも関わらず、彼らは4分足らずで制圧されてしまい、全員死亡した。

 その頃、菊池は守谷のグループと合流して目的の輸送機がある格納庫へ急いでいた。他の生き残っていたグループも同様に格納庫に急いでいたが、彼らは運悪く複数の自衛隊員に遭遇して戦闘し、呆気なく無力化された。ゆえに守谷は時間稼ぎのため、自分のグループメンバー4人を自衛隊員が密集している地域に送り込んだ。

 C-1中型輸送機は暗い格納庫の中で眠っていた。菊池たちは全長29mあるこのターボファンエンジン搭載の機体を探し求めており、これを使って人々を覚醒させようと目論んでいる。

 彼らの計画は実に単純な物であった。輸送機を盗み、それで首都東京へ飛ぶ。

 特に標的などは決めておらず、燃料が切れるまで人口密集地域を飛ぶ考えであった。東京へ行く時もできる限り重要施設や街の上を通り、目的地に着けば飛べなくなるまで旋回を繰り返す。これは菊池と三須で考えた方法であり、輸送機を撃ち落としても、それが東京に落ちても大学教授が無能だと思っている政府に大きなダメージを与えることができる。また、この攻撃によってテロに対する警戒を高めることができると彼は思っていた。

 “詩織とあの事件で亡くなった犠牲者たちのために…”

 学生たちが輸送機の発進準備を始め、菊池はこれから起こることに興奮して両脚を震わせた。

 「先生…」守谷が大学教授の横に並んだ。「他のグループとの交信が途絶えました。つまり…」

 「いいんだ。」菊池は俯いて右手に持つ拳銃を見た。「彼らは英雄だ。歴史がそれを証明する。」

 「そうですね…」

 「そろそろ出発かな?」

 「はい。」

 二人は後部ハッチから輸送機に乗り込み、守谷が見張りとして残した1人にも乗り込むように手招きした。見張りをしていた男が自動小銃を抱えて走り出すと、乗用車が格納庫の裏口を突き破って侵入し、C-1の後部ハッチ左部分に激突して停車した。
 

 突然の出来事に驚いた菊池たちは銃を乗用車に向けて様子を伺う。しかし、車から降りてくる者はいない。彼らが銃を下ろすと同時に銃声が格納庫内に響き、守谷が先に襲撃者の姿を確認した。

 “小林ッ!!”

 額に青筋を浮かべた守谷は持っていたUZI短機関銃の模造銃を西野に向けて引き金を引いた。
断続的な銃声が聞こえ、潜入捜査官は素早く左へ飛んで守谷の射角が逃げた。彼の右手には北朝鮮製の拳銃、左手には亡くなった若い自衛隊員のSIG拳銃が握られている。

 右残弾4。左残弾7。

 慎重に行動しなければ、菊池たちを止めることはできない。

 「出せ!出すんだッ!!」大学教授が操縦席にいる学生たちに向かって叫んだ。

 操縦席と副操縦席にいる学生がマニュアルを見ながら後部ハッチを閉めようとするも、西野が突入に使用した車がそれを妨害していた。仕方なく彼らはハッチを開けたまま飛ぶ決断を下した。

 西野の後を追うように銃弾が床や格納庫の壁に命中し、潜入捜査官は急いで後部左ハッチに激突させた車の陰に飛び込んだ。それと同時に守谷の短機関銃が弾切れとなり、彼は再装填する代わりに隣で呆然としていた見張りからカラシニコフ自動小銃の模造銃を取り上げ、西野が隠れている車に向けて発砲した。

 C-1中型輸送機がゆっくりと滑走路に向かって動き出す。

 潜入捜査官は激しい弾幕に身動きができず、飛行機が動き出すと次第に焦りが生じてきた。

 “逃がすか!”

 自動小銃が火を噴く中、西野は遮蔽物から飛び出して輸送機の中に向けて4度発砲する。両方の拳銃から2発ずつ放たれ、その内の1発が守谷の左腕に命中し、他の3発は輸送機の壁にめり込んだ。

 右残弾2。左残弾5。

 被弾した際に額に小さな切り傷を持つ男は、激痛に抗う事ができず、発砲している銃を左斜め下に下ろしてしまった。この時、1発の銃弾が西野の左腿をかすめ、その部分のジーンズが血で染まる。

 西野は輸送機に飛び乗りながら再び2つの拳銃を発砲し、北朝鮮製のマカロフの弾が切れた。彼が発砲する直前に守谷は急いで伏せ、丸腰であった見張りの胸に潜入捜査官が放った全ての銃弾が命中した。撃たれた男はその衝撃で後ろに倒れた末に息を引き取った。

 右残弾0。左残弾3。

 輸送機が滑走路に入り、加速を開始した。

 “これを止めるには操縦者を撃つしかない。”

 潜入捜査官が拳銃を操縦席に向けた時、守谷が立ち上がって西野を輸送機の壁に叩きつけた。
機内の隅で丸くなっていた菊池は自分も加勢するべきだと思い、拳銃を裏切り者である西野に向ける。しかし、守谷が邪魔で撃てなかった。

 西野を壁に叩きつけると、捜査官は拳銃を落してしまった。素早く守谷は距離を取って自動小銃を西野に向ける。咄嗟に潜入捜査官は自動小銃のハンドガードを下から両手で包み込むように持って銃口を上へ移動させ、それと同時に守谷が引き金を引いて輸送機の天井に複数の穴を開け、そして、弾倉が空になった。守谷は西野を突き飛ばし、自動小銃の銃床で殴り掛かった。

 潜入捜査官は急いで左に逃げて攻撃を回避した。しかし、そこで彼はぎこちなく両手で拳銃を持つ初老の大学教授と対面した。

 菊池は西野に銃口を向け、ゆっくりと引き金を絞った。

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未確認情報と『なげぇーよ、おい』 [その他]

 WN関連の未確認情報ですが、Nがキューバで逮捕されたらしいです。

 他のファンサイトによると、ライブ中に興奮したNが全裸になって踊ったことが原因のようです。はい。

 ちなみにWN事務所『テクニカル・ピクチャーズ』はなんの声明も出してません。しかし、最近、Nのツイートが止まっているので…もしかしたら本当かもしれません。

 続報を待つしかないですね。

 でも、Nってある意味凄いですね。一応、ワールド・ツアー中ですよ…



(以下はハヤオ関連です)

 誰も待っていない『返報』ですが、13-6が来月14日(金)に公開します(最終回かもしれない13-7が来月21日(金)かもねぇ~)。

 が、今回は前回と同じくらいページが長くて退屈です。

 編集なしだと25ページでした。編集ありで15ページ。

 なげぇーです。これからもっと編集して1ページくらいにしたいです。頑張ります。

 それじゃ!
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<予告?> 返報 13-6 [その他]

 「そんなに驚かなくてもいいだろ?」笑みを浮かべて三須が言った。
 西野と三須は西野が宿泊しているホテル周辺を歩いている。三浦の一件から守谷は疑心暗鬼になっており、小林と名乗る男も警察が送り込んできたスパイだと思っていた。ゆえに彼は西野の動向を探るよう三須に頼んだ。
 何度か角を曲がったり、カーブミラーを使ったりして不審人物を探したが、大学院生の注意を引くような発見は無かった。
 「ただ格納庫まで走り、先生たちと合流する。君のグループ仲間は囮だ。言うなら、磁石だ。彼らが注意を引いてる間に格納庫へ行く…驚くことはないだろ?」
 「彼らを見捨てろと?」西野が三須の横顔を凝視する。
 すると、三須が鼻で笑った。「そうじゃないよ。彼らの犠牲は必要な不可欠ことだ…彼らは英雄になるんだ。そして、君もね…」
 「でも…」
 「心配いらないよ。小林くんは自分の心配をすれば良いんだ。」
 しばらく二人は黙ったままホテルの周りを歩き、尾行確認を終えた三須は西野とホテル前まで移動した。
 「それじゃ…」大学院生が右手を上げて別れを告げ、背中を西野に見せた。
 「三須さん!」
 潜入捜査官が呼び止め、三須が振り返る。
 「絶対にやらなきゃならないことなんですか?」西野の声は震えていた。恐怖というよりもそれは怒りから興奮によって起きたことであった。
 「じゃ、いつやるの?今でしょ!



(以上の場面は『返報』13-6を私が改良したものであり、本編には最後の台詞はないかもしれません。いずれにせよ、パート6は来月の中旬公開予定です。
 WNの新着情報に飢えているので、誰か知ってることがあれば教えてください!
 それじゃ!)

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追記<Z> [余談]

 『返報』13-5は如何でしたか?どうやら、最後の文章を見て「打ち切り」だと思った人がいたみたいです。

 打ち切りたいのですが、偶発的にサイトに訪れた人々が多かったようで…目標のアクセス数「3」がもう超えていた…ゆえに最終回(第14回)まで公開することになりそうです。

 ちなみに13-5で打ち切る予定だったので、追記はこの<Z>で終わる予定でした。『ドラゴンボールZ』的な感じです。はい。(余談ながら、ドラゴンボールの新作ゲームクラシカルな味がありましたねぇ~)

 一応、来月に13-6と第13.5回を公開する予定です。次回で回想編も終わり、第13.5回も回想なのですが、潜入捜査後の話しになります。この回で西野や中島、小田の動きを追って、第14回で現在に戻る予定です。はい。

 一応、13-5について触れます。

 当初の予定では三浦の暴走シーンはなかったです。彼はあっさり退場する予定でしたが、ハヤオが「活躍のシーンを足そう!」とほざき、急遽、あのような戦闘を書くことになりました。「マイルドな戦いで行こう!」と言ってましたが、草案は本編よりグロかったです。

 幸いなことにハヤオと私は文才がないので、本編でもあまりグロさは伝わらなかったでしょう。しかし、ハヤオの草案(廃棄済み)はトマトケチャップで廊下が染まるんじゃねぇ?という感じの描写がありました。文才の無い彼は三浦の感情を暴力描写で補おうとしたようですね!

 長々と書きましたが、退屈な物語にもそれなりの過程があるんです。それでも、クソみたいな物語なんですよ。

 では、13-6の詳細は分かり次第ブログで報告します。

 それじゃ!
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返報 13-5 [返報]

13-5




 家の中を隈なく探したが、菊池夫妻は娘を見つけることができなかった。

 パニックに陥った妻の清子は度重なる疲労で倒れ、信弘は妻のために救急車を呼ぶとすぐ警察に電話して娘の捜索を求めた。一刻も早く娘を探したかったが、彼は救急車が到着するまで妻の手を握って娘の無事を祈った。

 息子や近所の人々に助けを求めることもできたかもしれないが、信弘も妻の貧血と娘の失踪でパニックに陥っていたので、そこまで考えることができなかった。

 “どうしてこんなことに…”

 10分後に2人の救急隊員がやってきて妻の清子を救急車に乗せ、救急隊員の一人が信弘に同乗を促した。すると、2人の制服警察官が狼狽している初老の大学教授に近づいてきた。

 「菊池信弘さんですか?」背の低い制服警察官が尋ねた。

 「はい。」信弘が二人組の警察官の方を向く。

 「娘さんの件で確認して欲しいことがあるので、ご同行願いますか?」

 菊池信弘は一度救急隊員の方へ向き直り、「すみませんが、後で合流します」と言った。

 すると、救急隊員は搬送先の病院名を告げて病院へ急ぎ、菊池は2人の警察官と共に警察署に向かった。









 

 冷水を顔に浴びせられて三浦が目を覚ました。

 彼に冷水を浴びせた守谷は空になったプラスチックのバケツを床に放り投げ、横たわる三浦の顔を覗き込んだ。SAT隊員は湿気の多い薄暗い部屋で両手を後ろ手に縛られており、腕を動かしてみたがビクともしなかった。
 
 「起きたかい、大ちゃん?」薄ら笑いを浮かべて守谷が言った。三浦の肘打ちによって生じた額の切り傷の出血はもう止まっており、傷は小さな赤い一筋の線になっていた。
 
 「恭子は何所だ?」三浦は恋人の安否が気がかりであった。

 「お前の後ろにいる。」

 SAT隊員が後ろを向こうと動くなり、守谷が彼の髪を掴んで手前に引っ張った。

 「まだ話しは終わってないぞ。お前は何者だ?」

 「俺はただの―」

 「そうじゃない。」守谷が三浦の話しを遮った。「知りたいのはお前の“正体”だ…」

 「だから、俺は―」

 三浦が再び喋り始めると、額に真新しい切り傷を持つ守谷が上着のポケットから黒い二つ折りの財布に似た物を取り出した。そして、男はそれを開いて拘束されているSAT隊員に見せた。それは高橋恭子の警察手帳であった。

 「あの女に俺たちを探るように唆されたか?お前なら簡単にあの女の誘惑に負けるだろうな…ところで、あの女、高橋恭子はヤってる時にどんな声を出すんだ?それとも御褒美はまだだったかな?」

 守谷の発言に三浦は苛立ち、額に青筋を浮かべた。

 「それ以上言ってみろ…後悔することになるぞ…」

 「そうかな?」守谷が三浦の髪から手を離す。「俺はこう見えてもやさしいんだ…」額に切り傷を持つ男は右足でSAT隊員を押して高橋恭子の方を向かせた。

 高橋は彼から2メートル程離れた場所で三浦と同じように両手を後ろ手で縛られた状態で横たわっていた。彼女は気を失っており、乱暴された痕跡は見当たらなかった。

 三浦が交際相手の状態を確認して安心していると、守谷は部屋の隅にあった机から灰色の工具箱を持って来てそれをSAT隊員の前に置いた。

 「お楽しみの時間だ。」そう言って、守谷が工具箱から金槌、マイナスドライバー、パイプレンチ、ポケットナイフを取り出して床に並べた。「ちなみに金槌とドライバーはセットになってるから、どっちか一つっていうのは無理だ。」

 「彼女は無関係だ!殺るなら俺だけにしろッ!!」三浦が怒鳴った。

 「それはダメだ。」守谷はあっさりと三浦の訴えを拒否した。「三須はお前たちを消したがってる。それにお前が死んだら、彼女が悲しむだろ?でも、二人とも死ねば…共に楽だろ?」不気味な笑みを浮かべながら、守谷は床に広げた道具を等間隔に離して並べ直す。

 「恭子は無関係だ。彼女は俺の潜入捜査を知らないんだッ!!」

 「どうだかねぇ~」と守谷。

 「信じろとは言わない。だが、もうすぐ仲間がここにやってくるぞ。」三浦はこの場を切り抜けるために嘘をついた。「お前たちの携帯はもうハッキング済みだから、すぐにここを突き止めて突入して来るぞ!」


 これを聞くと額に浅い切り傷を負った守谷は笑みを消し、三浦から視線を逸らして道具箱を置いていた机の方を見る。

 「お前ら…」

 守谷が呼ぶまで三浦は他者の存在に気付けなかった。三浦を囲むように三人の男たちが暗闇の中に隠れており、彼らは鋭い目つきで三浦と高橋を見つめていた。

 「武田は上の連中に荷物をまとめるように言え。後の2人はこの大ちゃんを別の場所に運んでもらう。」指示を下すと守谷は道具箱を置いていた机から赤黒く汚れたタオルを取って三浦の前で立ち止まった。

 「ちょっと失礼…」そう言うと、彼は三浦の腹部を蹴り飛ばし、これが引き金となって激痛と呼吸困難がSAT隊員を襲った。そして、その際に三浦の口が大きく開き、間を置かずに守谷は潜入捜査官の口にタオルを深く押し込み、吐き出されないようにジーンズのポケットに収めていた短いパラシュート・コードで固定した。

 「女はどうするつもりです?」武田が尋ねた。

 「彼女はここに残る。」守谷が床に置いていたポケットナイフを取り上げて言った。

 三浦は必死に体を動かして、目の前にいる男がしようとしていることを止めようとした。

 「分かってるって…」そう言って、守谷は気を失っている高橋恭子の髪を掴んで持ち上げた。頭皮に走った激痛で高橋が目を覚まし、数メートル前で縛られている恋人を見て驚愕した。

 三浦は何度も体を動かして起き上がろうとした。それを不快に思った武田がSAT隊員の頭に右膝を乗せて床に押し付け、三浦の動きを抑えた。

 「だ、大ちゃん…?」

 それが彼女の最後の言葉になった。

 守谷は深くナイフの刃を高橋の首に差し込み、三浦の前でゆっくりと水平に移動させた。刃が移動する際におびただしい量の血が飛び散り、それは三浦と武田にも届いた。

 高橋恭子は想像を絶する痛みに震え、助けを求めて声を出そうとするも、出るのは息を吐く音だけであった。彼女が死ぬ前には見た物は首から飛び出る血と声にならない絶叫を上げて暴れ回る三浦、彼を抑える男であった。彼女の血は気管に進入し、それは肺を満たそうとしていた。呼吸ができない苦しみが込み上げ、その苦しみが癒える前に彼女は息絶えた。

 SAT隊員は涙を流しながら叫んでいた。しかし、彼の声はタオルによって塞がれている。

 高橋の死を確認すると守谷は彼女の髪から手を離し、ナイフを床に放り投げた。

 「三須に電話だな…」

 何事も無かったかのように守谷と武田は仲間二人を残してその場を後にし、三浦は咽び泣きながら恋人の亡骸を見ることしかできなかった。









 ステンレスの台に横たわっていたのは明らかに菊地夫妻の娘であった。娘の詩織は眠っている様に見えたが、肌の色は青白くなっていて生気が見られない。

 顔を覆っていた白い布が捲られて愛する娘の顔が見えると、信弘は込み上げてくる感情を抑えることができなかった。涙が両目に溜まって視界がかすみ、呼吸が乱れて唇が震え、両脚で立つのもやっとの状況だった。

 菊池信弘から連絡を受けた警察は、通報の12分前に起きた交通事故の被害者と菊地の娘の特徴が似ていたので信弘に同行を求めたのだ。

 娘の詩織は母がうたた寝している間に家を抜け出し、適当な建物の屋上から飛び降りようとしていた。彼女は自分が両親に迷惑をかけていることに胸を痛めており、いずれ自分が両親を死に追いやってしまうと思って自殺を決意したのだ。

 “私がいなくなれば…”

 しかし、菊池詩織はその道中で脇見運転をしていた男性の車に轢かれ、その際に頭部を強打して死亡してしまった。

 娘の訃報を受けた妻の清子は泣き崩れ、息子の優介は言葉を失った。それでも家族の死を受け入れられない二人は死体が安置されている警察署へ行き、そこで蝉の抜け殻のようになっていた菊地信弘を見つけた。残された家族は亡くなった詩織の死体と向き合い、そして、締め付けられるような痛みが胸を襲った。

 この悲しみが癒え始めたのは、事件から3年後のことであった。その間、菊池夫妻は生気を失ったようだった。何をしていても娘のことを思い出し、その度に泣き出してしまった。両親を気遣う息子の優介はできるだけ実家に顔を出すようにしていたが、あまり助けになっていなかった。

 娘の喪失から菊池信弘は事件を起こしたグループを恨み、彼らに関する報道を追い続けた。しかし、彼らの報道は年々減少し、世間から忘れられようとしていた。

 前代未聞の化学兵器によるテロ攻撃を受けて小田完治が対テロ機関の草案を作っていた頃、菊池信弘の怒りは政府へと向けられた。

 “娘を死に追いやった奴らはまだ生きてる…なのに、何で政府は何もしない!!”

 信弘は娘の死を無駄にしたくなかった。彼は政府と警察に『正義の執行』を求めた。しかし、当時の議会は「もう二度と同じことは起らない」と高を括って、今までと変わらない日常に戻ろうとしていた。

 “もっと大きな攻撃が起きれば、人々の目が覚めるかもしれない…そうすれば、もう二度と私たち家族と同じ悲しみ持つ人々は生まれない…”

 この危険な考えが菊池信弘の思考を支配し、結果的に彼自身がテロリストとなって国を変えようという考えに辿り着いた。そして、菊池の計画はもう準備を終えており、後は実行するだけの状態にあった。









 三浦を運ぶよう指示された2人の中に剛田がいた。守谷はこのような事態を引き起こした彼にSAT隊員を始末させる役割を与えた。

 咽び泣いている三浦の横に歩み寄ると、剛田は憎悪を抱きながら、仲間だと信じていた男の左腕を引いて起き上がらせた。恋人の死で焦燥し切っている三浦は腕を引かれても、高橋恭子の亡骸から目が離せなかった。

 「お前のせいで俺まで裏切り者扱いだ…」剛田が悪態ついた。

 しかし、三浦はまだ恋人の死体を見つめている。彼女の恐怖と激痛によって引きつる顔が痛ましくて形容し難い苦しみがSAT隊員の胸を襲った。

 「何とか言ったらどうだ?」絶望の淵にいる三浦の顔を覗きこんで剛田が言った。「って言っても、この状態じゃ無理か…」

 「おい!早くしろよ。」ドアの付近で待機していたもう一人の男が急かした。

 「ちょっと待てくれよ。」そう言うと、剛田はSAT隊員の口を塞いでいた縄とタオルを取った。「少しだけ話させてくれ。」

 「早くしろよ…」仲間のわがままに呆れながら男は言った。

 剛田が再び三浦の顔を覗き込む。「お前のせいだ。お前のせいで―」

 いくら目の前で喋られても、その言葉は三浦の耳には届いていなかった。しかし、自分の視界に入って来た男の顔は認識できていた。そして、その顔を見続けていると、恋人を失った悲しみが守谷たちに対する憎悪へ変化した。

 「あのクソ女がそんなに大事だったのか?どうせだったら、あの女を犯せばよか―」

 挑発の言葉を言い終える直前に三浦は剛田の喉にかぶりつき、大きく頭を振って相手の喉から顔を離した。突然のことに剛田は固まり、そして、喉の辺りから痛みが広まり、混乱して喉を両手で抑える。

 間を置かずに三浦はかじり取った肉片をパニックに陥っている剛田の顔面に吹きかけ、畳みかけるように剛田の鼻に頭突きを喰らわせた。喉から飛び出る血とそれが引き起こす呼吸困難、そして、想像を絶する激痛で剛田の意識は朦朧し、両手を喉で抑えながら地面に崩れ落ち、絶命した。

 剛田が死ぬ30秒前、ドア付近で待機していた仲間の一人が三浦に蹴りかかった。彼は剛田が噛みつかれるところを目撃して急いで駆け寄ったが、SAT隊員との距離を詰める間に彼の仲間は肉片を顔面に吹きかけられて頭突きを受けていた。

 「この野郎ッ!」男が立ちあがろうとしていた三浦の右横腹にローキックを入れた。

 口元が血で真っ赤に染まっていたSAT隊員は左肩から床に転び、その直後に背中を蹴られた。しかし、彼は痛みを感じていなかった。大量のアドレナリンによって感覚が鈍っているのだ。

 男が再び蹴りを入れようとした時、三浦が左肩を軸に左右の足で床を交互に蹴り飛ばして後方へ回転した。そして、その弾みを利用してSAT隊員は踵落としをするために右足を上げていた敵の左脚を蹴り飛ばして転ばせた。

 突然のことに受け身が取れず、男は後方に転んで後頭部を強打した。男が激痛に呻く。

 相手の隙を見逃すほど三浦は甘くなかった。彼は慎重に立ち上がると、後頭部の痛みに苦しんでいる男の股間に右踵を落した。そして、男が悲鳴を上げようとした時、SAT隊員は死ぬまで男の顔面を右踵で何度も踏みつけた。

 男の死を確認すると三浦は再び血の海に横たわる高橋恭子を見た。彼の目から再び涙が溢れ出し、呼吸が乱れ始めた。SAT隊員は彼女の亡骸の近くにあったナイフを手探りで取り上げると、両手の自由を奪っていた縄を切った。苦悶の表情を浮かべる恋人の死体を抱きしめて三浦は咽び泣いた。

 「剛田、倉田!早く手伝えよ!!」

 ドアの向こう側から声が聞こえてきた。声は上から来ているように思え、三浦は自分が地下室にいると推測した。

 「ちょっと行ってくる…」そう言うと、三浦は高橋の瞼を閉じさせ、血の海から別の場所に彼女の死体を移動させた。

 SAT隊員は床に転がっていた工具から金槌を拾い上げると、それをベルトバックルの辺りに斜めにして差し込んだ。そして、次にマイナスドライバーを手に取った。ドアの前まで移動すると三浦は再び高橋恭子の亡骸を見た。

 「すぐ戻るよ…」












 「久しぶりだな。」そう言いながら小田完治が椅子に腰かけた。

 「3年振りくらいかな?」丸縁眼鏡をかけた菊池信弘が応えた。「それより少し痩せたんじゃないか?」

 「これでも6キロは太ったんだぞ。それよりお前から連絡してくるなんて珍しいな。」小田がウェイトレスからメニューを受け取る。

 「忙しいところ申し訳ないね。」

 「忙しいのはお互い様だろう。それで、何があったんだ?」現職議員はメニューに書かれていたウィスキーをウェイトレスに見えるよう指差し、ウェイトレスはメモを取ると静かに立ち去った。

 「まぁ、ちょっとな…」菊池が言葉を濁した。

 すると、小田は思い出したように目を見開いて笑い出した。これには菊地も驚いた。

 「お前もあの法案に反対なのか?」

 「あの法案?」

 「メディアの言う共謀罪さ。」

 大学教授はその法案についてある程度の知識は持っていた。もし、この法案が正式なものとなれば、菊池たちは処罰の対象になる。

 「実際はどうなんだ?危険なのか?」と菊地。

 「あれは形式的なものだ。破防法でもやる気になれば、テロリスト予備軍を捕まえることはできる。それに別件逮捕で芋づる式に組織犯罪を取り締まることだってできるんだ。やる気になれば、政府はなんでもできる。ただ、やらないだけさ。今のところ、何の利益にもならないからな…」

 ウェイトレスが小田のウィスキーを持ってきた。一礼をしてウェイトレスが去ると菊地が表情を強張らせた。小田は友人が何か深刻なことを話す気だと思い、テーブルに両肘をついて男の話しを聞く体勢に入った。

 「相談があるんだ。」菊地が声のトーンを落とす。「この国を変えようと思う…」

 小田は友人が冗談を言ったと思って笑い出した。「学生の頃から何にも変わってないな!」

 大学教授は表情を変えずに小田の顔を見つめ続けた。

 「お、おい。本気なのか?」

 「冗談だと思うか?この国は腐敗している。助けを求める人を助けず、私腹を肥やす人間ばかりだ。」

 「中には良い人もいるぞ。」小田が付け足した。

 「しかし、下衆が目立つ。人々は目覚めなければならない。未来のために…」

 「しかしだな…そんなことを言っても…」

 「だが、私にそんな力はない。だからお前の力を貸して欲しいんだ。」

 小田はウィスキーの入ったグラスを持ち上げると、無言のまま茶色い液体を見つめた。

 “娘を失ってから狂ったと聞いていたが…本当だったのか…”

 「どうなんだ?協力してくれるのか?」菊池信弘が小田から返事を引き出そうと尋ねた。

 「どのように協力すればいいんだ?」小田が一気にウィスキーを飲み干した。

 「ありがとう。頼れるのはお前だけなんだ…計画はもうできている。まずは―」

 小田は友人の話しに耳を傾けながら、これから自分がすべきことを考えていた。そして、大学教授が喋り終えた頃、小田完治も自分の考えをまとめた。











 携帯電話の着信音で西野は目を覚ました。彼は菊池信弘の著書『岐路に立つ』を読んでいる最中に眠りに落ちてしまったのだ。

 潜入捜査官はゆっくりと起き上がって、テーブル上で振動しながら機械音を鳴り響かせる携帯電話を取った。電話は西野の連絡係からだった。

 「どうしましたか?」欠伸を堪えながら西野が言う。

 「もう一人の潜入捜査官に会ったよな?」連絡係である『大原』の声には鬼気迫るものがあった。「あの後にもう一度会ったか?」

 「い、いいえ…」電話越しに感じる大原の迫力に西野は押されていた。

 「アイツから何か聞いてないか?何でもいいんだ。どんな些細な事でも構わない。」

 「と言っても、あれ以降、彼とは会ってませんし…その時も特に変な様子はなかったです。」三浦との会話を思い返しながら潜入捜査官が答えた。

 「本当か!?」


 「は、はい…」

 「そうか…」大原の声には落胆の響きが含まれていた。
 
 「何かあったんですか?」西野は三浦に何かが起きたと思い、気になって尋ねた。

 「連絡が取れなくなった。もしかすると、捕まったかもしれない…」

 これを聞いて西野は眼球を押し潰されたパオロのことを思い出した。

 “彼もあの外人みたいに…”










 ドアを開けると三浦は階段を2段飛ばしで駆け上がった。

 あと2歩で階段を上がり切ろうとした時、踊り場のドアが開いて顎髭を生やした男が現れた。男はマイナスドライバーを片手に持つ血だらけの三浦を見ると、危機感を抱いて咄嗟に右押し蹴りを放った。

 三浦は首を左に傾けて蹴りを回避すると、前進しながら男の右脚の下を潜り抜けるようにしてマイナスドライバーを持った右手を突き出した。工具の先端が男の股間に突き刺さり、男が悲鳴を上げる。構わずにSAT隊員は右肩で男の脚を押し上げながら前進し、顎髭男をドアに叩きつけ、間髪入れずに左肘を相手の右側頭部に入れ、そして、マイナスドライバーで男の喉を突いた。遅い仲間の様子を見に来ただけの男は床に滑り落ち、悶え苦しんだ末に息絶えた。

 SAT隊員がドア枠を通り抜けると、仲間の死を目撃して唖然とする童顔の男が見えた。この男に戦う意思はなかったが、三浦にとって相手の気持ちはどうでも良かった。

 恐怖に震える童顔の男が助けを呼ぼうと口を開くと、その口を塞ぐように三浦は男の口に向けてドライバーを突き出した。口蓋垂(注:のどちんこ)にマイナスドライバーが刺さり、童顔の男は思うように声を上げることができなかった。

 素早く三浦はドライバーを抜き取り、左手を相手の右側頭部に添えて壁に叩きつける。それは一度では終わらず、男が床に崩れ落ちようとしているにも関わらず三浦はそれを追うように相手の頭を壁に勢い良く叩きつけた。

 2人目の相手を無力化の完了後、左側にあったからドアから男が飛び出してきてSAT隊員にタックルした。タックルの後に男はドライバーを持つ三浦の右腕を掴んで壁に押し付ける。彼はマイナスドライバーが一番の脅威だと認識し、それを抑えるのが最優先だと判断した。

 しかし、三浦は道具にばかり頼るような人間ではなかった。彼はタックルしてきた男の股間を左膝で蹴り上げ、相手が怯むと前進しながら左拳を男の顔面に三度叩き込み、ドライバーを相手の右胸に刺した。刺された男は呻き、SAT隊員から離れようと三浦を両手で突き飛ばす。

 後ろに押された三浦はその弾みでドライバーから手を離してしまった。3人も連続で刺し続け、その時に付着した血で手が滑ったのだ。再び距離を詰めようと彼が動くと、右側から別の男が現れて三浦を左へ突き飛ばした。虚を突かれたSAT隊員は転び、急いで体勢を立て直そうと動く。

 彼を突き飛ばした赤縁眼鏡が特徴的な男は、これを好機と見てマウントポジションを取ろうと倒れた三浦に飛び掛かった。

 しかし、その時にはもう三浦の体勢は整っていた。SAT隊員は飛び掛かってくる男の股間に右足を叩き込み、男は激痛に顔を歪めながら三浦の上に落ちてきた。両手で突き飛ばすように三浦は男を左側へ押し退けると、ダウンした状態で相手を追うように両脚を左側へ回し、赤縁メガネをかけた男の顔面を2度踏みつけた。

 一度の蹴りによってプラスチック製のレンズ割れて男の目に刺さり、二度目の蹴りで鼻の骨が折れると同時に後頭部を背後にあった壁に強打した。断続的に訪れる激痛に男は悲鳴を上げた。 

 三浦は相手の息の根を止めようと再び蹴りを入れようと脚を持ち上げる。すると、SAT隊員の右横腹に衝撃が訪れた。彼にドライバーで胸を刺された男が仲間を助けるために三浦に蹴りを入れたのだ。再び男が蹴りを入れようとした時、急いで三浦は倒れた状態で左へ回転して立ち上がろうとする。

 マイナスドライバーがまだ胸に刺さっている男は逃げたSAT隊員を追いかけ、四つん這いになって立ち上がろうとする彼の腹部を蹴り上げた。

 「死ね!死ね!」三浦の腹部を蹴り上げながら男が叫んだ。

 疲労のため、三浦は三度も蹴りを受けていた。しかし、彼はすぐに呼吸を整えて4度目の蹴りが腹部を襲う直前にそれを左腕で防いで押し返した。防御を終えると、SAT隊員は素早く片膝をついて上体を起こしながらベルトに挟めていた金槌を右手で取った。

 男が再び右蹴りを放とうとした時、三浦は相手の左足首を金槌で殴り、殴られた男は激痛に悲鳴を上げて足首を庇おうと身を屈めた。そして、その瞬間に三浦は先ほど放った一振りの勢いを利用して金槌を左から右へ水平に振った。意図した訳ではなかったが、男は金槌の釘抜き部分で側頭部を殴られ、先端が深く頭に突き刺さった。

 耳朶を震わせる男の悲鳴が廊下に響いたが、三浦は表情一つ変えずに男と一緒に金槌を手前に引き寄せ、相手の首筋へ拳を振り落した。衝撃の強さで金槌が男の頭から離れ、肉の塊となった男の体は静かに床へ落ちて行った。

 三浦が視線を上げて次の獲物を探した。廊下の先には鉄パイプや金属バットを持った男5人が震えながら血だらけのSAT隊員を見つめている。

 「お前らは下がってろ。」男たちを掻き分けて武田衛が前に出てきた。「誰も手を出すなよ…」

 そう言うと、武田が金槌を持つ三浦の動きに警戒しながら前進し、それに応じるようにSAT隊員も歩き出した。

 距離を詰めながら武田は上着の下に隠していた特殊警棒を取り出し、振り下ろして展開させた。











 震えるほどの怒りを堪えながら、三須は守谷からの報告に耳を傾けていた。

 「警察は俺たちのことを調べていたのか?」冷静な声を装って三須が問い掛けた。

 「高橋って野郎はそう言ってた。」守谷は敢えて三浦が暴れ回っていることを仲間に伝えなかった。「どうする?」

 「計画を早める。」

 意外な返答に守谷は驚いた。

 「先生と話したのか?」

 「これから話す。先生は例の議員とお話し中だ…」今後のことを考えながら三須が言った。「ソイツを…高橋という男を“屠殺場”に連れて来い。」

 「分かった。」

 「それと…小林も“屠殺場”に呼んでくれ。」

 「アイツも消すのか?」

 「いや、彼には試験を受けてもらう。」











 三浦が先に動いた。彼は素早く金槌を振り上げ、武田の頭に向けて振り下ろす。

 素早く武田は特殊警棒で三浦の攻撃を弾き、カンッと金属同士が激しく接触する音が廊下に響く。金槌を防ぐなり武田衛は警棒を左から右へ水平に振ったが、それは空を切っただけであった。

 相手の動きからSAT隊員は身を屈めて武田の一振りを回避し、警棒が頭上を通り過ぎると金槌で武田の左横腹を殴った。そして、彼は素早く立ち上がりながら、左アッパーを相手の顎に叩き込んだ。

 攻撃の速さと激しさに武田衛は圧倒され、バツ印を描くように特殊警棒を振り回しながら後退する。最初の振りは三浦の左腕を捕えたが、最後の一振りは距離が開いたために空を切るだけで終わった。後退したまでは良かったが、右足で三浦が倒した男の一人を踏んで武田はバランスを崩しそうになった。

 目の前にいる敵が隙を見せると三浦は眼光を鋭くさせて武田に接近した。右手の中で金槌の柄を回して釘抜き部分を下へ向け、SAT隊員はバランスを崩そうになっている武田の左肩へ金槌の釘抜き部を振り下ろした。

 鋭く尖った金属部分が武田衛の肩に深く突き刺さり、武田が激痛に歯を食いしばる。彼は素早く警棒を振り上げて三浦の頭に向けて振り下ろす。しかし、それは簡単に塞がれた。

 SAT隊員は右手を手前に引いて金槌と一緒に武田を引き寄せながら、敵が振り下ろしてきた特殊警棒を持つ右腕を左腕でブロックして三浦は相手の鼻頭に頭突きを喰らわせた。その際に金槌が武田の肩から離れて血飛沫が飛んだ。

 鼻を潰されて武田は意識が遠退きそうになったが、どうにか踏みとどまり、塞がれていた右腕を手前に引いて三浦の左太腿を特殊警棒で殴った。

 左脚に走った激痛でSAT隊員の体が左に少し傾いた。彼は警棒による追撃を恐れ、金槌で攻撃を仕掛ける。しかし、この攻撃が放たれる前に武田が三浦の上着を掴んで手前に引き、彼は素早く相手の首筋に左手をかけた。SAT隊員を抱きかかえるような姿勢を取ると、武田は特殊警棒の底部で相手の後頭部に殴りかかる。

 警棒が三浦に接触する寸前、SAT隊員は武田衛に掴まれた状態で右腕を振って金槌で敵の後頭部を殴り、左手で相手を突き飛ばす。悶絶する武田を見るなり、三浦はすかさず金槌を振り上げて襲い掛かった。

 武田は金槌が自分の頭を襲うのを防ぐために左手で三浦の右手首を捕え、それと同時に特殊警棒の柄でSAT隊員の額を打つ。そして、一番の脅威を排除するため、武田衛は警棒で相手の右腕を殴った。

 額と右腕に強烈な痛みが走り、三浦の右手から金槌が離れて床に大きな音を立てて落ちた。激痛に目を細めてしまったが、彼は武田が警棒を振り上げるのを確認することができた。

 “終わりだッ!”

 武田衛が止めを刺そうとした時、SAT隊員が相手の頭と右腕の間へ左腕を伸ばし、それが振り下ろされた警棒の軌道を外側へ逸らした。そして、彼は武田の右腕を左脇で挟み、左手で相手の二の腕を掴んでしっかりと固定する。目の前にいる敵が反撃に出る前にSAT隊員は捕らえた腕を引いて距離を縮め、頭突きを喰らわれた。

 二度の鼻に対する攻撃で武田は流石に崩れ落ちそうになり、掴んでいた三浦の右手首から手を離して後退する。しかし、まだ右腕を固定されているので逃げられない。

 十分攻撃したと思った三浦は特殊警棒を奪おうと、二の腕を掴んでいた左手を手首へ移動させて固定し、右手で相手の武器を奪おうとした。

 「うらぁ!」戦意を取り戻した武田が左押し蹴りを放った。

 三浦は攻撃を警戒して後退し、その際に左腕で武田が持っていた特殊警棒を弾いて床に落とした。彼は落ちた武器へ手を伸ばそうとしたが、再び武田の蹴りが飛んできたので諦めた。

 二度目の右押し蹴りが来ると三浦は左へ動いて回避し、そのまま素早く前進して武田の背後に回り込むと右腕を相手の首に巻き付けた。体力の限界に差し掛かっていたSAT隊員は、これで戦いを終わらせようと思っていた。

 首を圧迫されて呼吸が苦しくなり、武田の顔が次第に赤くなった。彼はこの状況から逃げ出すために右手で圧迫している三浦の腕を抑え、そして、左肘を後ろにいる相手に向けて何度も放った。その内の3打がSAT隊員の左脇腹に命中し、彼の右腕から少し力が抜ける。

 “今だッ!”

 武田は自分を苦しめていた相手の右腕を首から引き剥がし、一歩前出ると素早く振り向きながら右拳を水平に振って三浦に殴り掛かった。

 だが、痛みに耐えながらSAT隊員はすかさず対応に出た。両腕で武田の右腕を抑え、右手で相手の手首を掴み、左掌底を武田の肘に叩き込んだ。鈍い音と同時に武田衛の腕が外側へ曲がり、彼の悲鳴が廊下に響いた。三浦は間を置かずに相手の後頭部に左手を添え、勢い良く壁に叩きつけた。武田衛は壁に長い血の線を描きながら床に崩れ落ちる。

 蓄積されていた疲労がどっと押し寄せ、三浦はその場で膝をついた。

 「随分、暴れたなぁ~」

 SAT隊員の背後から声が聞こえてきた。彼が振り向くと、そこには恋人の命を奪った男がいた。

 雄叫びを上げながら三浦が守谷に向かった。守谷は左足を突き出して立ち上がろうとしていた三浦の胸を蹴り飛ばして転ばし、相手が起き上がる前に彼はSAT隊員の顔を蹴り飛ばした。

 「武田を病院に連れ行け。残りはコイツを“屠殺場”に運べ。」

 そう言い残して守谷がその場を立ち去ると、彼の仲間たちが三浦を袋叩きにした。










 レストランで友人の話しに耳を傾けていた時、小田完治はできるだけ早く公安警察に菊地信弘が計画していることを話そうと考えていた。しかし、レストランを後にした今、彼は新たな選択肢を見出した。

 “アイツの言い分にも一理ある。”

 読書灯の明かりしかない部屋で小田はアームチェアに腰掛けている。

 “しかし、通報すべき事案だ。だが、アイツの計画が成功すれば、私の提案している対テロ機関が実現するかもしれない…”

 小田完治は自身の考えが許されるものではないと思っているが、それでも彼はこれを好機と捉えていた。

 “敢えて見逃すべきか…いや、もし、既に公安が奴の動きを追っていたら?”

 現職議員の額に大粒の汗が浮かび上がってきた。

 “となると、今日のことも見られていた?通報しなければ怪しまれるな…”

 胸に引っ掛かるものを感じながら、小田は固定電話の受話器を持ち上げた。

 “待てよ…”小田が受話器を戻した。“計画はまだ先のことだ。それに友人の冗談だと言えば済むかもしれない。いずれにせよ、明日にしよう。”

 小田は読書灯の明かりを消して書斎を後にすると寝室に向かった。










 「こっちだ。皆がお前を待っている。」建物に入るなり、守谷が西野を呼んだ。

 突然の予期せぬ相手からの連絡に西野は怯えていたが、黙って男の後を追って廊下を歩き出した。三浦の失踪を聞いていたので潜入捜査官は、この呼び出しが少なくとも三浦関連だと思っている。そして、自分の正体も知られたかもしれないと恐怖した。

 「何があったんだ?」男の横に並んで西野が尋ねた。

 「ちょっと問題が起きただけだ。」

 “やっぱり、例の捜査官か…”

 「大丈夫。すぐ終わるさ…」

 額に小さな切り傷を持つ守谷は廊下の突き当りにあるドアを開けて西野に入るように促した。部屋の中には男たちが輪を描くように並んでおり、ドアが開くと数人が西野たちを見た。

 「どうした?」ドアを開けて待っている守谷が心配そうに問いかけた。

 「何でもない。」そう言って西野は部屋の中に足を踏み入れた。

 部屋は狭い上に薄暗く、肌寒い場所であった。倉庫だろうと西野は思った。とても人が集まる場所ではない。

 「こっちだ。」輪を描いて並んでいる男の一人が西野に向かって言った。

 華奢な体型の西野は輪を描いている男たちを脇に寄せて輪の中に進む。恐怖が全身に走り、西野は体が震えていることに気付いた。輪の中心へ辿り着いた時、西野の中で広がっていた恐怖が消え始めた。彼の目の前には布袋を頭から被せられ、両手足を縛られて跪いている男がいる。

 「コイツは誰だ?」西野は誰ともなしに尋ねた。

 「ネズミだよ。」背後から声が聞こえてきた。西野が振り返ると守谷がいる。

 「ネズミ?」

 「そう。つい数時間前だよ。コイツの野郎…」守谷が跪いている男を指差す。「警察に俺たちの情報を流していやがった!!」

 これを聞いた西野は心臓が縮まるような感覚を得た。その後、彼の心臓は緊張によって激しく動き始めた。

 「お前も知っているはずだ…」額に小さな傷を持つ男が跪いている男の布袋を剥ぎ取った。彼は三浦の一件から西野にも疑いの目を向けていたので、敢えて鎌をかけてみたのだ。

 守谷のいう通り西野はその男を知っていた。顔中血だらけになってもいても、殴られて顔中が腫れ上がっていても潜入捜査官はその男が誰かすぐに分かった。今、この部屋にいる誰もよりも彼はその男のことを知っている。しかし、西野は一言も発しなかった。

 “あれほど電話を使うなと言っただろうが!!”変わり果てた男の姿を見た西野は苛立ちを覚えた。彼は携帯電話が原因で三浦の正体が暴かれたと思った。

 「皆で考えたんだ…ここはお前がやるべきだと…」西野の前に鉄パイプが差し出され、彼は目の前で跪いている同じ潜入捜査官を見ながらそれを手に取った。

 「助けて…」輪の中央で跪いているSAT隊員がか細い声で言う。

 「裏切りに者のくせに命乞いをするのか?」西野を部屋まで案内した守谷が鼻で笑った。「小林…できるだけ早く頼むよ。」男は西野の肩を軽く叩くと一歩下がった。

 しかし、西野にはできなかった。

 「小林…お前、この裏切り者に同情しているのか?コイツはクズだ!コイツは俺たちの変革の邪魔をしようとしたんだぞ!」額に傷を持つ男が西野の背中に向かって叫んだ。「やるんだ!これはこの国のためだ!やらなきゃ、俺たちがやられるんだ!」

 三人を囲むように並んでいる男たちが「殺せ」と叫び始める。

 “許してくれ!”

 西野は歯を食いしばると、鉄パイプを振り上げてそれを跪いている男に向けて振り下ろした。衝撃の強さに殴られた三浦は頭から床に落ち、西野は苦痛に呻く仲間を見ることしかできない。

 「まだ生きてるぞ…」守谷が西野に向けて言う。「死ぬまでやれよ。」

 恐怖に震える西野は横目で守谷を見た。右手に持つ鉄パイプが重く感じられた。

 “コイツを殺せば…”

 「どうした?ここを、もう一回だ…」守谷が倒れている三浦の後頭部を指差す。

 「俺には…できな―」

 西野が口を開くと三浦の体がビクンと動いて顔を西野に向けた。

 「や…やれよ…」SAT隊員が消え入りそうな声で言った。

 “何を…何をバカなことを…”と西野は思った。

 「ってことだ。小林、早くやれ!」痺れを切らした守谷が怒鳴る。

 この時、吐き気が込み上げて潜入捜査官が咳き込み、鉄パイプを床に落とした。喉まで出かかっている異物に我慢できず、西野は急いでその場を後にしてトイレへ走った。

 「情けない。まぁ、殴ったってことは…『白』かもな…」

 そう呟きながら守谷は、ジーンズの後ろポケットに突っ込んでいた小さく畳んでいた黒いパラシュート・コードを取り出した。長さは1メートル30センチ程だった。

 額に切り傷を持つ守谷が三浦の髪を掴んで引き起こし、SAT隊員の顔を覗き込んだ。

 「どうなってる?」三須が守谷の横に並んだ。

 「コイツはかなり頑固だ。でも、俺たちの居場所を掴んでるっていうのは嘘だな。」

 「それで小林は?」

 「この野郎を殴ったら、気持ち悪くなってトイレに走ってたぜ。」

 三須は薄ら笑いを浮かべている守谷から視線を倒れている三浦に移す。

 「小林の様子を見に行く。お前はコイツを始末しろ。」

 「あいよ。」守谷がパラシュート・コードを伸ばし、それを三浦の首に巻き付ける。

 「それから…」部屋を出ようとしていた三須が振り返った。「決行日が変更になった。」

 「いつだ?」

 「明日の夜だ。」

 「わかった…」

 三須が去るのを見ると、守谷は三浦に笑みを向けた。「何か言い残すことは?」

 「必ず…必ず…お前たちをぶっ殺してやるッ!」血の混ざった唾を吐きながらSAT隊員が憎悪をこめて言った。

 「それは残念だ…」

 守谷は三浦の背中を右足で押しながら、SAT隊員の首に巻き付けられた縄を強く後ろへ引いた。頸部が圧迫されて呼吸ができなくなった三浦はもがいた。

 しかし、両手足を縛れているため、全く抵抗になっていなかった。次第に彼の体から力が抜け、視界に靄がかかってきた。三浦は自分の無力さに苛立ちを覚えた。無力であったから、恋人も失い、テロ攻撃も防げないと思っている。

 その時、彼の前に高橋恭子が現れた。彼女は何も言わずに優しく微笑んでいる。突然の幻にも三浦は驚かなかった。意識が薄れつつあったので、彼女の姿を見ると何故か三浦は穏やかな気持ちになれた。

 “恭子…”

 そして、完全な闇が訪れ、三浦大樹は息絶えた。















 <ご愛読ありがとうございました。ハヤオ・エンデバーの新作にご期待ください!>
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疲れてきたよ… [その他]

 湿気のせい?それともハヤオのせい?最近、なんか疲れるんですよね~

 一応、『返報』の13-5が来週の14日(水)に公開します。

 もう三浦と菊地の物語となっている回想編ですが、あと1.5回(おそらく来月同時公開予定)で終わります。そして、読者がいなければ、『返報』も終わるでしょう。

 『ベルセルク』の連載も止まりそうなので、ハヤオはベルセルクの休載と同時に書くのを止めようとしてます。しかし、『HUNTERxHUNTER』の連載再開が予告されたので、第13回は年内に終わりそうです。二つが休載になれば、ハヤオも書くのを止めるでしょう!

  最後に色々と検討しましたが、第14回は(現在のところ)戦闘シーンのオンパレードになります。つまり、あまり出しても意味がないかもしれないです。はい。

 長々と書きましたが、また会う日まで…

 それじゃ!
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